第49話新たな仲間
何とか人語を介する魔獣を捕縛したミラベル達。尋問を試みるが…。
山岳地帯を覆っていた瘴気は、巫女の光によって完全に消え去っていた。
先ほどまで命を懸けた激戦が繰り広げられていたとは思えないほど、山には静かな風が吹いている。
しかし、その場にいた誰一人として気を緩めてはいなかった。
ユリウスの前には、魔法で拘束された一体の魔獣が跪かされている。
人間と変わらぬ知性を宿したその魔獣は、鋭い牙をむき出しにしながら彼らを睨み付けていた。
「…離せ、人間。…貴様らに話すことなど何もない。」
ユリウスは静かに一歩前へ出る。
「それはこちらが決めることだ。君たちが何を目的としてこちらの世界に侵攻しているのか…必ず聞かせてもらう。」
魔獣は鼻で笑った。
「くだらん…。我ら魔王軍は、お前達人間より遥かに高位の存在だ。人間ごときが知る必要などない。」
その瞬間だった。
ゴッ!!
「ぐっ!?」
鈍い音と共に魔獣が地面へ転がる。
全員が振り向く。
そこには拳を振り抜いたマリナが立っていた。
「あたしの仲間を…罪もねぇ人達を傷付けといて偉そうにしてんじゃねぇ!」
「マ、マリナさん!」
ブレイブが慌てる。
ユリウスも思わず苦笑した。
「まだ尋問の途中なんだが…。」
「…あ。」
マリナはようやく気付き、頭を掻く。
「わりぃ…。」
ミラベルは思わずフォローするようにこう言った。
「正義感が強いのはマリナさんらしいし…気持ちはわかるけど、怒りで我を忘れて捕虜を殴るのは良くないわ。」
「うぐっ…そ、そうだな。気をつける!」
ロザリアも口元を押さえ笑う。
「なんだか、ミラベル様がマリナさんのお姉さんみたいですね。」
エレノアも小さく肩を震わせた。
「こうしていると、さっきの戦いで強張っていた気持ちが和らいできます。」
その場の緊張が少し和らいだ。
拘束された魔獣はなおも睨み付ける。
「人間同士で笑い合うとは愚かな…どうせ一年後には全員死ぬ。」
その言葉に全員の空気が変わった。
ユリウスが鋭く問い返す。
「一年後…魔王軍が侵攻してくるということか?」
魔獣は不気味に笑う。
「…そこまでは察しているか…亀裂を閉じたところで無駄だ…この世界と魔界は既に繋がり始めている。」
ミラベルは夢の世界で聞いた言葉を思い出す。
一年しか保たない。
本来のマリナが伝えてくれた未来。やはり本当だった。
「…。」
ブレイブも拳を握る。
「じゃあ、本当に…。」
魔獣は笑う。
「一年後、魔王様が直々にこの世界へ降臨される。その時、この世界の人間は滅びるだろう。」
その言葉に兵士達まで息を呑んだ。
「黙れ。」
低い声が響く。
カインだった。
大剣を肩へ担ぎながら魔獣を睨み付ける。
「魔王だろうが何だろうが関係ない。来るなら叩き斬るだけだ。」
魔獣は鼻で笑う。
「出来るものならな。」
今度はセドリックが前へ出た。
槍を静かに突き付ける。
「私も…少し以前のならあまりの事態に絶望していたかもしれません…。ですが今は違います。」
彼は仲間達を見る。
「ミラベルさん、ユリウス殿下、ブレイブさん、マリナさん、そして私達。一人ではなく仲間が集えばきっと世界は救うことができる。私はそう信じます。」
その穏やかな声に、マリナは照れ臭そうに笑う。
「!そうだな、仲間がいればなんも怖くねぇ!」
帰還の準備が始まり、私設兵達が周囲を警戒しながら馬車を整えていた。
その間、ロザリアがマリナの隣へ歩いてくる。
「先ほどは本当にお疲れ様でした。」
「ありがとな。ロザリア達がいなかったら…あたしだけだったらきっとうまくいかなかったよ。」
ロザリアは首を横に振る。
「違います。最後に亀裂を閉じたのは、あなた自身です。」
エレノアも優しく微笑む。
「私達は少し支えただけですよ。」
マリナは照れ臭そうに鼻を擦る。
「なんかー…そんな風に褒められると調子狂うな…。」
その様子を見たミラベルは自然と笑みを浮かべた。
(良かった…マリナさんには心を許せる優しくて頼れる仲間が増えていってる。私も…これからも絶対に力になり続ける。)
馬車がゆっくりと王都へ向けて走り始める。
しばらく静かな時間が流れる。
やがてセドリックが口を開く。
「…マリナさん。」
「ん?」
「私達は…。」
少しだけ緊張したように笑う。
「あなたの本当の仲間に…なれたでしょうか?」
馬車の中が静まり返る。
マリナは一瞬きょとんとした。
そして――。
「何言ってんだ?」
笑った。
「あたしは体育祭で一緒に戦ってくれた時から、とっくに仲間だと思ってたぞ?」
「…!」
セドリックが目を見開く。
ロザリアも優しく微笑む。
カインは豪快に笑った。
「はっはっは!その答え気に入ったぞ!」
エレノアも穏やかに頷いた。
「嬉しいですね、カイン様。」
セドリックは安堵したように息を吐き、静かに笑った。
「!ありがとうございます。その言葉だけで十分です。」
和やかな雰囲気の中、マリナは拳を握り締めながら悔しそうにこう告げる。
「でもさ…今日はみんなに守られてばっかで…なんか悔しかった。」
ミラベルが首を振る。
「そんなことない、亀裂を塞ぐことで世界を救ったのはマリナさんよ。」
「でも!」
マリナは悔しそうに俯く。
「あたし、巫女の力をまだまだ使いこなせなかった。もっと強くならなきゃ、もっと勉強しなきゃ…って思った…!」
ユリウスが静かに微笑む。
「その向上心が君の強さだ。」
ブレイブも勢いよく頷く。
「学院へ帰ったら俺ももっと鍛えます!だから!一緒に強くなりましょう!」
マリナは顔を上げる。
その瞳にはもう迷いはなかった。
「ああ!学院へ帰ったら、巫女の力も魔闘術ももっと勉強する!だから…みんな!これからも…あたしと一緒に強くなってくれ!」
「もちろん!いつだってあなたと一緒に戦うつもりよ!」
ミラベルが真っ先に答える。
「当たり前です!」
ブレイブが笑う。
ユリウスも穏やかに頷いた。
「仲間なのだから当たり前だろう?」
四人は顔を見合わせ自然と笑い合い、彼らのやり取りを見ていたカイン達も改めてマリナ達の力になることを強く決意した。
その温かな空気を感じながら、馬車は王都への街道を進んでいく。
しかし、最後尾の護送馬車では――。
拘束された魔獣を見つめるユリウスの近衛騎士たちの表情は険しいままだった。
「この者から、どこまで情報を引き出せるか…。」
王都へ戻れば、本格的な尋問が始まる。
魔王軍。
魔界。
そして、一年後に訪れるという滅び。
ミラベルは窓の外へ視線を向け、小さく拳を握った。
(あと一年…いいえ…一年もある。私達は絶対に滅びの未来なんて起こさせない。)
夕日に照らされながら、仲間たちを乗せた馬車は王都へと走り続けるのだった。
マリナの真の仲間になりたいと思っていたカインやセドリック達がとっくに仲間だと言われてより絆を深める話でもありました。
魔王軍の侵攻を一年間食い止めることに成功したので、その間に鍛錬するエピソード以外にも色々書いていきたいと思います。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




