第47話巫女の試練
ついに魔界とこちらの世界を繋ぐ亀裂に辿り着き亀裂を塞ぐことを試みるマリナ達であったが…。
山岳地帯を吹き抜ける風は冷たく、岩肌を叩く音だけが静寂に響いていた。
その静寂を切り裂くように、巨大な空間の亀裂から紫黒い瘴気が絶え間なく噴き出している。
まるで世界そのものが傷つき、悲鳴を上げているかのようだった。
「…これが。」
ミラベルは無意識に胸元へ手を当てる。
「魔界へ繋がる亀裂…。」
隣に立つブレイブも、剣の柄を握る手に自然と力が入っていた。
「こんなの…初めて見ました。」
ユリウスは亀裂をじっと見つめ、静かに口を開く。
「夢の中で聞いた話以上だ…このまま放置すれば、時間と共にさらに広がるだろう。」
その言葉に、その場の誰もが表情を引き締めた。
ヴァルフォード公爵家とローゼンフェルト公爵家の私設兵たちは周囲に警戒線を張り、王国騎士団と共に周辺の索敵を開始していた。
その中央へ、マリナが歩み出る。
「…よし!」
両拳を握り、深呼吸する。
「…やってみる!」
ミラベルが優しく声を掛けた。
「マリナさん、無理だけはしないで!」
マリナは照れくさそうに笑う。
「心配すんな!みんながいるだろ?」
その一言にミラベルも自然と笑みを返した。
「!ええ、そうね。」
マリナは巨大な亀裂の正面へ立つ。
ゆっくりと目を閉じる。
夢で出会った少女の言葉を思い出す。
『あなた達なら…きっとできます。』
「……っ。」
胸の奥から、淡い光が溢れ始める。
両手を前へ伸ばすと、黄金色の光が空へと昇っていった。
「おお…!」
兵士たちから思わず感嘆の声が漏れる。
光は亀裂へ触れる。
しかし。
バチィッ!!
激しい火花が散った。
「っ!?うわぁっ!?」
マリナが思わず後ろへよろめく。
ブレイブがすぐ支えた。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ…。」
しかし額には汗が滲んでいる。
「全然…力が言うこと聞かねぇ…。」
再び挑戦する。
光は集まる。
だが、今度は力が暴走し周囲へ飛び散ってしまった。
岩壁が吹き飛ぶ。
「危ない!」
カインが前へ飛び出し、大剣で飛来する岩を粉砕した。
「焦るな!」
セドリックも槍で別方向の岩を弾き飛ばす。
「ゆっくりで構わない!」
マリナは唇を噛んだ。
「なんでだよ…どうして上手くいかねぇんだ…!」
その様子を見ていたエレノアが静かに歩み寄る。
「マリナさん。」
「え?」
「見たところ亀裂を塞ぐ過程は…結界魔法に似ているように思えます。」
「結界?」
ロザリアも隣へ来る。
「穴を力で押さえつけるのではありません。壊れたものを…優しく縫い合わせるイメージでやってみませんか。」
エレノアも頷く。
「力をぶつけるのではなく。流れを整えるのです。」
マリナは首を傾げた。
「…難しいな。」
ロザリアが柔らかく微笑む。
「最初から出来る人はいません、私達も一緒です。」
エレノアも静かに微笑んだ。
「一緒にやりましょう。」
マリナは二人を見つめる。
そして照れ臭そうに笑った。
「!…ありがとな。」
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……
亀裂が大きく脈打つ。
ユリウスが即座に叫んだ。
「総員、戦闘態勢!」
空間に次々と魔法陣が浮かび始める。
一つ。
二つ。
三つ。
いや。
十を超えていた。
「まずい!」
ミラベルが杖を構える。
「マリナさん達を守らなきゃ…!!」
魔法陣から現れたのは、これまで戦ってきた魔獣とは明らかに違う存在だった。
二本足で立つ狼。
巨大な黒い翼を持つ悪魔。
蛇の尾を持つ騎士。
その瞳には知性が宿っている。
そして。
先頭の魔獣が、不気味に笑った。
「ククク…。」
人間と同じ言葉だった。
「ようやく現れたか。」
もう一体が口を開く。
「巫女よ。貴様が亀裂を閉じに来ることは分かっていた。」
兵士たちがざわめく。
「しゃ、喋った…!?」
「人語を介するのか…!?」
カインが大剣を構える。
「今までの魔獣とは別格か…!」
セドリックも槍を回した。
「…油断は禁物ですね。」
翼を持つ魔獣が空へ舞い上がる。
「命令だ。巫女を殺せ。」
その瞬間。
全ての魔獣が一斉に襲い掛かった。
「マリナさんは俺達が守ります!」
ブレイブが真っ先に飛び出す。
「絶対に近付けさせません!」
「当然だ!」
カインの大剣が轟音と共に振り下ろされる。
「俺の後ろへは通さん!」
「援護します!」
セドリックが魔法陣を展開しながら槍を突き出した。
「雷槍術・迅雷突!」
雷を纏った槍が一直線に魔獣を貫く。
「まだです!」
ロザリアが両手を掲げる。
無数の光が集まり、一瞬で十数本の魔力の矢が形成された。
「穿ちなさい!」
矢の雨が空を埋め尽くす。
飛行する魔獣たちへ正確に突き刺さり、その動きを止めた。
ミラベルも魔法を展開する。
「みんな、伏せて!」
黄金色の巨大な魔法陣が山全体へ展開される。
「光よ─降り注げ!聖雨!!」
光の雨が空から降り注ぎ、魔獣だけを正確に貫いていく。
「ギャアアア!」
「グォォォ!」
今まで練習を重ねてきた広範囲魔法は確かなダメージを魔獣に与えていた。
エレノアも負けてはいない。
「皆さん!」
淡い光が仲間達を包む。
「防御結界!」
透明な障壁が展開され、魔獣の炎が弾かれる。
ユリウスは剣を抜き放つ。
「ミラベル!」
「はい!」
二人の魔法が重なった。
「光刃斬!」
「閃光撃!」
二筋の光が交差し、一体の魔獣を吹き飛ばす。
その後ろでは、マリナが必死に亀裂へ向かって手を伸ばしていた。
「あと少し…!あと少しなのに!」
しかし光はまた乱れる。
焦れば焦るほど、力は言うことを聞かなかった。
その様子を見たミラベルは、魔獣を迎え撃ちながら叫ぶ。
「マリナさん!」
マリナが振り向く。
「焦らないで!あなたの邪魔は絶対にさせない!」
ブレイブも剣を振るいながら笑う。
「俺達が絶対守ります!」
ユリウスも力強く続ける。
「君にしか出来ないことがある!だから君は、自分の役目だけを考えなさい!後ろは私達がいる!」
その声に。
カインも大きく笑った。
「聞いただろ!仲間を信じろ!」
セドリックも槍を構え直す。
「ここは私達に任せてください!」
エレノアとロザリアも同時に頷く。
「私達もいます!」
「一人ではありません。」
七人の声が重なる。
その言葉は、マリナの胸へ真っ直ぐ届いた。
「っ!…うん!」
その瞳から焦りが消えていく。
「そうだった…あたしは…一人じゃねぇ!!」
黄金色の光が、再び静かに輝き始めた――。
初めて人語を介する知能が高い魔獣が現れてミラベル達と戦うことになりました。ミラベルやブレイブ達の言葉により大切なことを思い出したマリナはどうなるのか、次回も読んでいただけると嬉しいです。




