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第44話涙の理由

マリナの夢の世界に入り込む魔法実験が成功した夜、マリナはミラベルの部屋へと訪れていた。

王立学院の女子寮。


夜の帳が降り、廊下には魔導ランプの柔らかな光だけが揺れていた。


夢の世界での出来事は早急に王国上層部にも報告され、ユリウスやルシアン、アイリスは古文書との照合に追われていた。


一方、ミラベルは自室で静かに本を閉じる。


だが、その内容はほとんど頭に入っていなかった。


思い浮かべるのはマリナの夢の中で出会った『巫女の意思を伝える存在』の少女のこと。


(夢の中のあの人…あの優しい笑顔…そして最後の言葉…やっぱり…。)


そんな時。


コンコン。


控えめなノックが部屋に響く。


「!どうぞ。」


扉がゆっくり開く。立っていたのは――


「!マリナさん。」

「…よう。」


いつもの威勢のいい声ではない。


どこか落ち着かない様子で、視線も泳いでいる。


ミラベルはすぐに椅子を勧めた。


「入って。」


マリナは小さく頷き、部屋へ入る。


椅子に腰掛けても、しばらく何も話さない。


沈黙だけが流れていく。


ミラベルは急かさなかった。


ただ静かに温かいハーブティーを二人分淹れ、片方をマリナの前へ置く。


「ありがとな…。」


小さく礼を言い、マリナはカップを両手で包み込んだ。


その手は、僅かに震えていた。


やがて言葉を紡ぎ始める。


「…ミラベルとブレイブがあたしの夢から帰ってきた時さ…。」


ぽつりと口を開く。


「あたし…嘘ついた…。なんでもねぇって言ったけど、本当は…全然なんでもなくなかった。」


ミラベルは優しく頷く。


「うん…無理して笑っていたものね。」


その一言だけで、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。


マリナは苦笑する。


「やっぱりバレてたか。」

「当然よ。」


ミラベルも小さく笑う。


「友達だもの。」


その言葉に、マリナは照れくさそうに頭を掻いた。


「…友達、か。」


少しだけ嬉しそうだった。


そして意を決したように顔を上げる。


「夢の最後にな…あの子…あたしを抱き締めてくれたじゃねぇか?」


ミラベルは静かに耳を傾ける。


「今まであんなふうに誰かに優しく抱き締められたことなんて、ほとんどなかった…。孤児になってからも…前の人生でも…だから…!」


言葉が詰まる。


「温かかった…」


ぽろり、と涙が零れ落ちた。


「すげぇ…温かかったんだ!」


ミラベルは黙ったまま寄り添う。


「そしたらさ…耳元であの子にこう言われたんだ。」


マリナは目を閉じる。


夢の中の声を、一言一句思い出すように。


『ずっとあなたを抱きしめたかったの。』


『どんなに苦境に立たされても強く生きるあなたが私は大好きよ。』


『私のことは気にせず、マリナとして幸せになって。』


『あなたの罪と罰も全部、私が持っていくから』


部屋が静まり返る。


「…あの時…何でかわかんねぇけど、胸が苦しくて…涙が止まらなくなった。」


マリナは涙を拭う。


「今まで誰かにあんな風に言われたこと、一度もなかった。だから…、嬉しかったんだ。」


その一言には、これまで積み重ねてきた孤独が滲んでいた。


ミラベルも胸が締め付けられる。


ゆっくり立ち上がると、マリナの隣へ座った。


「マリナさん。」

「…ん?」

「きっと、あの人は。」


ミラベルは穏やかに微笑む。


「ずっとあなたを見ていたのよ。あなたが仲間を守る姿も。努力する姿も。泣きながら立ち上がる姿も。全部。」


マリナは目を見開く。


「だからこそ…安心して…自分の身体も、未来も、あなたに託せたんだと思う。」

「…。」

「あなたは誰かの代わりじゃない。あなた自身がマリナ・クラークなの。そして…私の大切な友達よ。」


その言葉を聞いた瞬間。マリナの涙がまた溢れ出した。


「っ…ありがとな…ミラベル。」


マリナの言葉にミラベルも嬉しそうに笑う。


「こちらこそ、ありがとう。」


しばらく二人は何も話さなかった。


ただ静かな夜の中で、お互いの存在を感じながら寄り添っていた。


やがて涙も落ち着き、マリナは照れ隠しのように笑う。


「なんか…泣いたら腹減った!ミラベル、なんか食うもんあるか?」


その一言に、ミラベルは思わず吹き出した。


「ふふっ、さっきまであんなに泣いていたのに。」

「それがあたしだからな!」


胸を張るマリナ。


二人は顔を見合わせ、大きく笑った。


その笑い声は、夜の女子寮に優しく響く。


しかし――。


マリナが部屋を去ったあと。


笑顔を見送ったミラベルの表情から、少しずつ笑みが消えていく。


(本来のマリナさんの魂は確かに存在していた。それなら…。)


胸の奥で、一つの疑問が大きく膨らむ。


(もし、私もマリナさんと同じように、この身体へ転生してきたのだとしたら……本来のミラベルは…どこにいるの?)


答えのない問いだけが、静かな夜の部屋に残った。


その夜、ミラベルは眠りにつく。


そして――。


彼女自身の運命を揺るがす、新たな夢を見ることになるのだった。

前回ぼかされていたのは、ゲームの性格のマリナが転生者としてのマリナに優しい言葉と共に自身の人生を託すというやり取りでした。


ミラベルの言うように本来のマリナは転生者マリナの姿をずっと見守っていて前世の辛い境遇や今世での頑張りに感情移入していたんだと思います。本来のマリナが持っていくと言った「罪と罰」は転生者マリナが前世で両親を殺害し妹を守りきれなかったことですが、これに関してはここで終わらせることなく引き続き書いていきたいと思います。


今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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