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第42話巫女の意思を伝える者

ついにマリナの夢にミラベルとブレイブが入る日がやってきた。

夢へ入る儀式が行われる夜――。


王立学院の特別魔術研究室には、普段では考えられないほど多くの人が集まっていた。


部屋の床には、幾重にも重なった魔法陣。


その中央には静かに眠るマリナ。


その左右にはミラベルとブレイブが横たわっている。


三人を囲むように、ユリウス、ルシアン、アイリスが位置についた。


「では始めよう。」


ユリウスの静かな声が響く。


ルシアンが魔導書を開き、ゆっくりと詠唱を始める。


アイリスは三人の魔力が乱れないよう補助魔法を展開した。


ユリウスの魔力も加わり、淡い金色の光が部屋を包み込んでいく。


「精神世界への接続を開始します。三人とも、夢の中では決して離れないでください。」


ルシアンが真剣な表情で告げる。


「夢は精神そのものです。心が乱れれば、お互いを見失います。」


ブレイブは真剣な顔で何度も頷いた。


「はい!俺、お嬢様のそばを絶対離れません!」


ミラベルが苦笑する。


「ありがとう。でも、私もブレイブを置いていったりしないわ。」


その言葉にブレイブは少し照れたように笑った。


「…はい!」


マリナは二人を見て豪快に笑う。


「なんだよ、お前ら!なんか夫婦みたいだな!」

「!?ぶっ!」


ブレイブが盛大にむせる。


「ち、違います!」


ミラベルも真っ赤になった。


「マ、マリナさん!」


研究室に小さな笑いが広がる。張り詰めた空気が少しだけ和らいだ。


ユリウスも思わず口元を緩める。


「そのくらい肩の力が抜けている方がいい。」


ルシアンも頷いた。


「精神世界は心の状態が大きく影響する。自然体で行きましょう。」


マリナは親指を立てる。


「よーし!じゃあ行ってくる!」




魔法陣が眩く輝いた。


三人の意識がゆっくりと沈んでいく。


――そして。


目を開くと、そこはどこまでも白い世界だった。


空も。地面も。風さえも白い。


まるで世界そのものが霧に包まれているようだった。


「ここが…。」


ミラベルは辺りを見回す。


「夢の世界…。」

「不思議ですね…。」


ブレイブは恐る恐る地面を踏む。


「ちゃんと歩けますね。」

「自分の夢の中でも思い通りに身体が動かないってこともあるから、ちゃんと歩けるのは安心するわね。」


ミラベルは微笑む。


「でも…本当に入れたのね。」

「おーい!」


遠くから元気な声が響いた。振り向くと、マリナが大きく手を振っている。


「こっちだ!」

「マリナさん!」


三人は合流した。


「二人ともちゃんと来たんだな!」

「もちろん!夢の世界でもお二人の護衛ですから!」


ブレイブが胸を張る。マリナは満足そうに笑った。


「よし!じゃあ例の奴を探そうぜ!」



三人は白い世界を歩き続ける。どれほど歩いたのか分からない。


時間の感覚すら曖昧だった。


すると…ふわり、と風が吹いた。


今まで微かな風だった世界に大きな風が流れる。


その先に、一人の少女が立っていた。


ダークブラウンの髪に深緑色の瞳。


穏やかな微笑み。


その姿は――。


「!…あたし。」


マリナが息を呑む。


少女は静かに微笑んだ。


「来てくださったのですね。」


その声はどこまでも優しかった。


「ありがとうございます。」

「えっと…。」


マリナは戸惑う。


「やっぱり…あんたは、あたしなのか?」


少女は少しだけ寂しそうに笑う。


「姿は同じですが、私は…。」


静かに胸へ手を当てた。


「巫女の意思を伝える者です。あなた方へ言葉を届けるために現れました。」


ミラベルは少女を真っ直ぐ見つめる。


(…違う。この人は…たぶん…本当は…本来のマリナさん。)


そう確信していた。


けれど、その想いは胸の奥へしまった。


ブレイブも何も言わない。


少女は話を続ける。


「皆さんが力を合わせてくださったおかげで、ようやく声を届けることができました。」


「魔力を持つ方が複数集まり、精神を繋げることで、この場所は安定しています。」


マリナは腕を組む。


「つまり…今日しか話せないかもしれねぇってことか?」


少女は静かに頷いた。


「はい、だからこそ今、お伝えしなければならない未来の話があります。」


空気が張り詰める。


ミラベルもブレイブも真剣な表情になった。


少女はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「まず一つ。これまで起きた魔獣召喚事件…そして体育祭での襲撃…それらはすべて、一人の魔導士によるものです。」

「!やっぱり…。」


ミラベルが静かに呟く。推測は正しかった。


少女は続ける。


「二つ目。その者の目的は、この世界と魔界を繋ぐ巨大な亀裂を生み出すこと。」


ブレイブが思わず息を呑む。


「!魔界…。」

「もし亀裂ができてしまえば…魔獣だけではありません。敵意を持つ魔族までも、この世界へ流れ込みます。」


マリナが拳を握る。


「そんなこと…!絶対させねぇ!」


マリナの強い決意を前に少女は優しく微笑み、さらに続けた。


「三つ目。仮に亀裂を見つけ、封じることができたとしても…封印は一年しか持ちません。」

「一年…。」


ミラベルの表情が曇る。


つまり、戦いを先送りにできるだけ。


根本的な解決にはならない。


少女は静かに頷いた。


「ですが、希望もあります。」


三人は顔を上げた。


「四つ目。学院は、この世界でも特殊な力が集う土地。ここで鍛錬を積むことで、巫女の力はさらに大きく成長します。」


マリナは力強く笑った。


「だったら、鍛えまくるだけだ!」


ブレイブも笑う。


「俺も鍛錬に付き合います!」


ミラベルも頷く。


「もちろん私も!」


少女は安心したように微笑んだ。


そして最後に。


最も大切なことを告げた。


「最後に…魔王を討つことができるのは、巫女と…巫女が心の底から共に戦いたいと願った仲間たちだけです。」


白い世界が静まり返る。マリナは迷わなかった。


左右に立つ二人の手を掴む。


「仲間ならいる!」


右手にはミラベル。左手にはブレイブ。


「あたしは!絶対に!みんながいるこの世界を守る!」


ブレイブも強く手を握り返した。


「俺も!お嬢様も!マリナさんも!みんなも絶対に守ります!」


ミラベルもマリナの手を握り返す。


「ええ…私達は一人じゃない。だから、きっと未来は変えられる!」



三人の決意を見つめながら、“巫女の意思を伝える者”は、心から安堵したように微笑んだのだった。

巫女の意思を伝える者…ミラベルの推測では本来のマリナが登場し、色々なことを伝えてくれました。


夢に関する話はこの後も少し続きます。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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