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第41話夢の中の少女

体育祭襲撃事件から二週間…マリナは不思議な夢を見るようになっていた。

体育祭襲撃事件から、二週間。


学院は再び授業を再開したものの、生徒たちの間には未だ緊張が残っていた。


教師たちは巡回を増やし、騎士団も学院周辺の警備を強化している。


しかし、そんな日常の裏で――。


誰にも言えない異変に、一人の少女が悩まされていた。




その夜。


学院女子寮。


「っ!…まただ。」


ベッドから飛び起きたマリナは、額の汗を拭った。


胸が苦しい。鼓動が早い。


「また…あの夢。」


ここ数日、同じ夢を繰り返していた。


白く果てしない世界。


風もない。音もない。


そこに、一人の少女が立っている。


肩にかかるダークブラウンの髪。


澄んだ深緑色の瞳。


顔も。背丈も。


何もかも――自分と同じ。


違うのは、その瞳だけだった。


今の自分のような鋭さではなく、どこまでも優しく、穏やかで、それでいて芯の強さを宿した瞳。


少女は何かを必死に叫んでいる。


「…!…!」


けれど、声だけが聞こえない、どれだけ近付いても。


唇は動いている。


少女は伝えられないことがもどかしいのかいつも泣きそうな顔をしている。


結局、何一つ少女の言葉は届かない。


目が覚める瞬間、少女は必ずこちらへ手を伸ばしていた。



翌朝。


「ふぁぁぁ…。」


大きな欠伸をしながら食堂へ向かうマリナ。


「眠そうですね。」


隣を歩くブレイブが心配そうに覗き込む。


「眠れなかったんですか…?」

「寝たよ、寝たんだけどさ…。」


頭を掻く。


「変な夢ばっか見んだ。」

「夢?」


ミラベルが反応した。


「どんな夢?」


マリナは少しだけ考える。


「私と同じ顔した女が出てきて泣きそうな顔でこっちに何かを伝えようとしてくる夢…ここんとこ毎日同じ夢を見るんだ。」


ミラベルの足が止まった。


「…え?」


ブレイブも驚く。


「同じ顔?」

「そう。髪も顔も全部同じ。でも…目だけが違う。」


マリナは自分でも説明できないもどかしさを抱えていた。


「優しそうな奴なんだ…何か言いたそうなんだけど、声だけは全然聞こえねぇ…。」


ミラベルは真剣な表情になる。


(!…もしかして…。)


頭の中で一つの仮説が浮かぶ。


思い浮かぶのは生前にプレイしていたゲームのCGで見られた主人公『マリナ』の慈愛に満ちた優しい瞳だった。


(本来の……マリナさん…?)




放課後。


学院の中庭。


ミラベルはユリウスへ相談していた。


「同じ姿の少女…?」


ユリウスも腕を組む。


「…偶然とは思えないね。」

「私もそう思います。」


ミラベルは頷いた。


「体育祭で巫女の力が覚醒してからなんですって、夢を見るようになったのは…。」

「だったら。」


ユリウスは静かに言った。


「夢について詳しい人物に相談しよう。…ルシアン、そしてアイリスに。あの二人なら何かわかるかもしれない。」




その日の夕方。


学院図書館。


大量の魔導書が積み上げられた机。


ルシアンは本を閉じた。


「なるほど。」


眼鏡を上げる。


「夢へ干渉する魔術。理論上は可能です。」


ブレイブの目が丸くなる。


「本当に夢に入れるんですか!?」

「成功率は三割。」

「三割!?」


思わず叫ぶブレイブ。


「そんなに…低いんですか?」


ルシアンは淡々としている。


「夢は精神世界だからね、不安定なんだ。」


横でアイリスが優しく補足した。


「ですが、私とルシアン様、それにユリウス殿下が協力すれば成功率はかなり上がります。」


ブレイブはほっと胸を撫で下ろす。


「!そうなんですか…!よかった…。」


しかし。アイリスはにこりと微笑んだ。


「失敗しても『命に』別状はありません。」


「!?…『命に』?」


ブレイブが固まる。


「その『命に』ってすごく意味深に聞こえるんですけど!?も、もしかして他に副作用とかが…!」


ミラベルは思わず吹き出した。


マリナも大笑いする。


「はははは!」

「ブレイブ、顔真っ青じゃねぇか!」

「だって!マリナさん自身にも何かあったらどうするんですか!?怖いですよ…!」


ルシアンは真面目な顔で答えた。


「その時は、迎えに行くよ。」

「そんな軽く言われても!」


皆が笑い始める。


先日の重苦しい空気が少しだけ和らいだ。




笑いが落ち着くと、


マリナが腕を組んだ。


「でもさ…あたしの夢に入るって言うなら、ミラベルは絶対必要だ。」

「え?」

「だって、話を聞くの一番上手いじゃん!」


ミラベルは少し照れる。


「そんなこと…。」

「ある!」


マリナは即答した。


「あとは…。」


ブレイブを見る。


「夢の中でもミラベルには護衛が必要だろ?だから、ブレイブ。お前も来い!」


突然指名され、ブレイブは目をぱちぱちさせた。


「え!?俺もマリナさんの夢の世界に行ってもいいんですか!?」

「当然!夢の中でもお嬢様を守れ!」


マリナが笑いながら拳を突き出す。ブレイブも笑顔で拳を合わせた。


「はい!必ず守ります!」


その様子を見ていたユリウスは、小さく微笑んだ。


「異論はない。夢の中でも、ミラベルの隣には君がいるべきだ。」


その言葉にブレイブは照れくさそうに頬を掻いた。


ミラベルも少しだけ頬を染めながら微笑む。


「ありがとう、ブレイブ。」

「はい!」


力強い返事が図書館に響く。


こうして、夢の世界へ足を踏み入れる準備が整った。



その夢の先で、彼らを待つ”もう一人のマリナ”との出会いが、この世界の未来を大きく動かすことになるとはまだ誰も知らなかった。

魔法研究が専門のルシアンとアイリス、そして彼らを補佐する形でユリウスが加わることによってミラベルとブレイブをマリナの夢の世界に入り込ませることになりました。


次回以降はしばらく夢の話が続くと思います。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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