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第38話繋がれた命

重傷を負ったミラベル。彼女を救うためにユリウス達は力を尽くす。

黒衣の魔導士が転移魔法で姿を消したあと――。


森を包んでいた禍々しい魔力は、まるで潮が引くように薄れていった。


マリナの身体から放たれる白銀の光は、なおも優しく森を照らしている。


その光に触れた魔獣たちは苦しげな咆哮を上げることなく、静かに霧となって消えていった。


やがて森は静寂を取り戻す。


しかし、その場にいた誰一人として安堵する者はいなかった。


全員の視線は、一人の少女へ向けられていた。


「ミラベル!」


ユリウスが膝をつく。


制服は深紅に染まり、傷口からはなお血が流れ続けている。


呼吸は弱く、今にも途切れてしまいそうだった。


ユリウスの表情が初めて大きく揺らぐ。


「まずい…このままでは…!」


震える手でミラベルの額に触れる。


「まだ間に合う。」


自分自身に言い聞かせるように呟いた。


「絶対に助ける!」


ユリウスは両手を傷口へかざす。黄金色の治癒魔法陣が展開された。


「高位治癒魔法!」


温かな光がミラベルを包む。しかし…。


傷は深すぎた。治癒の光が追いつかない。


ユリウスの額に汗が滲む。


「くっ…!魔力が足りない…!」


その言葉を聞いた瞬間。ブレイブは迷うことなくユリウスの隣へ膝をついた。


「ユリウス様!」


ユリウスは振り向く。


「俺の魔力を使ってください!

「!だが、君も傷を負って…!」

「お願いします!!」


ブレイブの瞳は涙で濡れていた。


「俺は…!お嬢様を失いたくありません!だから…っ!俺の魔力を全部使ってください!」


ユリウスは一瞬だけ目を閉じる。


そして静かに頷いた。


「…分かった。ブレイブ、私の背に触れて魔力を流してくれ。」

「っ!はい!」


ブレイブは両手をユリウスの背へ当てる。


自分の魔力を惜しみなく送り込んだ。


黄金色の治癒魔法がさらに輝きを増す。


しかし、それでも足りない。


その時だった。


「師匠!」


マリナが歩いてきた。まだ腹を押さえながら、それでも真っ直ぐ立っている。


「あたしの魔力も使ってくれ!」

「マリナ…!」

「ミラベルは…。」


声を震わせる。


「あたしを庇って大怪我したんだ…だったら…あたしにも責任がある!」


涙をこらえながら笑った。


「仲間なら…助けるのに理由なんかいらねぇ!」


ユリウスは静かに頷いた。


「ああ、ありがとう…!」


マリナもブレイブの隣へ座る。


二人の魔力がユリウスへ流れ込んでいく。


黄金の光は、さらに強く輝いた。


少しずつ。本当に少しずつ。


ミラベルの出血が止まり始める。


ブレイブは涙を流しながら祈る。


(お願いだ…!助かってくれ…っ!)


その光景を見つめながら、意識を失いかけたミラベルの心には、ぼんやりと一つの記憶が浮かんでいた。


10歳の頃…自分を庇って魔獣に重傷を負わされたブレイブ。


あの時。


自分一人では魔力が足りず、ユリウスが力を貸してくれた。


そして二人で必死に治癒魔法をかけ、ブレイブを救った。


(ああ…あの時と…同じ。)


今度は逆だった。自分を救うために。


ユリウスが治療を行い。ブレイブとマリナが魔力を送り力を貸してくれている。


仲間たちの温もりが、遠のく意識の中でもはっきりと伝わってきた。


(みんな…ありがとう。)


ミラベルの唇が、かすかに動く。


だが声にはならない。静かに瞳を閉じた。


「お嬢様っ!」


ブレイブが叫ぶ。


ユリウスはすぐに脈を確認した。


そして小さく息を吐く。


「安心してくれ…命は繋ぎ止められた。」


ブレイブの肩から一気に力が抜ける。


「!…よかった…!」


その場へ座り込み、大粒の涙を流した。


マリナもその場に膝をつく。


「よかった…本当に…!」


ユリウスは二人の肩へ手を置く。


「まだ安心はできない。すぐ学院へ戻ろう。ミラベルには本格的な治療が必要だ。」


二人は力強く頷いた。


「はい!」

「おう!」


その時、森を覆っていた結界が音もなく消え去る。


外で待機していた教師たちが一斉に森へ駆け込んできた。


「ユリウス殿下!ご無事ですか!?」


ユリウスが叫ぶ。


「重傷者がいます!至急、担架を!」


教師たちはミラベルの姿を見て息を呑んだ。


「これは…!すぐ保健室へ!」


治癒魔法を得意とする教師たちが次々と魔法を重ねる。


担架へ静かに寝かされるミラベル。


ブレイブはその手を最後まで離さなかった。


(お嬢様…守りきれなくてごめんなさい…。今度は…今度こそは…俺が守ります。)


その誓いを胸に、ブレイブ達は担架とともに学院へ走り出す。


夕暮れの森には、戦いの跡だけが静かに残されていた。


そして、この戦いはまだ終わってはいない。


黒衣の魔導士が残した、


脇役モブ

主人公ヒロイン


という不可解な言葉が、新たな謎として彼らを待ち受けていた。

ブレイブとマリナの魔力で力を借りたユリウスの回復魔法によりミラベルの命が繋ぎ止められました。4人の絆が描けた回だと個人的に思っています。


残された謎などについては次回以降から徐々に明かしていければなと思っています。


今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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