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第35話森に響く咆哮

遂に開幕した体育祭。ミラベル達第7チームと、ユリウス達第11チームはそれぞれ魔力で気配を探りながら慎重に行動していた。

開始の鐘が鳴ってから十分ほど。


王立学院の生徒たちは、それぞれのチームごとに森の中を進んでいた。


木漏れ日が差し込む森は穏やかで、小鳥のさえずりが聞こえる。


誰もが、これから始まる模擬戦に胸を躍らせていた。


――ミラベルとユリウス達2チームをを除いて。


(ゲームでは……この辺りまでは何も起きなかった…。でも、あの襲撃事件も本来よりずっと早かった。今回も、歴史が変わっている可能性がある…。)

「ミラベルさん。」


隣を歩くセドリックが穏やかな声をかける。


「考え込みすぎですよ。」

「え……?」

「肩に力が入っています。」


ロザリアも優しく微笑んだ。


「緊張は周りにも伝わってしまいます。深呼吸してみましょう。」


ミラベルは少し照れたように笑う。


「っ…ありがとうございます。」


隣ではブレイブが周囲を警戒しながら歩いている。


腰には実戦用ではない訓練剣。


それでも目つきは真剣だった。


「魔力の流れ…今のところ異常ありません。」


エレノアが感心したように言う。


「ブレイブさん、探知もお得意なんですね。」

「ユリウス様にいつも鍛えられましたから!」


その言葉に全員が思わず笑った。


「それは大変でしたね。」


セドリックが苦笑する。


「ええ…。」


ブレイブは遠い目をした。


「毎日死ぬかと思うまで鍛えてもらいました…。でも、『まだ死んでいないなら余裕だな。』…って前にマリナさんに言われて元気付けられました!」


マリナが言った言葉をミラベルが思い浮かべ、思わず吹き出す。


「ふふっ。」

「どうしました?」

「いえ。今、マリナさんがここにいたなら何て言うかなって思って。」

「『もっと鍛えろ!』じゃないですか?」


ブレイブが真似をすると、一同はまた笑い声を上げた。




一方その頃。


第十一チーム。


ユリウス、マリナ、アルト、ヴィオレット、カイン、アイリスの六人も森を進んでいた。


アルトは肩に木剣を担ぎながら笑う。


「静かだなぁ〜…誰か出てこねぇかな!」


ヴィオレットがすぐに呆れ顔になる。


「競技開始早々、そんな大声を出さないでください。敵に居場所を教えるようなものですよ?」

「えっ!?そうなのか?」

「そうです。」


カインはため息をつく。


「お前は少し考えてから動け。」

「考えるより先に動く方が得意なんだよ!」


マリナが大笑いする。


「ははは!あたしと気が合いそうだな、あんた!」

「おっ!そう思うか!?」


二人は意気投合して拳を合わせた。


その様子にアイリスがくすりと笑う。


「賑やかですね。」


ユリウスも苦笑しながら言う。


「二人とも。盛り上がるのは構わないが警戒は忘れないように。」


「はーい!」


返事までぴったり揃う。ヴィオレットが小さく頭を抱えた。


「不安になります…。」



その時だった。


ガサッ!


茂みが揺れる。


「魔獣か!?」


カインが即座に剣を構えた。


飛び出してきたのは他チームの生徒たち。


「見つけた!」

「先制するぞ!」


学院生同士の模擬戦が始まる。


アルトは嬉しそうに前へ飛び出した。


「待ってました!」


木剣同士が激しくぶつかる。


ガキィン!


アルトの豪快な一撃を相手が受け止める。


しかし、その隙をカインが見逃さない。


「今だ!」


鋭い踏み込み、相手の木剣を弾き飛ばす。


同時にアイリスの拘束魔法が敵の足元を絡め取った。


「動きを止めます!」

「助かった!」


マリナはその横を駆け抜ける。


「いくぜっ!」


魔力で身体能力を強化した拳が、相手の盾へ叩き込まれる。


ドォン!


「うわぁ!?」


最後まで立っていた相手は尻もちをついた。教師が旗を上げる。


「一本!第十一チーム!」


森の外で投影魔法で観戦している上級生達から歓声が上がる。


「すげぇ…あの拳!」

「ほんとに一年生かよ!?」


見事に敵チームを倒したマリナは照れくさそうに鼻を擦った。


「へへっ!こんなの朝飯前だ!」


ユリウスは仲間たちの連携を見ながら静かに頷いた。


(体育祭までの期間でここまでの連携を取れるようになった…みんな確実に成長している。)


だが、その笑顔はすぐに消えた。


ぴくり、と眉が動く。


「…?」

「ユリウス様?」


アイリスが気づく。


ユリウスは目を閉じていた。


広範囲の魔力探知。森全体へ意識を広げる。


そして。


ぞくり、と背筋を冷たいものが走る。


「この魔力は…!」


尋常ではない、禍々しく、冷たく、まるで生命そのものを拒絶するような魔力。


しかも一か所ではない。


森の各地から、ほぼ同時に感じられる。


「まずい!全員、戦闘態勢!」


ユリウスの鋭い声が響く。


その瞬間。


森のあちこちで、紫黒い光が地面から立ち昇った。


ゴォォォォォ……


巨大な魔法陣が次々と浮かび上がる。


それはミラベルが夢で見たものと酷似していた。




一方、第七チーム。


ミラベル達もその異変に気づく。


「!これは…!」


ミラベルの顔が青ざめる。


「召喚魔法陣…!」


ブレイブが剣を抜く。


「お嬢様!下がってください!」


セドリックは槍を構える。ロザリアはすぐさま魔法の弓を作り出した。エレノアも詠唱を始める。


「来ます!」


次の瞬間。


魔法陣から、赤黒い目をした狼型の下等魔獣が飛び出した。


一体。二体。三体。…十体。二十体。


数え切れないほどの魔獣が森へあふれ出す。


森中に悲鳴が響いた。


「!?魔獣だ!」

「逃げろ!」

「先生ぇ!」


平和だった体育祭は、一瞬にして地獄へと変わる。


そして…上空では黒衣の魔導士が静かに笑っていた。


「…始まった。さあ、未来を知る娘よ。この絶望をどう乗り越える?」


その冷たい笑い声は、誰の耳にも届くことなく、森の空へ溶けていった。

黒衣の魔導士が動き出し、ゲームの展開通り体育祭への魔獣襲撃が起きてしまいました。次回からもミラベルやマリナ達の活躍を描いていきたいと思います。


今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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