第33話夢のお告げと迫る影
学院に入学し学校生活にも慣れてきたミラベル達。
ある日、ミラベルは仲間達を図書館に集めこれから起こるかもしれない『あること』を打ち明ける。
王立学院へ入学して数日。
新しい生活にも少しずつ慣れ始めたミラベル達は、授業が終わり放課後になると学院の訓練場や図書館で、それぞれ鍛錬や勉学に励む日々を送っていた。
その日も、学院の訓練場には木剣がぶつかる乾いた音が響いていた。
「はぁっ!」
ブレイブが鋭く踏み込み、ユリウスへ木剣を振り下ろす。
しかし――。
カンッ!
軽く受け流される。
「踏み込みは良くなった。だが、視線が剣に向きすぎている。」
ユリウスはそのまま木剣の腹でブレイブの肩を軽く叩いた。
「実戦では相手全体を見なければならない。」
「はい!」
汗を拭いながらブレイブは元気よく返事をする。
一方では、マリナが訓練用の魔法人形を拳だけで吹き飛ばしていた。
「おりゃあっ!!」
轟音とともに人形が宙を舞う。
「……。」
見ていた他の一年生たちが言葉を失う。
「す、すごい…!」
「あれ…本当に同じ一年生か?」
マリナは腕をぶんぶん振り回しながら笑う。
「へへっ!まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」
ユリウスは苦笑した。
「マリナ。威力は十分だ。次は力任せではなく、魔力の流れを意識してみよう。」
「また難しいこと言うなぁ〜、師匠。考えるより殴った方が早いんだけど…。」
その言葉にミラベルが笑う。
「それじゃあ、座学の先生に怒られちゃうわよ?」
「うぐ…っ!」
マリナは露骨に嫌そうな顔をした。
「勉強だけは苦手なんだよなぁ〜…」
「でも最近は難しい歴史書も読めるようになったじゃない。」
「っ!それは…」
少し照れながら頭を掻く。
「…ミラベルやブレイブが教えてくれたからだ…!」
ブレイブも嬉しそうに笑う。
「マリナさん、すごく覚えるの早いですよ!最初は字も読めなかったのに同じように前まで字が読めなかった俺より全然進歩が早いですよ!」
「だから…!そういう風に言うなって!」
マリナは真っ赤になってブレイブを小突く。
四人のやり取りを見ていた周囲の生徒たちは自然と笑顔になっていた。
その日の放課後。
学院の図書館。
人気の少ない奥の閲覧席に、ミラベル、ユリウス、ブレイブ、マリナの四人は集まっていた。
ミラベルの表情は、いつになく真剣だった。
「……みんなに話したいことがあります。」
三人が自然と姿勢を正す。
「また”夢”で見た話かい?」
ユリウスが静かに尋ねる。
ミラベルは小さく頷いた。
「はい。昨日の夜…また夢を見ました。」
もちろん、それは夢ではない。前世でプレイした断片的に思い出されるゲームの記憶。
しかし、その真実を知るのはミラベルだけだった。
「学院最初の学校行事…体育祭。そこで事件が起きます。」
ブレイブが息を呑む。
「事件…?」
「はい。」
「騎士科と魔法科の混成チームで学院所有の森へ入り、他のチームと戦いながらポイントを競う行事。…でも、その最中に魔王軍が下等魔獣を大量に召喚するんです。」
空気が張り詰めた。マリナも笑みを消す。
「また魔獣か…。」
ミラベルは続けた。
「しかも森のあちこちに召喚魔法陣が現れて…生徒たちは大混乱になります。」
ユリウスは腕を組む。
「夢では、その事件はどう収束した?」
「マリナさん達のチームが活躍して被害を食い止めます。でも…魔導士の姿だけは最後まで分からないままでした。」
「…つまり敵は森のどこかに潜んでいる。と」
ユリウスの問いかけにミラベルは静かに頷いた。
「その通りです。」
しばらく沈黙が流れる。
その最中で最初に口を開いたのは意外な人物であった。
「話を聞かせていただいても?」
「!セドリック様!ロザリア様も!」
突然、現れたセドリックと彼の後ろにいたロザリアに驚くブレイブやマリナ。だが、やって来たのは彼らだけではなかった。
続いてアルト、ヴィオレット、カイン、エレノア、ルシアン、アイリスも集まり、自然と円陣のような形になっていた。
ミラベルは全員を見渡す。実はセドリック達を呼び出したのは他でもないミラベルであった。
次に起こるかもしれない体育祭の事件の被害を防ぐには一人でも信頼でき、頼りになる人々の協力が必要だからだと思ったからだった。
「今日は集まっていただきありがとうございます。…皆さんにも話しておきたいことがあるんです。」
そして、これまでブレイブやユリウス、マリナや家族など信頼できる人々にしか話してこなかった”夢のお告げ”として、体育祭で起こる未来を説明した。
話し終えると、長い沈黙が流れる。
最初に口を開いたのはアルトだった。
「…正直。すぐに信じろって言われても難しいな…。」
「俺も同感だ。」
カインも静かに言う。
「夢の話というだけでは確証がありませんしね…。それだけでは学院も動かないでしょう。」
ルシアンも頷きながらそう言った。
ミラベルは俯いた。
「そう…ですよね。」
やはり無理がある。
そう思った、その時だった。
「ですが…。」
セドリックが穏やかな声で言う。
「私は信じたいと思います。」
皆が彼を見る。
「祝賀会の襲撃事件の時のミラベルさんの活躍に…マリナさんを伝説の巫女の末裔として見出した一件…ミラベル様には理屈では説明できない特別な力のようなものを感じるのです。」
ロザリアも頷く。
「私も…ただの夢として断じるにはあまりにも話ができすぎていると思います。…もし本当に危険が起こる可能性があるのなら、備えて損はありません。」
ヴィオレットが腕を組む。
「確かに…何も起こらなければ、それが一番ですもの。」
エレノアも優しく微笑む。
「皆さんが傷付く未来は見たくありません。」
アルトは頭を掻きながら笑った。
「しゃあねぇな〜…疑って後悔するくらいなら、信じて動く方が俺らしい!俺も協力する!」
「俺もだ。」
カインも力強く頷く。
ルシアンも静かに微笑んだ。
「学生である前に王国の未来を担う者です。協力させてください。」
アイリスも微笑む。
「もちろん私も。」
ミラベルは目を潤ませる。
「みなさん…ありがとうございます!」
ブレイブは嬉しそうに拳を握った。
「ありがとうございます!皆さんと一緒なことがすごく心強いです!」
マリナも照れ隠しのように鼻を擦る。
「へへっ、やっぱ仲間っていいな!」
その様子を見たユリウスは静かに立ち上がった。
「ありがとう。これで一人でも多くの生徒を守れる可能性が高くなる。」
彼は全員を見渡す。
「体育祭まで残された時間は十分にある。各自、実力を磨きながら周囲への警戒も怠らないように。」
「はい!」
力強い返事が図書館に響いた。
その頃――。
学院から少し離れた森の上空。
誰にも気づかれないほど高い場所に、一人の黒いローブの人物が浮かんでいた。
顔は深くフードで隠されている。
その手には、不気味な紫色の魔力が宿っていた。
「…ほう。」
低い笑い声。
「未来を知る娘か…。面白い。」
ローブの奥で紅い瞳が妖しく細められる。
「だが…知っているだけで未来は変えられはしない。」
足元に、小さな魔法陣が一つ浮かび上がる。
「体育祭の日…絶望を味わわせてやろう。」
黒い霧とともに、その姿は音もなく消え去った。
誰一人、その存在に気づく者はいなかった。
だが確実に――新たな戦いの幕は上がろうとしていた。
体育祭で起こるかもしれない魔獣襲撃に向けていつもの4人だけでなくカインやアルト達他の攻略候補やその婚約者達とも団結する回でした。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。




