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第28話それぞれの居場所

マリナ達が侯爵家で暮らし始めてから二ヶ月、みんなすっかり新しい生活に馴染んでいた。

マリナたちがアルヴェイン侯爵家で暮らし始めてから、二か月が過ぎた。


最初は豪華な屋敷に落ち着かなかった孤児たちも、今ではそれぞれの役目を見つけ、笑顔で日々を送っていた。


早朝――。


厨房では香ばしいパンの匂いが漂っている。


「レン、そっちの野菜お願い!」

「わかった、ソフィ姉!」


料理長の指導を受けながら、料理好きのソフィは厨房の手伝いに励み、俊敏なレンは食材を軽々と運んでいた。


一方、中庭では。


「ここはもう少し丁寧に刈るんだ。」

「…はい…!」


庭師に教わりながら、植物好きのトーマは花壇の手入れに夢中になっている。


孤児達の情報収集係だったノアは字の読み書きを覚えてすっかり事務仕事が板についてきた。


意外に器用な面を持ったガイは修繕道具を手に、使用人たちと家具の補修を行っていた。


年少のエマとリンはメイドたちに囲まれながら、洗濯物を畳む練習をしている。


「上手になったわね。」

「えへへ!」

「ありがとうございますっ!」


屋敷には、以前よりもずっと明るい笑い声が響いていた。


その様子を見守っていたセレスティアは、穏やかに微笑む。


「みんな、本当によく頑張っているわ。」


隣に立つレオナルドも満足そうに頷いた。


「ああ。仕事を与えることは責任を与えることでもある。彼らはその期待に立派に応えてくれている。」


その言葉を少し離れた場所で聞いていたマリナは、照れ隠しのように鼻を擦った。


「…あいつら、頑張ってるな。」


ミラベルが嬉しそうに微笑む。


「マリナさんが守ってきた家族ですもの。きっとみんなも、この家を大切な居場所だと思っているわ。」

「…そうだといいけどな。」


ぶっきらぼうに答えるマリナだったが、その横顔はどこか誇らしげだった。



午後。


鍛錬を終えた四人は休憩していた。


ブレイブが木剣を片付けながら言う。


「マリナさん。」

「はい?」

「最近、夜もみんなと同じ部屋で寝ていますよね?メイドさんが朝部屋に行ってもいないって言ってました。」

「当たり前だろ!専用の部屋用意してくれたのはありがてぇけど、一人部屋ってのは性にあわなくてな。」


マリナは即答した。


「…あいつらはみんな家族みたいなもんだ…。立派な部屋を用意してもらっても、寝る前もみんなと過ごす時間が楽しくて一人で寝る気にはなれねぇ。」


ミラベルは優しく頷く。


「本当に…仲間思いなのね。」

「……まぁな。」


照れたように視線を逸らすマリナ。


「あたしは一人じゃ生きられなかった。あいつらに一人じゃ寂しいって気持ちを何度も救ってもらった。だから…今度は私が守る番なんだ。」


その言葉にブレイブは静かに微笑んだ。


「俺も…その気持ち少し分かります。俺も昔は仲間がいたけどみんな守れず亡くしてしまって…居場所を失いました…。でも、今は違います。」


ブレイブはアルヴェイン家の屋敷を見上げる。


「お嬢様が…侯爵様が…奥様が…皆さんが受け入れてくださったこの家が俺の帰る場所です。だから俺は、この家も…お嬢様も…皆さんも守りたいんです。」


真っ直ぐな言葉だった。


マリナは一瞬だけ目を丸くし、それから笑った。


「…ほんっと真面目だなお前。でも…そういう考え方、嫌いじゃねぇよ。」




その日の夕方。


図書室では珍しくマリナが一人、本を読んでいた。


そこへミラベルとブレイブが入ってくる。


「あれ?マリナさん?勉強?」

「おう。ちょっと字の練習。」


机には何冊もの本とノートが広げられていた。


以前なら読むこともできなかった文字を、一文字一文字指でなぞりながら覚えている。


ミラベルは思わず感心した。


「すごい…毎日勉強しているの?」

「師匠が言ってたように、学院で困りたくねぇからな!」


マリナは照れ臭そうに笑う。


「それにさ…本って結構面白いんだな。知らねぇことがいっぱい書いてある。」


その一言に、ミラベルは胸が温かくなった。


「そうでしょう?知ることって、とても楽しいの!」

「!…うん。」


二人は並んで本を読み、ブレイブが穏やかに見守りながら紅茶を用意する静かな時間が流れる。


そこへノックの音が響いた。


「失礼します。」


入ってきたのはユリウスだった。


「勉強中だったかい?」

「はい!」

「おう!」


ミラベルとマリナは同時に返事をする。


その様子にユリウスは小さく笑った。


「随分息が合うようになったね。…最初に会った頃は、今のようになるとは思わなかった。」


ミラベルも笑う。


「私もです。でも、今では大切な仲間です。」


マリナは少し照れくさそうに頬を掻いた。


「…ほんっと、ミラベルもブレイブも照れずによくスラスラとそういうことが言えるよな!まぁ…悪くねぇけど。」


ユリウスは本を一冊取り出し、机へ置く。


「では…二人とも勉強中ということならちょうど良い。次はこの本を読みなさい。」


分厚い魔法理論書だった。


マリナは目を見開く。


「分厚っ!こんなの読むのか!?」

「もちろん。」


ユリウスは即答する。


「学院ではこれくらい普通だ。」

「うげぇー…。」


頭を抱えるマリナ。


ミラベルとブレイブは思わず笑い出してしまう。


そんな賑やかな空気を見つめながら、ユリウスは静かに思う。


(みんな…本当に成長した。身分も、生まれも違う。それでも同じ世界を守る未来を目指し、日々鍛錬しながらも同じ場所で笑い合っている。)


やがて訪れる王立学院。


そこで待つ新たな出会い。そして、この国を揺るがす運命。


その時が近づいていることを感じながらも、今だけは――この穏やかな時間が、いつまでも続いてほしいとユリウスは願うのだった。

引き続き日常回でした。今はミラベルとマリナ達四人の絆を学院編に向けて育んでいってる段階です。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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