第24話運命の邂逅
リーベルでマリナを捜索していたミラベルとブレイブ。そんな二人はある少女を助けることになり…?
リーベルの街は、王都近郊らしく活気に満ちていた。
露店が並び、人々が行き交うその喧騒の中をミラベルとブレイブは一軒一軒聞き込みを続けていた。
「…やっぱり簡単には見つからないわね。」
額の汗を拭いながらミラベルが苦笑する。
「ですが、ユリウス様がもたらしてくれた貴重な情報です!」
ブレイブは周囲を見渡しながら穏やかに答えた。
「きっと、この街のどこかにいます。」
その時だった。
「返せよ!」
幼い少女の悲鳴が響いた。
二人が振り返ると、一軒の露店の前で8歳ほどの少女が店主に腕を掴まれていた。
「払えねぇなら持ってくんじゃねぇ!」
「ち、違うの!お財布落としちゃったことに今気づいただけなの!」
「うるせぇ!」
店主が拳を振り上げる。
しかし、その拳が振り下ろされることはなかった。
ガシッ。
ブレイブがその腕を掴んでいた。
「…子どもに手を上げるのはやめてください!」
店主は睨みつける。
「なんだお前!?関係ねぇだろ!」
ブレイブは静かに答えた。
「関係あります!どんな理由があっても暴力は駄目です!子供が殴られるところを見過ごすわけにはいきません!」
その隣でミラベルも少女をそっと庇う。
「何があったの?」
(!この人達…マリナお姉ちゃんを探していた…!…助けてくれるの…?)
少女…リンは自分を庇った二人がマリナを探していた少年少女であるとすぐに気づくが、今はそれどころではなく涙を堪えながら事情を話した。
「お金はちゃんと持ってたの…でも途中で人にぶつかられて…その時お財布落としたんだって…会計の時に気づいて…そしたらおじさんが元から隙を見て泥棒しようとしたんだろうって怒り出して…。」
ミラベルは店主へ向き直る。
「代金は私がお支払いします。だから、この子をこれ以上怒るのはやめてください。」
侯爵令嬢らしい気品と真っ直ぐな眼差しに、店主も毒気を抜かれたように頭を掻いた。
「…ちっ。分かったよ。…もういい。」
騒ぎは収まった。
泣いているリンを見て不安になり家まで送ることを申し出たミラベルとブレイブはリンと共に道を歩く。少女は何度も二人に頭を下げる。
「ありがとう、お姉ちゃん!お兄ちゃん!」
ミラベルは優しく微笑んだ。
「怪我はない?」
「うん!」
少女は満面の笑みを浮かべる。
「二人ともすっごく優しいね!それにすごくかっこよかった!まるでマリナお姉ちゃんみたい!」
「――!」
ミラベルとブレイブは同時に目を見開いた。
「今…なんて?」
ミラベルが思わず膝をつく。
「マリナさんを知っているの!?」
リンはすっかり心を開いてマリナの名前を口走ってしまったことを後悔し口を自分の手で塞ぐが、時既に遅しだった。
「な、なんでもない!!忘れて!」
「ごめん、聞き逃せないよ!俺たちそのマリナって人を探してここまで来たんだ!」
「何か知ってることがあるなら何でもいいの!話してくれない?」
「え、えーっと…。」
ブレイブとミラベルの質問責めにリンはどうしたら良いか分からずあたふたし始める。
ミラベルは胸が高鳴るのを感じた。
(やっと…!やっと会える!)
「マリナさんは今どこに――」
その瞬間だった。
「―あたしの仲間に何してやがる…?」
鋭い声が街角に響いた。
二人が振り向く。
そこには一人の少女が立っていた。
肩まで伸びたダークブラウンの髪。強い意志を宿した瞳。
そして胸元には――花冠のペンダント。
(あのペンダント……!間違いない!マリナさんだ!)
ミラベルの鼓動が速くなる。
しかしマリナは険しい表情で二人を睨んでいた。
「金持ちがガキに寄ってたかって楽しいか?もしかして…あたしの周りをクンクン嗅ぎ回ってるって男女のガキもお前らか?」
その後ろには、レン、ノア、ガイ、トーマが警戒した表情をミラベル達に向けながら立っている。
四人の少年たちが並び、いつでも飛び出せるよう身構えている。
ブレイブも自然とミラベルの前へ立った。
「お嬢様!」
「…大丈夫。」
ミラベルは静かに答える。
一触即発。街の空気が張り詰めた。
その時だった。
「違うの!」
リンがマリナの前へ飛び出した。
「マリナお姉ちゃん!この二人、私を助けてくれたの!店のおじさんに叩かれそうになったのを止めてくれたの!」
「…え?」
マリナの表情が固まる。
「本当だよ!確かにマリナお姉ちゃんを探してたのはこの人達だけど…すっごく優しい人たちなの!」
後ろのレンたちも顔を見合わせる。
「どうやら本当らしい。」
ノアが静かに呟いた。
マリナは数秒黙ると、
「…悪かった。」
短く頭を下げた。
「早とちりした…仲間に手を出されたと思ったんだ。」
ミラベルは微笑んで首を振る。
「いいえ。仲間を守ろうとしただけですもの、立派なことです。」
その一言にマリナは少しだけ驚いたような顔をした。
レンがマリナへ耳打ちする。
「姐御。この二人が姐御を探してた奴らなら…そのことも聞かないと…リンを助けたからって簡単に気を許しちゃダメだ」
「……そうだな。」
マリナは改めて二人を見る。
「あんたら、一体あたしに何の用だ?」
その瞳は鋭かった。
だが、どこか相手の本心を見極めようとしているようでもあった。
ミラベルはゆっくり歩み寄る。
そして深く息を吸う。
目の前の少女は自分が前世でプレイしていたゲームの主人公。
世界を救う巫女。
しかし今は、それ以上に傷付きながら必死に生きている一人の少女だった。
だからこそ、ミラベルは貴族としてではなく、一人の人間として向き合うことを選んだ。
彼女は静かに右手を差し出す。
「マリナさん。あなたの力が必要です。」
街の喧騒が遠くなる。
「どうか…私たちと一緒に世界を救ってください。」
マリナだけでなく、その場にいた孤児たち全員が固まった。
「……は?」
レンが思わず吹き出す。
「世界?」
ガイも呆れたように笑う。
「…何言ってんだ?このお嬢様…。」
ノアだけは真剣な表情でミラベルを見つめていた。
マリナは腕を組む。
「世界を救う?あたしの力?何の話だ?」
ミラベルは一度も目を逸らさず答えた。
「あなたは伝説の巫女の血を引く末裔です。その浄化の力が…この国を魔王軍の脅威から救うために必要なんです。」
ブレイブも一歩前へ出る。
「俺も最初は突飛な話だと思いました…でも、お嬢様はこれまで未来を見通したような判断で行動して俺の命を救いみんなを守るために力をつけてきたんです。だから俺は…お嬢様を信じています!」
そう言って深く頭を下げる。
ミラベルも続いて頭を下げた。
「お願いします!力を貸してください!」
孤児たちは息を呑む。
金持ちの人間が、しかも自分達と年の変わらないであろう少女と少年が、自分達の姐御へと頭を下げている。
マリナはしばらく黙っていた。
その視線は二人の胸の奥にある覚悟を確かめるようだった。
やがて、小さく息を吐く。
「……一つ条件がある。」
ミラベルが顔を上げる。
「あたしの家族に…。」
そう言って後ろの孤児たちを見る。
「この子たちに安全な暮らしをさせることを約束しろ。…食う物があって…温かい寝床があって…勉強できて…もう誰にも泣かされない場所を。それができるなら――。」
ミラベルは即座に頷いた。
「約束します!私が必ず…みんなの居場所を作ります!」
その迷いのない返事に、マリナは思わず笑った。
「お前ら…変な奴だな。…でも…そういう奴らは嫌いじゃねぇ。」
そう言って差し出されたミラベルの手を握る。
「協力してやるよ。世界を救うためじゃねぇ。」
リンの頭を優しく撫でる。
「この子たちを守るためだ。」
ミラベルの瞳が潤む。
「っ!ありがとうございます…!」
思わず両手でマリナの手を包み込む。
その様子にマリナは照れ隠しのように顔を逸らした。
「お前…泣くなって。まだ信じ切ったわけじゃねぇからな!」
ブレイブも安堵の笑みを浮かべる。
(これで、ようやく第一歩だ。)
こうして――。
本来なら学院で出会うはずだった二人の少女は、ゲームの歴史よりも早く出会い、ゲームの展開ではあり得なかった世界の危機のために手を取り合う関係となった。
その出会いが、世界の運命を大きく変えていくことを、この時の誰もまだ知らなかった。
マリナ捜索編は本話で終わり、マリナは「仲間のため」との名目ですが、無事にミラベル達と手を取り合うことができました。
マリナという世界を救うのに重要なキャラを仲間にすることができてミラベルやブレイブ、ユリウス達がどう危機に立ち向かっていくかやその合間の絆を育む日常なんかを書いていきたいと思っています。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。




