第23話花冠をさがして
宿に帰り、情報を整理していたミラベルとブレイブ。そんな二人にある連絡が入る。
夕焼けが港町を茜色に染める頃。
宿の一室では、ミラベルとブレイブが地図を広げたまま静かに向かい合っていた。
貧民街で聞いた話は、マリナは旅立った後という残念な結果に終わったが同時に二人にとって希望でもあった。
「マリナさんは確かにここにいた。一年も前に旅立ってしまっているけどこの港町からどの方角の街に向かったのか…絞り込むのが難しそうね」
ブレイブは紅茶を差し出しながら真剣な面持ちで応える。
「街にいるとも限りません…以前の俺みたいに森でサバイバル生活をしてる可能性もありそうですよ。」
「そうね…。まだまだ先は見えない…でも、諦めちゃ駄目よね。」
「!はい!また片っ端から当たってみましょう!」
その時だった。
机の上に置いていたユリウスに渡された通信用宝石が淡く輝き始める。
「あ…!通信石が…!」
ミラベルが魔力を流すと、聞き慣れた少年の声が響いた。
『ミラベル、ブレイブ。聞こえるか?』
「ユリウス様!」
久々に聞いた慣れ親しんだ声に、二人の表情が明るくなる。
『無事そうで安心した。何か収穫はあったか?』
ミラベルは頷いた。
「はい…。マリナさんは…見つかりませんでした。」
『…。』
「…ですが、以前は私達が今いる街の貧民街で暮らしていたこと、一年ほど前に虐待していた親戚を返り討ちにして家を飛び出したこと…そこまでは確認できました。」
通信石の向こうで紙をめくる音が聞こえる。
『なるほど…ならば、こちらでも情報を整理してみよう。』
ユリウスの冷静な声が続く。
『子どもの足で一年…途中で働きながら生活すると仮定すると、移動範囲はある程度絞れる。』
ブレイブが思わず感心した。
「そこまで計算できるんですか!?」
『当然だ…と言いたいところだが、王宮の地図や街道の情報も使わせてもらった。各地の兵士たちが細かく記録を残していてくれて助かったよ。』
少しだけ笑う声が聞こえる。
『候補地は三か所。そのうち二つは既にこちらでも調査を依頼しているが…残る一か所が少し気になる。』
「気になる?」
ミラベルが首を傾げる。
『王都近郊の街、リーベル。そこで最近、面白い噂が広まっている。』
ミラベルもブレイブも耳を傾けた。
『悪徳貴族や裏社会の組織だけを狙う義賊集団…しかも構成員は全員、孤児の子どもたちだ。』
「子どもだけで……?」
『盗んだ金品は全て貧しい人々へ配っているそうだ。』
ミラベルは思わず息を呑む。
『そして、その集団の頭領とされる少女には特徴がある。』
一拍置いてユリウスは言った。
『胸元に花冠のペンダントを身につけているらしい。』
「っ…!」
ミラベルの脳裏に、前世で見たゲームのイベントCGが蘇る。
主人公マリナが亡くなった親から受け継いだという小さな花冠のペンダント。
(間違いない…マリナさんだ!)
「ユリウス様!」
思わず身を乗り出す。
「その街へ向かいます!」
『頼んだ。ただし焦るな。ブレイブ。』
「はい!」
『君は何があってもミラベルを守ることを最優先に。』
「はい!必ず!」
『そしてミラベル。』
「はいっ!」
『彼女が本当にその少女なら、何か事情を抱えているかもしれない。決して頭ごなしに話を進めようとはしないこと。』
その言葉にミラベルは静かに頷いた。
「!はい…っ」
通信石の光がゆっくり消えていく。
部屋に静寂が戻った。ミラベルは拳を握る。
「…行きましょう!リーベルへ!」
「はい!今度こそ、きっとマリナさんに会えます!」
二人は翌朝の出発を決め、それぞれ荷物をまとめ始めた。
一方、ミラベルとブレイブが港町を出て数日後の王都近郊、リーベルの街。
華やかな大通りから少し外れた廃工場跡。
そこは今、数人の孤児たちの住処になっていた。
「レン!それはこっち!」
「分かってるって!」
赤茶色の短髪の少年が、大きな袋を肩へ担ぎながら笑う。
名前はレン。誰よりも熱血で、孤児達のリーダーの右腕と呼ばれる少年だ。
「ガイ、重い荷物お願い!」
「…ったく、しゃーねぇな。」
黒髪の少年ガイが文句を言いつつ荷物を持ち上げる。
元は不良少年だったが、今では誰よりも仲間思いだ。
その様子を、焦げ茶色の髪をした少年トーマが静かに見守る。
口数は少ないが、孤児たちの最年長として皆の支えになっていた。
一方、倉庫の片隅では…。
「ソフィお姉ちゃん、お腹すいた。」
「はいはい。」
薄紫の髪を揺らす少女ソフィが、大鍋をかき混ぜていた。
料理や手当てが得意で、皆のお姉さんのような存在である。
その隣では、銀色の髪の小さな少女エマが嬉しそうに皿を並べていた。
「今日はパンある?」
「あるわよ〜。」
「やったー!」
無邪気な笑顔に、その場の空気が和む。
そこへ…。
「姐御は?まだ寝てる?」
紺色の髪をした少年ノアが奥を覗き込みながらソフィに訊ねる。
「うん。さっき、ちょっと昼寝するって奥に行ったよ。」
「そっか。」
ノアはそう言った後に皿を並べるのを手伝い始める。彼は情報収集が得意で、街中の噂はほとんど彼が集めてくる。
部屋の奥。
一人の少女がハンモックで眠りについていた。
首元には花冠のペンダント。
その少女――マリナは夢を見ていた。
狭いアパート。
窓には板が打ち付けられ、昼間でも部屋は薄暗い。
幼い少女がさらに幼い女の子を抱き締めていた。
「お姉ちゃん…お腹すいた……。」
「…もう少しだけ我慢しような?」
優しく頭を撫でる。
しかし、部屋には食べ物は何一つない。
水道も止まり、部屋中に冷たい空気だけが漂っていた。
両親は何日も帰ってこない。
少女は必死に妹を励まし続けた。
「きっと帰ってくる。大丈夫だよ。」
それでも、妹は日に日に衰弱し少しずつ動かなくなっていく。
「お姉ちゃん……眠い……。」
「っ!!寝ちゃ駄目だ!お願いだから!」
少女は泣きながら妹を揺する。
だが…。
返事は、もう返ってはこなかった。
「…………。」
その瞬間、少女の世界から音が消えた。
それから何時間経ったのかも分からない。
扉が開く音がした。
「あははっ、旅行楽しかったわねー。」
「そうだな!つか、腹減ったからなんか作ってくんね?」
浮かれた様子で母親が帰ってくる。父親も笑いながら続く。
その姿を見た瞬間…少女の中で何かが壊れた。
台所に転がっていた包丁を握る。
「…。」
何も言わず母親にふらふらと歩み寄り彼女の腹へ包丁を突き立てた。
「え……?」
母親が崩れ落ちる。
その様子に父親が腰を抜かし動けなくなる。
「!?な、なんだお前ぇ!?」
少女は迷わず、父親にも包丁を突き立てる。
妹を見捨てた者たちを少女は許せなかった。
何度も。何度も。二人に包丁を振り下ろした。
無惨な死体が転がる血に濡れた部屋。
少女は冷たくなった妹を抱き締めたまま、壁にもたれかかる。
もう立ち上がる力も残っていなかった。
(ごめんな……お姉ちゃん…お前を守れなかった……。それに…酷いことしちゃったから…お前と同じ…天国には…行けないや……ごめんな……。)
そのまま少女の意識は途切れた――
「……っ!」
マリナは勢いよく目を覚ました。
その頬には一筋の涙が伝っていた。
「…またか。」
夢…いや、前世の記憶。
妹を守れなかった、あの日。
両親を手にかけ、自分も命を落とした最後の日。
何度忘れようとしても夢となって蘇る。
マリナは涙を乱暴に拭う。
「もう全部…終わったことだ。」
そう自分に言い聞かせながらハンモックから降りる。
その時だった。
勢いよく扉が開く。
「マリナお姉ちゃん!」
赤茶色のお団子頭を揺らしながら少女リン(レンの妹)が息を切らしてアジトへと入ってくる。
「大変!」
「どうした?」
「街にね!お姉ちゃんのこと探してる男の子と女の子が来てるって聞いたの!」
「…!」
部屋の空気が一変する。
ノアが腕を組見ながらリンに問いかける。
「どんな感じの二人組だったんだ?」
「見た感じ平民の格好だったけど…でも動きや雰囲気は違う…たぶんお金持ちの家の子達だと思う!」
レンも眉をひそめる。
「姐御を探す理由なんて…きっとろくなもんじゃねぇ。」
ガイが壁にもたれながら呟く。
「隠れるか?」
だが、マリナは不敵に笑った。
「隠れてビクビクするなんて性に合わねぇ。」
花冠のペンダントを握る。
「向こうが探してるなら…。」
拳を鳴らしながら歩き出した。
「あたしの方から会いに行ってやる!」
「レン、ノア、ガイ、トーマ!ついてこい!」
「おう!」
「はい!」
「任せろ!」
「…ああ。」
エマが心配そうに裾を掴む。
「マリナお姉ちゃん…。」
マリナはしゃがみ込み、優しく頭を撫でた。
「すぐ帰る。」
「ソフィ、リン。エマを頼むな?」
ソフィは優しく微笑み、リンは明るく答える。
「任せて!」
「みんなで待ってるから。」
マリナは頷くと、弟分たちを引き連れて街へと歩き出した。
アジトに残ったリンはソフィが食事を作っていたことを知ると再びアジトの外へと駆けていく。
「みんなが帰ってきたらごはんでしょ!?きっとマリナお姉ちゃん達疲れて帰ってきてお腹ぺこぺこだろうからパン買い足してくる!」
「ありがとう、気をつけてね?」
「うん!」
ソフィとエマに見送られてリンも別の目的で街へと向かって行った。
一方、その頃…。
リーベルの街へ足を踏み入れたミラベルとブレイブもまた、運命の少女との出会いへ向かって歩み始めていた。
ユリウスによりミラベルとブレイブが向かうべき場所が示され、マリナの過去(前世)が描かれた回、そしてミラベルとブレイブ、マリナの出会いがすぐそこまできているという展開で終わりました。
マリナもこの物語における重要人物として書いていくつもりです。
今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです!




