第22話残された足跡
ミラベルとブレイブはゲームの主人公であるマリナを探してある港町に来ていた。
王都を出発してから五日。
ミラベルとブレイブは、ユリウスから預かった地図とミラベルの曖昧な前世の記憶(表向きには夢で見た光景)を頼りに街道を進んでいた。
道中、小さな村へ立ち寄っては情報を集め夜は宿屋や野営を繰り返す。
最初は緊張していたブレイブも、旅が始まって数日が経つと自然と護衛として周囲へ目を配る余裕が出てきていた。
「お嬢様、この辺りは人通りが少ないですね。」
街道脇の林を見渡しながらブレイブが言う。
ミラベルも頷いた。
「夢の中では…この先に大きな港町があって、その近くに貧民街があったはずなの。」
「『はず』…ですか?」
「え、ええ。」
ミラベルは苦笑する。
「夢の内容だから、全部が正確とは限らないのよ。」
本当はゲームの記憶だ。
けれど、そのことはまだ話せない。
ブレイブはそれ以上深く尋ねることはなかった。
「お嬢様がそうおっしゃるなら、きっと何か理由があるんですよね?」
その言葉にミラベルは少し胸が痛んだ。
(ブレイブはこんなにも信じてくれている…。だからこそ、いつか全部話せる日が来るのかな……。)
夕暮れ前。
二人はようやく目的の港町へ到着した。
海から吹く潮風が心地よい。
港には大小さまざまな船が停泊し、市場では威勢のいい掛け声が飛び交っている。
「賑やかな街ですね!」
ブレイブは目を輝かせる。
「初めて海を見ました!」
「私も実際に見るのは初めて。」
ゲームの背景イラストでは何度も見た港町。
しかし実物は、その何倍も活気に満ちていた。
宿を確保した二人は、すぐに情報収集を始める。
市場。酒場。教会。孤児院。
聞き込みを続けた結果、多くの人が同じ場所を指差した。
「マリナって子なら…確かあの貧民街にいたよ。」
年配の魚屋の女性が教えてくれる。
「ありがとうございます!」
二人は礼を言い、そのまま街外れへ向かった。
石畳は途中で途切れ、道はぬかるみに変わる。
建物も古く、崩れかけたものばかり。
やがて目の前に広がったのは、ゲームでも描かれていた貧民街だった。
しかし…。
「…。」
ミラベルは言葉を失う。ゲームでは暗い印象しかなかった場所。
けれど実際には、子どもたちが笑いながら走り回り、住民たちは互いに助け合って暮らしていた。
「思ったより…温かい場所ですね。」
ブレイブも小さく呟く。
そこへ洗濯物を干していた老婆が声を掛けてきた。
「旅人さんかい?」
「!はい。」
ミラベルは笑顔で近付く。
「少し、お尋ねしたいことがあるんです。マリナさんという女の子を探しているんですが…何かご存知ありませんか?」
老婆は少し驚いたように目を見開く。
「…マリナを?」
「!知っているんですか!?」
思わず身を乗り出すミラベル。
老婆は苦笑した。
「知ってるも何も、この辺じゃ有名な子だったよ。…ただね…。」
表情が曇る。
「もう、ここにはいない。」
ミラベルの胸が締め付けられる。
「いつ頃から…ですか?」
「一年くらい前かねぇ…あの子は親戚に毎日重労働させられて家でも酷い目に遭ってたらしいんだけど……。」
老婆は少し言葉を選ぶ。
「…ある日、我慢の限界だったんだろうね…親戚連中を叩きのめして、そのまま姿を消しちまった。」
「え…?」
ミラベルもブレイブも固まった。
「…そんな…、っ!」
ゲームの芯が強く清楚な雰囲気であったマリナからは考えられない行動にミラベルは思わず声が漏れそうになり、慌てて口を押さえる。
老婆は続ける。
「親戚の連中も酷かったから、マリナに同情する人の方が多かったけどね。でも、ありゃ凄かったよ。男連中が誰一人立ち上がれなくなるまで殴っちまった。今じゃ親戚の旦那なんて、人を見るだけで震える始末さ。」
ブレイブが小さく呟く。
「そんなことが…。」
ゲームでは虐待現場へマリナを貧民街で見かけその才能を見抜いた王国の魔導士が駆け付け、マリナを保護するという経緯であった。
そうなっていたところを、マリナ自身の手で運命を変えてしまった。
ミラベルは確信し始める。
(間違いない。こんな行動…ゲームのマリナは絶対に取らない。…もしかして…マリナさんも…私と同じ…転生者……?)
老婆は最後に言った。
「今どこにいるかは知らないよ。生きてるか死んでるかもわからないが、わたしはあの子ならきっと生きてると思ってるよ。昔から、どんなに辛くても前だけ向いて歩く子だったからね。」
ミラベルは深く頭を下げた。
「…お話を聞かせてくださり、ありがとうございました。」
その日の夕方。
二人は宿へ戻る道を歩いていた。
沈黙が続く。やがてブレイブが口を開いた。
「お嬢様。」
「なに?」
「残念…でしたね。」
「!…ええ。」
肩を落とすミラベル。
「せっかくここまで来たのに…あと一歩だったのにね…。」
ブレイブは少し考え込む。
「でも…ここまで来たから分かったこともありますよ!」
「?」
「マリナさんは、行方不明かもしれないけど…あのお婆さんが言ったようにきっとどこかで生きています!それだけでも大きな前進です。」
「!ブレイブ…」
ミラベルは思わず顔を上げる。
「俺も同じ孤児だったからわかるんです!人って生きることに対して相当粘り強いんだって!」
ブレイブはいつもの真っ直ぐな笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「俺たちはまた探せばいいんです。絶対に見つけましょう!」
その笑顔につられるように、ミラベルも笑う。
「そうね…諦めちゃ駄目よね!」
二人は再び前を向いて歩き始めた。
しかし、その頃…。
王都近郊のスラム街では、一人の少女が仲間の孤児たちへ笑顔を向けていた。
「今日の収穫はこれだけ!」
パンや野菜を掲げる少女。
「やったー!」
孤児たちが歓声を上げる。少女は笑う。
「順番に並べよー!みんなで分けよう!」
その首元では、花冠のペンダントが夕日に照らされて輝いていた。
彼女こそ、ミラベルたちがあと少しのところまで迫りながらもまだ出会うことのできない少女――
マリナだった。
運命の出会いは、もうすぐそこまで近付いていた。
マリナとは出会えませんでしたが、その足跡を見ることはできた回でした。次回以降も2話ほどマリナ捜索編は続くと思います。
今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。




