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第21話旅立ち

マリナを探す旅に出ることになったミラベルとブレイブはユリウスや侯爵家のみんなの見送りを受けていた。

旅立ちの日の朝は、雲ひとつない快晴だった。


アルヴェイン侯爵家の屋敷では、まだ日が昇りきる前から使用人たちが慌ただしく動き回っている。


食料や着替え、薬草、地図、保存食――。


長旅に必要な荷物が次々と馬車へ積み込まれていった。


庭では、ブレイブが旅装束に身を包み、最後の荷物を確認している。


黒を基調とした動きやすい服装に、腰には実戦用の剣。


執事服とは違うその姿は、どこか若き騎士のようにも見えた。


「…よし。」


革袋の紐を締め直したところで、後ろから聞き慣れた声がする。


「準備は順調?」


振り返ると、ミラベルが立っていた。


淡い青を基調とした旅用のドレスは、貴族らしい上品さを残しながらも動きやすく仕立てられている。


腰には小さなポーチがいくつも付けられ、その一本一本に魔法触媒や薬草が収められていた。


さらに、背中にはこれまで訓練で使ってきた魔法の杖。


いつもの令嬢姿とは違う、旅人としての装いだった。


ブレイブは思わず見とれる。


「…お嬢様。」

「ん?」

「その服も、とてもお似合いです。」

「えっ?」


不意打ちのような真っ直ぐな言葉に、ミラベルの頬がほんのり赤くなる。


「…ありがとう。」

「ブレイブも…そのっ…すごく格好いいわ。」

「へっ!?」


今度はブレイブが真っ赤になった。


「そ、そんなこと…!」


耳まで赤くして慌てる姿に、ミラベルはくすりと笑う。


(本当に、ブレイブは素直なんだから。)


そこへ、


「朝から仲がいいね。」


二人が振り向く。そこにいたのは優しい笑みを浮かべるユリウスだった。


今日は王族としてではなく、一人の幼なじみとして見送りに来てくれていた。


「ユリウス様!」

「殿下!」


ブレイブが頭を下げる。ユリウスは笑いながら首を振った。


「今日はそういう畏まったのはなしだ。今の私は見送りに来た友人だからね。」


そう言って二人の前へ立つ。


「旅の準備は?」

「はい!」


ミラベルが答える。


「食料も薬草も地図も揃いました。」

「うん。」


ユリウスは満足そうに頷いた。


「ただ、一つだけ覚えていてほしい。」


二人は真剣な表情になる。


「目的は少女を探すことだ。無茶をすることじゃない。」


視線はブレイブへ向く。


「君は護衛だ。」


「戦うことより、ミラベルを無事に帰すことを最優先にしてほしい。」

「はい!」


力強い返事。


続いてユリウスはミラベルを見る。


「君も。自分一人で抱え込まないこと。困った時は必ずブレイブへ相談することだ。約束だよ?」

「…はい!」


ミラベルは微笑みながら頷いた。


その様子を少し離れた場所から、侯爵夫妻が見守っていた。


ミラベルの父、レオナルドがゆっくり歩み寄る。


「ミラベル。」

「お父様!」

「本来なら…こんな旅に出すつもりはなかった。」


父親らしい苦笑いを浮かべる。


ミラベルの両親の説得は大変であった。「何故、危険な旅に子供だけで行かなければならないのか」と「もし、夢が予知夢だとしても探しに行くのは他の者ではだめなのか」と。


しかし、ミラベル自身の


「王国を救える可能性のある少女の夢を見た私自身が探しに行かねばならないのです!いえ…行きたいんです!」


という強い意志の籠った言葉と、ユリウスの王太子としての後押しもあり旅立ちが実現したのだった。


「だが…お前はもう、自分で未来を切り開こうとしている。その覚悟を、私は信じたい。」


ミラベルは胸が熱くなる。


「ありがとうございます…!」


隣ではセレスティアが娘をそっと抱き締めた。


「無理だけはしないで。毎日元気に笑っていること…そして、元気な姿で帰ってくること。それがお母様との約束よ?」

「っ…はいっ!」


思わず涙ぐみそうになる。


そこへオズワルドが近付いてきた。


「ブレイブ。」

「はい!」

「旅先でも執事であることを忘れるな。身の回りの世話も護衛も、お嬢様を安心させることも全部お前の仕事だ。」

「はい!」

「そして…。」


珍しくオズワルドは優しく笑った。


「帰ってきたら、また一緒に執事として侯爵家のために尽くそう。」


ブレイブは嬉しそうに笑う。


「っ!はい!ありがとうございます…!必ず…必ず無事に帰ってきます!」


使用人たちも次々と声を掛けてくる。


「気を付けてね!」

「お土産話を楽しみにしています!」

「ブレイブ、怪我だけはするなよ!」


孤児だった自分に向けられる、温かな言葉。


ブレイブは改めて思う。


(ここはもう…俺の帰る場所なんだ。)


だからこそ。絶対に守りたい。


馬車へ乗り込む直前。


ユリウスが二人へ小さな袋を手渡した。


「これは?」

「王宮魔導士団が作った緊急用の魔法通信石だ。」


青い宝石が一つ入っていた。


「対となる魔法石を私も持っている。強い魔力を流せば、私へ連絡できる。旅先で報せたいことや話したいことがある時に使ってくれ。」

「ありがとうございます。」


ミラベルは大切そうに袋を抱える。


ユリウスは二人へ向かって微笑んだ。


「帰ってきたら。また三人で鍛錬しよう。」


その一言に、ブレイブは満面の笑みで頷く。


「はい!」


ミラベルも笑顔になる。


「約束です!」


馬車がゆっくりと動き出した。


アルヴェイン侯爵家の門が少しずつ遠ざかっていく。


窓から身を乗り出したミラベルは、大きく手を振った。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」


屋敷中の人々が手を振り返す。


ブレイブも深々と頭を下げた。


「必ず、お嬢様を守って帰ってきます!」


馬車は侯爵領を抜け、街道へ入る。


しばらくは二人とも無言だった。やがてブレイブが静かに口を開く。


「お嬢様。」

「なに?」

「俺…少し怖いです。」


ミラベルは意外そうに目を丸くする。


「でも…お嬢様と一緒なら。きっと乗り越えられる気がします。」


その言葉にミラベルは優しく微笑んだ。


「私も同じよ。ブレイブが一緒だから頑張れる。」


二人は顔を見合わせて笑う。


そして、これから探すことになる巫女の末裔の少女…マリナについて話し始める。


「お嬢様の夢では…貧民街で育った巫女の末裔の少女は10歳になってすぐに親戚に虐待を受けていた家から王国軍の魔導士の方に救われて孤児院に入った…んでしたよね?」

「ええ…。でも…実際はそうはなっていなかった。」


ゲームの主人公、マリナはブレイブが聞いてきたように10歳で親戚に虐待されていたところを特別な才能を見出した王国軍魔導士に保護され孤児院に入る運命にあった。


そして、猛勉強の末に特待生として学園に入学する…という流れであった。


ミラベルが転生したのも10歳頃…マリナもその頃には保護されていてこのまま年月を重ね学院に入学すれば出会える存在…と思い込んでいた。


だが…。


「ユリウス様に調べてもらっても…王国軍の魔導士がそれらしい少女を保護した記録はどこにも残っていなかった…。巫女の少女はまだ保護されず、貧民街にいる可能性がある。」


ミラベルが話し終えるとブレイブも真剣な表情で深く頷いた。


馬車は、まだ見ぬ運命へ向かって進み続ける。




その頃――。


王都から遠く離れた隣国との国境近くにある貧民街…。


路地裏では、数人の荒くれ者たちが倒れ伏していた。


「ぐ…!」

「つ、強すぎる…!」


その中心に立つ一人の少女。


肩まで伸びたダークブラウンの髪。


鋭く、それでいてどこか優しさを秘めた深緑色の瞳。


彼女の首元では、小さな花冠のペンダントが朝日に照らされて輝いていた。


「子どもから食べ物を奪うなんて…」


少女は拳を軽く払う。


「最低だな!」


周囲から孤児たちが駆け寄る。


「姉御!ありがとう!」

「助かったよ!」


少女は照れ臭そうに頭をかく。


「へへっ。これくらい大したことねぇよ!それよりさっさと帰って飯にするぞ!」


その言葉に孤児たちの間で笑顔が広がる。



その少女の名は――


マリナ。



ミラベルが探し求める少女もまた、運命の歯車を大きく動かし始めていた。

最後に少しゲームにおける主人公のマリナが登場しました。ゲーム通りの状況になっていないマリナと彼女を探すミラベル達の話をこの先数話かけて書いていきたいと思います。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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