第20話未来を変えるために。
祝賀会への魔獣襲撃事件から三日…王城では今日も会議がおこなわれていた。
魔獣襲撃から三日…。
王都全体は、かつてないほど重苦しい空気に包まれていた。
街の至る所では近衛騎士団や王国軍の兵が巡回を強化し、王宮魔導士たちは襲撃現場に残された魔法陣の解析に追われている。
王城では、連日のように緊急会議が開かれていた。
そしてその日も、王城の大会議室には国王エドガーをはじめ、王妃リシェル、ユリウス、ミラベルの父の侯爵家当主であるレオナルド、公爵や辺境伯、騎士団長、王宮魔導士長ら王国中枢の面々が顔を揃えていた。
会議室の中央には、襲撃現場から採取された魔法陣の写しが広げられている。
王宮魔導士長が静かに口を開いた。
「解析の結果をご報告いたします。」
部屋の空気が張り詰める。
「先日の魔法陣は、以前アルヴェイン侯爵領で確認されたものと極めて酷似しております。」
レオナルドが険しい表情になる。
「やはり同一人物……あるいは同一組織の犯行か。」
「その可能性が極めて高いかと。」
さらに魔導士長は続けた。
「ですが…術者の痕跡は意図的に消されており、身元までは特定できません。」
国王は静かに腕を組む。
「つまり、敵は依然として正体不明ということか。」
「…はい。」
重苦しい沈黙が流れた。
ユリウスは魔法陣を見つめながら考え込む。
(恐らく…ミラベルを襲撃した魔獣の件も今回の件も誰かが意図的に仕組んだものだ…。何者かが…王国そのものを揺るがそうとしている…。)
その頃。
アルヴェイン侯爵邸では、ミラベルが中庭で杖を握り締めていた。
以前なら魔法の成功に喜んでいた。
だが…今は違う。
「…足りない。」
先日の戦い。皆がいたから勝てた。
一人だったら、何もできなかった。
最初は悪役令嬢として追放されてしまった場合の生きる術として始めた鍛錬。
だが、ブレイブやユリウス達との交流を経てミラベルの中で自分だけでなく大切な人々を守るためのものに変化していた。
「もっと強くならないと…!」
ぽつりと呟く。
「また自分を追い込み過ぎていませんか?」
振り返ると、母のセレスティアが優しく微笑んでいた。
「!お母様…。」
「少し休みなさい。」
「でも…っ!」
セレスティアは娘の頭へそっと手を置く。
「頑張ることは素敵なことです。でも、頑張れるのはそれだけの元気が身体に蓄えられているからなのよ。今のミラベルにそれはある?」
「!それは…」
「私はここ数日あなたがただがむしゃらに鍛錬をしているように見えて心配なの。お願いだからちゃんと休んで?」
「!お母様…はい…わかりました。心配をかけてごめんなさい。」
本気で母を心配させていることを悟ったミラベルは素直に母の言うことを聞き心配をかけてしまったことを詫びる。
セレスティアはそんな娘に優しく微笑みかけた。
その時だった。
「お嬢様!」
元気な呼び声がミラベルにかけられる。
声の主はブレイブだった。
「ユリウス様がお見えです!」
「え?」
ミラベルはブレイブと共に正門へ向かうと、ユリウスの馬車が到着したところだった。
「こんにちは。」
「ユリウス様!」
「戦い以来だね。」
穏やかに笑うユリウスだったが、その瞳には疲労の色が見えた。
「もしかして…お疲れですか?父から連日会議続きでしばらく帰れそうもないと聞いております。」
「…まあね。」
苦笑する。
「今日は少し時間ができたから来たんだ…。二人に話したいことがある。」
ユリウスの真剣な面持ちと声音にミラベルとブレイブは緊張しながらも、三人で侯爵家の応接室へ移動する。
紅茶が運ばれ、扉が閉まると、ユリウスは一層真剣な表情になった。
「…実は、祝賀会の魔獣襲撃について調査が進んでいる。」
ミラベルもブレイブも姿勢を正す。
「王宮魔導士たちの調査で、以前アルヴェイン領で確認された魔法陣と同じ系統の術式だと判明した。」
「!…やっぱり…。」
ミラベルは拳を握る。
「でも…術者は分からない。」
「…。」
ユリウスは続けた。
「そして、もう一つ。これは私個人の考えだ。敵はこれで終わるとは思えない。」
その一言に、ミラベルの心臓が大きく跳ねた。
(ゲームでは…魔王軍の本格侵攻は学院卒業間際のイベントだった…。でも今は…。全部が…早すぎる。)
ミラベルは迷った。
全部、本当のことを言えばいい。
でも。
「この世界はゲームが元になった世界です」などと言って誰が信じるだろう。
前世の知識を話せば、皆を混乱させるだけかもしれない。
それでも、黙っていたらもっと多くの人が傷付く。
ミラベルは意を決した。
「ユリウス様…私…昔から、不思議な夢を見るんです。」
ユリウスとブレイブが静かにミラベルを見る。
「夢?」
「はい。未来のような…誰かの記憶のような…。」
胸が痛む。
皆を騙しているようで苦しい。
けれど。
「その夢では…世界を救う、一人の少女がいました。」
ユリウスは黙って聞いている。
「その子は伝説の巫女の血を引いていて、多くの仲間と共に魔王軍と戦っていました。」
「魔王軍…。」
話を聞いていたブレイブが思わず息を呑む。
「その少女がいなければ、魔王軍は侵攻し…王国は滅ぶ運命にある…。そう…夢で見ました。」
部屋が静まり返った。
自分でも無茶な話だと思う。夢の話で尚且つ世界が滅ぶなど、普通なら笑われる。
ミラベルは目を伏せた。
「…ごめんなさい。変…ですよね。」
しかし…。
「俺は信じます。」
真っ先に答えたのはブレイブだった。
「お嬢様が嘘をつく人じゃないことくらい、俺は知っています。」
真っ直ぐな瞳。迷いは一切なかった。
「ブレイブ…。」
続いてユリウスも静かに頷く。
「私も信じよう。」
「え…っ?」
「突飛な話だ。だが君は、何かに備えるようにある日突然鍛錬を始めたり…まるで未来を予測したような行動を取ってきた。」
魔法の鍛錬。本来死ぬ運命にあったブレイブを助けたこと。
どれも結果的に正しかった。
ユリウスはそう思っていたが、ミラベルにとっては別の意図があってその時々の行動をとったに過ぎなかった。
しかし、ユリウスが信用してくれる理由にそれらが後押しになってくれるならばと嘘に胸を痛めながらミラベルは黙ったままユリウスの言葉に耳を傾け続ける。
「それに…君が意味もなく、こんな話を作るとは思えない。」
ユリウスは立ち上がる。
「その少女を探そう。ミラベル。」
「えっ…?」
「君にはその夢を頼りに少女を探す旅に出て欲しい。…ブレイブ。」
「はい!」
「君は護衛として同行し、何があってもミラベルを守れ。」
ブレイブは力強く膝をつく。
「必ず!命に代えても、お守りします!」
ユリウスは微笑む。
「私は王都に残る。王家として、敵の正体を追う。」
そしてミラベルを見る。
「君たちは…君たちにしかできない役目を果たしてくれ。」
ミラベルはゆっくり頷いた。
「…はい!」
こうして。
王国の未来を左右する小さな旅が始まる。
まだ誰も知らない。
旅の果てで出会う少女がゲームの主人公マリナであり、そしてミラベルと同じように運命へ抗おうとする者であることを――。
ミラベルが前世の知識を(夢で見たという形でですが)ブレイブとユリウスに打ち明け、ゲームの主人公であるマリナを探すための旅立ちを決意する回でした。
これから数話はマリナ捜索に関する話になると思います。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。




