第19話共闘
突如、パーティー会場に現れた魔獣達にミラベル達は立ち向かう。
「全員、戦闘態勢を取れ!」
ユリウスの鋭い号令が、大広間に響き渡った。
先ほどまで華やかな音楽が流れていた祝宴の会場は、一瞬にして戦場へと姿を変える。
床一面に浮かび上がった黒紫色の魔法陣。
そこから現れたのは、以前ミラベルを襲った魔獣を遥かに凌ぐ巨大な魔獣たちだった。
鋭い牙。漆黒の毛並み。
血のように赤く光る瞳。
魔力だけで息が詰まりそうになる。
「ご婦人方は奥へ!」
「子どもたちを守れ!」
近衛騎士と王宮魔導士たちが素早く防衛線を築いていく。
しかし、魔法陣は一つではない。
1つ、2つ……10を超える魔法陣が同時に展開され、魔獣が次々と姿を現した。
「数が多すぎる…!」
近衛騎士の1人が叫ぶ。
その瞬間、1体の魔獣が貴族の子どもたちへ飛び掛かった。
「危ない!」
ミラベルは反射的に杖を掲げる。
「水流縛!」
幾重もの水流が魔獣の脚へ絡み付き、勢いを殺す。
その隙を逃さず、
「はあぁぁっ!」
ブレイブが本物の剣を振り抜いた。
銀色の軌跡が走る。
鍛え抜かれた一閃は魔獣の肩口を深く斬り裂き、そのまま壁際まで吹き飛ばした。
「ブレイブ!」
「はい!」
二人は言葉を交わさずとも動きが噛み合う。
何百回と繰り返した鍛錬が、そのまま戦いへと変わっていた。
ユリウスもすぐ横へ飛び出す。
「閃光槍!」
光魔法で作り出された黄金の槍が一直線に魔獣を貫き、二体を同時に撃ち抜く。
その威力に周囲の魔導士たちが息を呑んだ。
「12歳で、あの魔法を……!」
「感心している場合ではない!我々も殿下達をお助けするぞ!」
だが、魔獣はまだ押し寄せる。
その時だった。
「皆さん!前衛は下がってください!」
アイリスが澄んだ声を響かせる。
「聖領域!」
足元に純白の魔法陣が広がり、負傷した騎士たちの傷がみるみる癒えていく。
「ありがとう!」
カインがエレノアの収納魔法で取り出され受け取った巨大な大剣を肩へ担ぐ。
「ここからは私達が押し返す!」
大剣が振り下ろされる。
轟音と共に魔獣が吹き飛び、床石が砕け散った。
「エレノア!」
「はい!」
エレノアは風魔法で仲間の動きを加速させる。
「皆さん、右へ!」
その支援によって騎士団が一斉に前進した。
一方…
「アルト様!」
ヴィオレットが叫ぶ。
「左から三体!」
「任せろ!」
アルトは豪快に笑いながら飛び出した。
「おらぁぁっ!」
重い一撃で魔獣を弾き飛ばし、さらに回し蹴りで2体目を壁へ叩きつける。
「無茶を…!」
ヴィオレットは呆れながらも、
「火炎弓矢!」
炎の矢を正確に放ち、アルトへ迫る魔獣を撃ち抜いた。
「助かった!」
「前だけ見ていてください!あなたが対応しきれない魔獣は私が引き受けます!」
2人の息もぴったりだった。
反対側では、
「ブレイブくん!」
ルシアンが叫ぶ。
「右だ!」
「はい!」
ブレイブは身を翻し、横から襲い掛かった魔獣を紙一重で避ける。
直後、
「風刃!」
ルシアンの風刃が魔獣の首を切り裂いた。
「!ありがとうございます!」
「お互い様だろう!」
2人は笑い合う。
その後方ではアイリスが次々と結界を展開し、逃げ遅れた貴族たちを守っていた。
「こちらへ!慌てず避難してください!」
そんな時であった。
召喚陣から新たに召喚された魔獣の群れが正面から雪崩れ込む。
近衛騎士たちが迎え撃つが、その一体が騎士の防御を力任せに弾き飛ばした。
「くっ…!」
魔獣はそのまま避難する貴族たちへと飛び掛かる。
誰もが息を呑んだ、その瞬間。
「—その程度で、この場を荒らせると思わないことです。」
静かな声が響く。
銀青色の魔法陣が幾重にも重なり、一人の少年が前へ歩み出る。
セドリックであった。
右手には長槍。左手には魔法陣。
「雷槍術・雷縛槍!」
槍へ雷が絡みつく。次の瞬間、彼の姿が消えた。
「えっ…!?」
その光景を目撃していたミラベルが思わず目を見開く。
雷光となって駆け抜けたセドリックは、一瞬で三体の魔獣の間をすり抜けていた。
一拍遅れて。
ズドンッ!!
三体の魔獣が同時に雷へ包まれ、そのまま崩れ落ちる。
「速い…!」
あまりにも鮮やかな一撃だった。
ゲームでは「魔法槍士」という説明文しかなかった。
しかし実際の戦いは、想像を遥かに超えていた。
(魔法と槍を…完全に一体化させてる…!これがセドリック様の本当の強さ…!)
だが、まだ終わらない。
さらに後方から4体の魔獣が迫る。
「セドリック様。」
穏やかな声。ロザリアだった。彼女は胸の前で静かに両手を重ねる。
「援護いたします。」
金色の魔法陣が幾重にも展開される。
光が収束し、一枚、また一枚と純白の弓が生み出された。
さらに。その周囲へ数十本もの光の矢が浮かび上がる。
「聖衛弓矢」
ロザリアがそっと弓を引く。
「放ちなさい。」
その一言だけで。数十本の光の矢が一斉に飛び出した。
まるで流星群。
一本たりとも狙いを外さず、魔獣の急所だけを撃ち抜いていく。
ドドドドドッ!!
悲鳴すら上げる暇なく魔獣が次々と倒れていった。
(すごい…!)
ミラベルは思わず心の中で呟く。
(ゲームでは『弓が得意な婚約者』くらいしか説明されてなかったのに、魔法で弓まで創り出してる…。しかも、全部命中してる……。)
その命中精度は、王宮魔導士ですら目を見張るほどだった。
ロザリアは静かに微笑む。
「セドリック様。左から二体。」
「ありがとう、ロザリア。」
振り返ることもなく返事をするセドリック。
ロザリアが射線を限定し、敵の動きを封じる。
そのわずかな隙を縫うように、セドリックの雷槍が一直線に駆け抜けた。
雷鳴。閃光。
二体同時に撃破。
息を合わせる必要すらないほど自然な連携だった。
ゲームでは攻略対象ごとに別々のルートだった。
だから全員が共闘する姿など存在しなかった。
だが今、未来を担う少年少女達は、それぞれが互いを信頼し、一つの戦場で肩を並べている。
その事実にミラベルは危機的状況に対処しながらも胸に熱いものを覚える。
その時だった。
会場全体が激しく揺れた。
ドォォォン!!
天井を突き破るような咆哮。
一際巨大な魔法陣が広間中央へ出現する。
そこから姿を現した魔獣は、これまでの個体とは比べものにならない巨体だった。
四本の角。漆黒の外殻。紫色の稲妻を纏う尾。
王宮魔導士長が顔色を変える。
「まさか…上位種…!?いや…親玉か!」
巨大な魔獣はユリウスへ狙いを定める。
「グォォォォォッ!!」
一直線に突進。
「殿下!」
近衛騎士が飛び出すが間に合わない。
その瞬間。
「ユリウス様!」
ミラベルが魔法陣を展開した。
「魔氷壁!」
氷壁が突進をわずかに止める。
「ブレイブ!」
「任せてください!」
ブレイブが一直線に駆け出す。
だが巨大な爪が迫る。
「危ない!」
ミラベルが叫ぶ。
しかし、ブレイブは微笑んだ。
「大丈夫です!」
その一言だけで、ミラベルには分かった。
(そうか…!私達に合わせる気なんだ!)
ユリウスも同じだった。
「今だ!」
「はい!」
3人は同時に動いた。
1年以上も積み重ねた鍛錬。
互いの癖。呼吸。視線。
すべて理解している。
ユリウスの光魔法が魔獣の注意を引き付ける。
ミラベルの氷魔法が脚を封じる。
そして…。
「うおおおおおおっ!!」
ブレイブが全身全霊で剣を振り抜いた。
渾身の一撃。
剣は魔獣の胸を深く貫き、その巨体を大きく仰け反らせる。
「今です!」
「閃光烈撃!」
ユリウス最大の光魔法。
「氷槍雨!」
ミラベルの氷槍。
二つの魔法が同時に炸裂する。
閃光が会場を包み込んだ。
轟音。衝撃。
そして…巨大な魔獣は断末魔を上げながら崩れ落ち、その身体は黒い霧となって消えていった。
静寂。
誰もが息を呑む。
やがて一人の近衛騎士が叫んだ。
「……勝った。」
その一言を皮切りに、大広間は歓声に包まれる。
ミラベルは大きく息を吐いた。
ブレイブも剣を納め、安堵の笑みを浮かべる。
ユリウスはそんな2人を見て静かに微笑んだ。
だが、その笑顔はすぐに消える。
床に残る魔法陣の痕跡を見つめながら、心の中で呟いた。
(何か良くないことが…始まってしまった。そんな気がする…。)
ミラベルも同じことを考えていた。
(ゲームではこんな事件は学院卒業間際だった…。なのに…どうしてこんなに早く…。)
この日を境に、王国は未曾有の危機へ向けて動き出す。
そしてミラベルは、まだ知らなかった。
この戦いの裏で、運命を変えるべく謎の人物が動き始めていることを――。
転生後の世界を脅かす未知の脅威がいることが表面化した回でした。これからはミラベル達はそういった脅威とも戦っていくことになります。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。




