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第17話王都に咲く花々

ミラベル達はこれまで出会った攻略対象と婚約者達と挨拶を交わしていく。

王城の大広間は、祝賀会の始まりとともに華やかな賑わいに包まれていた。


色鮮やかなドレスに身を包んだ令嬢たち。


正装に身を固めた貴族や騎士たち。


楽団が奏でる優雅な音楽が広間を満たし、豪奢なシャンデリアが無数の光を反射している。


ミラベルは改めてその光景を見渡し、小さく息を呑んだ。


(これが…社交界のパーティー…。)


ゲームのイベントCGで何度も見た舞台。


けれど、そこにいる人々は”キャラクター”ではない。


一人ひとりが笑い、会話をし、今を生きている。


それを誰より知っているのは、自分自身だった。


「ミラベル。」


ユリウスが優しく声を掛ける。


「せっかくだ。皆にも挨拶をして回ろう。」

「はい。」


ブレイブも一歩後ろから静かについていく。


彼は護衛として周囲を警戒しながらも、初めて目にする王侯貴族の世界に内心圧倒されていた。


やがて一組の少年少女がこちらへ気付く。


「ユリウス。」


黒髪を短く整えた少年が深々と頭を下げた。


以前、ユリウスとの稽古のために公爵邸を訪れたカインであった


「カイン、久しぶりだね。」

「今日は祝いの席に呼んでもらえたことを感謝する。…おめでとう。」

「ああ、ありがとう。」


挨拶を交わすユリウスとカイン。カインの隣には、彼の婚約者のエレノアもいた。


穏やかな笑顔でユリウスやミラベルへ一礼した。


「お久しぶりです、ユリウス殿下、ミラベル様。」

「お久しぶりです!エレノア様!」


ミラベルも笑顔で頭を下げ、和やかな雰囲気になる。


そんな最中、カインはじっとブレイブへ目を向けていた。


「…確か、執事見習いのブレイブといったか。」

「は、はい!」

「先日の武闘大会の決勝…私も見ていた。」


短い言葉だった。


「…お前の剣技…悪くはなかった。」


それだけ言って頷く。だが、その一言には心からの敬意が込められていた。


ブレイブは思わず目を丸くする。


「!ありがとうございます!」

「次は私とも手合わせをしろ…絶対に負けない。」

「はい!」


その返事にカインは口元だけ僅かに緩めた。


エレノアがくすりと笑う。


「カイン様は人を褒めるのが苦手なんです。」

「エ、エレノア。」

「でも、本当に努力する方は大好きなんですよ。」

「…余計なことは言わなくていい。」


耳を赤くするカインを見て、ミラベルたちは思わず笑ってしまった。


そこへ朗らかな声が飛んできた。


「ユリウス様、ミラベル様、ブレイブくん、お久しぶりです。ユリウス様、本日はお招き頂きありがとうございます。そして、12歳の誕生日おめでとうございます。」


振り返ると、そこに立っていたのは王立図書館に隣接するカフェで出会ったルシアンとその婚約者アイリスが立っていた。


「こんにちは、皆さん。」


アイリスは優雅に微笑む。


「以前、カフェでお会いした後にまたユリウス殿下とお話しする機会があって、その時にミラベル様のお話をユリウス殿下から色々と伺ったのですよ。」

「え?いっ、一体どんな…?」

「ミラベル様は勉学だけでなく魔法や剣の鍛錬も日々努力なさってるというお話しです。」


ミラベルは思わずユリウスを見る。


ユリウスは少し困ったように笑う。


「アイリス嬢に君のことを聞かれて、その席にいた皆も興味を持って聞いてきたからね…思わず話してしまった。」

「!もう…っ。」


ミラベルは少し照れてしまう。


ルシアンはブレイブを見るなり目を輝かせた。


「ブレイブくん。」

「は、はい。」

「武闘大会の最後の一撃、最高だったよ。」


勢いよく握手する。


「最後まで諦めない姿、とても格好良かった。」

「っ!あ、ありがとうございます!」


ルシアンは人懐っこく笑う。


「今度一緒に剣を合わせよう!」

「ぜひ!」


以前、ブレイブの勉学への姿勢を評価していたルシアンは彼の剣術の才能も認め更に打ち解けた様子だった。


アイリスはその様子を微笑ましく見守っている。


「ルシアン様は興味を持ったら誰にでも気さくに声をかけるんですよ。時折、押しが強すぎて相手を困らせてしまうこともありますが…。」

「それが僕の長所でもあるからね。」


胸を張るルシアンに皆が笑う。


すると今度は聞き覚えのある元気な声が響いた。


「ブレイブ!」


武闘大会決勝でブレイブと対戦したアルトだった。


「アルト様!」


アルトは笑顔で拳を差し出し、ブレイブは恐れ多いと思いながら自分も拳を握り軽く合わせる。


「また強くなったか?」

「まだまだです!」

「謙遜するな!」


アルトは豪快に笑う。


「次も本気で勝負だ!」

「はい!」


アルトの隣いたヴィオレットは、呆れ顔で諌めるようにこう言った。


「アルト様。今日は祝賀会ですよ、まずはユリウス殿下に挨拶をなさってください。」

「!あっ!」

「剣の話は後になさってください。」

「…はい。…ユリウス殿下!本日はお招きいただきありがとうございます!そして…!お誕生日おめでとうございます!!」


しゅんとなったアルトであったが、すぐにユリウスに本日祝賀会に招いてもらった感謝と誕生日のお祝いの言葉をキリッとした様子で言い切り、その様子に周囲から笑いが起こる。


ヴィオレットはため息をつきながらも優しく笑った。


「本当に…手の掛かる方です。」

「でも、そういうところも嫌いじゃないだろ?」

「……秘密です。」


ヴィオレットの返事に、アルトは照れ笑いを浮かべた。


そんな賑やかな空気の中。


広間の入口が静かに開いた。


自然と会場の視線が集まる。


そこに立っていたのは、一人の少年と少女だった。


深い紺色の礼装を美しく着こなした少年。


黒に近い濃紺の髪と、知性を感じさせる金色の瞳。


一歩一歩が無駄なく洗練されている。


その隣には、落ち着いたワインレッドの長髪を美しく結い上げた少女。


凛とした気品と、包み込むような優しい笑みを併せ持っていた。


ユリウスが静かに笑う。


「来たね。」


ミラベルの胸が高鳴る。


(あの二人…間違いない…5人目の攻略対象とその婚約者の…。)


少年は一同の前まで歩み寄り、まずユリウスへ深く一礼した。


「お誕生日、おめでとうございます。」


落ち着いた、よく通る声だった。


「ユリウス殿下。今日はこの佳き日にお招きいただき、ありがとうございます。」


ユリウスも穏やかに微笑む。


「来てくれて嬉しいよ、セドリック。」


彼は、ミラベルが出会った5人目にして最後の攻略対象。


セドリック・ローゼンフェルト。


その隣で少女も優雅に一礼する。


「ユリウス殿下、本日はおめでとうございます。」

「ありがとう。ロザリア嬢。」


そしてセドリックの婚約者――


ロザリア・エーデルシュタイン。


セドリックはミラベルへ視線を向けた。


その瞳には身分への偏見も、値踏みする色もない。


あるのは純粋な誠実さだけだった。


「初めまして。ミラベル・フォン・アルヴェイン様。あなたのお話はユリウス殿下より、たびたび伺っております。魔法にも剣にも真摯に励み、人を思いやる心を持った方だと。」


ミラベルは少し驚きながらも一礼する。


「!そのようなお言葉をいただき、光栄です!」


セドリックは柔らかく微笑んだ。


「努力を惜しまない方とは、ぜひ一度お話ししたいと思っていました。」


その穏やかな笑みに、ミラベルはゲームのセドリックとの違いを感じていた。


(ゲームでは”完璧な貴公子”って印象だった…。でも、本当は…努力する人を心から尊敬できる、温かい人なんだ。)


その時、ロザリアが静かにブレイブの前へ歩み出る。


「あなたがブレイブさんですね?」

「は、はい!」

「武闘大会、拝見しておりました。最後まで諦めず立ち向かう姿、とても立派でしたわ。」


ブレイブは恐縮して頭を下げる。


「!ありがとうございます!」


ロザリアは優しく微笑んだ。


「努力に身分は関係ありません。これからも、どうかミラベル様や侯爵家をお守りできるよう存分に鍛錬に励んでください。」


その一言に、ブレイブは力強く頷いた。


「はい!命に代えても、ミラベル様達をお守りします!」


セドリックはそんなブレイブを見て、静かに笑みを浮かべる。


「その覚悟が、きっとあなたをもっと強くするでしょう。」


その言葉は、心からの賛辞だった。



攻略対象と婚約者達も、それぞれが違う個性を持ちながら同じ未来へ歩もうとしている。


そんな光景を見つめながら、ミラベルは思う。


(この人たちとなら…きっと、未来を変えられる。)


その時、広間にファンファーレが鳴り響いた。


国王の入場を告げる音色に、全員が一斉に正面へ向き直るのだった。

第5の攻略対象にして最後の攻略対象のセドリックとその婚約者のロザリアが登場しました。彼らの活躍も書けていけたらと思っています。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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