第13話武闘大会
武闘大会に参加することになったブレイブ。数々の強者達と対戦する彼の前にある人物が現れる。
武闘大会当日。
王都中央闘技場は、朝早くから熱気に包まれていた。
観客席を埋め尽くす人々。屋台から漂う香ばしい匂い。あちこちから飛び交う歓声。
年に一度開催されるこの武闘大会は、騎士を志す若者や腕自慢の冒険者たちが集う王都でも有数の催しだった。
「すごい人…!」
ブレイブの応援で訪れたミラベルは思わず感嘆の声を漏らす。
隣ではユリウスが微笑みながら会場を見渡していた。
「毎年これくらい賑わうよ。実力者も多い。ブレイブには良い経験になるはずだ。」
その頃…選手控室では、ブレイブが静かに木剣を握り締めていた。
(緊張する…。)
心臓が早鐘を打つ。
しかし、不思議と逃げたいとは思わなかった。
ユリウスに教わった剣技。ミラベルと共に鍛錬を積み重ねた日々。
オズワルドや屋敷のみんなの期待。
その全てを胸に、今日ここへ立っている。
係員が声を張り上げた。
「第一試合、開始!」
ブレイブは深く息を吸い、闘技場へ足を踏み出した。
試合は順調だった。
ブレイブの初戦。相手は年上の農村出身の少年。
力はあったが、大振りだった。
ブレイブは、ユリウスから教わった通りに相手の動きを見極めて冷静に一本を奪う。
「勝者、ブレイブ!」
会場がどよめく。
「誰だあの子?」
「初めて見るぞ。」
無名の少年が、一回戦を突破した。
二回戦、三回戦…相手は徐々に強くなっていく。
腕力自慢、素早さを武器にする者、多彩な剣技を使う者…。
それでもブレイブは諦めなかった。
倒れても立ち上がり、息が切れても剣を握る。
その姿勢に、観客の見る目も少しずつ変わっていった。
「またあの茶髪の少年だ!」
「粘るな〜!」
「いい試合だった!」
いつしか観客席から拍手が起こるようになっていた。
そして…。
ブレイブは、ついに決勝前にまで勝ち上がった。
実況役の男性が大きな声で叫ぶ。
「決勝戦!対戦するのは、ここまで快進撃を続ける無名の挑戦者――ブレイブ!」
観客席からは大きな歓声。
「そして迎え撃つは――前回大会少年部門優勝!辺境伯家嫡男!アルト・レイヴァン!」
さらに大きな歓声が闘技場を揺らした。
入場口から現れたのは、一人の少年。
深い栗色の短髪にオレンジ色の瞳。
快活な笑みを浮かべながら、軽々と木剣を肩へ担いでいる。
「みんなー!」
ぶんぶんと手を振る。観客も歓声で応える。
「アルトー!」
「頑張れー!」
人気者らしい。
そんなアルトの姿を見たミラベルは息を呑んだ。
(あっ…!アルト・レイヴァン!彼も…ゲームの攻略対象…!)
間違いない。
あの笑顔。風属性を得意とする俊敏で技巧派な剣士。
ゲームでは学院一のムードメーカーだった少年だ。
すると、観客席の少し離れた場所から凛とした声が響いた。
「アルト様!」
ラベンダー色の美しい長髪を揺らし、一人の少女が立ち上がる。
「試合前から浮かれないでください、集中してください!」
その少女――ヴィオレット・アシュフォードは腕を組み、呆れたようにため息をついた。
アルトは肩を震わせる。
「うっ!わ、わかったよ!」
思わず背筋を伸ばす。
その様子に観客席から笑いが起きた。
ヴィオレットも小さく微笑む。
(!あの子は…!)
ミラベルは彼女を見つめた。
(アルトの婚約者のヴィオレット!ゲームでは勝気なお嬢様って印象だったけど…)
実際は違う。
アルトを見守る眼差しは態度の厳しさに反してどこまでも優しかった。
叱っているようでその実、一番応援している。
(やっぱり…ゲームをやっていただけではわからないその人同士の積み重ねた関係性がある…。)
ミラベルの胸がじんわりと温かくなる。
「始め!」
開始の合図。
アルトが一瞬で間合いを詰めた。
「!速い…っ!」
ブレイブは辛うじて受け止める。
ガンッ!
腕が痺れる。
(!重い!)
さらに二撃、三撃。
息をつく暇もない。
アルトは笑顔のまま、一切手を抜いていなかった。
(強い…!これが…前大会優勝者の力…!)
ブレイブは押され続ける。
気づけば背中はリング際だった。
「決まった!」
観客が沸く。
「アルト!」
「あと一本!」
会場は完全にアルトを応援する空気だった。
その時だった。
「頑張ってーー!!」
少女の大きな声が響く。
ミラベルだった。
前世でも、こんな大声を出したことはない。
「頑張って!ブレイブ!!」
ブレイブの目が大きく見開かれる。
さらに。
「今日まで積み重ねてきた努力を思い出せ!」
ユリウスの力強い声が続く。
「君ならできる!」
二人の声が、ブレイブの胸に届く。
(そうだ…俺は…一人じゃない!)
脳裏によみがえる。
毎朝の素振り、夜の走り込み。
そして、ユリウスの教え。
『真正面から受けるな。力を流せ。』
アルトの渾身の一撃。
ブレイブは木剣をわずかに滑らせた。
ガッ!
衝撃が逸れる。
(今だ!!)
全身の力を込める。
「はああああっ!!」
渾身の胴打ち。
パァン!!
木剣がアルトの胴へ綺麗に決まった。
会場が静まり返る。
「…入った。」
アルトの目が見開かれる。
(こいつ…やるじゃん…!)
だが次の瞬間。
アルトは即座に体勢を立て直した。
「まだ…!終わりじゃない!」
素早い踏み込み、鋭い一撃。
ブレイブは受けきれず、そのままリングの外へと飛ばされてしまった。
「勝者!アルト・レイヴァン!!」
大歓声が闘技場を包んだ。
アルトは木剣を置くと、真っ先にブレイブへ歩み寄る。
そして右手を差し出した。
「立てるか?」
ブレイブは少し驚きながら、その手を握る。
ぐっと引き上げられる。
「あ、ありがとうございます!」
アルトは満面の笑みを浮かべた。
「お前、すごいな!こんなにガッツがある奴、初めて見た!最後の一撃なんかもう最高だったぞ!」
ブレイブは感激して何度も頭を下げる。
「!ありがとうございます!俺…っ、もっともっと強くなります!次はアルト様に勝てるように!」
アルトは嬉しそうに笑った。
「おう!楽しみにしてる!」
その握手に、観客席から惜しみない拍手が送られた。
こうして武闘大会準優勝者としてブレイブの名は、この日初めて多くの人々の記憶に刻まれたのだった。
ブレイブの成長を見せる回と、攻略対象のアルトとその婚約者ヴィオレットの登場回でした。それから観客席から必死に応援したミラベルとユリウスとの絆を感じさせる回にもなったと思っています。
次回は武闘大会のエピローグ的な話になります。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでくださると嬉しいです。




