表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/32

涙の理由④

 家に帰ってからも、赤城さんとの事が頭から離れなかった。


 まるで地面から少しだけ足が浮いているような、不思議な感覚。


 心がずっと落ち着かなくて、両親と夕食を食べている間も上の空だった。


 そんな中、白石さんから着信が入ったのは午後九時を少し過ぎた頃だった。


 スマートフォンの画面に表示された名前を見た瞬間、なぜだか嫌な予感がした。


 このまま見なかった事にしようか。


 一瞬そんな考えも頭をよぎったが、後々の事を考えると無視する方が怖い。


 僕は諦めて通話ボタンを押した。


『黒川の死刑執行日についてだけど』

「そんな重い罪を犯した覚えはないのですが」

『姫那とキスした罪は重い』


 赤城さんから白石さんへの情報伝達が、速すぎると思うのだが。


『勢い余ってキスしてしまったって、顔を真っ赤にしながら慌ててる姫那の姿を、黒川にも見せたかった』


 それは正直、僕も見たかった。


『まあ、貴方達二人の事だから私がとやかく言うつもりはない。でも、これだけは言わせて』


 白石さんの声色が少しだけ真面目になる。


『姫那を泣かせるような事があったら、本当に死刑だから』


 言われなくても、そのつもりはない。


 僕の気持ちに応えてくれた彼女を、これからも大切にしたいと思っている。


「大丈夫ですよ。僕は白石さんに負けないくらい、赤城さんの事が好きですから」

『なら良い』


 そこで一度、白石さんは言葉を切った。


『それじゃあ、本題に入る』


 どうやらキスの件は前座だったらしい。


 他にどんな用件があるのだろうかと思いながら耳を澄ませる。


『マキナが黒川と話したいって』

「……え、マキナさんですか? いま一緒にいるんですか?」

『まあ、そうね。一緒にいる』


 少しだけ歯切れの悪い返答だった。


 だが、マキナさんとは僕も話をしてみたかった。


 白石さんの協力者であり、ココロトークの開発に携わったもう一人の人物。


 きっと彼女も、白石さんに匹敵する技術力を持っているのだろう。


「是非、僕も話してみたいです」

『じゃあ代わるから』


 ガサガサと何かを動かす音が聞こえる。


 数秒後、電話の向こうから明るい女性の声が響いた。


『どうもー! マキナでーす! 黒川君、初めまして!!!!!!!』


 あまりの声量に、思わずスマートフォンを少し耳から離してしまった。


「ど、どうも。初めまして」

『こうやって話せて嬉しいなー! 沙里奈ちゃんからいっぱい君の話を聞いてたんだよ!』

「それは僕も同じです。一度お話してみたいと思っていました」

『アハハ! 両想いじゃん!』


 電話越しなのに、場の空気を一瞬で自分のものにしてしまうような人だった。


『一度と言わず、これから何度でも話そうよ!』

「はい、是非。技術の話とかも出来たら嬉しいです」

『おおー! そういうの大歓迎! 私に知らない事なんてないからね! 全知全能だからね! 何でも聞いて良いよ!』


 随分と自信満々だった。


 知らない事なんてない。


 僕には一生言えそうにない言葉だ。


 だが不思議と嫌味には聞こえない。


 それだけの実力を、本当に持っているのかもしれなかった。


『マキナ、今日は挨拶だけでしょ。そろそろ……』


 電話の向こうから白石さんの声が聞こえる。


『あ、そっか。この後IRCに集合だもんね』


 その言葉に少しだけ引っ掛かりを覚えた。


 IRC。


 昔から存在するチャットシステムの一つだ。


 今でも利用者はいるが、最近では別のコミュニケーションツールを使う人の方が圧倒的に多い。


 だからこそ、その単語が妙に印象に残った。


『ごめんね、黒川君! また話そうね!』

「はい、楽しみにしてます」

『それじゃあねー!』


 嵐のような勢いで、マキナさんの声は消えた。


 代わりに戻ってきたのは白石さんだった。


『それじゃあ黒川。私たちはこの後用事があるから』

「分かりました」

『じゃあね』


 通話が切れる。


 スマートフォンを机の上へ置き、僕はベッドへと寝転んだ。


 今日は色々な事があり過ぎた。


 赤城さんとの事。


 白石さんとの事。


 そして、初めて話したマキナさんの事。


 目を閉じると、それらが順番に頭の中を巡っていく。


 心地良い疲労感に身を委ねながら、僕はゆっくりと意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ