表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/32

涙の理由①

 夏が近づいている事を感じさせる陽気となった、休日の午前十時。


 学園最寄りの駅前で、僕は赤城さんと白石さんの二人を待っていた。


 赤城さんとの約束通り、ココロトークのリリースも無事に完了した。


 今日はその打ち上げも兼ねて、三人で都心へ遊びに行く事になっている。


 いつも以上に身なりには気を使ったつもりだ。


 だが、それでも不安は残る。


 服装、変じゃないだろうか。

 髪、ちゃんと整っているだろうか。


 そんな事を考えながら駅前で待っていると、やがて赤城さんと白石さんの姿が見えた。


 彼女たちは、マンションのある方向から並んで歩いてきていた。


 こちらに気づいた赤城さんが、笑顔で右手を振る。


 その左手は、白石さんの手としっかり繋がれていた。


 一方の白石さんはというと、暑そうに顔を顰めながら、まるで赤城さんに引っ張られるようにして歩いている。


「黒川君、おはよう」

「……暑い」


 この暑さの中でも、赤城さんは相変わらず明るかった。


 対して白石さんは、今にも溶けてしまいそうな顔をしている。


 実に対照的な二人だった。


 赤城さんは、白のシースルーワンピースを着ていた。


 以前見た私服姿とはまた違う雰囲気だったが、どちらも彼女によく似合っている。


 多分、赤城姫那という人は何を着ても絵になるのだろう。


 一方、白石さんは黒のTシャツにタイトなジーンズというシンプルな格好だった。


 Tシャツの胸元には、例によって白猫のプリントがある。


 暑いと言いながらも、口元は黒いマスクで覆われていた。


 装い自体は簡素なのに、その銀髪の存在感だけがやけに目を引く。


 僕たちは軽く挨拶を交わした後、赤城さんの「それじゃあ、行こうか」という言葉を合図に駅へ向かった。


 ICカードを使って改札を抜け、ホームで電車を待つ。


 すると、不意に白石さんが僕の肩へ軽くぶつかってきた。


 何だろうかと思って彼女を見ると、白石さんは小声でこう言った。


「私が来なかったら、姫那と二人でデートだったらしいじゃない。私が来て残念だった?」

「いえ、そんな事は。白石さんとこうして外へ出かけられるのも嬉しいです」


 赤城さんと二人で出かけたい気持ちが無かったと言えば嘘になる。


 だが、白石さんが来て残念だと思った事は一度もなかった。

 だから、その言葉は本心だった。


「ふーん、どうだか」


 白石さんはそう呟くと、ちらりと赤城さんの方へ視線を向けた。

 つられて僕もそちらを見る。


 すると、赤城さんが立ったままスマートフォンの画面を見つめている姿が目に入った。


 どこか、険しい表情だった。


 眉間に少し皺を寄せ、何かを考え込むように画面へ視線を落としている。


「赤城さん、どうかした?」


 僕が声を掛けると、赤城さんはハッとしたように顔を上げた。


 そしてすぐにスマートフォンの画面を消し、それをバッグの中へとしまう。


「あ、ごめんね。折角のお出かけなのに、スマホばっかり見ちゃって」

「何かあった?」

「ううん、別に大した事じゃないよ。クラスのグループチャットがちょっとうるさいだけ」


 そう言って笑ってみせたものの、その笑顔はどこかぎこちなかった。


「また?」


 白石さんが小さく呟く。


「うん……最近ちょっとね」

「なんかあったの?」


 僕が尋ねると、赤城さんは少しだけ困ったように笑った。


「大した事じゃないよ。ただ最近、学校で変な噂が流れてるの。誰かの個人情報が見られてるんじゃないかとか、スマホの中身が漏れてるんじゃないかとか」

「……え?」

「ほら、学園の生徒って学校支給のタブレットとか使ってるでしょ? それ関係じゃないかって騒いでる子が結構いて」


 学園支給の端末。


 授業用として全生徒に配布されているタブレット端末の事だ。


 レポート提出やオンライン教材の閲覧にも利用されているため、生徒たちは日常的にそれを使っている。


「まあ、半分は都市伝説みたいな感じだけどね。『先生に監視されてる』とか、『検索履歴見られてる』とか言って騒いでるだけ」


 赤城さんはそう言って肩を竦めた。


 だが、その話を聞いた瞬間。


 僕の頭の片隅に、小さな違和感が引っ掛かった。


 学園支給端末には、学習管理用のソフトウェアが入っている。


 教師側が利用状況を把握するため、ある程度のログ取得機能が存在していても不思議ではない。


 だが――。


 もし、それ以上の事をしている人間がいたとしたら。


 そこまで考えた所で、ホームに電車の到着を告げるアナウンスが響き渡った。


 結局、その違和感について深く考える前に、僕たちは到着した電車へと乗り込む事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ