7 3人目
翌日。
俺は勇者ユースハルト、あらため、ユシィと町の目抜き通りを歩いていた。
ユシィは先頭に立ってグイグイ引っ張る船頭タイプではないようだ。
俺が後ろに付き従おうとすると、対抗するように歩を緩め、隣に並ぼうとする。
なんなら、俺の後ろに回ろうとする。
俺は俺で中央やや後方、船で言うならマストの後ろあたりでひっそりとしていたい派だ。
衝角やフィギュアヘッドは性分じゃない。
舵輪を握るのも違う。
そんな二人が一緒に歩けば、必然的に謎のポジショニング合戦が展開されることになる。
立ち位置は人柄の最たるものと聞いたことがあるが、全くその通りらしい。
「……」
しかし、俺は勇者パーティーの一員になったのか。
昨日、ここを歩いたときはまだ逃亡中の奴隷だった。
異世界というのは嵐の日の甲板みたいに目まぐるしいものらしい。
「それで、今日はどちらに? 魔王退治はご勘弁願いたいのですが」
「あはは。ボクもまだ挑む自信はないよ。それに戦力も足りてないからね」
「となると」
「うん。ケルンとボクだけじゃパーティーというより、コンビだ。だから、3人目の仲間を探しに行こうと思っているんだ」
ユシィは3本指を立てて白い歯をこぼした。
てっきり昨日別れた元メンバーのところに向かうのかと思ったが、ユシィが足を止めたのは冒険者ギルドの前だった。
「ここで人を募るのですか?」
「勇者パーティーって冒険者みたいなものだからね。というより、冒険者たちが古代の勇者様御一行に起源を持つんだけど」
そうなのか。
たしかに、勇者パーティーと冒険者パーティーには類似点が多い。
違いと言えば、目的だけだ。
魔王討伐か、飲み代稼ぎか。
「冒険者ギルドは世界的な組織だし、各地に支部もある。魔物の動向も逐一入るし、飛脚を雇ったり活動資金を引き出したりできて、あったかい食事も出している。すっごく便利なところだよね」
コンビニみたいなものですね、と俺は心の中で相槌を打った。
「なにより、ここには腕利きが多い!」
「たしかに、即戦力が暇してそうな場所ですね」
俺の言葉にユシィは少し笑い、そして、石畳に目を落とした。
「本当は王都のお城に行くのが筋なんだけど、今のボクはちょっとマズイ立場だからね」
仲間に愛想尽かされ、クビを宣告された裸の勇者様。
逃亡中の奴隷よりよっぽど立場が悪いのかもしれない。
だが、輝ける未来は石畳の上に転がっているわけではない。
俺はユシィの背を押した。
「募集するなら船頭タイプにしましょう!」
「そうだね。目力がありそうな人を探そう!」
ユシィはひとつ笑って扉を押し開けた。
喧騒に満ちた冒険者ギルド。
突然の勇者登場で水を打ったように静かになる。
ユシィは小さな喉をごくりと鳴らし、受付嬢に来意を告げた。
勇者パーティーの新メンバーを募集する、と。
おおおおおおおおお――!!
と熱気を帯びたどよめきが起きる。
俺はそう思った。
しかし、ロビーに立ち込めたのは無数の虫の羽音みたいな、ささやき声。
「勇者パーティーだってよ。オレでも雇ってくれんのかな?」
「やめとけ。ユースハルトと言やァ、落ち目の勇者だ。笑いものになるだけだぞ」
「仲間にも見捨てられちゃったのよねー」
「隣にいるの、大道芸人の草生えケルンじゃねえか」
「勇者サマー、頭に花咲かす芸で魔王を笑い殺すおつもりですかー!?」
ささやき声は次第に嘲笑の声になっていった。
もてはやされる人物ほど、落ちれば叩かれる。
サヨナラエラーした外野手がネットのおもちゃになるのと構図は同じだ。
「ボクが不甲斐ないせいで、ケルンにも恥をかかせちゃったね。さっさと魔王を倒して見返さないと」
ユシィは笑顔だ。
でも、オブラートよりも薄い表皮を針で突けば、中から決壊したダムみたいに涙が噴き出しそうで危うい。
俺はニッと笑った。
「いいですね。世間の嘲笑に傷つきつつも前を向こうとするお姿。俺の中の勇者像にマッチしています。かっこいいですよ、ユシィ。でも、背筋は伸ばしておきましょうね」
背を叩いてやると、ユシィの華奢な体が幾分大きくなったように感じた。
「ありがとう、ケルン」
「いえいえ」
俺にとっても人生一発逆転の大チャンスだ。
大将には堂々としていてもらわないと。
そんなやりとりをしていると、カッ、カッ、カッと鋭い足音が近づいてきた。
「あなたたち、勇者パーティーだそうね」
ガツン、と杖の石突がガベルのような音を立てて止まった。
風を孕んでいたローブが落ち着くのを待ち、そいつは言った。
「私が面接してあげるわ。あなたたちを、ね」




