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23 作戦開始


 夜が来た。

 篝火で赤くなったコッチーノ要塞には300あまりの兵が静かに並んでいる。

 みんなチラチラと俺を見ている。

 アッチーノ要塞への夜襲作戦――。

 成功のカギを握るのが俺の栽培魔法。

 その出来栄え次第で作戦の成否が決まる。

 何人死んで、何人生きるかも、たぶん。


「……ふう」


 手汗ドバドバだ。

 緊張している。

 深呼吸してみたが、ふいごで風を送ったみたいに心の火はかえって不安定に大きくなった気がする。


 言い出しっぺだが、いまさらながら大丈夫なのだろうか、この作戦……。

 谷幅は7、80メートル。

 対して、一般的な杉の木はせいぜい60メートルほど。

 明らかに丈が足りない。

 まあ、そこをなんとかするのが俺なわけだが。

 ぶっつけ本番で300人を渡らせる。

 失敗したら真っ逆さま。

 何十人も死ぬ……。


「うッ!?」


 突然尻を殴られた。

 コニファーが杖を振り終えた姿で立っていた。


「しっかりしなさいよ。みっともないわね」


「その姿で言われると身に沁みますね」


 闇を嫌うコニファーは夜襲を可能とするために策を講じた。

 それが光るキノコを全身に生やすというキテレツなものだった。

 よって、クリスマスツリーの擬人化みたいなビジュアルとなっている。

 異世界広しといえども、これほど様子のおかしい人間にはそうそうお目にかかれないだろう。

 兵士たちも唖然としていた。


「メリー・コニスマスですね。見ているだけで不思議と落ち着いてきました」


「あら、私を笑うことはゆるされないわ。あなた今、死刑が確定したのよ」


「作戦終了まで執行猶予をくださると嬉しいです」


 仕方ないわね、とため息をつき、コニファーは俺の胸にそっと手を置いた。


「ケルン、あなたならできるわ。だって、あなたは私が認めた従者だもの。知ってる? 人なんてアリみたいにうじゃうじゃいるけれど、この世界で私の従者はあなただけなのよ。誇りなさい」


「ありがとうございます、コニファー」


 ひゅーひゅー、と兵士たちがはやし立ててくる。

 悪くない空気だ。

 きっとうまくいく。

 そんな気がしてきた。


 いよいよ作戦開始という段になって勇査部のリュネットが死神じみた足取りでやってきた。


「勇者ユースハルト様、わかっておられますね? この要塞奪還作戦であなた様の評価が、ひいては進退が決するということを。わたくしは見ております。それをお忘れなく」


「う、うん。もちろんだよ。任せて」


 前向きな言葉とは裏腹に、ユシィの顔は凍死体のほうが幾分マシなレベルで青かった。

 しくじれば、聖剣没収。

 新勇者の再選定に先立ち、その命を散らせることとなる。


「ご覧ください、ユースハルト様。大勢の兵士たちがあなた様のご活躍を信じ、こちらを見ていますよ。期待を裏切るようなことがあってはなりませんね」


「大丈夫だよ。ボクがなんとかしてみせるから……! 期待してて!」


 ユシィの声は震えていた。

 それを声量で誤魔化そうとして、さらに痛々しい宣誓となる。

 ヨーザンもぴくりと太い眉を動かした。


「ユースハルト様、本当に大丈夫ですか? お顔色が優れないようですが」


「リュネットさん、もうそこらへんにしませんか?」


 俺はユシィを背にかくまい、陰湿な査察官を睨んだ。

 俺の声も震えている。

 だが、原因は恐怖でも不安でもない。

 怒りだ。


「これ以上続けるなら、俺が相手になりますよ」


「……失礼しました」


 リュネットはさすがにマズイと踏んだか、すごすごと引き下がった。


「ありがと、ケルン」


 上目遣いに見上げてくるユシィ。

 女の子だったらいいな、と思うのはもう何度目か。


「どういたしましてです」


 と返しておいた。


「それでは始めるとしようぞ!」


 ヨーザンは雄々しい笑みで兵を鼓舞し、軍配を振り下ろした。


「作戦開始――ッ!」


 ぴゅーっ、と鏑矢が夜空を切る。

 開かれた城門から兵士が雪崩のようにあふれ出す。

 その先陣を切って俺は走った。

 行く手にアッチーノ要塞の巨大なシルエットが見えている。

 黒い森も。


 手には、杉の苗木が3本。

 橋の材料だ。

 両脇をユシィとヨーザンが盾で固めている。

 心強い。


 がごん、と大きな音がした。

 巨大なシーソーが何かを真っ暗な空に投げ上げた。

 弧を描き、……見えなくなる。

 数秒後、対岸で爆音がした。

 大砲でも連射しているみたいな音がして、篝火に赤いもやが霞む。

 トウガラシ・パウダー配合の特大かんしゃく玉。

 アッチーノ要塞からあふれる悲鳴の大合唱を聞けば、効果のほどは明らかだ。


 対岸でさらに動きがあった。

 はしごを担いだ別動隊が要塞側面に突っ込んでいく。

 敵の気を引くために盾を叩いている。

 おかげでこちらに飛んでくる矢は数えるほどだ。

 その矢もほとんどコニファーひとりが引き受けている。

 目立つから的にされているらしい。

 全部計算ずくなら感服するほかない。


「後は俺が決めるだけですね!」


 俺は谷の崖っぷちに苗木を突き立てた。

 対岸に狙いを定め、一気に魔力をひねり込む。

 蛇口をひねったホースみたいに苗木が脈打った。

 怒張した根が岩肌に潜り込み、どーん、と。

 足元から電車じみたサイズの三本杉が飛び出した。


 杉は「直木すぐき」に由来するという。

 それが納得なほど三本杉は真っ直ぐに真っ直ぐに伸びた。

 上の面をなるべく平らに。

 対岸まで意地でも届けろ。

 100人乗っても大丈夫なように。

 などと思っているうちに、杉の木電車は停車位置を大幅にオーバーランして終着駅に……いや、アッチーノ要塞城門に突っ込んだ。

 ごがあああんん、と。

 巨大な三連破城鎚が城門をぶち貫いた。

 鉄門扉の向こう側にいたゴブリンが吹っ飛ぶのが見えた。


「なんという魔法だ……。人間技とは思えん」


 それが間近で見ていたヨーザンの第一声。

 すご杉ます……フッ、みたいな声も聞こえる。


「あ、すみません。失敗したらどうしようと不安になって、やりすぎました……」


 冷や汗だらだらで俺は苦笑した。

 4両編成の列車が3本横並びになって城門に突っ込んだ、と言えば伝わるだろうか。

 橋としては、まあ、使えると思うが。


「いや、大いに結構! むしろ大助かりだ! まったくケルン殿は豪儀な男よな!」


 ヨーザンは愉快痛快とばかりに大笑いしている。


「ものども、見よ! ケルン殿がやってくれたぞ! 我らの前には橋があり、我らを阻む門はその口を開けたのだ! もはや我らの進軍を止めるものなし! 総員抜剣! 突撃せよ!」


「「おおおおおおおおおお――――ッ!!」」


 両岸総勢およそ1000名が少々気の早い勝どきを上げた。


「さあ、行きましょう、ユシィ!」


「う、うん……!」


 俺は小さな背中を押した。

 残る憂いはユシィが活躍できるか否か。

 この一点に尽きる。


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