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世界の現状

「それは、ぼくが説明します」


 ヤンロンと天珠(てんじゅ)の二人が眠っていた部屋に入ってきた気弱そうな少年は、柔らかそうなさらさらした白髪を揺らしながら、二人に近付く。


「……お主は誰じゃ。見知らぬ顔じゃな。我らが眠る前にはおらなんだ」


 厳しい目を向ける天珠に、少年は桃色の龍の目に怯えを滲ませて固まる。しかし、すぐ持ち直した。


「ご、ごめんなさい……っ」


 震える声で謝る少年。


「「……」」


 しかし、二人の目は敵に向けるそれのままだ。

 少年がその目に怯えるのは仕方ないだろう。

 何故ならば、仮にも二人は伝説の古龍(こりゅう)天狐(てんこ)。かつて二つの天災だと恐れられていたのだから。


「うぅ……父さまのばか……どうしてぼくがこんな怖い人たちに……なにがいい社会勉強だ……辛すぎる……」


 少年は今にも泣き出しそうだが、しかしそれでも伝説の炎龍(えんりゅう)であるヤンロンと、伝説の天狐である天珠に(にら)まれてなお、自分の足で立ち、父への文句を口にできるほどの余裕はなかなか肝が据わっている証拠だ。


「……で? 小僧(こぞう)。我らに何の説明をすると?」

「あっ、えっと……その遺体の方がここまで来れた理由と、世界の現状を、父に頼まれて……」

「父だと? 目は龍だが、その色は……」


 ヤンロンが知らないのも無理はなかった。何故ならその龍とは……。


「父は、白龍なんです」

「白龍だと? そんな龍はいなかったはずだが」

「無理もないと思います。父が龍になったのはあなた方を封印して、人間として死んだ後ですから……」

「なに? 人間として死に、その後に龍となっただと?」

「はい……」


 少年は頷く。その様子を見て、恐らく嘘ではないのだろうと納得したヤンロンはそれ以上、自分から聞こうとはしなかった。


「あ……。それで、遺体の話なんですが……、その人は、父の力を(まと)わせて貰っていたので、それでここまで来れたんです」

「親父殿の力?」

「はい。父は調和を司る白龍ですので、海中での体内の空気と海水を調和……調整だったかな? をして、息を持たせたのだそうです」

「ふむ……。して、この者をここへ寄越した理由は?」

「それは、あなた方が見たでしょう彼女の記憶の中で祈っていた通り、荒れた神と、暴走する神獣を止めて下さいとお願いするためです」

「そうか……」


 天珠が頷く。先程よりは少し、警戒を解いたらしい。


「じゃあ、今度は世界の現状だ」


 ヤンロンが少年に続きを促す。少年はヤンロンに頷いて話し始めた。


「はい。今から三百年前の事です。当時ぼくはまだまだ小さかったので、始まりは父から聞きました。」

「三百年? 我らは何年間眠っていたのじゃ?」

「ええと……今年で五百年だそうです。続けてもいい……ですか?」

「すまぬ。頼んだ」


 天珠は話を少し逸らしてしまった事を謝り、静かに聞く。


「父は、龍の会合をしていたら突然暴走し始めたと言っていました。最初に水龍が、それにつられたのか、風龍、地龍と、古龍達が順々に暴れ出したと」

「ふむ……」

「父が自分の調和の権能を使い、その場は一旦、落ち着いたらしいです。しかし、その後すぐ古龍達が自分の土地に着いたら暴れだしたと報告が来たそうです。」

「……情けない」


 ヤンロンが古龍達の話を聞いて、鼻で笑う。

 自分すら抑えることが出来ないらしい同族に対して苛立ち始めていた。


「父は自分が元人間で、まだ龍として年若かった事もあり、彼らには手が付けられなかったらしいです」

「そうじゃろうな……」

「それから、古龍達以外の神や神獣も暴れ出す様になったので何とかして欲しいと、白龍を祀っている紅月(あかつき)の国の神社に、霊力の強い人間たちが訴える事が増えたらしいのです」

「それで? 白龍はどうしたんだ。まさか白龍も暴走しているのか?」

「い、いいえ! 全然大丈夫です!」


 苛立たしげな目に、少年は青ざめながら思い切り首を横に振って否定する。


「ならいいが。もし、他の龍みたく情けなく暴れていたら五百年前の分まで殴ろうかと」

「な、殴られなくて良かったです……」

「これ、ヤンロン。また話が逸れてしまうじゃろう」


 天珠にそう叱られて、ヤンロンは不機嫌そうに舌打ちした。


「それで? 結局今はどうなのじゃ?」

「あっ。はい。今も各国で神や神獣は暴走しています。しかもまだ、原因が一切不明で……それに元人間とはいえ今は龍である父はまだ暴走の予兆がなくて……」

「? ならば、良いのではないか? お主の父は暴走しておらぬのじゃろう」

「それはいいんです。でも、暴走していない理由が分からないのが駄目なんです。なぜ他の神獣や神が暴走しているのに父だけが暴走をせずに済んでいるのか、と。理由が分かれば他の方が暴走しなくて済む状況を作り出すこともできるだろうにって」


 少年は目を伏せ、肩を落としてしゅんとする。

 そこで、少年に対してヤンロンが言った。


「なぜ、君がそこで落ち込む? 今ここで俺達に悩みを相談したところで、俺達は叩き潰すくらいしか出来ない」

「まあ、それもそうじゃな」

「だろう? それに、天珠はどうだか知らないが、少なくとも俺は、神や神獣が暴走する理由などどうでもいい。ただ、奴ら自身が自分で自分の暴走を止められなかったことが情けないだけだ」

「え……」


 至極当たり前のように言われた言葉達に、少年は戸惑っているようだ。


「調和の白龍だかなんだか知らないが、白龍もなぜ、わざわざ他の者が暴走しない状況を作ってやる必要がある? そんなもの各々で考えて、各々でどうにかすればいい。違うか?」

「え、でも、それじゃあ望まない暴走を止めてあげられないんじゃ……」

「だから、先程も言った。自分で自分の暴走を抑えられない方が悪い。情けない」


 少年は未だ戸惑っているが、確かにそうだ。

 神だの神獣だのと、人間よりも地位が上だと自分で思うのであれば、誰かに手を借りたりせずに自分で解決させればいい。


「まあまあヤンロン。少年の父は元は人間なのじゃ。人間は一人では生きていけないから、他人と支え合うのが当たり前。白龍になっても人間としての良心があるのじゃろうて」

「そういうものか?」

「ああ。恐らくじゃが」


 少年はそんな二人の会話を聞きながら、自分が今以上に幼い頃から元人間の父に教えられてきた考えと、根っからの神獣と妖狐である二人の考えの違いに驚いていた。


 今までもこれからも、自分の父の考えが間違いだとは思わないが、世の中には色々な考え方の者がいるのだと、少年は一つ学ぶ。


 そして意を決したように、少年は二つの天災に向き直った。


「ヤンロン様、天珠様、名乗り遅れてすみませんでした。ぼくは調和の白龍の子、タオと申します」

「な、なんじゃいきなり(かしこ)まって……」

「確かに、名前を聞いていなかったな」

「かつて二つの天災と呼ばれた御二方のお力をどうか貸していただけませんか!」


 タオはそう言って深く頭を下げる。その姿を見た二人は一度顔を見合せ、直ぐに頭を下げたままのタオに視線を戻し、同時に理由を問う。


「「なぜ?」」

「……暴走している神や神獣に、圧倒的力量の差で挑み、正気に戻すことができるのが、今はあなた方しかないからです」


 力の差が少なければ少ないほど、対象を一度しずめる事が難しくなるため、できるだけ差があり、対象をしずめる人物も、怪我をしにくいのが必須だった。

 しかし、まだ龍として若い、タオの父では力不足。そこで白龍は、自分が人間であった頃に意識を封印したヤンロンと天珠が条件に合っていると判断。よって、女性とタオを寄越したという訳だ。


「……なるほどのう」

「どうする。天珠」

「ふむ……」

「…………」


 タオは恐る恐ると言うように顔を上げる。


「まずは、白龍に話を聞いてからじゃ」

「……! それじゃあ!!」

「勘違いするな。まずは、話を聞くだけだ」

「そ、そうですよね……」


 タオは肩を落として、部屋の出入口の扉の方に歩いていた。そして、扉の取っ手に手をかけ、二人に視線を送る。


「ここからは海なので、自分を力の膜で覆うなどして進んでくださいね」

「言われずとも」

「ああ。でも必要ないな」

「そうじゃなぁ……」

「……え?」

「海水を空にぶっ飛ばしてできる隙間から素早く海を抜けてやれば良いからのう。」

「しかし、久しぶりだと、制御に失敗したりしないか」

「ま、大丈夫じゃろうて。陸地からもちゃんと離れておる」


 そう笑った天珠は、表情を変えないヤンロンと共に、扉から出てすぐ、巨大な力の塊を、そこから離れた位置にある海面に放り投げた。


「えぇぇーー!?無茶苦茶じゃないーー!?」


 そう叫んだタオの声は、海面から飛び出た力の塊が弾けた拍子に出た轟音で誰の耳にも届かなかったのだった。

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