㉓「ありがとう」
本日、完結予定になっております。
多分。急なことが入らなければ。
ゆっくりと落ちていく。
温かく、まとわりつくような水の感触。
(あー、失敗した)
このまま俺、死ぬのか……。
まさかこんな最期になってしまうなんてな。
すっきりしない胸のなか。
だって心残りだらけだぞ?
(天黎のやつ、ひとりで大丈夫かな?)
後悔しながら、絡みついている布を取り払うと、キラキラと星明かりを吸い込んだエメラルドグリーンが視界にはいる。
身をまかせ、漂いながら、俺は天黎のことを考えていた。
(初めて会ったのは……そう、俺の育てたミツバを食ってた時だ)
なんだかもう遠い昔のことのように思える。
(そういえば、天黎だいぶ元気になったよなぁ)
細っこいのは変わらないけど、最近はちゃんとご飯も残さず食べてるしなぁ。
俺の作った飯を、ちまちまと美味しそうに食べてる姿は小動物みたいで愛らしい。
「フッ、ははっ……天黎……」
こんな時だっていうのに、思い出すと何故だか自然と笑ってしまう。
……まずいな。胸がやけに苦しい。
水の中にいるのに目頭が熱くなっていく。
あぁ、もう天黎には会えないんだな。
もう一度会いたいな。
会えたらな……。
(そうだよ、俺、天黎のことが好きなんだ……)
恋なんて一度もしたことなかったのに。
「今さら自覚したって、遅いんだからな、俺……」
自分に呆れて大きく溜め息をつく。
……ん?
溜め息? こんな水中で?
「はっ!?」
あれ……ちょっと待てよ。
苦しいと思ってたけど、息は全然苦しくないぞ。
つーか、普通に呼吸してるぞ俺!?
今の状況に軽く混乱する。
(しかも、やけに身体が軽いし)
隅から隅まで、自分の身体に意識を向けたところで、全身がうっすらと光の膜に覆われてることに気付く。
――生人。
――生人、会えて嬉しい……。
「!! その声……、父さん、母さん……!?」
水底から聞こえたよく知る声に驚く。
でも声だけ。姿は見えない。
――そうよ生人。
――この池は、龍神様に繋がる神域のひとつ。もっとも安全な場所だ。
「どこに居るんだ、父さん、母さん。どうして家に帰ってきてくれないんだ!?」
水底の光が俺を優しく包んでいく。
肩の力が抜けていくような安堵感……。
――生人、急にいなくなって済まない。
――龍神様のもとに還る時間がきてしまったから。
「それっ……て……」
俺は、天黎が教えてくれた「魂の故郷」のことを思い出していた。
龍神の加護を持つ者……。
その魂は「龍神の御魂」の一部なのだと天黎は言っていた。だから龍神の池に懐かしさを感じるのだと……。
(だとしたら……還るっていうのは……)
父さんと母さんは、もう……この世にいないってことか。
魂の還るべき場所に、二人で一緒にいってしまったんだな。
真実を知って、グッと喉奥が詰まる。
なんだよ。
分かってたなら……一言くらい、お別れを言うくらい、させてくれれば良かったのに!
「……ちゃんと……教えてくれないから、俺……自分が長寿だって知らなかったし……」
文句を言いながら、俺は必死で探していた。
今、伝えないといけない言葉を……。
――生人。悲しむことはない。いつかは皆、還るんだから。
――私たちは最期まで幸せだったから。
「父さん、母さん……」
たった一言。
これが俺が一番伝えたかった想い。
「ありがとう」
――さあ、しっかりしろ。
――そうよ。ほら、ちゃんと見て。
――生人を待ってる人がいるから……。
「え?」
沈んでいくだけだった身体が持ち上がる。
水底の光と、声が、次第に遠ざかっていく。
かわりに聞こえたのは……。
"ねえ陸來。ムギト君は……?"
「天黎!?」
間違いない。
天黎の声だ。
まさか俺のこと追いかけてきたのか!?
あと、二話、お待ちください。
読んで頂き、有難うございます!




