↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

㉓「ありがとう」

本日、完結予定になっております。

多分。急なことが入らなければ。

 ゆっくりと落ちていく。

 温かく、まとわりつくような水の感触。


(あー、失敗した)


 このまま俺、死ぬのか……。

 まさかこんな最期になってしまうなんてな。

 すっきりしない胸のなか。

 だって心残りだらけだぞ?


(天黎(テンレイ)のやつ、ひとりで大丈夫かな?)


 後悔しながら、絡みついている布を取り払うと、キラキラと星明かりを吸い込んだエメラルドグリーンが視界にはいる。

 身をまかせ、漂いながら、俺は天黎のことを考えていた。


(初めて会ったのは……そう、俺の育てたミツバを食ってた時だ)


 なんだかもう遠い昔のことのように思える。


(そういえば、天黎だいぶ元気になったよなぁ)


 細っこいのは変わらないけど、最近はちゃんとご飯も残さず食べてるしなぁ。

 俺の作った飯を、ちまちまと美味しそうに食べてる姿は小動物みたいで愛らしい。


「フッ、ははっ……天黎……」


 こんな時だっていうのに、思い出すと何故だか自然と笑ってしまう。

 ……まずいな。胸がやけに苦しい。

 水の中にいるのに目頭が熱くなっていく。


 あぁ、もう天黎には会えないんだな。

 もう一度会いたいな。

 会えたらな……。


(そうだよ、俺、天黎のことが好きなんだ……)


 恋なんて一度もしたことなかったのに。


「今さら自覚したって、遅いんだからな、俺……」


 自分に呆れて大きく溜め息をつく。

 ……ん? 

 溜め息? こんな水中で?


「はっ!?」


 あれ……ちょっと待てよ。

 苦しいと思ってたけど、息は全然苦しくないぞ。

 つーか、普通に呼吸してるぞ俺!?

 今の状況に軽く混乱する。


(しかも、やけに身体が軽いし)


 隅から隅まで、自分の身体に意識を向けたところで、全身がうっすらと光の膜(まく)に覆われてることに気付く。


 ――生人(いくと)。

 ――生人(いくと)、会えて嬉しい……。


「!! その声……、父さん、母さん……!?」


 水底(みなそこ)から聞こえたよく知る声に驚く。

 でも声だけ。姿は見えない。


 ――そうよ生人。

 ――この池は、龍神様に繋がる神域のひとつ。もっとも安全な場所だ。


「どこに居るんだ、父さん、母さん。どうして家(うち)に帰ってきてくれないんだ!?」


 水底の光が俺を優しく包んでいく。

 肩の力が抜けていくような安堵感……。


 ――生人、急にいなくなって済まない。

 ――龍神様のもとに還(かえ)る時間《とき》がきてしまったから。


「それっ……て……」


 俺は、天黎が教えてくれた「魂の故郷」のことを思い出していた。


 龍神の加護を持つ者……。

 その魂は「龍神の御魂(みたま)」の一部なのだと天黎は言っていた。だから龍神の池に懐かしさを感じるのだと……。


(だとしたら……還るっていうのは……)


 父さんと母さんは、もう……この世にいないってことか。

 魂の還るべき場所に、二人で一緒にいってしまったんだな。

 真実を知って、グッと喉奥が詰まる。

 なんだよ。

 分かってたなら……一言くらい、お別れを言うくらい、させてくれれば良かったのに!


「……ちゃんと……教えてくれないから、俺……自分が長寿だって知らなかったし……」


 文句を言いながら、俺は必死で探していた。

 今、伝えないといけない言葉を……。


 ――生人。悲しむことはない。いつかは皆、還るんだから。

 ――私たちは最期まで幸せだったから。


「父さん、母さん……」


 たった一言。

 これが俺が一番伝えたかった想い。


「ありがとう」


 ――さあ、しっかりしろ。

 ――そうよ。ほら、ちゃんと見て。


 ――生人を待ってる人がいるから……。


「え?」


 沈んでいくだけだった身体が持ち上がる。

 水底の光と、声が、次第に遠ざかっていく。

 かわりに聞こえたのは……。


"ねえ陸來。ムギト君は……?"


「天黎!?」


 間違いない。

 天黎の声だ。


 まさか俺のこと追いかけてきたのか!?




あと、二話、お待ちください。


読んで頂き、有難うございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。