⑲おめかし天黎
「どうかな? ムギト君」
窺うように、俺を見上げてくる天黎。
(ど、どうって………)
「うん、良いんじゃないか? やっぱ着物っていうか、和服? ……似合うと思うぞ」
「なら良かった……」
天黎はホッと息を吐く。
そして隣にい着替えを手伝っている菊花さんは、満足そうに微笑んだ。
今日は、陸來さんの結婚式の日で、天黎は朝から身支度で大忙しだ。
十二単まではいかないが、美しい色の布を、幾重にも重ねるように身につけていく。
完成したと思ったら、また脱いで色の順番を変えたりしている。大変だ。
俺はちょうどスーツを持ってきていたから、それを着れば準備は終わり。
楽ちん……。
(だけど、どう考えても気まずいよなぁ〜)
少しだけ憂鬱だ。
俺も天黎も、霊場にやって来た日に会ったきり、陸來さんとは顔も合わせてない。出来れば今はまだ会いたくはなかった。
だけど天黎の親父さんが「参加しろ」というのだから仕方ない。
(俺はともかく……天黎はまだ完全に立ち直ったわけじゃないのに……)
一応、体調不良を装って欠席することを提案してみたら、天黎は「心配ばかりかけてごめんね。僕なら平気だから」と、健気に笑うから、何も言えなくなってしまった。
平気って……どこがだよ。
もしも陸來さんの姿を見て泣きそうになってたら、無理やりでも連れて帰るからな!
(……第一、陸來さんだって困るんじゃないか?)
それに俺、多分だけど、あんまり陸來さんに快く思われてない気がする。
余所者だからか?
それとも、まったく別の理由……とか?
「難しい顔してどうしたのムギト君。……やっぱり僕の衣装……変かな?」
「ちがっ……変じゃない! 変じゃないからな! むしろ、めちゃくちゃ良いと思うぞ!?」
「そ……そう?」
慌てて力いっぱい否定すると、菊花さんが噴きだした。
「あらあら、ふふっ。天黎さんは愛されてますねぇ」
「あ、愛っ!?」
そうだった!!
俺は天黎の恋人として霊場にやってきたんだ。
忘れてたわけじゃないんだけど、改めて考えると、なんか照れる……。
(かりそめだけど、俺にとって天黎は、初めての恋人……なんだよな)
何故だか、天黎の頰も真っ赤になっている。
もしかして、おまえも照れてる?
「はい、天黎さんお着替えが終わりましたから、次は軽くお化粧と、髪を整えましょうね」
「う、うん……」
鏡台に向かって歩こうとして、よろける天黎。
咄嗟に腕を伸ばして、腰を支える。
「大丈夫か? 具合悪いのか?」
「ううん……ちょっと着物が重くてびっくりしただけ。思ったより歩きずらいみたい」
「そうだったのか。転びそうになったら、いつでも俺に掴まれよ?」
「う、うん。ありがとう……」
ゆっくりと天黎の手を引く俺を見て、また菊花さんが微笑ましい眼差しを向けてくる。
やっぱり照れる……。
「どうかな? 変じゃない?」
また上目遣いで天黎が聞いてくる。
もともと白い肌が、さらに引き立つように白粉をはたき、唇には薄っすらと紅がひかれている。
儚げな中にくっきりと浮かび上がる美しさ……。
俺は言葉を失ってしまう。
けれど、それじゃ天黎が不安そうな顔をするから。
「うん。もしかしたら花嫁さんより綺麗かもしんないぞ?」
「お、男に綺麗とか……、恥ずかしいだけど……」
真っ赤になって俯く天黎に、俺もちょっともじもじしてしまう。
本当に綺麗だと思ったから、言ったんだけどな……。
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