⑰僕のそばにはキミがいた(天黎視点)
閑話てきな感じです。
短いです。
陸來が結婚する。
陸來の好きな人は、僕じゃなかった。
僕は選ばれなかった。
世界に、見放されてしまったと思った。
だけど……。
「ムギトくん、ごめんね……」
夜明けの光が障子を透かしている。
もう何も望むものはないのに、僕の一日はまた始まろうとしている。
隣で寝息を立てているムギトくんを起こさないように、小さく謝罪を口にした。
(だって、僕は、ムギトくんを利用したんだから……)
霊場に帰るために、陸來に会うために、ムギトくんを僕の事情に巻き込んでしまった。
悪いとは思ってなかった。
だって僕にとって何より大事なことだったから。
陸來のそばにいること。それが生きてる意味だったから。
でも全部失くなってしまった今、惨めな僕を馬鹿にするわけでもなく、むしろ労わるように慰めて優しい言葉をかけてくれたのはムギトくんだった。
陸來に振られて、僕の心は潰れてしまった。
抜けないままの棘が、じくじくと熱をもたらすように、息苦しい胸の痛みは消えずに続いているけれど、ムギトくんの言葉だけは、僕の心にあたたかく染み入ってきた。
(陸來だけだと思ってたのに……)
僕を大切にして、僕のための言葉を紡いでくれるのは、今まで陸來だけだった。
でも、ムギトくんは、最初からありのままの僕を見てくれていたんだ。
霊場に帰ってきて、父に会って、僕がどれだけ煩わしい存在として扱われているか感じただろう。けれどムギトくんだけは、変わらなかった。
だから、今更だけど、余計に罪悪感を覚えてしまったんだ。
「ムギトくん……」
また涙が出た。
でもこれは悲しくて出たんじゃない。
嬉しくて、キミが僕にくれた言葉の数々が嬉しくて、自然と涙が出てしまったんだ。
「ありがとう……」
寝転がった態勢のまま、泣く僕を慰めるように抱きしめてくれていたムギトくんの胸に擦り寄る。
トクリと心臓の音が聞こえた。
スースーと一定のリズムを刻む呼吸に合わせて、僕も息を吐いてみる。
まるでひとつに溶け合っていく気がした。
(僕は、前を向いて、これから歩いていけるんだろうか……)
陸來のことしか見ていなかった僕は、陸來の一番になれないまま、これからの時間を生きていくことになる。
ただ漠然と、ちゃんとやっていけるか不安になる。
誰にも求められないまま、また孤独に、そして息を殺すような毎日に耐えていかなければならないだろうか。それはなんだか怖くて、体が勝手に震えてしまう。
「ん……っ、くしゅっっ」
震えた瞬間、僕の髪の毛がムギトくんの鼻をくすぐってしまったのか、ムギトくんは小さくクシャミをした。
慌てて離れようとすると、背中に長い腕を回されて動きを封じられたあと、頭に顔をうずめられる。
ムギトくんは何度か腕や、顔をずらしたりしたあと、心地よい態勢を見つけたのか、また寝息を立て始めた。
(多分、僕を抱き枕だと思っているんだね……)
体が熱い。
全身でムギトくんの熱を感じている。
どうしよう……。
なんだかとても胸が苦しい……。
だけど、とても心地よい。
サワサワと、かすかな草木の擦れ合う音が外から聞こえてくる。
きっと庭にたくさん生えているミツバ達も、ゆらゆらと夜明けの風に吹かれているのだろう。
まるでそれは子守唄のように、僕を眠りの淵に落としていった。
お読みいただき、有難うございました!




