⑭陸來との再会
「え……っと、どちら様でしょうか?」
と口では言いながら、俺は内心"あの人"だろうと確信を深めていた。
「オレは陸來だ」
やっぱりそうだ。
(この人が天黎の想い人……)
にこやかな笑顔を向けてくれる背の高い陸來さんを、俺は見上げる。
ガッシリとした骨格に、日頃から鍛えているからこその筋肉質な身体つき。なんていうか野生的な強さがビシビシ伝わってくる。羨ましくらい、かっこいい。
でも今はそんなことじゃなくて……。
(天黎のこと、どうにかしなきゃだよな。ほんとタイミング悪すぎだろ……)
すべてが裏目に出ている気さえする。
それに陸來さんの結婚がもう少し遅かったらと思う。そうしたら天黎は自分の気持ちをちゃんと伝えれられただろうから。
「すみません。天黎は帰ってきたばかりで、今はまだ会える状態じゃないというか、」
泣いている天黎に追い打ちをかけるようなことはしたくない。
今は気持ちが落ち着いてからのほうがいい。
「もしかして体調崩してるのか?」
心配そうな顔をする陸來さん。
心から天黎のことを大切に思っているのが滲み出ている。
「はい。そんなとこです……」
「そうか。じゃ、改めるか……。そういえば、アンタは初めて見る顔だけど」
「俺は、麦野生人といいます」
「へえ、外から人が来るなんて久しぶりだな。天黎の友達か?」
「友達っていうか……」
かりそめの恋人です。って正直に言ったらどうなってしまうんだろう。
悩んでいると、背後に気配を感じる。
「陸來……会いたかった!」
「天黎!」
瞳を潤ませた天黎が、俺のそばをすり抜け、陸來さんの首に抱きつく。
細っこい身体をぎゅっと抱きとめたあと、陸來さんはまるで子供をあやすように、頭をよしよしを撫でた。
「ん? 痩せたんじゃないのか天黎。大丈夫か?」
「ねえ陸來。……結婚するって、嘘だよね?」
「……本当だ。オレは美澄と結婚する」
「……」
はっきりと本人の口から伝えられて、天黎の瞳からはまた涙が溢れる。
ゆっくりとお互いの身体を離す二人。俺は見ているしかできない。
「泣くな天黎」
「だって、僕は……」
「もうすぐ子供も産まれるんだ。そしたら可愛がってやってくれ」
「……どうして」
「え?」
「どうして? 誰よりも陸來のことを愛しているのは、この僕なのにっ――!」
陸來さんの表情が驚きの色に染まる。
穏やかな告白ではなかった。
だけど、激しい哀しみの感情を伴って紡がれた言葉は、偽りだと思えないくらいとても真っ直ぐで、必死で、逃げ道なんてつくる余裕すらない決定的なものだった。
(天黎……ちゃんと言ったんだな……)
どう考えても天黎の想いは遂げられない。
それでも気持ちをぶつけずにはいられないほど、陸來さんのことを愛しているってことなんだろう。
けれど……そんな天黎を陸來さんは鼻で笑った。
「オレを愛してるって? ふざけるなよっ」
「……ふざけてなんか……、僕は本気で」
「だったらなんで霊場を出た!」
「!!」
「本気で、オレのことを愛してるなら、結婚相手を探しに外に行ったりしないだろ!」
「そ、それはっ! ……陸來だって知ってるはずだよ。僕が……父に逆らうなんて、出来ないってこと」
そりゃな。あの親父さん、マジで怖かったし……。
(あれ? でも、なんかさ)
俺は二人の会話のなかみに違和感を覚える。
修羅場っていうより、駄々をこねる子供みたいな感じだ。
「僕だって嫌だったよ! 陸來のそばを離れるなんて、嫌だった……」
「でも天黎は、結婚相手に"その男"を選んできたんだろっ!?」
「あ? 俺?」
急に話しの矢がこっちに飛んできて、ちょっと間抜けな声が漏れた。
ギッと、何故か陸來さんが俺を睨んでくる。




