⑬落ちこむ天黎
誤字報告ありがとうございます!
ウソだろ……。
陸來さんが結婚!?
そんな……それじゃ天黎の気持ちは。
「陸來は、幼馴染の美澄と結婚する」
「美澄と……」
陸來さんと幼馴染ってことは、つまり天黎も知ってる人ってことか……。
「ああ、それに美澄の腹には子が宿っている」
「!!」
「霊場に久しぶりに新たな命が生まれる……」
淡々と親父さんから語られる現実。
天黎の銀色の瞳がだんだん光を無くしていくのが分かった。昼が夜になるような、そんな翳りのなかに哀しみがはっきりと浮かんでいた。
(……そうだよな。だって天黎は、陸來さんに会うためにここに帰ってきたんだから)
それが結婚するとか、子供がいるんだとか、そんなのあんまりだ。
「嘘……だ……」
呟きと一緒に、涙の粒が転がり落ちる。
「陸來が結婚なんて……なにかの、間違い……」
ふらりと天黎が歩き出す。
慌てて親父さんにお辞儀をして、俺は天黎のあとをついていった。
ここは天黎が暮らしていた別邸だろう。
こじんまりした平屋建て。現代ではほとんど見らない日本家屋といた感じで、障子のふすまでだけで仕切られた部屋を取り囲むように、廊下がつづいている。
天黎がいなかった間、ずっと閉め切ってたんだろう。結構ジメジメしてる。
「おーい。天黎? とりあえず換気するからな〜」
声をかけるが、肝心の天黎は、薄暗い和室の畳のうえ転がったまま動こうとしない。
さっきからずっとこの調子で、時折、うずくまるように丸くなっては身体を震わせていた。泣いてるんだろう。
「勝手にやるかなら〜。あと、台所借りるぞ〜」
(今は泣きたいだけ、泣けばいいよ、天黎)
俺には好きな人とかいたことないから分かんないけど、一緒にいたいと思った相手のそばにいれないのは、ものすごく哀しくて辛いことなんだろうから……。
俺はすべての部屋のふすまを開けていく。
部屋数は多くはないれど、一人暮らしには十分な広さだ。
廊下の雨戸も開け放つと、ようやく明るい光が中に差し込んできた。
そよそよと風が吹いてくる。
庭先には、山の中でも見かけたミツバの群生がさわさわと揺れていた。
こんなとこに食糧が……。
(そういや、食事とかどうすればいいんだろうな)
天黎は食欲なんてないだろうけど、何も食べないのは身体に良くないしな……。
ガラガラと玄関が開く音がした。
誰が来たのだろうと行ってみると、そこには和服を身につけた女性の姿があった。
「天黎さんがお帰りになったということで、本邸より世話人として参りました」
女性の見た目は二十代半ばくらい。
でもこの人も長寿なんだろうから、実際はもっと歳上かもしれない。
大きな籠を手にしていて、中には人参とかジャガイモなど野菜が入っていた。ということは、食事もこの人が用意してくれるのかもしれない。
「俺、麦野といいます。お世話になります」
「ええ……天黎さんの、こ、恋人……と伺ってますわ」
「あ……はは……」
なんだかちょっと白い目で見られて、思わず苦笑いをする。
ま、覚悟はしてたけどな。
「そういえば、お布団てどこにあります? 天黎の調子が良くないんで寝かせてやりたくて……」
「それならこちらに……」
世話人の、菊花さんに連れられて家の中のこともついでに色々教えてもらう。
天黎は変わらずグッタリとしていて可哀想だ。押入れから出したお布団もちょっと冷たくなってたから、俺は庭で干すことにした。
菊花さんは食事の用意をしてくれている。
どんな料理が出てくるのかちょっと楽しみだ。
パンパンッと布団を叩きながら、これからのことを考える。
(とりあえず今日はゆっくりして。あとは……明日考えるか……)
なにしろ天黎の元気がない。
まるで世界の終わりがきたような悲壮感を漂わせている。
俺は霊場にきたばかりだけど、天黎をとりまく空気はどこかよそよそしくて、家族ですら距離を感じる。
聞いてはいたけど、実際に目の当たりにすると、なんだか心が痛くなる。
(そばにいてやらないとな……)
布団を干し終えたところで、庭に足音が響いた。
誰が来たんだろう。
「天黎いるか? 帰ってきたんだってな!!」
そこには、めちゃくちゃ格好いい、テレビに出てる俳優みたいな男が立っていた。
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