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十二話 一触即発!? フェンリル傭兵団VSグラセリオ傭兵団



 シラサゴ居住区画から徒歩数分のところには、露店市がある。

広い街道と、無数にある小さなテント。そのどれもが何かしらの物を売っているのだ。


「ここはね、貿易が少ないシラサゴでは貴重な場所なのよ」


 真冬は街道を歩きながら、後ろに続く鷹人たちに説明する。皆一様に当たりをきょろきょろと見渡している。鷹人は懐かしさ、紅たちは興味からだろう。

売られている商品を眺める彼らは、しかし、首をひねった。売られている物も値段も、商店街の方と何も変わらないのだ。

そのことを真冬に言うと、いいから、と言ってすたすたと歩いて行った。


「シラサゴは南部のほぼ全てを農業区画にしていてね、自給自足で暮らせるの。だから貿易する意味もないし住民の数もそんなに多くないから、自然と回数は減ってきちゃったんだけど……」


 真冬は、道に描かれていた謎の白いラインを越えたあたりで足を止める。

何故かラインが引かれたところから向こうは全てのテントに天幕がかかっていた。そして、そのどれもが大きい。テントというより屋台に近いかもしれない。


「すいませーん」


 と、真冬は一つのテントの天幕を押しのけ、中を覗き込む。が、返事がない。テントの主は留守なのだろうか。木でできたカウンターに、小さな商品棚があるだけで人の気配がない。

勝手に中に入った紅たちは商品を物色し、そして驚愕した。


「これって、外都市産の酒?」

「そのようですね。しかも高級品ばかり」


 そして、もう一段階驚きがあった。


「しかもこれ、全部安いよ……。どれもこれも、定価の半分以下だ」


 驚きを隠しきれない紅たちに説明するように、真冬がいう。


「さっきも言った通り、この都市は自給自足が出来ているから貿易とかあんまりしないの。特に名産品があるわけでも、お金があるわけでもないから貿易する意味はないしね。だけど、こういう個人貿易目的で来る人達がいるのよ。それが彼ら。で、さっきの白い線があったでしょ、あれは個人貿易商人たちと、地元商人のエリアを分けるための線だったってわけ」

「なるほど……。しかし疑問です。利益もないのに、なぜ彼らは貿易を?」

 

「利益ならあるぜ」と言ったのは急に表れた男。カウンター側から現れたところを見ると、裏から戻ってきたらしい。店員だろう。


「お、鷹人じゃねえか。帰って来てたのか!」

「まあな。てか気が付くの遅いっての。結構前だぜ、俺が帰ってきたの」

「外で何かあったってのは知ってたんだが、店を空けるわけにもいかんくてな。結局なにがあったのか分からずじまいだ」


 業魔が襲ってきたなどの場合はどうする気なのだろうか。

そして七華が手を上げた。


「先ほどの利益とはなんですか?」

「ん? ああ。そのことか。――まあ、利益って言っても、すぐ儲かるわけでもないがな」

「投資ということですか? 安く売るのも地域住民の評判上げのためで、商売場所の確立のためであると?」

「まあ、そういうことだ」

「なぜです?」

「何故ってアンタ知らねえのか? これからのシラサゴは―――」


 と、言ったところでテントの男は一瞬真冬を見てバツの悪そうな表情をした後、


「いや、なんでもない。忘れてくれ」


 あきらかに何かを隠している、といった感じだ。それを何か聞こうとしたところで真冬が少し焦ったように口を開いた。


「そうそう、おじさん。いいお酒ないですか? 出来れば安くて量の多いやつ」

「おう、あるぜあるぜ。これ何てどうだよ。――娯楽都市〝シザリア〟の高級地酒!」

「おお、いいですね! 紅さんもこれでいい? いいですよね!?」

「あ、ああ別にかまわないけど……」

 

とんとんと話は進んでいき、結局酒瓶を5本買った。全員で飲むなら丁度いいだろう。

 ちなみに料金は真冬がだした。というか他の人が出す前に勝手に払ってしまったのだ。


「こんだけ買ってくれたから、サービスとして配送つけとくよ。ついでにその荷物もな」


 男は黒の抱える荷物を指さし、空中画面を開くと配送を手配し始めた。


「ありがとね、おじさん。また来るから――ほら早くいこ」


 急いで天幕をでて、早足で東へ向かう。急ぎ足の彼女の横顔には悲しみがあった。カツカツと響く靴の音が、余計に悲しみを際立たせる。

誰も、明らかに何かを隠している彼女を問い詰めることは出来なかった。


           ●


 ……どうすっかなあ。それが鷹人の心境だった。この状況で選べる選択は少ない。

 そしてどれもそれなりのリスクの伴うものだ。

普通に聞けば、確実に重い話になるし、何よりはぐらかされるかもしれない。逆に、聞かず話を振ってみて、いつもの空気に戻すのも出来るかもしれない。

しかし、そんな選択肢は彼には関係なかった。

……聞くしかないよな。

それが幼馴染としての役割だ。それを察してくれたのか、仲間たちは自分たちの数メートル後ろを歩いている。

意を決して鷹人は口を開いた。


「なあ、真冬」

「なに?」


 返事はすぐに来た。意外に早かった返答に若干戸惑いつつも、その先を紡ぐ。


「さっきの事なんだけどさ、―――何を隠してるんだ?」


 率直過ぎる質問だが、鷹人はそういう男だ。周りくどくなくていい。逆に言えば言葉が選べない。周囲には人の気配がないのも関係してか、真冬はいつも以上に素直だ。


「……」

 

沈黙を持った真冬だったが、やがて一息つくと、口を開いた。


「分かった。全部話すわ」


 覚悟を決めた表情で真冬はぽつぽつと語り始めた。

ここは建造中の区画で、貿易商たちの拠点地予定の場所だ。今日の工事は終了しており、人気がないのだ。そのため周りを気にする必要もない。


「この街はね。グラセリオ傭兵団と雇用契約を結んでいるの。まあ、これにも色々あったんだけど、そこは省略するわね。――で依頼内容は〝シラサゴの無期限防衛〟」

「無期限? それってかなり金かかるんじゃ……」

「ええ。だからシラサゴも、それなりの対価を用意したの」

「対価?」

 

それは


「お金、商品、権限、名誉、そのでもない。もっと別のモノ(、、)。それは――」

 

真冬の言葉をかき消すように、世界が光と轟音に包まれた。


        ●


鷹人の判断は一瞬だった。光の正体を判断し、最善の行動に移る。

まず真冬を抱きよせ、そのまま体重を前に移す。犬耳の少女は驚きに目を見開くが今は無視。 足を前へ出し、膝を抜いた。結果として生み出されるのは移動だ。急加速による移動で、突風が吹いたような錯覚を受ける。

光が線となって、絡み合う二人の背後を貫いた。

轟音と振動が二人の鼓膜と腹を揺らす。軽い乗り物酔いになった気分だ。

 視界の端にそれを捉えながら、鷹人は己の中に確信を得た。

……砲撃術式か!

背後を抜けた光の砲撃は周囲の建物を破壊。熱量を持たぬ光線は強化コンクリート製の建造物を容易く粉砕し、窓ガラスを割り、土煙を舞わせる。瓦礫は全て破壊され、小さな石ころになった。

砲撃は鷹人の背後を抜けてから十数メートルのところで進撃をやめ、辺りに静寂が戻る。


「鷹人そっちは大丈夫かい!?」


 煙の向こうから、紅の声が聞こえてくる。どうやら向こうも無事のようだ。

「大丈夫だ」と返して、砲撃の発生源を探る。無論、自然現象で起こったことではない。明らかに人が撃ったモノで、しかもこちらを殺す気だった。

 

煙が薄くなり、壊れた建物の向こうから人影が現れた。シルエットとしては大きな体格に、先端近くに半月を持った長い棒。鎧を纏っているのだろうか、僅かに金属の擦れ合う音が聞こえる。

 影を筆頭に、数十人の軍勢が見えた。誰もかれも、半月を持った棒を掲げているのがわかる。

 その数に、鷹人は息を飲んだ。


「御初に御目に掛かる」


 煙の中から野太く張りのある声が響いた。そして影が手に持った得物を大きく振るう。

轟。風を切る音と、台風を思わせる大きな風が一陣。煙は吹き飛び、影の正体が露わになる。


「グラセリオ傭兵団、団長。ドミニク・マクシオンだ」

「やる気だなあ、アンタ」


 軽い口調とは裏腹に、鷹人の顔には少し焦りが浮かんでいた。それは他の面々にも同じだ。

 ドミニクと名乗った男は赤基調の全身鎧に長斧を担いでいる。後続にいる戦士たちも同様に長斧を担いでいた。

グラセリオ傭兵団団長、ドミニク・マクシオン。三十という若さながら、巨大傭兵団の頭を任される程の腕前であり、長斧の名手として知られている。


「で、その団長様が何の御用ですか?」


 七華は問うた。しかし警戒は解かず、臨戦態勢だ。


「何、と言われてもな。仕事としか言えん」

「その仕事はなんです? まさか、一緒に仲良くピクニック。何て事はないですよね?」

「最初から可能性を潰すのは感心しないな。あらゆる可能性を考えてこそ、一流の傭兵だぞ?」


 まあ違うんだがな。と前置きしたドミニクは口元を歪め、


「簡単な依頼さ。〝フェンリル傭兵団を殺せ〟ってな……!」

「それは―――!?」


 瞬間、場の全員が動いた。鷹人は何か言いかけた真冬を抱えて距離を取り、紅、黒、七華の三人は一瞬で彼らとの間合いを詰める。三人は拳を構え、ドミニクを狙いにいった。


「やめた方がいい」


 攻撃を仕掛けた三人の視界に円弧が映る。長斧の軌道だ。斧は無数に迫り、三人の丁度首を刈り取るタイミングだった。   

 

「……!?」


 間一髪のところで、三人は急制動を掛けた。前屈みだった体勢を無理やりのけ反る(、、、、)体勢に戻し、足を前に出したのだ。斧に切られる前に大きく後ろへ跳び、軍勢と距離を取った 


「昼間、水色の嬢ちゃんが蹴り飛ばしたヤツラは経験積みのためにやってきた新人だ。今いるのは数多の戦場を駆け抜けてきた猛者ばかり。所謂ベテランだ。つまり、格が違うんだ。分かるか? お前らでは到底かなわない(、、、、、、、)


 ドミニクの周りには数十人の戦士が斧を次に備え構えていた。さっき振り終えたばかりなのに、だ。これがベテランということなのだろう。

即座に守りに行く姿勢は、まるで三人が襲いかかるのを読んでいたかのようだ。  


「今、素直に投降するなら上に掛け合って、街を出ていくだけで許してもらえるよう掛け合うが? 最悪の場合でも楽に死なせてやる。どうだ?」


 感情のない目で問うてくる。おそらくこれも何百何千という過去から引き出した掛け合いなのだろう。

 とても業務的なものだった。


「さらにお前たちは武器を持っていない。術式だけでこの数を倒すのは無理だ。数も技術も経験も装備も、全て我々に劣っている。諦める事をおすすめしよう」

「その提案を信用できる要素はありません。現に貴方はこちらに対し不意打ちの砲撃を用いています。そんな人の何を信用しろと?」

「信用するかしないかはお前たち次第だ。――さあ選択を急げよ。でなければ死ぬぞ?」


 言葉と同時、五人が動いた。鷹人は真冬を抱えたまま横へステップ。三人は鷹人を囲むように動き、構えを取る。

それは明らかに戦闘続行の意思表明だった。


「馬鹿な。もっとも愚かな選択をしたぞ、お前たちは」

「あいにく諦めは悪い方でね。なにより、負けると決まったわけじゃない」


 紅の宣言を聞き、ドミニクは眉をしかめた。そしておもむろに右手を掲げる。

瞬間、軍勢が構えを取った。どうやらあの手が振り下ろされる時が開戦の合図となるらしい。。


「柊の時はうまくいったかもしれんが、我々はそう甘くはない。現実というものを教えてやる」

「はっ! 負けるかよ……!」


 威勢のいい言葉の後、鷹人は手で「下がれ」と真冬指示をだす。

 真冬は何も言えず、不安を引きずりながら後方へ下がった。

そして、鷹人が前へ出る。

全員が構えを取り、その瞬間を待つ。


場は緊張に包まれた。

全神経を集中。視界はクリアに、鼓動は適度に早く。体温は上がり、感覚が強化される。

そして、


――――腕が振り下ろされた。

どうも皆様こんにちは! 

最近プロットから大幅にずれて困っている浅野です。

やっぱ小説って難しい。


さてさて今回の神様の行進曲はいかがだったでしょうか?


久しぶりに真面目というかシリアスというか、そんな感じのパートに入りました。

これら数話はこのテンションで進むと思います。というかそろそろ物語の終盤に入ります。

自分で言うのもなんですけど、唐突ですよねー……

しかも、伏線も張ってない(少なくとも意識はしていない)ので、一気に進める感じになります。


ではでは、誤字脱字、感想やアドバイスなどお待ちしております!

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