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十一話 エネルギーの向け方は人それぞれ

遅くなって申し訳ありません!


今回でやっと住民かけっこ終わりです。

……なんか思いのほか長くやっちゃったなぁ

 




 議会堂『来客室』では、名高る英雄二人が言葉を交わしていた。

 それは事務的なものから始まり、世間話を挟んで過去の話へと移り、遂には飲み会の様な会話に成り下がっていた。

しかしアイナは、それらを聞き逃すことのないように耳に意識を集中させていた。

出されたお茶を飲み、お菓子を食べているが、その味も温度も何も意識には入ってこない。

……なかなかおもろい話しとるな……

アイナは賢い。十歳という若さながら、後方支援を担当しており、そのほかにも艦のシステム整理や共有術式の開発など、多岐に渡る仕事をしている。

しかしそれに驕ることなく、己が無知で経験不足な若造だと偏屈なく受け入れてもいる。

 そんな彼女にとってこういう会話を聞くのがとてもためになるのだ。

 今回のような会話は変に意識していないため、その人の考え方や価値観が素のまま伝わってくる。

 特に老人や功績者などの話は学ばされることばかりだ。


「アイナちゃん」


 声のした方へ視線を向けると千秋がいた。彼女はにっこりとした笑顔のまま隣に座ってきた。


「そんなに二人の話がおもしろい?」


 気づかれていたことに驚いたアイナは「ま、まあ…」と生返事を返す。


「なんで気が付いたか教えてあげよっか?」


 と指さしたのは、アイナが握るまんじゅうだ。


「饅頭の包装用紙ごと食べてたから」

「ごほっ、ごほっ!」


 思わず噎せ返り、アイナは「もっと早く言ってくれ」と、涙目で千秋をにらんだ。

 対し千秋は笑いをこらえた表情で、


「ごめんごめん。ちょっと面白かったからつい……。ほら、お茶あるよ」


 ジト目で受け取ったアイナ。千秋は相変わらずにやにやしている、 


「ふいー、助かりましたけど、もうちょい早く言って欲しいかったです……」

「ごめんってば」


 しばらくして、ねえ、と言葉をつづけた。


「アイナちゃんは、なんで傭兵してるの?」

「唐突ですね……。まあ、よう聞かれることですから馴れてますけど」


 アイナは語り始めた。


「うち、孤児院育ちなんですわ。院の中でも結構浮いてまして、街をふらふらしてご飯の時間だけ戻るっいう素行の悪い生活しとったんです」


 今でも鮮明に思いだす。奇妙な者を見る目線、恐怖の視線。様々な視線にさらされていた、あの頃を。


「んで、街をふらついとったら鷹人と会って、なんや色々あって傭兵団にスカウトされたんですわ。そして現在に至るっちゅうわけです」

「肝心な所省き過ぎじゃない?」

「ええんです、これで」


 ずずず、とお茶をすするアイナ。対し千秋は「ふーん」と返し、


「じゃあ最後に聞くけど、これからも傭兵団にいたい?」

「当然」


 即答だった。一瞬あっけにとられた千秋は、しかしすぐに笑顔になり、


「そっか……。なんだったら、妹として引き取ろうと思ってたのに……」

「そんな権限あるんかいな」

「あるよ、意外とね。――今なら危険も少ないし、受けてくれるかなって思ったんだけどなあ……」

 

 思わず素でツッコンでしまったアイナ。だが、まあいいだろう、と己の中で勝手に許した。

 敬語はつかれる。

 微笑んで見せた千秋は「まあ」と続ける。


「今が楽しいなら無理強いはしないよ。――ほら、お父さんにグランさん! 仕事の話に戻って!」


 手をパンパンと鳴らしながら立ち上がった彼女は二人に歩みよる。その二人はへらへらと笑ており「へーい」と返事を返すものの、反省の色は見られない。

 そんな光景には目もくれず、アイナは思う。

……うちを妹に、なあ……

どこか引っかかりを覚えたが、やはり姉が出来るという環境に違和感があるからだろうか。

それにしても正直嬉しい話だ。短い間だが彼女たちがいい人というのはわかったし、この街も暖かい。

 だが、

……やっぱ、鷹人たちについていくのが楽しいんよなあ……

彼らと一緒にいれば自分を見つけられる。無機質に生きるだけの自分ではなく、自らの意思で動く生きた人間が。だからついていく。

 辛くて、泣きたくなるような事も多いだろう。しかし、この選択で後悔はないと胸を張って言える自信がある。故に、これが最善の道だと、そう言える。

すると、通信を知らせる音が耳に入った。

それはアイナの通信機からではなく、来客室の固定通信機からだった。


「はい、秘書の千秋です」


 千秋が受話器を耳に当て会話をする。

こういう固定通信機は内密性を高めるため|、円形の小型スピーカだけの通信となる。


「……分かりました。すぐに知らせます」


 通信を切ると、すぐに向き直った。


「なにかあったのか?」


 盛孝の口調は贄神のものとなっていた。千秋はわずかに表情を苦くし、


「はい。グラセリオ傭兵団が動きだしたと連絡がありました。向かう先に、鷹人さんたちがいるとの情報も……」


 アイナは身を固くした。見れば千秋と盛孝も険しい表情になっている。

しかし、グランだけはいつも通りだった。ただ表情を隠すのがうまいのではない。本気で何も心配してないのだ。本人曰く、「心配してもしょうがないでしょ。めんどくさいし」とのことだ。しかし、アイナは決して薄情ものだとは思わない。グランは鷹人たちも信頼しているのを知っているからだ。


「如何されますか?」千秋の問いに、盛孝はしばし考え、


「決まっている。この街で殺し合いをされる訳にはいかん。諫めにいく」


 盛孝は席を立ち、出口の方へと歩いていく。

 そして首だけこちらを向け、


「グラン、俺は席を外すが、お前も来るか?」

「いや、俺はここに残るさ。面倒事は嫌いでね。アイナちゃんはどうする?」

「うちもここに残る。あのメンツなら大丈夫やろ」

「……わかった。では千秋、お前は残れ」

「しかし、それでは贄神様がお一人に――」

「構わん。諫めにいくだけだ。客人だけ置いていくわけにもいくまい?」

「……わかりました」


 しぶしぶと言った様子で、千秋は頷いた。


「あれ、俺らちょっと悪いことしたかな?」

「気にするな。では行ってくる」


 言葉と同時に扉が閉められた。部屋に響くのは扉の向こうから聞こえる盛孝の足音だけとなった。

 静寂が訪れる。

時を刻む時計の音がやけに響いた。が、それを気にした様子もなく、アイナが口を開いた。


「千秋さん。さっきの話なんやけど――」

「え、私の妹にならないかって話?」

「まあ、当たらずも遠からずなんやけど……」


 言葉を区切り、そして探るような口調で、


「――何か隠し事してへんか? それもこの街に関わる大きな事を」


 その声がやけに大きく部屋に響いた。


 



         ●

 




【シラサゴ居住区画街道】


真冬の作戦を聞いて、四人はそれぞれの反応を見せた。


「まったく。さすが鷹人の幼馴染だ。考えることが二段階くらいぶっ飛んでる……」

「同感です。この街にはまともな人はいないのですね」

「身内に容赦なさすぎ……。恐ろしいね、君」

「え、ちょ…。ひどいですよ皆さん!」

「にしし、相変わらずだよなあ、真冬のハチャメチャ作戦」

「鷹人にまで言われた……。必死に考えたのに」


 むくれる真冬をよそに、鷹人は言う。


「で、どうする? 俺としては賛成だぜこの作戦」


 挑戦するような笑みで鷹人は問う。 


「そんなのやるに決まってるさ。楽しそうだし」

「……今までも似たようなことはしてきたからね。これくらい出来なきゃ傭兵団の名折れかな」

「右に同じく」


 意見はまとまった。


「っつう事で、作戦指揮を頼むな真冬!」

「え、私……!?」


 軽く言う鷹人に真冬は驚く。


「あたり前だろ、作戦考えたの真冬だし。まず俺、作戦内容覚えてねえ」


 さっき言ったばかりだろ、とツッコミを入れる余裕もなく、真冬は困っていた。

たしかに立案したのは自分で、責任はあると思うが今まで作戦指揮など経験にないため、やり方が分からない。


「それと、敬語はいりませんよ。作戦指揮の時に邪魔なだけでしょうし。――ちなみに私は敬語がデフォのキャラなので気にしないでください」

「え、ええ……。分かったわ」


 自分でキャラとか言っちゃうんだ。と気楽なツッコミを思いながらも内心の動揺が消えないでいる。

命に関わる作戦ではないため、責任重大というわけではないが捕まればタダではすまない。主に自分の精神が。

 そんな事を考えていると、紅が励ましてくれた。


「ま、肩の力抜いて適度に頑張んな」


 頼れる姉貴分のような雰囲気だったが、まったくその通りだったらしい。失敗しても笑って許してくれそうな優しい人だ。


「失敗したら、鷹人と真冬の恥ずかしい過去を話すってので許してやるさ。もちろんさっきの事も含めて」


 前言撤回。この人はドSだ。


「おいおい姉御、それは俺にも被害が来るんだけど……!?」

「あ、紅姉さん。その時は私も同席していいですか?」

「あ、俺も」

「おうおう、じゃあ皆で酒でも飲みながら話してもらうか!」

「無視か……」


 どんどん話が深く大きくなってしまった。息継ぎついでに大きくため息をつくと、鷹人と目があった。


「ねえ、いつもこんな感じなの……?」

「ああ、そうだぜ。賑やかだろ?」


 確かに賑やかだ。いい意味でも悪い意味でも。


「こういう人たちで、こういうノリなんだね。なら仕方ないか……」


と諦めと覚悟を決め、息を吐く。


「それじゃあ、始めよっか」

 

言うと、威勢のいい返事が返ってきた。

 こうして、もっとも意味のない作戦が開始された。


          ●


鷹人たちを追うもの達は異変に気が付いた。


「おい、なんかペース上がってないか?」


 彼らの走るペースが速くなっているのだ。


「おいおい、あと数十メートルで追い込まれるってわかってて、何でペース上げるんだよ」

「何か作戦でもあるんじゃないか?」

「術式使うのかもな」

「ありえる。あの姉ちゃん達なら、すげぇ術式もっててもおかしくねぇ。鷹人は知らんが」


ノリで追いかけているのにこの本気。エネルギーを向ける方向を完全に間違えている。しかし、誰もそれを疑問に思わない。なぜなら、楽しいことをするのが彼らの生き甲斐だからだ。

こればかりはどうしようもない。


「こっちもペース上げとくか? 突き放されたらキツイだろ」

「いや、それこそ向こうの誘いかもしれん。ここは様子をみるべきだ」

 それぞれの意見が対立してまとまらない。決めあぐねていくと、鷹人たちに動きがあった。


「鷹人と黒い坊主が前へ出たぞ?」


 そして、次の動きが生じた。黒が上へ跳んだのだ。多くの荷物を持つ者の跳躍とは思えないほど高く。


「もらい!」


 すぐさま建物の上に待機していた捕縛網大筒を持つ者達が一斉に発射する。

 この上ないタイミングだった。対象が跳び、一瞬の無重力を得る瞬間。絶対に逃げられないタイミングで網は対象を捕える。が、


「なっ……!?」


 しかし網の中にあったのは、


「袋!?」


 食糧などが入った袋だ。黒を見れば、丁度地面に着地する瞬間だった。


「まさか、跳んだ瞬間に荷物を押し、その反動で地面に戻ったのか!?」


 跳ぶ威力と、押す力をうまく調整しなければならない難しい芸当だ。黒はそれをさも当然のようにやってのけた。


「余所見禁物さね」


 いきなり、捕縛網持ちの目の前に、紅色の円弧が描かれた。紅だ。円弧は彼女の髪が描いたものだろう。

 見れば対岸の男の元にも七華がいた。

タイミング的には袋が網に捕えられた瞬間。紅と七華がそれぞれ跳んだのだ。


「くっ……!」


 紅は蹴りを放つ。鋭い右上段蹴りだ。足先は彼ではなく、大筒に吸いこまれるように放たれる。

 ガンッ! という音と共に大筒が宙を舞う。

 大筒が地面屋根に落ちるのと、黒が袋をキャッチするのは同時だった。


「まじかよ……」


 驚きの声を上げる住民一同。しかし、状況はまだ続いている。


「ほら、また余所見してる」


 茫然立ち尽くす住民の中から声が上がった。それは聞き覚えのある声で、聞こえるはずのない声だ。


「ひ、姫ちゃん、どうしてここに……!?」

「鷹人に投げ飛ばしてもらったの」


 まず先行した鷹人がそのままの向きで足を踏ん張る。そして肘を伸ばし、両手のひらを組むのだ。そこに真冬が走っていき、背を飛び越えて組んだ手に乗り、鷹人が全力で腕を振り上げ、真冬を投げ飛ばせばこの状況の完成だ。


「なんてむちゃくちゃな……」


 絶句する皆をよそに真冬は笑顔で告げる。


「みんなハッチャけ過ぎだから、反省してね?」


【術式発動 範囲:半径五メートル 効果:電撃】

【〝雷陣〟発動】

 

 瞬間、電撃が走った。

 青白い線は光となって人から人へと飛び移っていく。


「あばばばばばばば―――――っ!?」

 

雷陣。対人用に作られたこの術式は、最大出力ならば人体が蒸発するほどの発電量と発熱量を持つ。が、今回は最低出力で、しばらくしびれて動けなくなる程度だ。痛みもあまりない。

真冬は地に伏して時折体をピクツかせる皆に視線を向け、吐息を一つ。


「これで終わり!」


 満面の笑みでそう告げた。


          ●


そのあとの動きは思いのほかスムーズだった。

痺れの切れた住民たちは潔く引き下がり、皆自分の帰るべき場所へ帰っていった。

曰く「一発入れられてたら負け」だそうだ。この街に馴染みのない三人にとっては不思議なルールだったのだろう、未だに納得した表情はない。

 対し鷹人は行き止まりの方をみて「うわー、あんなに近かったのか……」とぼやいている。

相変わらずマイペースだ。なにはともあれ、無事に終わってよかったと真冬は思う。


「そろそろ帰ろうか。――皆、家に上がっていく? たいしたものは用意できないけど」


 真冬の提案に、紅は否定で返す。


「いや、アタシらも荷物戻さなきゃなんないし、おっさんらの話も終わる頃だろ。ついでに拾って帰って飯にでもするさ」

「どうせなら、真冬さんも来ては如何ですか?」

「え、いや私は――」

「おお、そりゃあ良いな! こいよ真冬!」


 いち早く反応したのは鷹人だ。一瞬あっけにとられた真冬だったがすぐに微笑を浮かべ、


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

「ようし、決まりだな! さっさと帰ろうぜ!」


 鷹人の一言で全員が動き出した。こういうところはリーダーらしいのだろうか。


「せっかく客人が増えたんだ、帰りに酒買ってくよ!」

「まだ荷物増やすの姉さん?」

「まあまあ、いいじゃねえか」

「先輩は飲みたいだけでは?」

「ふふふ、良い酒屋があるから、そこに寄っていきましょ?」  


 五人は和気藹々としながら、居住区を歩いていくのだった。







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