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十話 逃走、逃走、暴露!

遅くなってすいません!



多くの人を背後に引き連れ、黒、紅、七華の三人は走る。

周りを歩く住民は彼らを避けるか、後続の群衆に加わるかの二通りの反応を見せた。

その中、紅は思う。

……こいつら、無駄に連携取れてるさね!

先ほどからこちらの進行方向に回り込んだり、はたまた地下に繋がる階段から出てきて進路を塞がれたりで、とても素人とは思えない連携を見せている。

身体能力では圧倒的にこちらが勝っているに関わらず、ここまで追い詰められるのは予想外だった。


「また回り込まれた!」


「左に道があります、そちらに!」


前方と後方から迫る住民を避けるため、唯一ある左への道へ身を滑り込ませた三人。

道は先ほどに比べ少し細くなり、三人並んで走るのはキツクなってきた。

しかし、疑問に思う。


「……何で、アイツらは左から来なかったんだい?」


「おそらく追い込まれているのかと」


「同感だね。身体能力で劣る向こうからすれば、こちらの進路を完全に塞ぎたいだろうし。このままいけば上も塞がれるんじゃない?」


「……最初っから上に逃げればよかったかね……」


「――いえ、案外そうでもないかと。見てください」


七華の上向きの視線の先には、数人の男。

彼らは皆、大きな筒を持っている。

それは砲口から対人捕獲用の大きな網を発射するものだ。

ご丁寧なことに、こちらを囲むような陣形で配置されている。


「おそらく、上に跳んだ瞬間にアレで捕獲されるでしょうね。空中で全方向から撃たれれば避けようがありませんし、抜け出すのに時間がかかるかと」


「その間に後ろの奴らでもみくちゃにしようってかい?」


「だろうね。さすが対鷹人捕縛網……」


思わず苦笑してしまう。

それは、こんな時まで傭兵としての思考がやめられない自分たちと、ここの住民に対するものだ。


「さて、どうする?」


「……仕方がないですね。黒さんを囮にして逃げますか」


「おかしいよねー、思考回路ぶっとんでない?」


「大丈夫です、ええ、大丈夫ですとも」


「俺が大丈夫じゃないんだっての……。まあいざとなれば、それも仕方ないか」


黒は呟きながら、異変に気が付いた。


「……ねえ、いつの間にか一本道になってない?」


見れば、様々なデザインの建物が隙間なく並んでいる。

道幅は広くなっており、十人は並べそうだ。

所どころ下へ降りる階段の様なものがあるが、それ以外に道らしきものはない。

風景から察するに居住区画だろうか。


「そろそろ潮時かね」


「だね。階段を降りるにしても地下なら囲まれて即終了」


「しかし、このまま行っても囲まれるだけ」


「腹くくるか……」


「はぁ……夜までに帰れるかな……?」


「どうだろうね」


三人が諦めた表情でいると、進行方向に人影か一つ見えた。

エプロンをつけ、髪をアップにした壮年の女性――女店主だ。


         ●


女店主は視界から大勢の人が走ってくるのを見た。そのほとんどが顔見知りであり、組まれている陣形も見覚えのあるものだ。

……あれってたしか、鷹人捕獲用の陣形だったような……。

よく見れば、彼らを引き連れるようにいる、三人の影が見えた。

……ああ、確か鷹人んとこの……

彼の仲間だったか。と心の中で確認を得た彼女は、一瞬考える素振りを見せたあと、ニヤリと笑い。


「おーい、アンタらー!」


片手を大きく振った。


「お、あれは商店街の松の姉御じゃないか?」


「ああ、姫ちゃんの忘れもの届けてくるって言ってたな」


後ろから声が多数上がる。

彼らが三人を追っている理由は解らないが、皆のスイッチが入っているならば言う事はただ一つだ。

一度大きく息を吸い、


「鷹人と姫がいちゃいちゃしてんだから、邪魔しちゃいけないよー!!」


言った後、背後から足音が聞こえてきた。

鷹人と真冬だ。

二人は慌てた様子で自分に詰めより、


「松さん! そんな大声で言わないで!」


真冬は帽子をかぶっておらず、犬の様な耳をぴくぴくと震わせている。

感情とリンクしているのだろうか。

一方鷹人はこちらに気が付き、


「あ、やべぇな……」


引き攣った笑みであちらを見る。

それもそうだろう。

大人数が押し寄せているのだ。

しかし、何より。


「鷹人が」


「姫ちゃんと」


「いちゃいちゃだと……」


「「「アイツ許さねぇえええええ!!」」」


火に油を注ぐ行為だった。


          ● 


女店主――松の声は男衆を中心に広がった。

彼らの目は、得物を見据えた狩人のようにギラギラとしたものになっている。


「あー、なんてタイミングで……」


「あのバカ、こっちが苦労してる時にいちゃついてたんさね。あとで締めとくか」


「それができる元気があればですけど……」


後ろを見れば、暴徒と化した住民が波となって押し寄せてくる。


「待てコラ、鷹人ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


前方にいる鷹人と真冬も慌てて走りだした。別に真冬は逃げる必要はないはずだが。

そんな彼らに並ぶようにこちらも速度を上げた。


「おう、お前ら。こんなところで会うなんて奇遇だな」


「ええ、そうですね。最悪なタイミングですが」


並んだ五人は併走しながら、会話を交わす。


「それにしても鷹人。意外さね、アンタに女といちゃつくなんて高度なことできるなんて」


「あー、それは同感です」


「アレだ、ぐうはつ的なじこってやつだ!」


「偶発的だから事故っていうんさ、鷹人」


紅の冷静なツッコミに、鷹人は唸り声を返すしかなかった。


「そうです! あれは、事故です、事故!」


対し真冬は、鷹人の言葉に便乗した。

二人の必死の反論に、三人はふーんと軽く返し、表情を変える。


「まあ、それは後々聞くとして、これからどうするさね。アレに捕まったらタダじゃ済まんだろうさ」


「だね、このままいっても追いつめられるし、どうするリーダー? ――あ、ごめん。無理か。バカだから無理か」


「おいおい、黒すけ。俺をバカにしてるだろ?」


「よく気が付いたね。っていうか黒すけ言うな」


軽いやり取りの後、真冬が小さく手を上げた。

あの、と前置きした後、


「この先は、任せてくれませんか?」


その言葉に、皆顔を合わせた。


「何か策でもあんのか?」


うん、と真冬は頷いて見せた。


「久々だからってみんな騒ぎすぎだし、お灸をすえなきゃね」


そういった真冬の顔は、とても怖かったと、後に四人は語る。



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