初舞台
団長ダミアンは、一人魔族の大陸へ飛ばされていた。
「こんなに真面目に仕事してるのに、なんで俺だけ!」
足踏みをしてみても遅い。可愛い家族の様な劇団員と、愛しのアレックスは別のところへ飛んだらしい。
「魔王様!」
火山灰が舞い散る中、振り返ると、そこにいたのは青い肌をした羽付きの人間がいた。いや、人間と呼んでもいいのかわからないが。某テレビドラマで有名なホワイト・ウォーカーみたいな人間か、あるいはヨトゥンヘイムの氷の巨人族だろうか。コウモリの様な羽も生えて、宙に浮いている。なのにバックグラウンドは活火山。
「なかなかシュールだな……」
自分自身はモヒカンにサングラス。上半身は素肌に革のベストと、黒のタイツにトゲトゲのスパイクパンツを履いた、完全なる変態さんの姿である。舞台のためにこんな格好をしているのであって、普段は普通にジーパンにTシャツだったり、ビジネスの話をするときはスーツも着たりするのだ。決して趣味ではない。
でも今は。
「あちゃー……舞台ほったらかしにして来ちゃったよ。参ったなぁ。違約金、かかるよなあ。困るんだよねーこういうの。ちゃんと予定を組んでもらわないとさぁ。二部隊の連中だけで捌けるかなあ。あー心配……。と、それよりも今は俺。えーと、俺のこと魔王様って呼んだ?」
「ハイっ、魔王様ですよね!お待ちしていたのです!」
やけにハキハキした、ファーストフード店の模範店員のような態度に、ダミアンはちょっと気が抜けた。
「ここ、地獄?」
「違います!ここは魔族すむジーランド半島です!魔王様!」
「……なるほど?」
よくわからないが、ここはジーランド半島で、俺は魔王、と。
「なんでだよ。俺パフォーマーだよ。劇団長だよ。知らねーよ魔王とかそんなもの」
ブツブツと相手には聞こえない様に口籠ったダミアンだったが、ここで魔王じゃないといえばどうなるか、バカでもわかる。心を決めて、魔王になり切るしかないだろう。
「フハハハハ!その通り!俺様は魔王である!フハハハハ」
――さぁて、ここから、どうしようかな。
魔族はとても素直な種族だった。ちょっと普通の人間とは感覚が違うけど、俺も普通とはちょっと違う。
思えば、普通じゃないガキどもばかり集めて育て上げて来たのだ。肌の色が青かろうと、羽が生えていようと、口から見える牙が恐ろしかろうと、言葉が通じるなら皆兄弟。
「お前たち、いい筋肉してるじゃないか」
そんなわけで、アレックスたちを探しながら、魔族を調教――ゲフンゲフン、パフォーマーとして育てながらここまでやって来たのである。
なぜアレックスたちと時差があったのかはわからない。ダミアンは数ヶ月の時を魔族と共に過ごし、臭い飯、じゃなかった、同じ釜の飯を食ってきて、仲間意識も育て上げた。そして何より、彼らの特殊能力は、劇団スピネルにうってつけだったのである。
空を飛べるから、空中技が綺麗に決まる。
筋肉が柔らかく、前屈も開脚も床にピッタリ隙間なく決まる。特技を持っている奴は火を吐くし、風を巻き起こすし、足から根っこが生え、指から枝葉が出てくるのもいた。布パンツ一丁でも恥ずかしがる種族でもない。ダミアンのモヒカンが霞んで見えるほどの、ナチュラルなモヒカン族でもある。
「舞台装置の維持費が減る……」
エンタメの血が騒いだ。
「これでスピーゲルテントさえあれば。『ラ・ロンド』も夢じゃない……っ!」
そしてはるばる人間の住む大陸まで――まあ、ダミアンは籠に入れられて魔族に運んでもらっただけなんだけど――やってきた。
アレックスの履いた下着の換えを持っていたため、それを忠犬(?)に匂わせて、匂いを覚えてもらってからは早かった。アレックスが病んでしまう前に見つけなければならなかった。
そして、テントを見つけたのである。
「長かったぜー」
「見つけてくれてありがとう、ダミアン。アタシの心の臓。魂の片割れ。もうちょっとで狂うところだったわ」
「そういうとこ、お前の方が魔王っぽいよ」
「やーね、アタシはダミアンのお姫様でいいのよ」
「姫はちょっとなー」
「……浮気、してないでしょうね?」
「してない!してない!そんな暇なかった!さ、さー、そろそろ舞台を始めようぜ。準備はいいか?」
「……あやしい……」
嫉妬深いアレックスであった。
宝物庫へ行っていた会計係が帰ってきた。
宝石箱の様なものや金貨がぎっちり詰まった袋をいくつか持ち出し、王冠や秘宝の首飾りも鷲掴みにして来たらしい。雑な仕事だが、魔族だから仕方がない。ちゃんと人数分計算して分けておく様に言い付けると、会計係の魔族たちは嬉々として帳簿をつけ始めた。
アレックスは目ざとく「その宝剣、アタシの!」と唾をつけている。
ちなみに国宝ものの首飾りはマリンへと渡り、セルゲイはこっそり王冠を手に入れていた。すでに魔族との連携も取れている劇団スピネルである。
外では、先ほど魔族と戦って死屍累々の騎士たちが、怪我の手当てを魔族たちから受けており、どちらも困惑気味である。しかし魔王様の命令は絶対なのだ。
「死人とか出したら、お尋ね者になっちゃうしね」
「俺たち真っ当なサーカス団だし」
「そうそう。ちゃんと契約料さえ払ってもらえれば、文句ないし」
その陰で、クアトロが鼻血を出しながら、ダミアンの持っていたジッポーのライターを開けたり閉めたりしていた。とても嬉しそうな変態であるが、使い方を魔族から教わって幸せそうである。
マリンはすでにミラーボールの上にいるし、セルゲイはユニサイクルで登場する。そして、準備が整ったアレックスとダミアンが、観客席をステージ裏から見ながら肩を抱き合っていた。
「な?金はちゃんと現物見てからじゃないと、こうやって騙される羽目になる」
「わかったわ。アタシもまだまだね」
しかしアレックスもインゴットは100gのつもりを1kgに書き換えて黙っていたので同類である。そんなことは真面目なダミアンには言わないが。
しょぼんと肩を落とすアレックスの頭にキスを落とすとペチと叩き、ダミアンはすっくと立ち上がった。
「さあ。見せてやろう。俺たちの、異世界「ラ・ロンド」を!」
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