魔王登場!え、魔王!?
キンキン、カンカン、と剣の合わさる音が響いてきた。
「やっぱりここ、舞台よね。三銃士みたいなのかな」
「魔族がここまでって、大丈夫なのかしら?勇者様たち覇気がなさそうだけど」
「いや、ブラックアダーみたいなコメディかも」
「彼らには彼らのやり方がある。我々はここでじっとしている方が邪魔にならないのだろう」
マリンとセルゲイの会話に混じって、貴婦人と紳士たちの会話が入り混じる。ある意味どちらも緊張感が高まっているのではあるが、緊張の度合いが少し噛み合っていない。
マリンはミラーボールのチェックをしながら柔軟体操を始め、セルゲイもトンファの様なものをいくつか手にしてバトンの様に投げては受けまた投げてと、手首を慣らしている。
アレックスは音のする方に顔を向け、何か考え込んでいるようだ。
「どうしたのアレックス」
「いや……。ダミアンの声が聞こえた様な気がして」
「ダミアン?団長が来てるの?!」
「アタシがダミアンの声を聞き逃すなんてこと、あるわけないもの」
「じゃあ、向こうで騒いでるのって……」
ダミアンはアレックスの最愛の人である。
若い頃、マフィアの息子だと恐れられ、荒れに荒れていたアレックスを見つけ、劇団に誘ったのがダミアンだったのだ。それ以来、魂の片割れとお互い呼び合うほどの仲で、間に誰かが入ろうものなら、地獄のケルベロスの様に襲い掛かるのがアレックスだ。だからダミアンはアレックスの首に綱をつけておかねばならない。
実はイセカイショーカンによって引き離されたことで、少々情緒不安定になっていたのだが、それもここは舞台の上、と敢えて考え、正気を保っていたくらい。なんでもない顔をしてヒヤヒヤしていたのはマリンとセルゲイだった。
「アタシをほったらかしで、前座してる……?」
もやっとアレックスの背後に黒い陽炎が浮かんだ気がした。
「あっ!ち、違うと思うよ?きっと客寄せだよ?お客さん連れてきたんだよ?」
慌ててマリンが明るく引き留める。
マリンはアレックスが入るより前に劇団にいた。その当時12歳。家出少女だったマリンを育て上げたのもダミアンである。本当は体を売ろうとしていた時に、たまたまダミアンを引っ掛けようとして、逆に保護された口だ。マリンとしては兄の様に慕っているのがダミアンである。
だから、アレックスとは何度も喧嘩をしたことがあった。
ダミアンはバイセクシャルだったのだが、流石に少女に興味はないと言われて振られて、サシの勝負で負けて以来、アレックスをダミアンの唯一と認めて今に至る。
なかなかに重い過去を背負う劇団である。
セルゲイは単に実力を認められて入った口で、自分は女の子が好きと豪語してるため、すんなりと団員から受け入れられた。他にも団員はいるが、花形スターはこの三人プラス、まとめ役兼クラウンのダミアンである。ちなみにマリンは、今のところ女たらしのセルゲイに興味はない。
「テントがあるじゃないかーーー!もっと早く言ってよーー、ちょっとぉぉぉ!」
歓喜の声を張り上げながら、バサァッと派手にテントの入り口を開けて入ってきたのは――!
「ダミアーーーン!!」
アレックスが両手を広げて奇声を上げた。
黒いマントを肩から引っ提げ、上半身はやはり裸、下半身は黒いタイツにブリーフスタイルのスパイクパンツをつけている、異様な姿の男。頭は赤く染めたモヒカン、丸いサングラスは異様にキラキラと光っている。ちなみにスパイクパンツというのは、鬼の金棒の様なトゲトゲがいっぱいついた鉄のパンツのことである。これも舞台の小道具だ。
そして、後ろに引き連れているのはコウモリの様な羽の生えた青っぽい肌色の人々と、犬の様な鳥の様な、よくわからない騎乗型の動物で。
これぞ魔族。
キシャーッと長い牙を剥いて威嚇する姿にテントの中は悲鳴で溢れかえった。
しかし先頭に立つのは、その逆三角形のモリモリの体つきといい、格好といい、確かに我らが団長ダミアンで。
「やっぱり、アレックスゥーーー!」
ガシィッと上半身だけで抱き合う二人。いや、下半身はしっかり引いてスパイクが刺さらない様にしていたが。
「会いたかったわーーーっ!!」
「もうもう、いきなり光に包まれたからどうしようかと思ったら、俺だけ別のところに飛ばされちゃうし、一体どうしてこうなったのか心配してたんだ!会えてよかったっ!」
アレックスの丸坊主を撫でくりまわす、どう見ても魔族の王を見て、青ざめたのは王国の人々と他国から招待された王族たちである。
「一体何を召喚したのだ!」
「こんな場所に我らを呼んで、一芝居打ったのか!?」
「裏切り者め!」
テントの中はカオスの渦に巻かれた。
しかし。
ここに集まったのは、芸人中の芸人。プロ中のプロ。
劇団スピネルの面々である。
「これ、契約書ね」
「おお。任せるべきはアレックスだな。よくやった。なになに……金のインゴット1kgを一人ひとつ?宝物庫から何を持って行っても構わない?ただし一人一個?なんだ、これ?」
「だってイセカイショーカンだもん。金なら向こうでも換金して使えるでしょ?」
「なるほど……。よし、まずは実際に現物があるのか、彼らに調べさせよう」
「彼ら?」
ダミアンの後ろに控えて、命令を待ち侘びる魔族とその忠犬(?)がハッハッと舌を出していた。
「会計係!宝物庫を探せ!ギャラはそこから出るぞ!金のインゴット、一人1kgだ」
会計係、と呼ばれた数名の魔族は「アイアイ、キャプテン!」とばかりにとばかりに城の方へと突進して行った。
あちこちから悲鳴が上がるが、その声もだんだん遠ざかっていく。
テントの中に静寂が訪れる。
「……………」
敵はどこへ?
王様がポツリとつぶやいた。
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