異世界召喚されたらしい
マリンの言葉に、アレックスとセルゲイも動きを止めた。
「舞台じゃ、ない?」
ピンク色のスモークが綺麗に消え去った後には、どこからかぶら下がっているミラーボールと、三人のパフォーマーが残された。
キョトンとしたマリンの顔は体に合わず幼げだ。セルゲイがさりげなく自分が羽織っていた白いジャケットをマリンの肩にかけた。周囲の男達の目がマリンに釘付けなのに気がついたからだろう。
王子様然としたセルゲイの真摯な行動に、女性陣の好感度は一気に上がった。そしてセルゲイのしなやかな筋肉質の上半身に、ますます好感度は上がる。背中の天使の羽のタトゥーも注目を浴びた。
「天使様」
「勇者じゃなくて、天使様だったのね」
さざめきが広がっていく。それを聞きながらも、三人は意に介せず周囲を見渡した。
「舞台でないなら、何なの、ここ」
アレックスがつぶやく。先ほどまで見せていた色気ムンムンの視線ではなく、気だるげな調子で片足に体重を乗せ小首をかしげる。そのアンニュイな仕草に、一部の男女が声にならない声を上げた。ちら、とそちらの方に視線を流すアレックス。
流れ弾に当たった女性が、胸を押さえてうずくまる。
よく見れば、舞台は整っている。天幕が張られ円形の高台が中央にあり、そこに自分達は立っている。周囲はその台を囲むように観客席が設けられており、満席だ。
ふむ、とアレックスは考えた。
これは噂に聞く異世界というものではないかと。
「お、恐れながら、勇者諸君!」
震える声で、ラリア王国の王が立ち上がった。
しかし王は舞台から離れた高台に席を設けてあったため、その声は聞き取りづらい。国の重鎮達は皆VIP席で上部にある。床に近いのは、実行部隊、つまり王太子を中心にした魔道士達であった。
「あなた方は、勇者で間違いないか?」
マリンは首を傾げた。
セルゲイが耳を澄ます。
アレックスが目を細めた。
「良く聞こえないな」
「おじいちゃんだもの、マイク貸してあげた方が良くない?」
「いや、待て。あそこの提灯ブルマーが立ち上がっている。なんか偉そうだ」
三人が視線を向けると、そこには真っ赤になって立ち上がっているアルハンソロがいた。
金髪碧眼で《《そこそこ》》いい男ではある。提灯ブルマーに白タイツを履き、靴もちょっとヒールのあるパンプスのようなものだ。ちょっと時代は違うものの、イギリスの貴公子みたいな格好ではあった。「この世は舞台、人はみな役者だ」とシェイクスピアが言ったように、この人も言いそうな雰囲気であった。
「舞台衣装?」
「そうじゃなきゃ、あれはコスプレだな」
「わかったわ。これはイセカイショーカンね」
「イセカイショーカン?」
アレックスは、アニメオタクである。
メイド・イン・ジャパンのアニメが大好きで、フィギュアも集めているほどだ。趣味についてあれこれ言われる筋合いはないので、堂々とオタクを名乗っていた。その中に異世界召喚というものが多々あった。別の生き物になってしまうこともあるらしいが、今回は違う。
「日本では普通によくある事として考えられているらしい。間違いない」
「よくあるんだ?」
「さすが日本。4千年の歴史か……」
「それって日本だっけ?」
あまり動じていない二人を横目に、アレックスはもしかして自分達は死んだのか?という疑問は飲み込んだ。
一応団長補佐の身分をもらっているアレックスは、団員の精神的安定も見なくてはならない立場にあるため、悪戯に不安にさせる訳にはいかない。
「ダミアンはどこ行ったのかしらね。団長のくせに、肝心な時にいないんだから」
「スパイクパンツがないって探しに行って戻ってこなかったな、そういえば」
「しょうがない。ここはアタシが交渉するわ」
話は決まり、アレックスが一歩前に出る。素の顔から、ショービジネスの顔へと変わる。ツンと顎を上げ目に力が入った。
「アタシ達をここに呼んだのは、あなたかしら?」
「アレックス、言葉遣い」
「おっと。俺たちをここへ呼んだのは、あなた方か」
アレックスは素ではおネエ言葉を使う。ゲイであるからということもあるが、上背があり筋肉質で眼力が強いことから、怖がられることが多かったのだ。姉の子供に泣かれて以来、言葉は柔らかめを心がけていたら、おネエ言葉に落ち着いた。
しかしながら、アレックスの風貌は交渉ごとには役に立つ。何せ身長は190cmを超える坊主頭だ。地元でもきっちりとスーツを着こなすとマフィアか何かに見られてしまうほど。
真っ赤な顔をしたまま、固まっていたアルハンソロにもう一歩近づいた。舞台の上にいるせいで、いや、そうでなくても見下ろす形になってしまうが、仕方がない。
「どういうつもりで俺たちをここへ呼んだのか知らないけど」
意識して少し低い声を出す。
威圧。
アルハンソロの顔が赤から青に染まった。
忠実な騎士達が、アルハンソロを守ろうと震える手を剣に置くが、アレックスは動じない。舞台でも剣は使うことがあり、それなりに使い方はわかっているつもりだ。装飾の多い剣を見て、欲しいと思ったことは内緒である。
「舞台に上がるからには、見物料は頂くよ」
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