勇者召喚をしたはずが
新連載の異文化ショービジネス・コメディです。
その日、ラリア王国は緊張の海に包まれていた。
「本当に成功するんだろうな……?」
エトルランド大陸は、五大陸のうちのひとつ、人間のみが住む大陸である。近隣に浮かぶ島々には獣人族が、そして海を越えた西の大陸には魔族が住んでいた。
ところが、最近になって魔王が復活したと神殿からのお告げが入り、近隣諸国はアリの巣を突いたような騒ぎになった。100年以上も昔、魔族に襲われ壊滅状態に陥った人類だったが、今日までなんとか立て直し、ようやく安寧を築き上げた矢先だったのだ。
それならば、前回のように不意をつかれる前に、こちらから準備は万端にして迎え撃とうではないか、という話になり、魔道に優れたラリア王国が初の異世界召喚術式を作り上げたのである。
本日は、その召喚が実行される。
王宮の中庭にはそのためのテントのような簡易舞台が組まれ、近隣国の関係者と王国の貴族達およそ二百名余りが輪を描いて席に着く。中央に組まれた魔法陣は神々しく、青白い光がほのかに発光していた。
「いよいよだ……!」
カッと光が強くなり、一瞬辺りが白く染まる。そしてその後に、現れたのは――。
ピンク色のスモークだった。
「……なんだ、これは」
淑女達が扇子を開き口元を隠す。
何人かの紳士は、モノクルをかけ中央を見極めようと身を乗り出した。
ピンク色のスモークの中に、キラキラと輝くものが見える。それはミラーボールだった。
当然この世界の人間はそれが何なのかわからないが。
その上に一人の女性が座っている。
「人だ。女、か?」
ミラーボールの上に座って上半身を仰け反らせ、片足を空に上げているその姿に人々は息を呑んだ。
「Ladies and gentlemen!Welcome to ――La Ronde !! 」
そんな言葉と同時に激しい音楽が鳴り響いた。
マイクを片手にいきなり歌い出したのを見て、戸惑いが隠せない。
二百人余りもいる簡易テントの中でもはっきりと聞こえる歌声に、魔道士達が顔色を変えた。
「魔導具か?拡張機の一種なのだろうか」
「楽部隊がいないのに、どこから聞こえてくるんだ!?」
ざわめきが広がる中、もう一人、舞台の上に立ち上がった男がいた。
「あっ、あれは……っ!?」
背の高い、肉体美。
上半身は裸。
ラメの入った黒いスラックスを履いているものの、その体を支える足元は赤いハイヒール。
淑女達が一斉に扇子を広げ、顔の半分を隠した。
「な、なんて破廉恥な……っ」
「でも、あの引き締まった体……」
「勇者はハイヒールを履いているの……?」
「でも、頭髪がないわ。罪人なのでは?」
ソワソワし始めた淑女に、現れた丸坊主の男アレックスは、その長いまつ毛を揺らして、流し目で見渡した。目があった淑女達の全身が総毛立つ。
「まっ」
「あっ」
「ひぅっ」
アレックスは丸坊主ではあったけれど、眉はキリリと黒く整っており、長いまつ毛は黒曜石のように黒い瞳の周りを縁取っている。筋の通った鼻といい、形の良い唇といい、この世界の人間から見ても美形の部類に入っていた。鼻ピアスがミラーボールに反射し、ポーッとなってしまった未婚の淑女達は悪くないはず。
そんな中、隣の婚約者が無言で中央を見つめる姿に苛立ちを隠せず、王太子であるアルハンソロは密かに側近に声をかけた。
「おい。本当に勇者なんだろうな……?」
「そ、そのはず、ですが……」
側近の言葉も自信なさげである。
そして最後に現れたのは、金髪碧眼の細身の男セルゲイだ。
王子よりも王子然とした立ち姿、しかしその体は野生動物のようにしなやかで無駄がない。オリーブ色の肌がその髪色と瞳を際立たせて、さながら異国の王子のようだった。その彼は、素肌に白いジャケットを羽織り、下は黒いタイツに素足という出で立ち。ピッタリフィットしたタイツは金的サポートを履いているため、実際のモノよりも目立っている。
視線を逸らそうとしながらも、そこに集中してしまう女性陣の視線に男性陣が咳払いで嫌悪感を表す。
アルハンソロは、その反応を正確に読み取って頬を引き攣らせた。自分達もオー・ド・ショースを履いている。タイツに提灯ブルマーのような履き物だ。そのブルマー部分がないだけで、女性陣の視線が戸惑いながらも集中的に彷徨っている。
「は、はしたない!」
そう言ってはみるものの、言葉の裏に潜んだ嫉妬や妬みは隠せていない。
セルゲイはそんな全ての視線を受け止め、徐にフラフープをどこからか取り出した。そして腰を振りながらフラフープを回していく。まるで生き物のようにフープを使い、全身を使って飛び跳ね、足が頭の位置まで上がり、頭は床につきそうなほど柔軟な動きをとる。
女性陣からの悲鳴のような声を境に、ミラーボールが降りてくる。そこではっきりと女性を認識した紳士達は、あんぐりと口を開ける。
ミラーボールの上で歌いながら、ポールダンスを繰り出したのはマリン。ビスチェ・ソング・ボディスーツを着た彼女は、”素肌を見せないのが淑女”がルールのこの国で、ほぼ何もつけていないのも同然である。
側近が鼻血を噴いて後ろに倒れた。
神官が、いきなり神に懺悔を始めた。
魔道士達はパニックに陥り、術式の再確認に走る。
アルハンソロが真っ赤になって立ち上がった。
この世界の人々は皆、初心であった。
セクシー度を見せるためのビスチェからは溢れんばかりの双丘が、ボディスーツとはいえ、Gストリング(Tバック)の後ろ姿はお尻の形が丸わかり、極め付けには編みタイツがその形の良い両足を惜しげもなくさらしており、両手両足を巧みに使って色気を振り撒き、そして地面に降り立った。
笑顔を見せていたマリンが、周囲を見渡して。
そして真顔になった。
「え。ここ、どこ?」
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