第4章 魔王の秘密(2)
「ああ、そうだった。いいぞ。お前が気に入ったのであれば、文句は言わん。」
「そうね、私も反対派しないわ。」
「お待ち下さい。国王陛下。」
そこに新たなる人物が登場した。
「おや、どうしたんだ?何かあったか?」
「まあ。ネスじゃないの。最近見なかったけどどうしたの?」
国王と王妃がそれぞれ話しかけた人物。
それはこの国の宰相であった。
「陛下、王妃さま。さきほどの話ですが、それは無理な話です。」
「さきほどの話とは、なんだ?」
「ですから、エリス姫の結婚の話です。」
ネスは、国王たちの前に進み話始めた。
「よろしいですか。王族の結婚ともなれば、その準備に時間がかかります。さらに周辺の国々にも参列していただくように、前もって招待状が送られるのです。ですから、一個人のワガママで、中止は出来ません。」
「あら、一個人のワガママって私のことかしら?」
「それ以外に聞こえましたら、私の話し方が不味かったんでしょう。」
エリスとネスの間で、バチバチと火花が散っていた。
「しかし、ネス。そこをなんとかしてくれるのが宰相であるお前の仕事だろう。」
「ですから、破談にするのは難しいです。しかし・・・。」
そこで、ネスはニヤリと笑った。
「破談以外の方法で、ちょっとしたことをすれば、可能です。」
「まあ、それはどんな方法なの?」
エリスはネスの言葉に耳を傾けた。
「簡単です。そこのお前、名前はアージェンだったな。お前魔王だろう?」
ネスは魔王を指差しズバリといった。
「魔王?なにそれ?」
エリスは初耳と言った感じで首をかしげた。
「ネス、魔王とはなんだ?」
国王からも同じ質問をされて、ネスは魔王を見ながら言った。
「魔王とは、わが国の一部の領土不正に占拠し、その土地を魔族の土地とするため結界を張り、魔族たちを、まとめている王です。その魔力は現在最強とされています。」
その言葉に国王たちは、魔王を見た。
「そうなの?」
エリスの言葉に魔王は答えた。
「不正に占拠とは、まあ、そういわれても仕方ないか。確かに貴国の領土の一部をわが国とさせてもらっている。しかし、西のはずれの深い森の中。貴国にたいした損害ではあるまいか?」
魔王の言葉にネスは反抗した。
「損害?そういう問題ではありません。わが国を侵略しようというのですか?」
「侵略?そうではない、一部を借りているにすぎない。」
「しかし、わが国の一部を無断で占拠していることに変わりはないでしょう。そこで、提案です。」
ネスは魔王をみて、エリスを見た。
「エリス姫。確認したいのですが、この男で本当によろしいのですか?今ならば間に合いますよ?」
ネスの言葉にエリスは、鼻で笑った。
「女に二言はないわ。この男がいいの。」
エリスの言葉にネスはうなずいた。
「わかりました。では、魔王アージェン。エリス姫をさらいなさい。」
「は?」
ネスに言われたことに魔王は、間抜けな顔と言葉でかえした。
「ですから、エリス姫をさらってください。そうすれば、わが国を不正に占拠したことを水に流し、さらにこのままその土地を貴国に譲渡しましょう。」
「まあ、それはいいわね。アージェンさん、エリスのことを宜しく頼みますね。」
「いやあ、めでたいな。エリスもついに人妻になるのか。昔はパパのお嫁さんになると言っていたのになあ。」
「あら、父上、母上。お呼びいただければいつでも会いにくるわよ。」
「では、そういうことで、少し計画を練りましょう。」
ネスの一言で、国王一家はネスを見た。
「計画?どういうこと?」
エリスはネスに尋ねた。
「いいですか。エリス姫の結婚は止められません。しかし、その式の最中に魔王がエリス姫をさらっていけば、エリス姫はあの相手と結婚しなくてすみます。そして、わが国も姫の結婚相手の国に対して言い訳することができるのです。魔王にかなう者はいないと。」
一度ネスは言葉を区切り、魔王を見てにっこり笑った。
「では、まず、魔王どのにどのタイミングでエリス姫をさらってもらうかだが。」
「おいおい、ちょっと待て。オレの意見はどうなるんだ?」
「そんなの関係ないわ。私の言う通りにしなさい。」
「そういうことじゃない。オレはもともと魔力封印の件を聞きたくてお前の後をついてきたんだぞ?」
「あら、それならばネスに聞いてちょうだい。封印石を作ったのはネスだもの。」
その言葉に魔王は驚いた。
この男、何者だ?
魔王はネスをじっくりと観察した。
見たところ、筋肉ムキムキのマッチョな青年ではなく、少しやせ気味ではあるが、無駄な脂肪がついていないというだけで、体つきは頑丈そうである。
一番印象的なのは、目。
角度によって金色にも見える不思議な瞳。
「お前、魔族か?」
魔王はネスに聞いた。
「ええ、そうですよ。よく分かりましたね、魔力は封じてあるのに。」
その言葉に国王たちも驚いた。
「え、そうなの?ちょっと不思議な人だとは思っていたけど。」
「まあ、少しくらい不思議であっても、仕事は完璧だからなあ。」
「それに、なによりハンサムですもの。魔族であってもいいのではないかしら。」
「おや、気付いていなかったのですか?まあ、話すこともありませんしね。」
「おい、どういうことかきちんと説明してくれ。」
魔王の言葉にネスは話し出した。
「もともと、うちの家系は魔力を持って生まれることが多くてですね。先祖がこれではいかん、ということで、封じる手段を見つけようとしていたら、偶然にうちの領土にある売り物にならないクズ石が、魔力を吸い取って溜めることができることを発見したんです。それで、魔力を石に吸わせて人体から、魔力をなくすことができるようになったんです。これが、封印石といわれるものの正体です。」
その言葉に魔王は驚いた。
そんな昔から魔力封じの術を知っていたなんて。
知っていれば、今頃魔族たちはつらい思いをせずにすんでいたはず。
「しかし、魔力を封じることができても、魔族の証である異形の姿はどうすることもできないんです。それに、そのことを悪用しようとする輩もいるかもしれませんからね。秘密にするしかなかったんですよ。」
ネスは魔王を見た。
魔王も、ネスを見た。
確かに、それでは、仕方ないのかもしれない。
とりあえず、このことを国の者たちに知らさなければ。
「なるほど、そういうことか。教えてくれて感謝する。で、相談なんだが。」
魔王はネスに礼をいい、続けてその封印石を分けてもらえるように頼むつもりだった。
「そこで、商談とまいりましょうか。魔王さま。」
ネスは魔王の言葉をさえぎって、話し出した。
「どういうことだ?」
「ですから、封印石のことを知りたいのならば、こちらの計画に参加してもらうことになります。」
「つまり、エリス姫の結婚を妨害する代わりに、封印石のことを教えるといいことか。」
「さすがですね、話が早くて助かります。」
ネスの言葉に魔王は考えた。
結婚の妨害はそれほど難しくはないはずだ。
それをすることにより、封印石のことがわかるのならば、この話は悪い話では、ない。
魔王はフムと、頷きネスを見た。
「いいだろう。その話にのってやろう。」
魔王の言葉にネスはニッコリ笑った。
「では、作戦会議の続きですが。」
ネスはエリスを見た。
「エリス姫、高い所は平気ですか?」
突然聞かれてエリスは、首をかしげた。
「え?それは大丈夫だと思うわ。木登りとか小さい頃からしていたし。」
その答えにネスはヨシッと頷いた。
そして、国王を見た。
「陛下、確か式場は天空神殿で行われる予定でしたね?」
「ああ、相手の国が格式張った式を行いたいというから、相手の国に全て任せたからな。」
「そうなの?全然知らなかったわ。」
「まあ、エリス、あそこはなかなか入れない場所なのよ?ママもあそこで式を挙げたかったけど、断られたのよ?」
「え、そうなの?また詳しく教えてね。」
親子の会話に魔王は、ため息をついた。
そういう問題ではないだろう。
「では、アージェン殿、貴殿はエリス姫をその神殿からド派手に拐ってください。手段は任せます。拐ったあとは、この城に戻るのではなく、貴殿の国に行ってください。拐われた花嫁がこの城にいるのはおかしいですから。」
「ド派手に?何をしてもいいのか?」
ネスの言葉に眉をひそめた。
「はい、招待客に拐われたことを知ってもらわなければなりませんから。それと、出来たら、その黒い翼を皆に見せつけてください。」
「何故わかった?」
実は魔王様の翼は出し入れ自由なモノで、普段はその背中にしまわれているのだ。
「魔族の端くれですからね。情報はある筋から仕入れてます。」
ネスの言葉に魔王は驚いた。
「こちらの情報は筒抜けか。まあ、いいだろう。」
魔王はネスの提案を受け入れた。
「では、式までにエリス姫は花嫁修業を行って頂き、アージェン殿には式場周辺を見知って頂きますね。」
「ちょっとネス、なんで花嫁修業をしなくちゃいけないのよ。あんな男と結婚はしないわよ。」
エリスはネスに詰め寄った。
それを見てネスはため息をついた。
「エリス姫、よく考えてください。拐われた花嫁が、いるべき場所はどこですか?」
「それは拐われた人物の近くでしょ?」
「ならば、今回拐った人物は?」
「アージェン。」
「でしたら、お分かりでしょう?」
ネスの言葉にエリスは顔を赤らめた。
「つまり、エリス姫が結婚する相手がアージェン殿にかわるんですよ。しばらくはアージェン殿の国で、のんびりしてください。」
ネスはそういうと、アージェンに向き直った。
「そういうことになりますので、くれぐれもエリス姫をよろしくお願いいたしますね。」
そう言われて、アージェンも顔を赤らめた。
初めて会ったときに一目惚れした魔王。
その相手と結婚出来るなんて。
魔王は真面目な顔をして、エリスを見た。
「1つ聞きたいことがある。」
アージェンの言葉にエリスは、何を聞かれるのかわからず眉をひそめた。
「何?」
「お前、好きなやつはいないのか?」
魔王の言葉を聞いてエリスは不機嫌になった。
何故そんなことを聞かれなくてはいけないのか。
何故そんなことを言わなければいけないのか。
「どうしてそんなことを聞くの?あなたには関係ないでしょう。」
元々エリスは恋愛経験は豊富ではない。
しかし、舞踏会やお茶会等には参加しているため、話としては、知っている。
実際、ある公爵家の娘に恋愛相談されたとき、エリスは城の図書室で読んだ恋愛モノの話で、誤魔化したことがあった。
その令嬢はエリスの言葉を真摯に受け止め実行した。
その結果、見事に令嬢の恋はかなったのである。
その話からエリスは、令嬢たちの間では頼りになる姫として、一目おかれることになった。
しかし、自分の恋愛に関しては全くの素人である。
わからない、では、プライドが許さない。
とりあえず、知ったかぶりでごまかしてきた。
それを真正面から、恋人がいるかどうか聞くとは。
エリスは魔王に近づき、腰に手をあて言いはなった。
「とりあえず、なにも考えずに言われた通りにしなさい。私もそのつもりで動くわ。」
その言葉を聞き魔王はため息をついた。
「ちょっと待て。俺が言いたいのは…。」
「ああ、煩いわよ。イチイチ口答えしないで。」
エリスの言葉に魔王は、キレた。
「わかった。とりあえず来い。」
魔王はそういうと、エリスを抱き抱えた。
突然のことにエリスは慌てた。
「ちょっと。」
魔王はエリスの言葉を無視して背中に翼を広げた。
エリスを抱き上げた状態で魔王は国王を見た。
「少し借りる。」
その言葉に国王は頷いた。
「わかった。夕飯までには戻ってくるんだぞ。」
「エリス、気を付けてね。」
王妃ののんびりした言葉を聞き、魔王は翼をはためかせて、空へ登った。
「きゃあぁ。」
突然体が浮かび上がりエリスは慌てた。
そしてどこか捕まる所はないかと、無意識に魔王の首に手をまわし、胸に顔をあて目を瞑った。
「ふっ。」
頭の上で聞こえた笑い声にエリスはカァ~と、顔を赤らめた。
そして、顔をあげ声をあげた。
「だって、突然だもの驚くでしょう?それを笑うなんて…。」
しかし、魔王の顔を見てエリスは言葉をつまらせた。
カッコいい。
笑顔が、優しい眼差しが。
そして、エリスを抱き締めている腕を意識した。




