第8章 表と裏(2)
「あのう、ちょっといいですか?」
サツキは恐る恐る尋ねた。
『なんじゃ?」
「どなたですか?」
「あら、ごめんなさい。闇の聖霊よ。」
「え、あの第三の魔王に出てきてた?」
「そうよ、あれからずっとここの番人をしてもらっているの。」
『なぜかそうなっておる。』
聖霊は首を傾げつつもあまり気にしていないようだった。
「では、この件は頼んだわ。じゃあ、次の場所へ行きましょうか。」
そういってヒルダはサツキを連れてまたあるき出した。
『南にはあまり近づかないほうがいいぞ。妙な気配を感じる。』
聖霊の言葉にヒルダはうなずき、ミシアナの大樹を後にした。
外に出るとヒルダは何かを広げた。
よく見ると、それは魔王といっしょに乗ってきた魔法の絨毯であった。
「あれ、これって。」
「ちょっと借りてきたの。さあ、乗ってちょうだい。」
そういい二人が乗るとヒルダは魔法の絨毯に命じた。
「フランの町へ。」
その言葉に反応して絨毯はゆっくりと浮き上がった。
そして、ゆっくりと動き出した。
「少し時間がかかると思うからノンビリとしてちょうだい。」
そういってヒルダは、いつの間にか持ってきていたバスケットの中から、ティーセットを取り出した。
「さあ、どうぞ。」
琥珀色に輝く飲み物が入れられたカップを渡されてサツキは、両手で受取り口に含んだ。
「わあ、美味しいです。」
少し甘酸っぱい感じのする味にサツキは、満面の笑みを浮かべた。
「それはよかったわ。」
そんなヒルダにサツキは少し疑問に思っていることを聞いてみた。
「あの、少し聞いてもいいですか?」
「何かしら?」
「魔王のことなんですが、魔力が少ないっていうとどのくらいなんでしょうか?」
「少ないといっても歴代の魔王に比べてだから。あまり気にすることはないわ。」
「でも、勇者がくるんだとまずいんじゃないですか?」
「そうねえ、でもなんとかなるわ。」
そこでヒルダはサツキの顔を覗き込んだ。
「魔王が心配なの?」
ヒルダの問いにサツキは首を傾げた。
「心配、というか不安というか。魔王のことが気になるのは確かです。でも、私ができることなんて何もないですし。」
「あら、そんなことないわ。」
「そうですか?」
「いつもの魔王とはかなり違うもの。かなり気に入ってるみたいね。」
「気にいるって。多分間違って召喚したから気にしてるだけだと思うんですが。」
「鈍いわね。まあ、それも楽しいからいいわ。」
「へ?」
「そろそろ町が見えてきたわ。下に降りるから準備をしてね。」
ヒルダの言葉にサツキは疑問を持ちつつも辺りの景色を見た。
遠くにポツンと高い塔が見えた。
「今日はあそこに泊まって、明日はもう少し大きな街でお買い物をしましょう。」
こうして、ヒルダとサツキはフランの町で一晩とまり次の日の朝には、さらに大きな街へと移動した。
街につけば、ヒルダはサツキをつれてあちこちに連れ回し、買い物を楽しみ、食事を楽しんだ。
そんなこんなで、気がつけば天空神殿をでてから5日が経っていた。
「あのう、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないですか?」
サツキは恐る恐るヒルダに尋ねた。
するとヒルダは、いきなり悲しそうな顔をした。
「あら、ひどい。私といるのがそんなに嫌なのね。」
「いえ、そういうわけじゃないんです。でも、皆心配してるんじゃないかと。」
「大丈夫よ、たまには私もゆっくりしたいのよ。」
そういって、ニッコリ笑うものがから、サツキも強く言うことができなかった。
ちなみに、このやりとりは毎日続けられていた。
「おい、いい加減にしろ。」
そんな二人の会話に新たな声が入り込んだ。
声のしたほうをみると、魔王がいた。
さすがにマントを目深にかぶり、姿を見せないようにしていたが、反対に怪しい人物に見えていた。
「あら、どうしたの?」
「どうしたのじゃねえ、いい加減戻ってこい。」
「イヤよ。」
「戻ってこい。」
「イ・ヤ。」
「ったく、サツキも疲れてるだろ?」
その言葉にヒルダはサツキを見た。
確かに少し疲れている顔をしている。
「仕方ないわ、戻りましょう。」
こうして、魔王の出迎えによりヒルダとサツキは天空神殿へと戻った。
「お帰りなさいませ。」
天空神殿につくとカインが出迎えてくれた。
「はあ、やっと捕まえた。じゃあ、行くぞ。」
魔王はヒルダは魔法の絨毯から降りるのを確認すると、カインをのせて再び浮きあがった。
「ちょっと、もう行ってしまうの?」
「そろそろ限界だ。サツキが戻れなくなる。」
魔王の言葉にヒルダはため息をついた。
「じゃあ、仕方ないわね。また、会えたらいいわね。」
ヒルダはそういって、手を振り見送ってくれた。
「あの、いろいろとありがとうございました。」
サツキはヒルダに頭を下げて、お礼を言った。
そんなサツキにヒルダは優しい笑顔で答えてくれた。
「んじゃ、ちょっと急ぐぞ。」
魔王の言葉に魔法の絨毯は速度を上げた。
行きとはちがい、景色を見ている余裕はなかった。
「ねえ、戻れなくなるってどういうこと?」
サツキは魔王に尋ねた。
「時間軸が難しいんだ。操れるやつも限りあるからな。」
「時間軸?」
「お前、還ってから時間たってたらイヤだろ?だから、同じ日の同じ時間に戻すんだよ。」
「そんなことできるの?」
サツキはあれからかなりの日数が経っていることに気づいていたが、どうしようもないことから考えないようにしていたのだ。
「できるからやってるんだ。」
なんだか少し機嫌の悪そうな魔王にサツキは少し驚いていた。
「ねえ、なんか機嫌悪くない?」
魔王に尋ねてみると。
「悪くない。」
一言、返ってきた。
そんな魔王のフォローなのか、カインが口を挟んできた。
「魔王さまはサツキさんが還られるのが寂しんです。」
そんなカインを魔王は睨みつけた。
「んなわけない。」
「では、なぜです?」
「あちこち探し回って疲れてるだけだ。」
「天空神殿の主の居場所はすぐに特定できるようになっています。なのに、探し回ったのですか?」
天空神殿の主は居場所がわかるように、特殊な魔法石をもっている。
その魔法石を探せば自動的に天空神殿の主も見つかるのだ。
「いいだろ、別に。」
そういって、前を向いて魔王は黙り込んでしまった。
「では、そういうことにしておきましょう。ということなので、サツキさん気にしないでください。」
カインはそうサツキに言った。
なんだかよくわからないが、そういうことにしておくことにしたサツキ。
少しさみしそうな瞳で魔王の背中を見つめていたのであった。
そんな会話をしている間に魔王の城へと戻ってきた。
「はあ、やっと着いたか。じゃあ、元の世界の服に着替えてこい。」
魔法の絨毯が着地すると、魔王はサツキに言った。
「あ、そっか。元の世界に戻るのなら、着替えなきゃね。」
サツキはそういい、自分の与えられた部屋に戻ろうとした。
「部屋に行くのか?」
そんなサツキの足元に、ウルちゃんがいた。
久しぶりのウルちゃんにサツキは抱きついた。
「ただいま、ウルちゃん。」
首元に抱きつかれてウルちゃんは少し嫌そうにしたが、振りほどいたりはしなかった。
「部屋まで案内する。行くぞ。」
「はーい。」
ウルちゃんの言葉に素直に従いサツキは部屋へと戻っていった。
そして、残されたのは魔王とカイン。
「よろしいのですか?」
「何がだ?」
「このまま戻されても?」
「元々こちらの世界とは無関係なんだ。」
「そうでもなさそうですがね。」
「では、どうしろというんだ?」
そんな魔王にカインはニッコリ笑った。
「それを決めるのは、魔王さまです。」




