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第9章 そして


部屋に戻ったサツキはクローゼットにあった、白いブラウスと黒いタイトスカートを出して着替えた。


「久しぶりに着たから、ちょっと変な感じかも。」


なんとなくしっくりこないが、姿見でおかしなところがないか、確認しているうちに、違和感はなくなっていった。


「用意は出来たか?」


「うん、忘れ物はって。そういえば何も持ってきてなかったっけ。」


そんなに昔ではないはずなのに、いつの間にかこの世界に馴染んでいたようだ。


「では、行くか。」


ウルちゃんはそういうと、部屋を出ていった。

サツキもその後を追い、魔法陣の設置してある部屋へと歩いていった。

部屋にはすでに魔王とカインが待っていた。


「準備は出来たか?」


魔王の言葉にサツキは頷いた。


「では、魔法陣の中心に立ってください。」


カインに言われるままにサツキはゆっくりと魔法陣へと近づいた。

しかし、途中で歩くのをやめた。


「どうした?」


「具合でも悪いんですか?」


魔王とカインに声をかけられ、サツキは二人をみた。


「あの、今までいろいろとありがとうございました。」


サツキはそういうとゆっくりと頭を下げた。

魔王たちはそんなサツキをじっと見ている。

頭を上げたサツキはニッコリ笑った。


「きちんとお礼が言いたかったの。結構迷惑かけてた気がするし。」


そんなサツキにカインは近づいた。

そして、両手を握った。


「そんなことはありませんよ。というか、むしろこちらのほうが迷惑をかけていますから。」


「おい、なんで手を握ってるんだ?」


「そのほうが、らしいでしょう?」


「らしいって何だ?」


「別れを惜しむ恋人たちみたいな感じです。」


「はあ、とりあえず手を離せ。嫌がってるぞ?」


魔王とカインの話を聞きつつも、手を握られてサツキはほんのりと頬を染めた。

それをみて魔王さまも一言。


「ま、カインの言うようにこちらの不手際だからな。気にするな。」


そんな魔王たちの会話を聞いてサツキはにっこり笑った。


「うん、ありがとう。」


「ああ、そうでした。サツキさん、こちら記念品になります。」


そういってカインはサツキに細長い箱を渡した。


「なんですか?記念品って?」


サツキは首をかしげてカインに尋ねた。


「魔王の城にやってきたすべての人間に渡しているものです。たいしたものではありませんので、受け取ってください。」


カインの言葉に頷いて受け取ったサツキは、中が少し気になった。


「あの、あけてもいいですか?」


「はい、構いません。」


そして、蓋をあけると中には。


「スターサファイア、大きい。」


親指の爪ほどのスターサファイアのペンダントが入っていた。


「まあ、ちょっとしたお詫びも含めてだな。」


すっかり嬉しくなりサツキは、目の前にペンダントを掲げた。

魔法陣から漏れる弱い光に映し出されるように光る星。

その美しさにすっかり魅了されていた。


「おい、そろそろいいか?」


魔王はサツキに聞いた。


「うん、ありがとう。」


サツキはうなずき、ゆっくりと魔法陣の中央に進んだ。


「じゃあ、動くなよ。」


魔王がそういうと、カインが一歩進み出た。


「では、これでお別れですね。」


そういって、魔法陣に手のひらを向けた。

すると、魔法陣が淡く光りだした。


「あの、ロキ、カインさん、本当にありがとう。」


その言葉とともに光は輝きを増して、サツキは眩しさのために目を閉じた。


「またな。」


はるか遠くで魔王の声が聞こえた。


「行っちゃいましたね。」


「ああ。」


光がおさまるとそこには誰もいなかった。

魔法陣だけが、そこにはあった。


「では、どうしますか?」


カインは魔王に向き合った。


「どうって?何がだ?」


「いえ、勇者対策もですが、五人目です。」


その答えに魔王は、ハッとした。


「やべぇ、そういや何も解決してねぇ。」


慌てふためく魔王をよそにカインは魔法陣をもう一度見た。


「またね、ということは、どういうことでしょうかね。」


ニッコリ笑い、魔王に声をかけた。


「では、仕事がありますので、失礼します。」


そういい、カインは部屋から出ていった。


「おい、どうすんだよぉ。」


その後、魔王の叫び声が魔王の城に響き渡ったのであった。




「・・・・。」


眩しさがなくなって、サツキは目を開けた。


「戻ってきたんだ。」


目の前にはいつも寝ているベッド。

その隣には、ちょっとした小物がおけるローテーブル。

自分の部屋である。


「はあ。」


ため息をついてサツキはベッドに寝転がった。


「なんか疲れた。」


目を閉じれば先程までいた幻のような世界が、浮かんでくる。


「なんかちょっと得した気分かも。」


あんな世界に行けるなんて思いもしなかった。

しかも、魔王といっても優しい。

魔族だって、竜だって。


「やっぱり実物を見ると違うな。」


サツキは、カインに貰ったペンダントをローテーブルの上にある、小物入れにいれた。


「よし、着替えて寝よう。っと、その前に携帯をっと。」


きちんとあの世界に行ったときから時間が過ぎていないかを調べるためである。


「うん、きちんと続いてる。ってことは、明日は仕事か。」


そのことを思い出し少し憂鬱になった。

あの日、会社で上司に言われた言葉。


【女のくせに】


だからなんだ。

女だから何もできないって?

そんなことはない。

そう言いたかったけど。言えなかった。

でも、今なら言えるような気がする。


「よし、明日は見てろよ。」


少し悪そうな顔で笑ったサツキは、シャワーを浴びて眠りについた。

そして、次の日。

いつもどおりに出勤。

昨日やり残した仕事をテキパキとこなし、上司に報告。

何事もなかったかのようにしゃべるサツキを少し、眉を潜めてみる上司。


「ああ、ご苦労さん。」


そういい書類を受取り、机の上に置く。


「では、失礼します。」


一礼してサツキが踵を返そうとすると、上司が止めた。


「まて、昨日は済まなかった。」


罰の悪そうな顔でいう上司にサツキはニッコリ笑った。


「気にしてませんので。」


そういってサツキは自分の席へとかえった。

心の中では、かなり悪態を着いていたのだが。

そして、終業の時間になり、サツキは挨拶をすませると自宅へとかえる。

そんな日々が続き、魔王の城からかえって数か月が経った。


「ただいまあ。」


暗い部屋に響くサツキの声。

いつもどおりに電気をつけようとして、うっすらと光っているものがあることに気づく。


「な、なに?」


じっと見つめようとしてもその光が消えてしまい、よくわからない。

サツキは思い切って電気をつけた。

すると。

そこには。

魔王とカインがいた。


「なんで、いるの?」


叫び声に等しい大声に魔王たちは顔をしかめた。


「うるさい。」


「サツキさん、近所に迷惑ですよ?」


そんな二人にサツキは口をパクパクさせた。


「どうしても魔王さまがサツキさんに会いたいというので。」


「言ってねえ。」


「というのは、冗談で。こちらの世界を見てみたいというので。」


「えっと、何から聞けばいいのかな?」


「聞きたいことがあるのならばどうぞ。」


カインの言葉にサツキは聞くことにした。


「まず、なんでいるの?」


「ですからこちらの世界を見学するためです。」


じゃなくて、なんで私の部屋?


「ああ、スターサファイアのペンダントです。あれを道しるべにして魔法陣を発動させました。」


「そんなことできるの?というか、勇者の件はどうなったの?」


「勇者の件が片付いて、ちょっとのんびりできそうだったので。」


「ええ、もう決着ついたの?というかどうなったの?気になるけど。それよりも、あの時の別れはなに?もう会えないみたいに言ってたのに。」


「本来ですと会えないはずですが、こちらの世界とあちらの世界を行き来するのは道標があれば、意外と簡単なんです。」


カインの言葉にサツキは脱力した。


「なんか、疲れた。寝るね。」


「おう、ゆっくり休め。」


魔王はそういうが二人は部屋から出ていく気配はない。


「はあ、まだ何かあるの?」


「できたらサツキさんにこちらを案内してもらいたいのですが。」


カインの控えめな答えに、サツキは少し考えた。

有給あるし、休もうかな。


「わかった。」


こうして、サツキは翌日体調不良で休むと嘘をつき、魔王たちと一緒にあちこちの観光スポットをまわった。

魔王は全てが珍しいらしく、とてもはしゃいでいた。

そして、夜になった。


「さて、そろそろ帰りましょうか。」


カインの言葉に魔王は、ため息をついた。


「はあ、仕方ないな。」


「もう帰るの?まだ見せたい場所がたくさんあるのに。」


サツキは少ししょんぼりしながら、魔王たちをみた。


「すいません。まだサツキさんといたいのですが、数日後に会議があるんですよ。」


カインは申し訳なさそうにいった。


「そうなんですか。じゃあ、仕方ないね。」


サツキはそういうと、カバンの中から小さな袋を取り出した。


「これ、今日行った神社で買ったの。お土産にどうぞ。」


魔王とカインに一つずつ渡すと、二人はびっくりしながらも嬉しそうに笑った。


「ありがとな。」


「ありがとうございます。」


二人はサツキにお礼を言うと、サツキから少し離れた。

そして、カインが懐から小さな水晶玉を取り出すと、地面に落とした。

水晶玉は割れて、その欠片がゆっくりと魔王たちの周りを囲み淡く光だした。


「じゃあな。」


「また、お邪魔するときはよろしくお願いいたしますね。」


二人が別れの挨拶をすると、光は輝きをまし一際強い光が溢れた。

そして、再び暗闇が辺りを支配すると、二人の姿はどこにもなかった。

サツキはニッコリ笑い、小さく呟いた。


「また、ね。」


そして、ゆっくり家に向かい歩いていった。




「帰ってきたか。」


「お疲れ様です。」


魔王の城に帰ってきた二人は、サツキに渡されたお守りを目の前に 掲げた。


「なんて、書いてあるんでしょう?」


「お守りなんだから、それらしい言葉じゃないのか?」


「今度会ったときに聞いてみましょう。」


カインはお守りをポケットにしまった。


「さて、魔王さま。」


少し改まったカインの声音に魔王は首を傾げた。


「なんだ?」


そんな魔王にカインはニッコリ笑い、こう言った。


「遊んできたのですから、今日も元気にお仕事しましょうか。」


言われて魔王は、あっ、と声を出した。


「やっぱり、仕事は溜まっているよな。」


こうして魔王さまの憂鬱な日々がまた始まるのでした。


〈完〉

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