第8章 表と裏(1)
ゆっくり、ゆっくり眠りから目覚める
深い深い眠りから、いつもの日々へ
まだ、夜が明ける前の暗い時間。
一人の人物がゆっくりと歩いていた。
コソコソとしているのではなく、堂々と。
そして、ある部屋の前に立つとゆっくりとドアを開けて中へと入っていった。
部屋の中はまだ暗く、少しひんやりとした空気がその人物を包んだ。
しかし、その人物はそれには動じずにそのままある扉を目指した。
扉の前に立つと音を立てないように滑りこむように入り込み、その部屋で眠っている人物をみてにっこりと笑った。
そして・・・・。
サツキは夢から現実へと意識を戻していた。
瞼の裏に淡い光を感じると、意識を覚醒させて目をあけた。
「ん。」
無意識のうちにでた声がやけにかすれて聞こえて、サツキは体を起こした。
しかし、何かが自分の横に何かがあることに気づき起きることができなかった。
「ふえ?」
再び目を閉じてもう一度目を開けて自分の横をみると、そこには。
「あら、おはよう。目が覚めたのね。」
ヒルダがいた。
パチパチと瞬きして目の前の現実を受け入れようとしたが、無理だった。
「えええええ。な、なんでいるんですか。」
大きな声でヒルダは少し眉を潜めたが、ニッコリとサツキに笑いかけた。
「なぜと言われてもね。ゆっくり休めたようね。」
そして、サツキの横で添い寝状態のヒルダは起き上がりサツキも起きるように促した。
「さあ、朝食の準備がそろそろできるはず。着替えて一緒に行きましょう。」
そういるヒルダを見ると、きちんと身なりを整えていることに気づき、サツキは慌てた。
「ああ、すいません。すぐに用意します。」
慌ててサツキは身支度をととのえて、ヒルダとともに部屋をでた。
「今日は、昨日のテラスで朝食をとりましょう。」
サツキの歩調にあわせてゆっくりと歩いていくヒルダ。
そんなヒルダに連れられてサツキは昨日降り立ったテラスヘとやってきた。
そこには、すでに魔王の姿があり、その周りには給仕をしてくれるメイドが数人佇んでいた。
「起きたか。ゆっくりできたか?」
魔王はサツキとヒルダが来たことに気づき、サツキに声をかけた。
「うん、おはよう。遅くなってごめんね。」
そういい、サツキとヒルダはそれぞれの席に腰をおろした。
「さあ、たくさん食べてちょうだい。」
ヒルダはサツキに微笑みかけると、メイドたちが動き始めて朝食が始まった。
「今日は何をしようかしら?どこか行きたい所とかある?」
朝食中もヒルダは頻繁にサツキに声をかけた。
失礼にならないように、サツキもヒルダと話をする。
すると必然的に魔王はひとり。
少しばかり眉間にシワを寄せつつも、ヒルダたちの会話には入ってこなかった。
そして、ある程度お腹がいっぱいになった頃。
ヒルダはメイドたちを下がらせた。
すると、すこし魔王が肩の力を抜いたようにサツキには感じられた。
「あ、そういえば面白い夢を見たんだけど。」
サツキがそういうと、二人はサツキに続きを促した。
「あら、どんな夢かしら?」
「大方、食い物の夢でも見てたんじゃないのか?」
「魔王、それはないって。っいうかアレって夢なのかな?」
少し首を傾げながらサツキはゆっくりと話しだした。
「あのね、リーエっていう女の子が魔王になるところから始まるんだけど。」
サツキがそこまで言うと、魔王は身を乗り出した。
「おい、それって第三の魔王か?」
「あら、魔王の夢なの?残念だわ。」
それぞれの反応にどうしていいのかわからないが、ひとまず尋ねてみた。
「リーエさんって第三の魔王なの?」
サツキの問いに答えずに魔王は話を続けるように言った。
「でね、シュリっていう天空神殿の主に出会って・・・。」
サツキは少しずつ思い出しながら夢の内容を語った。
そして、話し終えると。
「おおよそだが、今日話そうとしていたことを夢で見たようだな。」
「そうね。やっぱりあの部屋がいけなかったのかしら?」
そんな会話にサツキはおそるおそる尋ねた。
「あの部屋って何かあるんですか?」
「あそこは代々魔王が泊まっていた部屋なのよ。」
「おそらく、魔王の魔力に影響されたんだと思う。」
そんな魔王の言葉にヒルダは反応した。
「あら、なぜあなたがサツキの部屋に行ったのかしら?」
「ちょっとした確認だ、気にするな。」
そんな魔王に冷たい視線を投げかけながら、サツキに言った。
「何かされたらすぐに言ってちょうだい。」
手を握りしめながらいうヒルダにサツキは頷くしかできなかった。
「でもまあ、これで魔王の秘密をすべて知ったわけか。」
ポツリと呟いた魔王の言葉にサツキは首を傾げた。
「どういうこと?」
「第一の魔王、第二の魔王、そして第三の魔王。全ての話を知ったんだろ?ならば、その話しの中に隠された秘密に気づいたはずだ。」
魔王の言葉にサツキはそれぞれの魔王の話を思い出していた。
第一の魔王。
隣国の王女さまと結婚して幸せになってる。
第二の魔王。
双子の男の子。でも、実際は魔王ではなく勇者扱い。
そして、第三の魔王。
大抜擢された女の子。人と仲良し。
「全然わかんないんだけど。」
サツキは魔王に言った。
そんなサツキに魔王はため息をついた。
「分かった。話してやる。だが、その前に。」
魔王はヒルダに顔を向けると、ヒルダは一つ頷いた。
「大丈夫よ。結界はすでに設置済みよ。」
「ならいいな。これから話すことは誰にも言うんじゃないぞ。」
いつもより少し低めの魔王の声にサツキは、コクンと頷くしかできなかった。
「じゃあ話すぞ。
第一の魔王。アージェン、彼は人と接触を行いつつも魔族の国を守った。
第二の魔王。ラギとシン。彼らは世界に勇者という存在を認めさせた。
第三の魔王。リーエ、彼女は勇者制度という制度を利用しつつ魔族と人を護ることにした。
ここで重要なのは、魔王という存在。
この世界においては悪とされている。表向きはな。
だが、裏の歴史を見てみると、なんてことはない。
人に害を与えている魔王などいないんだ。」
そこまで話すとサツキを見た。
「ぶっちゃけると、表向きな歴史と裏の歴史に分かれていて裏の歴史を知っているものはほとんどいない。
だからこそ、この世界は平和なんだ。」
「なんかそれって、寂しいような気がする。」
「寂しいって?」
サツキは魔王に向き直り思ったままのことを伝えた。
「だって、人は魔王を悪であると信じているんでしょう?それって嫌いってことじゃない。
でも、実際の魔王は優しいもん。
そんな魔王のこと、もっと皆に知ってもらいたいような気がするんだけど。」
後半は少し小さな声になったが、魔王には聞こえていた。
その言葉に魔王は微笑んだ。
「俺は別に構わない。本当のことを知ってるやつは知ってるんだしな。」
そういいヒルダを見た。
「そうね、これが世界を導くために必要ならば仕方ないわ。」
「そういうものなの?」
サツキは二人に尋ねると、二人は頷いた。
「分かった。とりあえず納得する。で、それが魔王の秘密なの?」
最初の問いに戻り、サツキは魔王に聞いた。
「まあ、ここで重要なのは勇者制度だ。
いくら制度を使って勇者を作り上げるにしても、そう簡単に魔王の元にたどり着かれては困る。
そこで、魔族たちを護るために結界をはり、力をつけたかどうか判断するために天空神殿で確認して、ある程度の強さを持っているのならば、結界をとき魔王の城へと導く。
だが、俺は魔力の量が少ない。
そのため結界を張るだけで精一杯だ。
そこで、カインが俺の魔力の少なさを伝えて俺の代では勇者を現さないことにしたんだ。
だから、お前を還すための魔法陣に魔力を送ることができなかったんだ。悪いな。」
その答えに初めて会ったときに言っていたことを思い出していたサツキは、なるほどと納得した。
「で、魔王の城についたあとは・・・。」
「ついた後は?」
ニヤリと笑った魔王に嫌な予感を感じたサツキは、続きを促した。
「・・・・・秘密だ。」
「ちょっと、教えてよ。気になるじゃない。」
「まあ、企業秘密ってやつだな。」
「ええ、すっごい気になるんだけど。」
そんな二人をヒルダは優しい表情で見ていた。
そこに。
「失礼します。」
そういい、現れたのはカインであった。
「ん?どうした?」
「魔法陣を動かすための魔力が集まりましたので、ご報告に参りました。」
「そうか、結構早かったな。」
魔王はカインにそういうとサツキに向き直った。
「というわけだ。すぐに元の世界に還してやるよ。」
そんな魔王にサツキは、少しムッとした。
「そんな簡単に言わないでよ。まだいろいろあるんだから。」
「いろいろ?なんだ?」
首を傾げてサツキを問い詰める魔王。
そこに、ヒルダが口を挟んだ。
「あら、まだ駄目よ。どこにも連れて行ってないんですもの。」
「だが、すぐに還したほうがいいだろう。勇者が現れているんだぞ?」
「まだ、ヒヨッコレベルよ。気にしなくても大丈夫よ。」
そんなやり取りを見て、カインは魔王に尋ねた。
「では、しばらく魔法陣は維持しておきます。それでよろしいですか?」
「ああ、悪いな。」
そんなカインに焦ってサツキは言った。
「あの、維持するのって結構たいへんだったりするんですよね?でしたら・・・。」
「ちょっと待て。そこは気にするな。お前が言ったんだろう?やりたいことがあるって。」
「やりたいことっていうか、なんというか。」
モゴモゴいうサツキにヒルダはニッコリ笑った。
「そうよ、気にしちゃ駄目よ。それより、今日は連れていきたいところがあるの。」
そう言ってヒルダはサツキを立ち上がらせて、魔王を見た。
「じゃあ、そういうわけだから。」
「分かった。任せる。」
諦めたかのように魔王はヒルダに伝えた。
「じゃあ、行きましょうか。」
ヒルダはそういうとサツキを引っ張って部屋を出た。
そして、長い廊下を歩いて少し変わった扉の前で止まった。
扉には、不思議な文様が描かれていた。
ヒルダはその文様に手を当て、呟いた。
「開け。」
すると、その言葉どおりに扉はゆっくりと開かれた。
中に入ると青い光で満ちており、薄い布がユラユラと揺れていた。
「あの、ここは?」
「さあ、ここに立ってちょうだい。」
ヒルダはサツキを急かして部屋の中心にある魔法陣の上にのせた。
「古の契約に従い我を運べ。」
そして、ヒルダが厳かに言葉を発すると魔法陣は少し強い光を放ち二人は消えた。
ついた場所は。
目の前にそびえ立つ巨大な樹。
太い幹を空に広げて蒼い若葉を光に泳がせていた。
「これって。」
サツキは目の前の光景に圧倒されながら言った。
「これがミシアナの大樹よ。さあ、中へ行きましょう。」
ヒルダはサツキの手を引いてあるき出した。
「え、ミシアナの大樹って第三の魔王のときの?」
「そうよ、それは今も変わらない。勇者のことを聞いておきましょう。」
ニッコリと笑いヒルダはサツキを促した。
樹には小さな扉がついており、その扉に触れると一瞬で景色が変わった。
「扉に触れれば中に入ることができるの。誰か居るかしら?」
その答えに反応するかのように声が聞こえた。
『誰じゃ?ん?なんじゃ、天空のヤツか。』
そこに現れたのは、見た目が20歳くらいの女性だった。
「あら、お久しぶりね。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
『勇者のことか?ヤツラならば、南の島を出て最初につく港町についた。レベル的にはヒヨッコもいいところじゃ。』
「あらそう。ならば、魔王の心配は不要ね。」
ヒルダの言葉にその女性は、少し眉を潜めた。
『じゃが、少しばかり妙なことがあっての?レベルアップの仕方が半端ない。』
「それはどういうこと?」
『普通よりも二倍は早くレベルアップしておる。』
「なぜかしら?少し調べてみる必要がありそうね。」




