第7章 魔王の秘密 その3(10)
残されたのは、リヴァイアサンとナハマット、それにリーエの三人だ。
「で、どうするんだ?」
少し真面目な顔でリヴァイアサンはナハマットに尋ねた。
「闇の聖霊だといっていたな。水の聖霊ならば交渉の余地があったのだがな。」
「うーんと、魔王ってことでなんとかなりませんかね?」
リーエの言葉にナハマットがハッとした。
「そうだ、ダルシャンを呼ぼう。」
「ふえ?なんでですか?」
「あいつは聖霊の束ね役である王と面識がある。」
「なるほど、ならば早速連れてくる。」
そういいリヴァイアサンは姿を消した。
「とりあえず、闇の聖霊をここに喚ぶ。」
ナハマットが手のひらに魔力を込め始めた。
すると、ルークの周りから闇の霧が発生してきた。
『我を喚ぶのは誰じゃ?』
声が聞こえると、闇の聖霊が姿をあらわした。
「はわぁぁ、キレイなお姉さまですねえ。」
聖霊の姿をみてリーエは見惚れていった。
『お主、何者だ?』
そんなリーエに少し警戒しながらも聖霊が尋ねた。
「リーエのことを知らんだと?けしからん、もう一度やり直してこい。」
ナハマットがそういうと聖霊に向かい魔力を放った。
『そう怒るでない。リーエといったな、ならば魔王か。」
「はいぃ、魔王ですぅ。」
そんな聖霊に敬礼しながらリーエが真面目な顔をした。
『その魔王が我に何用だ?』
「えっと、その前にルークの中にいってる皆さんはどうなってるんですか?」
この場に聖霊がいるということはルークの中には聖霊がいないのでは。
そう考えてリーエは聖霊に尋ねた。
『我は全にして個にあらず。まあ、分身みたいなものが相手をしておる。こちらのほうが魔力が高かったのでな。』
そういい聖霊はリーエに近づいてきた。
そこにナハマットがすかさず自分の後ろにリーエをかばった。
「それ以上近寄るならば遠慮はしないぞ?」
『まあよい、近寄らずともどうとでもなる。』
その言葉にナハマットは警戒を強めた。
そこにダルシャンを連れてリヴァイアサンが帰ってきた。
「いや、遅くなったか?」
リーエをかばうようにいるナハマットに、中途半端な位置にいる聖霊。
その光景をみてリヴァイアサンは呟いた。
「いえ、おそらくリーエに近寄るもの排除したかったんでしょう。」
リヴァイアサンの後ろからゆっくりとダルシャンが歩いてきた。
「父様、お元気そうでなりよりです。」
そんなリーエにダルシャンは頷き聖霊に近づいた。
『ほう、変わった魔力だな。』
聖霊はダルシャンを見て、興味深そうにじっと見つめた。
「まあね。ええと君は闇の聖霊だね。」
ダルシャンは聖霊の言葉を流し確認のため聞いた。
『そうじゃが、それがどうかしたのか?』
「ならば簡単だ。君も聖霊王のことは知っているだろう?」
『知っておる、あの方は絶対的な存在じゃ。』
「私はその聖霊王の主だよ。今回の件について少し話をさせれくれるかい?」
『なんじゃと?聖霊王さまの主じゃと?』
聖霊はダルシャンに近寄りじっと見つめた。
「信用してないようだね。ならば喚んでみようか。古の契約に従い我もとへときたれ。」
その言葉を合図にダルシャンの隣に光が満ちた。
『喚んだ?』
光がおさまるとそこには一人の少女がいた。
「ああ、すまないね。少し闇の聖霊に話をしてもらえるかな?」
『闇の聖霊?なんで?』
「私が主だと信用できないらしくってね。」
聖霊王はダルシャンの言葉を聞いて気だるそうに闇の聖霊を見た。
『この人、主だから。』
一言そういうと、
『じゃあ、帰る。』
そう言い残し消えた。
「これでわかったかな?」
ダルシャンは再び闇の精霊に聞いた。
『確かに聖霊王であった。仕方がない、それは認めよう。じゃが、貴様には関係のないことであろう?』
首を傾げながら闇の聖霊はいった。
「いやいや、ここにいる魔王は娘なんだよ。その娘がどうにかしてほしいってことみたいだからね。」
ダルシャンはリーエをみて、ニッコリ笑った。
「あ、はい。そうなんですぅ。できればルークさんを返してほしいんです。」
『契約の代償じゃ。仕方あるまい。』
「ですから、少し軽減できませんか?」
『では、その代償は?』
「うーんと、あたしの魔力っていうのはどうですか?」
『魔王の魔力じゃと?』
「それはダメだああああああああ。」
そんな会話にナハマットが割り込んだ。
「いいかい、リーエ。魔力を渡すってことは大変なことなんだよ?わかっているのかい?」
勢い込んだナハマットに少しビックリしながらも、リーエはナハマットに言った。
「でも、渡せるものは他にないですよ?」
『何、全ての魔力をもらうわけではない。一部でよい。なにせ魔王の魔力なのだから。』
闇の聖霊の言葉にリーエは少し疑問に思った。
「あのう、魔王の魔力って何かあるんですか?」
『知らんのか?ならば教えてやろう。魔王の魔力とは魔族にとっては極上のモノなのじゃ。ゆえに一度その力を味わったのであれば己の力を何倍にも高めてくれるのじゃ。』
「まあ、簡単にいうと栄養剤みたいなもんかな。」
簡単な説明をしてくれたのはリヴァイアサンだ。
「魔力を与えるってことは自分の中にある魔力を渡すってこと。100ある魔力の内10与えれば残りは90になる。そしてそれは回復することはない。90が上限になるんだよ。それでもいいのかな?」
リヴァイアサンはリーエに聞いた。
リーエはその言葉をじっくりと考えた。
与えるのということは分けることになる。
自分の魔力が少なくなるということに、リーエは少し恐怖した。
しかし。
「でもそれでルークさんは返してくれるんですよね?」
『一部はもらうつもうじゃ。魔王が全てを背負うべきではなからの。』
「ルークさんからは何を?」
『もちろん魔力になる。』
「魔力ではなく、力にしてもらえませんか?」
『力とは?』
「見る力、聞く力、そういった力のことです。」
『ふむ、良かろう。では見る力をもらうことにする。じゃが、これで見ることができなくなるのじゃぞ?』
聖霊のいうことは厳しいものなのかもしれない。
「でも、それでも、生きてさえいればどうとでもなります。」
リーエの答えにハマナットが割り込んだ。
「魔王の魔力をほとんどの代償にするのだ。それくらいは我慢してもらうしかないだろう。」
「はあ、仕方ないね。聖霊王の力添えで交渉の余地が生まれ、魔王の魔力を与えることと、自身の見る力を渡すことで、今回の契約の代償は成立ってことだね。」
ダルシャンがまとめると聖霊は頷いた。
『よかろう、これで交渉成立じゃ。』
そういうと聖霊はリーエに近づいた。
『約束通り、魔力をもらうぞ?』
リーエはコクンと頷いた。
すると聖霊はリーエの顔を両手で挟み額をあわせた。
合わさった額が少し熱く感じると、何かが自分のなかから出ていくのを、リーエは感じた。
これが、魔力を渡すということ。
少し寂しい気持ちになってきたところで、聖霊がリーエから離れた。
『よし、総魔力の1割ほどをもらった。では、しばらく待っておれ。』
聖霊がそういうとダルシャンがリーエに近寄り顔を見た。
「大丈夫かい?」
少しダルい感じがしたが、大丈夫だとリーエは答えた。
聖霊は目をつむり、時折額をピクピクさせていた。
「何をしてるんでしょう?」
「おそらくルークと話しているんだろ?」
「それにルディたちともね。」
リーエたちはそんな聖霊をじっと見ていた。
「ああ、そうだ。今のうちに。」
突然ダルシャンが声をあげて聖霊に近づいた。
そして、額の辺りに指を持っていきデコピンした。
すると、
『痛いではないかぁ。』
聖霊が目をひらき叫んだ。
「いや、そろそろいいかなって。」
ダルシャンは悪びれずにニッコリ笑い聖霊に言った。
『ったく。まあよい。話は終わったぞ。』
聖霊がそういいルークをチラリとみた。
「なんですか、どうしたんですか?」
ルークの行動にリーエは戸惑いながらルークの目線にあわせしゃがみこんだ。
「聖霊との交渉だ。多大な迷惑をかけたようだ。」
少し寂しそうな顔でリーエをみたルークにリーエは微笑んだ。
「そんなの気にしないでください。大丈夫ですから。」
「しかし、元を正せば俺の行動が原因だ。」
「でも、一番効率的な方法でしたよ?」
「いや、他にも何かあったのかもしれない。」
「うーん、そうですかねぇ?」
首を傾げリーエはダルシャンを見た。
「現場を見てないけど、話を聞く限り、一番手っ取り早い方法だったとおもうよ。」
「しかし。」
「終わったことを言っても仕方がない。だが、どうするつもりだ?」
そこにナハマットが割って入った。
「償いはするつもりだ。」
「当たり前だ。で、どうするつもりだ?リーエの魔力の代わりに何を差し出す?」
ナハマットの言い分にルークはどう答えいいかわからなかった。
「どうすればいいのだろうか?」
「なぜ俺に聞く?自分のしてきたことの責任が取れないのならば、勝手な行動をするな。」
怒り心頭なナハマットに言われ、ルークは落ち込んだ。
「まあまあ、とりあえずどうにかなったのだからいいんじゃないの?」
「いいわけあるか。」
口を挟んできたリヴァイアサンにナハマットは睨みつけた。
「えっと、それよりもルークさんは大丈夫ですか?」
リーエはルークの目を覗き込んだ。
しかし、その瞳には何も写っていなかった。
見る力がなくなったために、目としての機能はないのだ。
「とりあえず、聖霊に聞いたから、魔力を使ってある程度の気配はわかる。なれるまで少し不便なだけだ。」
「それなら良かったです。リハビリならお手伝いします。」
リーエはそういいルークに立ち上がるように促した。
『では、これでよいな。契約は終わった。我は還る。』
聖霊がそういい帰ろうとした。
『むっ。』
聖霊の額にシワが寄った。
『どういうことじゃ?』
「どうしたんですか?」
『還れぬ。』
「なんでですか?」
『何かが邪魔をしておる。貴様ら、何をした?』
聖霊はそういい、魔力を身にまとい始めた。
そんな聖霊にのほほんと声をかけたのはダルシャンであった。
「おや、ようやく気づいたんですか?少しおそいですねえ。」
『何をした?』
「楔を打ち込ませてもらいました。」
『楔じゃと?どういうことじゃ?』
「いや、魔王の魔力をもらっているのにそう簡単に還すわけにはいかない。しばらく働いてもらうよ。」
『働くじゃと?』
「そう、なんでもリーエたちはこれから天空神殿の主殿を護るっている役目と、面倒で厄介な依頼を受けることになるみたいでね。ここはその拠点になるらしい。で、その拠点の管理をお願いするよ。」
ダルシャンの言葉にリーエとルークは驚いた。
「父様、一体いつそんなことを?」
「え?デコピンしたでしょ?そのときにちょっとね。」
あまりの手際のよさにリーエは唸った。
「でも、管理を任せるって?」
「外とのやり取りをする人物が必要になるはずだから。それと同時にここの護りもね。」
ニッコリ笑いダルシャンは聖霊を見た。
「大丈夫だよ、聖霊王に確認して許可はもらってあるから。安心して働いてね。」
『く、屈辱じゃ。』
悔しそうに言う聖霊だったが。
『じゃが、それも面白そうじゃ。しばらくこちらの世界にいるのも良いかもしれぬ。』
考えをあっさりと変えて、少し楽しそうにしていた。
「じゃあ、とりあえずいろいろ教えるね。」
ダルシャンはそういい聖霊にいろいろとやるべき仕事を教え始めた。
「あのう、そういえばルディさんたちはどうなっているんでしょうか?」
ルークの中にいる聖霊との交渉のためにルディたちはルークの中へと入っていった。
しかし、ルークが目覚めているのにルディたちは戻っていていない。




