第7章 魔王の秘密 その3(9)
次の瞬間。
辺りをひんやりとした空気が包んだ。
「何が大変なんだ?なんでもいってごらん。」
いつの間に現れたのかリーエの隣に一人の男性が立っていた。
「叔父様、久しぶりですぅ。」
「ああ、久しぶりだ。相変わらず可愛くて元気でよかった。」
そういい、はた迷惑な叔父様ことナハマットはリーエの頭をなでた。
「突然現れましたね。一体どこから来たんでしょうか?」
ラルクは興味しんしんでナハマットを見ている。
他の人たちは少し胡散臭そうな目を向けていたが。
「あのですね。この空いている空間の半分くらいを氷で埋め尽くしてください。できたら絶対解けないように。お願いできますか?」
リーエはナハマットに首を傾げながら尋ねた。
そんなリーエの姿にナハマットは感極まったように泣き出した。
「ああ、初めてだ。リーエから頼りにされるなんて。大丈夫、すぐにできるよ。」
ナハマットはそういうと、手を一振りさせた。
すると、そこに二匹の白銀の虎が現れた。
「全てを凍らせろ。」
そうナハマットがいうと二匹の虎は死せる大地の跡地へと走り去った。
真っ黒な空間が広がるそこに吸い込まれるようにして落ちていく二匹の虎。
しかし、ある一定の高さで浮いていた。
そのまま二匹は側面に沿って走り出した。
その走った跡には白い氷が張っていた。
二匹は速度を上げてぐるり一周回った。
そして、ナハマットの元へと戻ってきた。
「ご苦労。では仕上げだな。」
真っ黒な空間のまわりを縁取るように白い氷の道。
そこにナハマットの魔力が注がれた。
すると、白い氷の道は徐々に太くなっていき、あっという間に空間全部を氷で覆い尽くした。
「こんな感じでいいか?」
ナハマットはリーエに向き直り言った。
リーエがシュリと一緒に確認する。
「大丈夫そうだな。あとは水だな。」
「了解ですぅ。」
シュリの言葉をうけてリーエが両手を天に広げた。
「大海の主、幻獣の王、今ここに降臨せよ、おいでませリヴァちゃん。」
リーエの声を聞いて、巨大な水の渦が氷の上にできた。
そしてその渦から巨大な竜が飛び出した。
「はいはい、呼んだあ~。」
巨大な姿とは別に明るい声でリーエの前に佇んだ。
「来てくれてありがとうですぅ。ちょっとお願いがありまして。」
そこまで言うとナハマットがリーエの肩を掴んだ。
「リーエ、そんなヤツに頼らなくても叔父様がなんとかするぞ。」
「おやおや、氷王ではないですか。いやあ、久しぶりですねえ。500年ぶりですかあ。」
「リヴァイアサンのくせにリーエに頼られてるだと。あり得ん。それに、久しぶりだろうがなんだろうが知らん。」
リヴァイアサンの言葉にそっけなく対応するナハマット。
しかし、まわりの反応は違った。
「おい、リヴァイアサンって。」
「いやあ、初めてみました。大きいんですねえ。」
「そういう問題じゃないと思うんですが。」
「それよりも氷王って言わなかったか?」
「ああ、そういえばそう言っていましたね。」
「おい、ややこしくなってるぞ。」
シュリは頭に手をやりため息をついた。
「ああ、ごめんなさいですぅ。とりあえず、氷の上を水でうめてほしいんですよぉ。」
リーエはリヴァイアサンにお願いした。
「なんだ、そんなことなら簡単だ。よいしょっと。」
リヴァイアサンが体を捻らせると周囲から水が溢れだした。
その水は氷の上を滑るように進み覆い隠していった。
「こんなもんでいいか?」
リヴァイアサンが見渡し十分に水があることを確認して、リーエに尋ねた。
「はい、ありがとーございます。」
リーエも確認して満足げにニッコリ笑った。
「では、仕上げといきましょうか。」
そういうとルディは腰につけてあった袋から何かを取り出した。
「なんですかぁ?」
リーエはルディに近づき尋ねた。
「これはラジの木の種です。」
ラジの木。
この世界の暖かい場所に生えるとても大きく育つ木である。
「ここは暖かい気候ですから、育つでしょう。」
ルディはその種を投げた。
ポチャン、と音をたてて水の中に沈んでいく種にルディは魔法をかけた。
「光の導きにより天をつけ 硬き衣を脱ぎその身を現せ」
その言葉に導かれるように、種が変化していく。
種からは天に向かい茎が伸び葉を繁らせ、地に向かい根が張り巡らされていった。
死せる大地の跡地に出来た湖の真ん中にそびえ立つラジの木。
「いい感じかですねぇ。あ、そうだ。いっそのことここを我々の拠点にしませんか?」
ルディの言葉に皆は首をかしげた。
「つまりですね、いつも天空神殿の主を警護するわけではないですし、ギルドで扱いきれなかった案件を処理できる部隊なのでしょう?」
ルディはシュリを見ながら言った。
「そうだ。確かに拠点は必要かもしれないな。」
腕を組ながらシュリは呟いた。
「でしたら、この場所を拠点にしてさまざまな案件を処理しつつ、交代で天空の主を警護する。というのはいかがですか?」
「確かにそれならば自分を鍛えながらも警護につけるな。」
オスカーはルディに頷いた。
「天空神殿の主どの、どうでしょうか?」
皆が一斉にシュリをみた。
「ああ、それでいい。」
シュリはルディは頷いた。
「じゃあ名前を決めましょう。」
リーエが少しワクワクしながらシュリに提案した。
「名前?なんでだ?」
シュリの一言でリーエはムッとした。
「部隊の名前ですね。確かに呼び名があった方が便利ですよね。」
ラルクが腕組みしながらウンウンと頷いきながら言った。
「別に構わないが候補はあるのか?」
シュリの言葉に待ってましたと言わんばかりに、それぞれが言い出した。
「ガッツリ頑張り隊。」
「暴風戦隊ラルシオン。」
「姫君と騎士団。」
「光の導き。」
「愚者と賢者。」
それを聞いてシュリは一言。
「本当にそれでいいのか?」
皆はコクリと首を縦にふった。
「悪かった。俺が間違っていた。とりあえず、拠点にするならばもう少し何かした方がいいんじゃないか?」
シュリはそういうとラジの木を指差した。
「そうだな。よし、一先ず空間を広げて寛げるようにしようぜ。」
オスカーがそういうと皆はラジの木に向かい歩き始めた。
そんな彼らをシュリは見送りため息をついた。
「これから大丈夫か?」
「何とかなるだろう。だが、アレはどうするんだ?」
「ん?まだいたのか。」
シュリは隣に来ていたナハマットを横目でチラリとみた。
「いたら悪いのか。それより、アレはどうするんだ?」
そういいナハマットが目線で示したのは。
ルーク、だった。
「ああ、忘れていた。しかし、魔力切れで寝ているんだろう?そのうち目をさますのではないのか?」
シュリはナハマットに尋ねた。
「いんや、起きねえよ。契約の代償かもな。」
リヴァイアサンの言葉にシュリは思い出していた。
「聖霊との契約だったか?普通はどんな交渉になるんだ?」
「まあ、願ったもんが大したもんじゃない場合ならば、魔力で終わるんだが。今回は規模が違う。下手するとこのままかもな。」
ルークを見てリヴァイアサンが言った。
「何か方法はないのか?」
シュリはリヴァイアサンに聞いた。
「まあ、聖霊の気分しだいだからな。」
「ならば聖霊に会うにはどうすればいい?」
シュリはリヴァイアサンに詰め寄った。
「会うのは簡単だ。喚べばいい。」
ナハマットが二人の会話に入ってきた。
「喚び方は?」
「魔力を餌に喚ぶのが一番はやいが。」
そういって、リーエたちの方をチラリと見た。
「何か問題でも?」
「リーエのことを気に入ってはこまる。」
真面目な顔でナハマットが言った。
そういえば、リーエのことを溺愛していたっけ。
「ならば結界をはってその中でというのは?」
そこまでいって、リヴァイアサンが首を傾げた。
「そんな面倒なことしないで、コイツの中に入ればいいんじゃないのか?」
そういい、シュリの手を掴みルークの胸元へおいた。
「それじゃ、いってらっしゃ~い。」
その言葉でドンという圧力を感じると目の前が暗くなっていった。
気がつくと、そこは白い空間。
辺りを見回しても何もない。
「ここはどこだ?」
ポツリとつぶやくと、前方から強風が吹いてきた。
前屈みになりながらも踏ん張るシュリ。
しかし、風に負けて後ろへと飛ばされてしまった。
目をつむり飛ばされながら、シュリはどうすることもできないまま飛んでいた。
ふいに、風がやみドスンと落ちたシュリはゆっくりと目を開けた。
すると、そこにルークが立っていた。
「ルーク、こんなところにいたのか。」
シュリはそういいルークに近寄った。
しかし、ルークは何も反応しなかった。
「おい、どうしたんだ?」
ルークの肩に手をやり揺さぶってみたが、全く反応がない。
目は閉じており、顔色は少し青白く生きている気配はあまり感じられなかった。
そこに。
ある声が響いてきた。
『何者だ?コレは我のモノだ。触るでない』
その声にシュリは辺りを見回したが誰もいない。
「聖霊か?」
ポツリとつぶやくシュリの言葉に、笑い声が聞こえた。
『何者だと聞いているのに。答えぬとは。まあよい、答えてやろう。我は聖霊、闇の聖霊だ。』
「闇の聖霊。」
ルークから手を離し、声の聞こえてきたほうに顔を向けた。
そこにいたのは、黒い髪に黒い瞳。紅い蠱惑的な唇が印象的な女だった。
「この状況はあなたがつくったものなのか?」
視線を向けると面白そうに口角をあげて答えれくれた。
『そうだ、契約の代償として、全てをもらった。』
「全てだと?」
『そうだ、魔力、命、肉体。全てだ。』
その言葉にシュリは闇の聖霊に近寄った。
「代償の軽減をすることは可能か?」
シュリの言葉を聞いて闇の精霊はニヤリと笑った。
『その代償は?』
その答えにシュリは言葉につまった。
「代償として与えられるものは少ない。」
苦虫をつぶしたかのようにシュリは答えた。
『ならば、交渉はできぬ。ここから去るがよい。』
闇の精霊がシュリに向かい手をふると、シュリは吹き飛ばされた。
目をつむりそれをやり過ごし再び目を開くと。
「お、帰ってきたか。どうだった?」
目の前にリヴァイアサンがいた。
「交渉決裂だ。」
ムスっとしながらシュリは答えた。
「まあ、そうなるよな。諦めるのか?」
少し面白そうな顔でシュリを見るリヴァイアサン。
そんなリヴァイアサンにシュリは不敵な笑みを浮かべていった。
「諦めるようにみえるか?」
「見えないな。で、どうするんだ?」
「ひとまず代償の軽減のための代償が必要みたいでな。それを考える。」
「代償の代償?なんですかぁ?」
いつの間に近くに来ていたのかリーエたちが戻ってきていた。
「お前、いつの間に。」
「むう、シュリがルークの中に入っていってからすぐです。」
「で、代償の代償とはルークと聖霊とのことですか?」
「ならば、詳しく聞かせてもらう。」
ルディやリアスも話に入ってきた。
「まあ、話してみたら?何かいい方法が見つかるかもよ?」
軽い感じでリヴァイアサンが答える。
仕方ない、とばかりにシュリはすべてを話した。
話終えて、ひとまず意見を聞くことにした。
「で、どうすればいいと思う?」
「一人からではなく、我々六人から魔力を渡すというのは?」
「美人のお姉さんであれば俺が交渉してもいい。」
「自業自得だが、このままではいかん。魔力と生命で手をうってらうように交渉を。」
「ええと、その前に聖霊は何を求めているんですか?」
ラルクの意見に皆は、固まった。
「そこから始めてみるか。よし、全員でルークの中にいくぞ。」
シュリの言葉を合図にみんながルークのそばに近寄った。
「ほいじゃ、いってらっしゃ~い。」
再びリヴァイアサンの力でシュリたちはルークの中へをはいっていった。




