第7章 魔王の秘密 その3(7)
「魔法、使いましたね?」
ダルシャンが闘技場から戻ると、突然声をかけられた。
「あなたは?」
声をかけられたほうを見ると、一人の女がたたずんでいた。
「それはどうでもいいでしょう?」
ダルシャンはニッコリと笑い答えた。
「確かにどうでもいいですね。しかし、おかしなことを言いますね?魔法を使わなければ、どうしろと?」
「そういう意味じゃない。人の心に働きかけたでしょう?」
「そうなんですかぁ?」
そんな会話をしていると、リーエが表れて驚きの声をあげた。
「そんな高度な魔法は使ってないよ。」
ダルシャンは苦笑いを浮かべた。
「認めないのね。いいわ、あんな魔法に負けないから。」
そういいダルシャンとリーエを睨み付けて女はその場を立ち去った。
「なんか感じが悪い人ですねぇ。」
「まあ、気にしなくてもいいだろう。」
「で、実際どうなんですか?」
リーエは首をかしげてダルシャンに聞いた。
「使ってないよ。使ったのは癒しの魔法だからね。」
ダルシャンは苦笑いしながら答えた。
「結果的に体調が良くなれば心も軽くなるだろう?全くの健康な人というのはあまりいないからね。」
「そうですねぇ、お腹が痛かったり、ちょっとした怪我があったりはしますもんね。」
「さて、お手並み拝見といきましょうか。」
ダルシャンはニッコリ笑った。
闘技場には先ほどの女が立っていた。
「あれ?あの人も参加者だったんですね。」
「知らなかったのか?」
「はい。どうでもいいことは忘れてしまうんです。」
リーエは堂々と言った。
「威張ることでは、ないんだが。」
そんな二人の会話を他所に女は魔法を唱え始めた。
「汝、我が呼び声に答えよ。混沌の淵より甦りその姿を現せ。」
「これは。」
ダルシャンはその魔法を聞き眉をひそめた。
「ヤバそうですね。」
「かなり。しかも、失敗する。」
「ですねぇ。」
リーエも眉間にシワをよせ難しい顔をした。
「滅びを司るもの、破壊を司るもの、全ては創造に還り今ここに甦らん。」
女はニヤリと笑い最後の言葉を述べた。
「現れよ、死せるもの、アンデットドラゴン」
その言葉に闘技場は暗闇に襲われた。
うっすら光るのは闘技場を包む結界である。
そこに禍禍しい気配をまとった何かが現れた。
「ふふ、成功したわ。これで私の勝ちが決まったわ。」
女は何かに手を差しのべた。
「さあ、私が主よ。」
しかし、次の瞬間女の手が消えた。
何が起こったのかわからない女は首をかしげた。
「なにが…」
そうつぶやいたあとに、激しい痛みが女を襲った。
「ああああああっっっ。」
痛みのあまり、女は腕を抱えてしゃがみこんだ。
その瞬間。
女の姿は消えていた。
「喰われたか。」
その様子を見ていたダルシャンは一言呟いた。
「で、どうするんですかぁ?このままほっといても帰ってくれませんよね?」
「まあな、いきなり格下の相手に呼び出されたんだ。術者を殺しても怒りはそう簡単には消えんよ。」
ダルシャンはどうしたものかと、顎に手をやり考えた。
すると、誰かが闘技場に入っていった。
「誰か行きましたね?」
「フム、では任せてみようか。無理そうならばなんとかしよう。」
闘技場に上がった人物は、アンデットドラゴンと対峙していた。
緑に光る瞳がその人物をとらえたと同時に、その人物は飛び上がっていた。
「悪しきものよ、その身を清浄なる光にて焼かれ闇へと還れ。」
その言葉に魔法が発動した。
決して目を射ることのない優しい光。
しかし、絶対的な光が闇より生まれたアンデットドラゴンはひとたまりもなかった。
「光の浄化魔法ですか。」
リーエがそうつぶやいた後、闘技場を覆い尽くしていた暗闇が晴れた。
そして、一人の若者が立っていた。
「彼が浄化をしたのか。」
ダルシャンは若者をじっと見つめた。
その気配を感じたのかその若者が振り返り、ダルシャンとリーエを見た。
若者はしばらくダルシャンたちを見つめていたが、ふいに目をそらし闘技場を後にした。
「彼も参加していたんでしょうか?だとすると、今のが得意な魔法なんですかね?」
「さあ、どうだろう?他にもいろいろありそうだが。」
ダルシャンは先程の若者の視線が少し気になっていた。
全てを見通す鋭い目。
こちらが魔族であることがバレているのではないか。
そんな気持ちにさせる視線であった。
「そういえば、そろそろ出番ではないのか?」
ダルシャンはリーエに尋ねた。
「ああ、そうですねえ。じゃあ頑張ってきますね。」
そういいリーエは闘技場へと向かった。
闘技場にあがったリーエはグルリとまわりを見た。
観客たちはすでにいくつもの魔法をみているので、少し飽きているようであった。
「よし、頑張りますぅ。」
気合をいれてリーエは魔法を唱え始めた。
「清らかなる流れに集う乙女たちよ、契約に従い我が前にその姿を現せ、いでよ、ウンディーネ。」
その言葉により闘技場に水の渦ができた。
その渦から淡い水色の光が溢れ始めると、蒼い光がリーエに向かって飛び出した。
「来てくれたんですねえ。うれしいです。」
リーエはその光を手で受取り、にこやかに微笑んだ。
その光はリーエの言葉を聞いてチカチカと瞬き、リーエの肩のあたりで漂っていた。
「じゃあ、少し力を貸してくださいね。」
頷くように光は上下に揺れた。
それを確認して、リーエは少し真剣な顔つきになった。
「果てしなき流れは全てを押し流し 偽りの大地を砕かんと怒りを露わにする 我が力よ、その源となれ 天より降り注ぎ満ち溢れ覆いつくせ 」
徐々に息のあがっていくリーエをダルシャンは、優しいまなざしで見ていた。
「なかなかやるじゃないか。いつもこうだといいのだが。」
そんなことを言われているとは知らずに、リーエは詠唱を続けた。
「リーエの名において命じます 大雨ザブザブぅ」
リーエはそういうとウンディーネを上空に投げ飛ばした。
空高く舞い上がったウンディーネは光となり消えた。
しばらくするとゴオゴオという音が空から聞こえてきた。
観客たちは何事かと空を見上げた。
すると、そこには大量の水が落ちてきているのが見えた。
その水はそのまま闘技場へと流れ落ちた。
バケツをひっくり返したかのような水は闘技場を囲んでいた結界に押し留められ、水槽のようになっていた。
しかも、闘技場にいたはずのリーエの姿が見当たらない。
先ほどの水に押し潰されたのでは、と最悪なことを考える人もいた。
「では、いきまーす。」
そこに明るい少女の声が響いた。
闘技場の結界の上にたち闘技場を満たしている水に手を差しのべた。
「咲き誇れ、水花火。」
リーエの言葉に促されるように水面から小さい水の玉が浮かび上がり、弾けた。
パチン、パチンと音をたてながら弾ける水の玉。
それは少しずつ大きくなり音も変わってきた。
「色鮮やかに踊れ。」
再びリーエの声が響くと、無色だった水の玉が色とりどりに変わり、会場からは感嘆の声が聞こえた。
いつしか闘技場いっぱいに水の花火が色鮮やかに咲き誇っていた。
闘技場を埋め尽くしていた水も残りわずかになり、そろそろ終わりが近づいていた。
「では、最後に。華よ。」
リーエが紡いだ言葉に水は形を変えた。
徐々に蕾の形へと変化していき、それが終わるとゆっくりと蕾が開き始めた。
艶やかに咲いた大輪の花に人々は見惚れていた。
そして、シャンという音がするとガラスのように砕け散った。
その欠片に陽の光があたり輝きながら消えていった。
「以上で終わります。」
リーエは観客たちに一礼して闘技場をあとにした。
「よくやったな。」
闘技場から出たリーエにダルシャンは声をかけた。
「はい。頑張りました。」
リーエも嬉しそうに笑った。
こうしてリーエの出番は終わり、のんびりと他の参加者たちの魔法を見た。
そして、最後の参加者まで終わり投票の受付が始まった。
入場するときに観客たちに渡してあったボールを、投票したい番号の書かれた箱に入れればいい。
観客たちはそれぞれの箱にボールをいれていく。
みんながいれ終わったのを確認して、箱の中のボールを数えていく。
そして、数え終わりついに優勝者が決定した。
優勝者の名前を見てシュリは一瞬驚いた顔をしたが、ニヤリと笑い優勝者の名前を口にした。
「優勝者は、天空神殿のダルシャンに決定した。」
観客たちから歓声があがった。
「では、優勝者ダルシャンは前へ。」
シュリの言葉に従いダルシャンはシュリの前にたち一礼した。
「流石だなと、いうべきか?」
「まだまだ若いものには負けません。」
ダルシャンはシュリに向かい笑いながら言った。
「希望の品はなんだ?」
シュリはとりあえずダルシャンに尋ねた。
「では、紅玉の琥珀をいただけますか?」
「アレか。古の時代にあった紅水晶が樹脂で固まった幻の琥珀。わかった。確か天空神殿の宝物庫にあるはずだ。」
シュリはダルシャンにそういい、国別対抗戦の終了を告げた。
国別対抗戦から5日も過ぎれば、いつも通りの生活に戻っていた。
そんな中、ある6人が天空神殿の主に呼び出されていた。
「わざわざ集まってもらったのは他でもない。先日の対抗戦を見て決めたことがあるからだ。」
シュリはそういうと集まった人たちを見た。
「この度、天空神殿で様々なことに対応できるような部隊をつくることにした。その部隊長になってもらいたい。どうだろうか?」
突然のシュリの発言に集まった6人は困惑していた。
「もちろんそれなりの報酬を用意する。」
そんなシュリにある人物が質問した。
「質問してもよろしいですか?」
金髪に緑の瞳の若者がシュリに伺いをたてた。
「なんだ?」
「なぜ今そのような部隊をつくろうと?」
その質問にシュリは苦笑した。
「命を狙われているからだ。」
シュリの答えに若者は苦い顔をした。
「えぇぇぇぇ、そうなんですかぁ?」
そんな中、空気を読まずに発言したのは、リーエであった。
リーエも6人の内の一人であった。
「権力者が命を狙われるのは常だろう?」
「そういうものなんですか?私もなんですかね?」
リーエは首を傾げて考えていた。
「では、安全のための部隊ということですか?」
「表向きはギルドでは対応しきれない問題を解決するためだ。そうでないと、各国の王たちがうるさいからな。」
シュリはため息をつきながら言った。
「でもよ、なんで俺たちなんだ?」
金髪の若者の隣にいた赤髪の男性がシュリに聞いた。
「一つは、実力。先の対抗戦でじっくりと見せてもらった。」
「あんまり実力出してねえけどな。」
赤髪の男性は苦笑した。
「2つめは名があまり売れていないからだ。」
「その根拠は?」
シュリの答えに赤髪の男性は少し真面目な顔で聞いた。
「これも各国の王たちからの批判を受けないためだ。実力のある人材を遊ばせておくのかと、言われるだろ?それは得策ではないからな。」
一度言葉をきり6人をみてさらにシュリは続けた。
「それに対抗戦で目立つ行為をしないということは権力に屈することはないだろうという、考えからだ。」
その答えに赤髪の青年は目を見開いたが、不敵な笑みを浮かべて言った。
「なるほどね、よくわかった。」
シュリの答えに他の5人も口元に笑みを浮かべていた。
「納得してもらえたようだな。そこで、初の任務がある。」
「いきなりですか?」
茶髪の少年がシュリの言葉を遮っていった。
「ひとまず各国の王たちに認めてもらわねばならん。」
「というと、まだ内密なお話なんでしょうか?」
緑の髪をした青年が首をかしげて聞いた。
「一応前回の会議で話はしたが、確定はしていない。そのための任務になる。」
シュリは苦い顔で答えた。
「で、どんなことをするんですか?」
少しワクワクしながら茶髪の少年が聞いてきた。
「あのう、いいですかぁ?」
そこに小さな声でリーエが話した。
「ああ、お嬢ちゃん、なんだ?」
赤髪の青年が面白そうな顔でリーエを見た。
「任務より先にするべきことがあると思うんです。」
キッパリと言ったリーエに他の5人は顔を向けた。
「まずは自己紹介、しましょう。」
ニッコリ笑い言ったリーエを見て、シュリはため息をついた。




