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第7章 魔王の秘密 その3(5)

 

叔父の言葉に過剰に反応したリーエを横目にシュリは再び聞いた。


「正直に言えば、許してやる。」


「ふう、可愛くない子供だ。城内に直接転移したからだ。」


ナハマットの言葉にシュリは驚いた。

天空神殿には不可侵の結界が張り巡らされている。

それは、天空神殿の主であるシュリを護るためのものである。

しかし、それをくぐり抜けて転移するとなると、かなりの強者であろう。


「では、不法侵入だな。逮捕だ。」


シュリがパチンと指を鳴らすと衛兵たちが即座にきて、ナハマットを取り囲んだ。


「ふん、この程度では拘束力はないぞ?」


ナハマットは動じず、シュリを見返した。


「ダメですぅ。喧嘩はしないって約束だったじゃないですかぁ。」


そこにリーエが飛び込み、ナハマットを見上げた。


「ああ、可愛いリーエ。心配しなくても大丈夫だよ。これは喧嘩じゃない。正当防衛になるから。」


次の瞬間。

ピキィーン

甲高い音がしたと思ったら、衛兵たちが氷漬けになっていた。


「ほらね、大丈夫だろう?」


首を方向け、リーエに微笑んだナハマット。


「それならいいですう。」


それにつられて微笑んだリーエ。


「いいわけ無いでしょう。」


微笑み合っていた二人の間に割り込み、二人を引き離したダルシャンはナハマットに言った。


「早く術を解いてください。でないと、リーエが泣きますよ?」


「何、それは本当か?」


間髪いれずに答えたナハマットにダルシャンは頷いた。


「本当です。さあ、面倒なことにならないうちに。」


少し焦りながらナハマットは氷漬けにした衛兵たちを元に戻した。


「これで大丈夫だな。」


にこやかな顔でリーエを見てダルシャンは固まった。

ダルシャンがリーエを抱きしめていたからである。


「貴様あ、何をしているんだぁ。」


「何って、疲れているであろう娘をいたわっているんです。」


「くそぅ、羨ましい。リーエ、こっちに来なさい。お菓子をあげるから。」


という、二人の間に冷たい一言が降り注いだ。


「ってか、いい加減にしろよ。別室を用意してやるから、そこで好きなだけ喋ってろ。」


ウンザリした様子のシュリがダルシャンとナハマットに言った。


「長居するつもりはありません。さあ、兄上帰りますよ。」


そういい、ダルシャンはナハマットの手をひいて部屋を出ていった。

その後からはリーエを大声で呼ぶナハマットの声が響いていた。


「えっとぉ、すいません。いろいろお騒がせしまして。」


常識的な言葉でリーエはシュリに謝罪した。


「気にするな。とりあえず、どういう経緯でこうなったんだ?」


「話せば長くなりますがいいですかぁ?」


「話せ。」


シュリの言葉にリーエは離しだした。


「銀の宝珠をもってこいって言われたんで、叔父様の領地である北の大地へ行ったんですぅ。そしたら、好きなのを持って行けって言われたんで、小さめの銀の宝珠を持って帰ろうとしたんですぅ。でも、叔父様がもっと大きい方がいいだろうっていうから、大きいのにしたら今度は、襲われるといけないから送っていってやるっていって。」


「で、送り届けられたということか。」


「はいぃ、すいません。」


聞けば聞くほど馬鹿らしい。

姪っ子の溺愛具合にシュリはため息をついた。


「あのぅ、大丈夫ですかぁ。」


ため息をついたシュリをリーエが下から覗き込んだ。

すると、少し低い声でシュリが答えた。


「大丈夫そうに見えるのか?」


「いえ、見えません。」


「わかったら、少しおとなしくしてろ。そろそろ、結果が出るだろう。」


すると

バタン、という大きな音とともに扉が開きリーエの銀の宝珠を持っていった男性が帰ってきた。

そして、かなり興奮気味にリーエに近寄り手を握りしめ喋り始めた。


「素晴らしい銀の宝珠です。これは素晴らしい。なんといっても大きさ、質、完璧です。一体どうやって手に入れたんですか?」


あまりの興奮気味にリーエは少し引きながら答えた。


「えっと、北の大地まで行ったので・・・。」


「あの、氷王の箱庭ですか?強者ですね。で、現時点でダントツのトップに躍り出ました。おめでとうございます。」


そこで、一度言葉をきり再び喋り始めた。


「実はあなたと契約を結べないかと思っておりまして。」


「契約?ですか?」


「はい、定期的に銀の宝珠を採ってきていただけないかと。あれほどのものを短期間で採ってこれる人物はいませんので。いかがでしょうか?」


突然の話にリーエは戸惑った。

確かに自分ならば、かなり楽に銀の宝珠を採ってこれるだろう。

しかし、秘密にしているが自分は魔王である。

そんなことをしてもいいのか、よくわからないのである。


「おい、とりあえずその話はまた今度にしろ。疲れているんだ。休ませてやれ。」


冷静なシュリの言葉がその男性を我に返らせた。


「ああ。そうでした、申し訳ないです。とりあえず、ご検討ください。」


そういい、リーエの手を名残惜しげに離した。

ほっと、一息つきリーエはシュリに聞いた。


「えっと、このあとはどうしたら良いですか?」


「基本自由だ。だが、そうだな。少し離したいことがあるから、別室に行くぞ」


シュリはそういい、近くにいた男性に少し席を外すことを伝えた。


「じゃあ、行くぞ。」


そういって、シュリはリーエの手をひいて部屋を出た。

階段をのぼりいくつかの角を曲がってようやく着いたシュリの部屋。

そこ落ち着いた雰囲気にまとめられていて、リーエはホッとしたのか少し疲れを感じていた。


「とりあえず、そこに座れ。」


シュリはゆったりとしたソファを勧め自分も座った。

ゆっくりと腰を下ろすとフカフカの感触に包まれた。


「落ち着きますねえ。」


つい、独り言をつぶやいてしまいリーエは口を抑えた。

そんなリーエをシュリは苦笑しながら何も言わずに見ていた。


「ええと、それでお話っていうのは?」


とりあえず、誤魔化そうとしてリーエはシュリに尋ねた。


「ああ、話と言うのはだな。今回の試練のことだ。」


「何か問題でもあるんですか?」


「この試練は冒険者たちのために属性別でトップを決めることが目的だった。」


「そうでしたねえ。すっかり忘れてました。」


「だろうな。しかし、国別対抗戦に変更したことによって、少し意図がずれている気がする。」


「そうですねえ。属性別っていっても現時点でどんな人が残っているのかわかりませんもんねえ。」


リーエの言葉にシュリはニヤリと笑った。


「そこは抜かりないぞ。属性別で言うと、水が18人、炎が19人、地が12人、風が18人、光が15人、闇が13人の合計95名が残っている。」


シュリの答えにリーエはビックリした。


「なんで分かるんですか?」


「水晶だよ。渡しただろ?」


思い出したように上着のポケットから水晶を取り出した。


「これですか?」


「ああ、それですべてが分かるようになっているんだ。属性はもちろん、魔力の量や質がわかる仕組みになっている。」


リーエは手に取った水晶をマジマジと観察した。


「わかっていなかったのか?」


「はい、全然知りませんでした。」


はっきりとした答えにシュリは脱力した。


「まあいい。そこでだいたいの人選を決めることができたんだ。だから、次の試練で最後にする予定だ。」


「ええ、まだあるんですかあ?」


「イヤか?」


「はい、イヤです。」


「仕方ないな。じゃあ次は簡単なものにする。」


「ふふ、よかったですぅ。」


そんな和やかな雰囲気を台無しにするように、大きな音が天空神殿に響き渡った。

シュリは素早く立ち上がり、窓に近寄った。

外を見ると、門のあたりで黒い煙がモクモクと立ち上っていた。


「なんですかあ。今の音は。」


リーエもシュリの横に並び外を見た。


「あれは。」


じっと見たあとつぶやくと、リーエは窓を開けて飛び出した。

突然の行動にシュリは驚いた。


「おい、何やって・・・。」


そこにリーエの姿はなかった。


「くそ、どうなってるんだ。」


シュリは悪態をつくと煙のあがる門を一瞥して、走り出した。

部屋をでて階段まで走ると、階下から混乱している声が聞こえてきた。

シュリはそのまま階下へとおり、外へ飛び出した。

途中、危ないですからお止めくださいと、声をかけられたが気にせず門まで一気に駆け出した。


「酷いな。」


門の近くまでくると辺り一面が焼け、地面はひび割れあちこちから呻き声が聞こえていた。

目を細めて煙に隠された辺りをみれば、うっすらと影が見えた。


「誰だ?」


鋭く声をかければ、その影がゆっくりと近づいてきた。

シュリは、少し警戒して影が近づいて来るのを見ていた。

そして、現れたのは。


「もう、どうするんですかぁ。こんなに壊しちゃってぇ。」


リーエと、1羽の紅い鳥だった。


「おい、その鳥はなんだ?」


「ふぇぇ、もう見つかっちゃいましたぁ。」


シュリが声をかけるとリーエはビックリし、肩を落とした。


「仕方ありません。観念します。」


ガックリと項垂れながら、リーエはシュリに近づいた。


「この子はヒクイドリのひーちゃんです。」


説明を始めたリーエにシュリは黙って聞いていた。


「実はひーちゃんは、伝書鳥で手紙を運んできたんです。でも、ひーちゃんは一撃必殺、猪突猛進、狙った獲物はかなり外す、という特殊な能力がありまして。」


少し話が見えてきたシュリは小さくため息をついた。


「つまり?」


シュリの声にリーエはゆっくり顔をあげ、ニッコリ笑いこう言った。


「これは不可抗力ですぅ。壊れる方が悪いんですよね。」


「バカか。しっかり請求させてもらうからな。」


「そんなぁ。お金ないんですよぉ。」


泣き出しそうな顔でリーエはシュリに詰め寄った。


「はあ、なんか疲れた。そういえば飛び出していったのは何でだ?」


「ああ、ひーちゃんが見えたんでヤバいかなって。捕獲しなくちゃいけないかと思って、飛び出しちゃいました。」


「あんまりビックリさせるな。ひとまず部屋に戻るぞ。」


「はーい。」


「で、手紙の内容は?」


「叔父様からです。また、遊びにおいでって。」


それを聞いたシュリは、ダルシャンにきつく言っておこうと心に決めた。

はた迷惑な親戚を天空神殿に連れてくるな、と。

ひとまず部屋に戻り一通り説教をしたあと、リーエを休ませた。

もちろん、ヒクイドリのひーちゃんも一緒である。

シュリもまた先程の部屋に戻り、銀の宝珠を持ってくるものを待った。

しかし、その日はこれ以上誰も来なかった。


そして。

第4の試練、最終日がやって来た。

すでにクリアしているものは26人。


「そろそろ時間ですね。」


ここ暫く一緒にいて銀の宝珠の確認を行っていた男性の言葉に、シュリは頷いた。


「そうだな。」


最終試練のことを考え、締切を告げようとしたそのとき。

ガチャリ、という音がして一人の男性が入ってきた。

黒いマントを頭からすっぽりかぶり、ゆっくりと歩いてきた。

そして、懐に手をやり何かを取り出した。

シュリは一瞬身構えたが男性はとくに気にせず、それを差し出してきた。


「銀の宝珠だ。」


一言呟き受けとるように催促してきたので、シュリは受け取り確認することにした。

綺麗な曲線、無色透明な球体。

間違いなく完璧に近い銀の宝珠であった。


「確かに受け取った。で、名前は?」


「ルーク。」


そういいルークは踵を返し部屋を出ていった。

その姿にシュリは目を輝かせた。


「見つけた。6人目だ。」


「は?あのぅ、それを渡していただけますか?」


「ああ、すまない。よろしく頼む。」


シュリは銀の宝珠を渡し、第4の試練の終了を告げた。



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