第7章 魔王の秘密 その3(1)
「お前が次の魔王だ。」
その日は温かい日差しが降り注ぐ穏やかな日であった。
しかし、一部の人たちの間では穏やかとは程遠い日になっていた。
「どうしてと言われてもな。決まってしまったのだから、仕方ないだろう。」
「でもでも、他にもいっぱい優秀な人がいるじゃないですかぁ。」
「そうだな、だがしかし。お前に決まったのだ。これは変更不可だ。」
「そ、そんなぁ。」
ガクッと肩を落としてうなだれたのは、まだ少女だった。
その前には少女の父であるちょっとダンディーなおじ様。
そして、その隣には常にニコニコしている可愛らしい女性が座っていた。
「大丈夫よ。なんとかなるわ。」
「母さま、ホントですかぁ?」
「えぇ、どうしてですかぁ?」
「えぇ、たぶんね。」
ニッコリ笑う母親に少女はさらに落ち込んだ。
そんな少女に追い討ちをかけたのは、父親だった。
「というわけで、明日にでも城に行くんだぞ?それと王族会議があるらしいから、そのまま天空神殿に行ってこい。」
「ワケわかんないですぅ。」
こうして少女は次の日、魔王の城に向かい出発したのであった。
天馬を走らせ昼過ぎに着いた少女は、その巨大な城に圧倒されていた。
「ふぇーん、入りづらい。」
門番からはチラチラと見られ、かなり怪しく見えているらしい。
「でもでも、どうすればいいのかわかんないですぅ。」
「おねーさん、どうしたの?」
「はいぃ。」
少女はびっくりした。
「あははは、面白いおねーさんだね。」
ゆっくり振り替えると銀髪の少年が笑っていた。
「もう、びっくりしたじゃないですかぁ。ひどいですぅ。」
「だって怪しかったんだもん。で、どうしたの?」
「実はですね、お城にいかなきゃいけないんですが、どうしていいのかわからなくって。」
「ふうん。じゃあさ、僕と一緒に行こうよ。」
少年はそういい少女の手を握り城門にむかい、歩き始めた。
「はわわわわ、ちょっと待ってください。」
少年に引きずられるように少女は、歩き始めた。
「ああ、そうだ。おねーさん、名前は?」
「リーエですぅ。」
「リーエね。僕はシュリだよ。よろしくね。」
「はい、よろしくですぅ。」
こうして二人は城の中に入っていった。
門番たちからは何故か何も言われなかった。
それどころか恭しく敬礼をされたほどであった。
その答えは城の入り口をくぐり玄関ホールで出迎えてくれた、一人の男性によって明らかにされた。
「これはご無沙汰しております。三月ぶりでしょうか。」
「ああ、それくらいかなぁ。元気そうだね。」
「はい。お気遣いありがとうございます。して、本日の用向きはどのようなことでしょうか?」
男性はチラッとリーエを見てシュリに尋ねた。
「確か新しい魔王が来るって聞いたんだけど、もう来てる?」
「いえ、まだお見えになっておりません。何かあったのでしょうか?」
「ふうん、そうなんだ。じゃあさ、しばらく待たせてもらってもいいかな?」
「もちろんです。すぐに部屋にご案内致します。」
シュリの言葉にリーエはドキッとした。
「あのぅ、ちょっといいですかぁ?」
「ああ、失礼いたしました。どちら様でしょうか?」
首をかしげて聞かれリーエは答えた。
「すいません、魔王ですぅ。」
「は?」
「え?」
男性とシュリに驚いた目を向けられリーエは焦った。
「あの、昨日言われたんですぅ。」
「じゃあ、君が新しい魔王なの?」
「はい、そうみたいですぅ。」
リーエは小さく頷いた。
「それは大変失礼致しました。こちらからお迎えにもいけずに申しわけありません。」
男性はリーエに頭を下げて謝った。
「はわわわわ、そんなこちらこそ遅くなってしまってごめんなさいですぅ。」
そんな男性にリーエも頭を下げた。
二人とも頭を上げずにしばらくそうしていると。
「ねえ、そろそろいいかな?僕も暇じゃないんだけど。」
シュリの言葉に二人はそろって顔をあげた。
「これは失礼致しました。では、部屋にご案内させていただきます。」
こうしてリーエは魔王の城に迎え入れられたのだった。
「こちらでしばらくお待ちください。只今お茶をお持ちします。」
そういい男性は部屋から出ていった。
部屋にはリーエとシュリが残されそれぞれソファに座っていた。
「そっかぁ、君が魔王だったんだね。でも、どうして城にそのまま入らなかったの?」
「昨日突然言われて何もわかないんです。だから、何て言っていいのかわかんなくて。」
少しずつ頭を下げてリーエは、どんよりした空気を作り上げていた。
「それじゃあ、仕方ないかな。でも、魔王なら天空神殿にいかなきゃ行けないんでしょ?どうするの?」
シュリに言われてリーエは顔をあげた。
「ど、どうしましょぅ。」
すがるようにリーエはシュリを見た。
「そうだね。とりあえず僕がフォローするよ。だから少しずつでいいから頑張ってね。」
優しいシュリの言葉にリーエは喜んだ。
「ありがとうございますぅ。助かります。」
そこまでいいリーエは頭に疑問が過った。
「あのぅ、シュリは何者なんですか?」
その質問にシュリは驚いた。
「え、知らないの?」
「はい、知らないです。」
「自分では結構有名だと思っていたんだけどな。」
口許に手をやりブツブツ言うシュリ。
「おや、ご存じではなかったのですか?」
いつの間にかお茶の用意を持ってきていた男性が、リーエに教えてくれた。
「こちらのお方は天空神殿の主でいらっしゃいます。」
「えぇ、そうなんですかぁ。」
その一言にリーエは驚いた。
「まだ小さいのにすごいんですねぇ。」
「ちょっと、今の聞き捨てならないよ。小さいって?」
「え、だって私より年下でしょ?」
「君、今何歳なの?」
「あ、先月14になりましたぁ。」
その答えにシュリは絶句した。
「マジで。俺より下だと思ってた。」
「むぅ、じゃあ、シュリはいくつなんですか?」
「13、だよ。」
「じゃあ、私のが年上ですぅ。」
勝ち誇った顔でリーエはシュリを見た。
「年は関係ないよ。だって僕は天空神殿の主なんだらね。」
「それを言うなら私だって魔王ですぅ。」
「天空神殿の主は絶対なんだよ?」
「それなら魔王だってすごいんですよぉ。」
「具体的には?」
「えっとぉ、魔力がありますぅ。」
「最近じゃ珍しくないよね?冒険者だって魔力あるし。」
「むむぅ、お城に住んでます。」
「まだ住んでないじゃん。ちなみに僕は天空神殿に住んでるよ。」
「えっとぉ、えっとぉ。」
流石に何もわからずに魔王になってしまった為に、言い返せる言葉はあっという間に尽きてしまった。
「ほら、僕はすごいんだよ。」
「そろそろよろしいでしょうか?」
そんな二人の間に割ってはいったのは先程からいる男性だった。
「うん、ちょっと大人げなかったかな。」
「では、お茶をどうぞ。」
「ありがとう。」
「あのぅ、お名前聞いてもいいですかぁ?」
リーエは男性に声をかけた。
「これは失礼致しました。わたくし、この城の執事長を努めておりますダナンともうします。」
そういいダナンは優雅にお辞儀した。
「あ、こちらこそよろしくお願いいたしますぅ。」
リーエも深々とお辞儀をかえした。
「だから、それはもういいから。」
シュリはため息をつき、疲れた顔をしていた。
「では、私はこれで失礼致します。何かありましたらいつでもお呼びください。」
ダナンは一礼すると部屋から出ていった。
「それじゃ真面目な話をしようか。」
シュリはリーエを見た。
リーエは背筋を伸ばしシュリの言葉を待った。
「今回呼んだのは冒険者たちをまとめる者が必要だと思ったからだ。」
「えっとぉ、つまり?」
「冒険者たちの中から属性別にトップを決めようかと思っているんだよ。」
「属性別。」
「それは知ってるよね?」
「当たり前ですぅ。この世界に溢れる魔力は6つに分かれているんですよね。」
うんうん、と頷きシュリは続きを促した。
「光、闇、水、炎、地、風、の6つですよね。」
「そう、遥か昔は光と闇しかなかったみたいだけど、より分かりやすく区別したんだよ。」
「それで、どうするんですかぁ?」
「それを決めようと思って天空神殿に呼んだんだよ。魔族達からも意見を聞こうと思って。」
「それならもっといろいろ知ってる人がいいんじゃないですかぁ?」
「うん、そんなんだけど。まさかこの時期に変わるなんて思ってなかったし。」
「そうですかぁ?前の魔王様ってかなりご高齢でしたよ?」
リーエは前の魔王を思い出していた。
母方の祖父にあたる前魔王は、リーエをかなり可愛がっていた。
その事が仇となったのか、今回の魔王就任には前魔王の意見を取り入れているらしい、と父が言っていたのを思い出した。
「見た目は年寄りみたいだったけど、元気いっぱいだったからね。」
シュリはリーエをじっと見た。
「な、なんですかぁ?」
見られていることにちょっと気まずくなったリーエ。
「うん、魔王って世襲性なのかなって。」
「そんなことないですよ。とりあえずその時人気がある人とか、立候補する人もいますし。それに。」
「それに?」
リーエは顔をしかめてシュリにいった。
「魔王のお仕事は、対外的なものが多いんですよね?だから人間さんたちと、仲良く出来るかが一番の条件みたいなんですぅ。」
「確かにそうかも知れないね。魔王って言っても知ってる人はごくわずかだしね。」
実は魔王といっても、勇者に倒される魔王ではない。
ただ単に魔物や、魔族をまとめる役目というのが現在の魔王の定義になっている。
そのため、人には魔王の存在は知らされていないのであった。
「まあ、とりあえず明日天空神殿に行くよ。他の人たちとも話し合いをしなくちゃね。」
「わかりましたぁ。」
シュリの言葉にリーエは頷いた。
「じゃあ、また明日ね。」
シュリはそういい部屋を出ていった。
「はわぁ、ちょっと疲れました。」
リーエはそのまま机に突っ伏した。
「かなりお疲れのご様子ですね。お部屋でゆっくりお休みください。」
シュリが出ていったあとに部屋に入ってきたダナンの言葉に、リーエは立ち上がり部屋に案内してもらい、そのままベッドで夜までグッスリと眠りについたのだった。
そして翌日。
シュリの宣言通りにリーエはシュリと一緒に、天空神殿に向かった。
移動手段は・・・・。
魔法陣であった。
「時間がかかる移動よりも早いし、いろいろ便利でしょ?大丈夫だよ、僕のプライベートエリアにつながっているから。」
魔法陣の移動であっという間に到着したリーエたち。
到着した先で待っていた天空神殿の主に仕える執事やメイドたちによって、リーエはシュリと離れ離れになっていた。
「えっとぉ、どうなるんでしょうか。」
「もうすぐ始まります会議に出席されるようにと、主より承っております。しばらく、お待ち下さい。」
丁寧に言われ、リーエはそのまま何も言えなくなった。
そして、時間が過ぎ。
「それでは会議の間にご案内させていただきます。」
そう言われ、リーエはその後を黙ったままついていった。
「それと、会議の席では主の親戚ということになっております。特に何も話す必要はないとのことですので、ご了承ください。」
「はあ、分かりました。」
つまり、何も話さなくてもいい。
「いなくても、いいような・・。」
ポツリと呟いた言葉にリーエは口元を抑え、何もなかったかのように歩いていった。
到着した先で待っていたのは、10人ほどの人だった。
一際目立つイスに座っているのが、さっきまで一緒にいたシュリだった。
その姿をみてリーエは少しホッとした。
そのまま部屋の隅におかれたイスに座るように促されて、リーエは座り会議場を見た。
入った瞬間にリーエを見ていた人たちは、それぞれの雑談に戻っており、会議の始まりを待っていた。
「それでは、会議を始める。」
シュリの言葉により、会議が始まった。
以前のようにすべての国の王族が集まっているわけでもないらしく、人数は少なかった。
しかし、世界に影響力のある国々があつまっていることは確かであった。
「本日の議題は、冒険者のことである。」
昨日言っていたとおりにシュリは冒険者たちのまとめ役を置くことを皆に伝えた。
「それは、どういうことですか?」
「今までいなかったのであれば、必要ないのでは?」
「現在の冒険者の人数はおよそ3500万人。これは世界の人口数の約26%にあたる。つまりそれだけの者がある意味自由に行動していることになる。」
「自由と言っても規則がありますので、それほど気にすることではないでしょう。」
「しかし、その力を持って横暴な行動をしている輩もいる。」
眉間にシワをよせ、シュリは皆を見回した。
「だからといいまとめ役を決めても、変わりないのでは?」
「イヤ、まとめ役には冒険者の行動を制限する力を与える。」
「制限する力?それは一体?」
「ある意味王族に近い権利を与えるのだ。」
シュリの言葉に会議の場は張りつめた空気に満たされた。
「それこそ横暴ですな。」
「いくら天空神殿の主といえど、それは無理でしょう。」
「やはりまだ子供ですから。」
口々に言う言葉の針に、シュリは顔を歪めた。




