第1章 どうしてこうなった・・(2)
魔王さまは、とりあえず勇者一行が、城にくるまでに、対策をたてようと、前向きに考えることにして、最後の1人の情報をみることにした。
名前:?
性別:?
職業:?
年齢:?
あれ?全て不明?
「カイン、最後の1人の情報がないが。」
カインは、ふっと鼻で笑った。
「魔王さま、全ての情報を教えることはできません。何故なら、それは、魔王さまの為にならないからです。」
魔王さまはそれを聞いてちょっと嫌な顔をした。
こういうことを言い出すときは、たいてい最悪な結末がまっている。俺のためと言いつつ、最終的にはカインが、楽しめるような出来事がある。
以前は確か、森の奥に珍しいモノがあるといい、森の奥に行ってみると…。
確かに珍しいモノが、あった。人は見てはいけないものを見ると、見なかったことにするらしい。
現実逃避。
それはあらゆる場所であらゆる人たちが行っているであろう現象。
全ては、自分を護るために。
決して、人のためではない。
自己防衛機能だ。
その場所は、綺麗な泉がわき出ており妖精や、精霊たちの遊び場みたいなモノだった。しかし、ある一定の期間立入禁止区域になる。それもそのはず。
この泉の回りに育つある薬草を求めて、ありとあらゆる種族の女性があつまる。ある薬草を使い、あることをするためにここへ集うのだ。
それは。
男をモノにする。
泉の回りに育つ薬草は、強力な媚薬であった。この媚薬を使えば、あら不思議、どんな男でもたちまち虜にできる。そのため、薬草を求めて集まる女たちの、壮絶な戦いを見せないために、期間限定で立入禁止にしたのである。
そうと知らない魔王さまに、ちょっとしたイタズラを仕掛けるためカインは、魔王さまを騙して、泉に出かけるように仕向けた。魔王さまは、見てしまった。
美しい女性たちが、鬼婆のように、恐ろしい顔で、血みどろの争いをしているところを。それ以来、魔王さまは、その泉には決して近寄らなくなった。
ちょっとした過去を思い出して、魔王さまは、カインを見た。
「前はひどかったからな。今回はどうなるのか。そして、思い出した。そろそろアレが、現れる頃だな。」
魔王さまは、顔をしかめた。
「おや、なんのことですか?私にはさっぱりわかりませんよ?」
カインはすっとぼけた。それを見て魔王さまは、確信した。やっぱりアレだ。となると、対策をたてる前に、助っ人を呼ばねばならないな。だから、全て不明にしたにちがいない。
だとすると、まずい。ヤバイ。
魔王さまは、執務室からとびだして、召還の部屋に入った。遅れて、カインも入ってきた。
「魔王さま、そんなに焦らなくても、大丈夫ですよ。まだ時間はありますから。」
焦る魔王さまを見て、ため息をつきながらカインは言った。
「やっぱりアレなんだな。」
魔王さまは確信した。となると、何を召還すればいいのか?
強い武器?強い魔法?完璧に防げる盾や、鎧。
何があったらいいのか、魔王さまは、わからなかった。そのため、魔王さまは、運に任せることにした。
つまり、てきとーになにか召還しよう。
部屋の中心には、青く光る召還の魔方陣があった。
これはもともと迷子になった魔王さまを、呼び寄せるためのもので、あった。
「エロイムエッサイム…」
魔王さまは、魔方陣に向かって言葉を発した。
「魔王さま、それはちょっと違うと、思いますが」
確実に違うなにかが召還されそうな、呪文である。
「仕方ないだろ。何を召還するかきめてないんだから。」
魔王さまは、とりあえず、自分の言葉で召還することにした。魔方陣に手のひらを向け、言葉を続けた。
「我が声が聞こえしものよ、我が敵に明けることのない暗闇をもたらすため、我が前に現れよ。」
魔王さまの言葉に反応した魔方陣が蒼く、輝きだし、その光は徐々に魔王さまたちの、視界を遮った。バンっという大きな音の後に、ぶわっと煙が発生してなにかが召還された。煙が徐々に薄れていき、魔方陣の光も弱まってきた。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか。」
魔王さまは、目を凝らした。
そして、
「ん…。」
魔方陣から声が聞こえた。
次の瞬間。
「ここ、どこよぉ。」
大声で叫ぶ女の声が部屋に響いた。魔王さまは、カインを見た。
「これは、どうなんだ?」
「はあ、魔王さま、失敗な感じがしますが。」
「やっぱりそうか。」
魔王さまは、ガックリ肩をおとした。とりあえず、召還された女をみてみる。黒い短めの髪に、ぱっちりした黒い瞳。しかし、肌は白く唇はほんのりピンク色。
服装は、白いブラウスに黒のタイトスカート。一般的に見て、普通の人間の女であった。
「なんで、コイツが召還されたんだ?」
魔王さまは、カインに尋ねた。
「さあ、本人に聞いてみたらどうですか。」
あまり興味なさげに答えた。確かに、見た目は普通でも実は、すんごい強かったりするかもしれない。
という淡い期待を持って訪ねてみた。
「おい、女。貴様は何者だ?」
魔方陣から部屋をキョロキョロと、見ていた女は魔王さまの呼ぶ声に気づいて、魔王さまを、見た。
「そっちこそ誰よ?しかも、ここどこよ? あたし自分の部屋にいたはずなんだけど。」
魔王さまと、カインは顔を見合わせた。
「なかなか威勢がいいな。」
「そうですね、いきなり召還されて、ここどこ?は、なかなか言えませんね。」
確かに普通ならば怯えたりするだろう。全く見知らぬ場所で知らない人がいるのだから。
「とりあえず、自己紹介しましょうか。こちらにいるのが、魔王さまです。私は魔王さまの世話役のカインと申します。」
丁寧にお辞儀までされて、女は少し警戒心をといたようだ。
「あ、答えてくれて、ありがと。あたしは…。」
そこで女は考え込んだ。まさか名前を忘れたわけでなはないだろうが、なにかあるのだろうか?
魔王さまは、少し不信感をだきつつも、女の答えを待った。
「あたしのことは、サツキと呼んでください。」
サツキと名乗った女は、そこで、ペコリとお辞儀した。
「サツキさん、ですね。ちなみに何故、名前を言うのを戸惑ったのですか?訳を聞かせていただけませんか?」
カインは、サツキに尋ねた。
「あの、魔王ってことは魔族なんですよね?確か魔族というのは、名前を奪って、操ると聞いたことがあったので。」
カインは成る程、と納得した。
「確かにそういう魔族もいますが、我々はそんなことできませんよ。」
「てか、なんで、そんな知識があるんだ?」
今度は魔王さまが尋ねた。確実に異世界からの召還になっているであろう、普通の人間であれば、そんな知識があるとは、思えない。ならば、実は一度この世界にきていて、いろんなことを、知っているかもしれない。それならば、ちょっと厄介なことになる。
「実はあたしRPGゲームとかすきなんで、そういうところから、知識をゲットしてます。」
少し慣れてきたのか、サツキは口調をやわらげて喋った。
「なあ、カイン。」
「なんですか、魔王さま。」
「RPGってなんだ?」
「さあ、なにか新しい食べ物でしょうか?」
「食べ物か。おい、どんな食べ物なんだ?」
全く的はずれな会話をして、サツキに話をふった。サツキは、顔をしかめて少し考えた。異世界だから、そういうモノはないらしい。ならばどう説明するとわかるんだろう?
「んーと、なんていえばいいかな。」
腕をくんでさらに考えた。
「あの、もしよかったら、場所を変えませんか?お茶でも、飲みながらゆっくりお話しください。」
カインは、考える時間がながそうなのでそう提案してみた。長い廊下を歩いて、着いたのは応接室だった。
「とりあえず、現状を把握しましょう。」
まず、カインが、サツキがこの世界にきたきっかけを説明した。
「つまり、魔王を倒しに勇者がくるから、それまでに倒されないように対策をたてようとしたけど、結局なにも考え付かないから、てきとーに呼び出したら、私がきた。ということで、いいかしら?」
「まさしくその通りです。ちょっとした事故みたいなものですね。」
カインは新しいお茶を、いれながら言った。魔王さまは、ぽりぽりと頬をかいた。
「その、悪かった。まさか、異世界召還になるとは、思わなかった。」
ふうん、魔王というから、高飛車なのかと思ったけど、謝ることができるんだから、悪いヤツじゃないのかしら。
「まあ、不慮の事故ってことだから、責めないけど、あたしを元の世界に戻してちょーだいな。明日、やらなきゃいけない仕事があるのよ。」
「あ、それならしばらくは無理です。」
カインは答えた。
…。ん?いま、何て言ったの?
「えっと、どういうこと?」
サツキはカインを見た。
「ですから、すぐに戻すことはできません。」
「なんでよ?ちょっとしたミスでしょ?なにか問題あるの?」
魔王さまとカインは、はあ、とため息をついた。
「召還するのには、魔力がいるんだがその魔力をためるのに時間がかかるだ。」
魔王さまは、すぐに戻せない理由を答えた。
「えっと、魔王なのよね?魔王って魔力あるんでしょ?」
サツキは首を傾けた。よくRPGゲームとかしてるけど、最後に出てくるボスキャラ。魔力も体力もガッツリあって倒すのにすんごい苦労するのよねぇ。しかも、何故か何度か変身するし。あれって卑怯よね。自分の陣地奥深くまで、来させて疲れているのに、ガチンコ対決。もうちょっとなんとかならないのかしら。
なんて、ちょっとトリップしたサツキであった。
「まあ、ちょっとした事情がありまして。」
カインは魔王さまを、見ながら言った。魔王さまは、苦虫を潰したように、顔をしかめた。
「とりあえず、召還の魔方陣が動くまでしばらくのんびりしたらどうだ?」
魔王さまの一言にサツキは考えた。確かに、明日やらなきゃいけない仕事があるのは事実だが、会社であった出来事を思い出して、考えを改めた。
「ねぇ、魔力がたまるまでどれくらいかかるの?」
「そうですね、7日くらいあれば、あなたを元の世界に還せるくらい、魔力がためれるはずですよ。」
カインの言葉に頷き魔王さまは、続けて喋った。
「それまではこの城で自由にしてくれてかまわない。衣食住、全てこちらで面倒をみるぞ。」
サツキはそれを聞いて決めた。
「わかった。じゃ、7日間お世話になります。 ただし、必ず7日後には還してよ。」
サツキは魔王たちの言葉に甘え、しばらく城でのんびりすることにした。
「でしたら、護衛兼迷子防止で誰かつけたほうがよさそうですね。」
カインは魔王さまに尋ねた。
「ああ、そうだな。誰か適任がいるか?」
「そうですね、サツキさんは嫌いなモノとか、ありますか?なければこちらで、暇そうな魔族をあてますが。」
サツキはそれを聞いて悩んだ。確かにお化けとか、幽霊は苦手だ。しかし、魔族というからには、悪魔とかになるはずで、お化けとかはいないかなぁ?とか、考えてカインに聞いた。
「とりあえず、実体があれば、いいと思うけど。」
カインはそれを聞きしばらく考えてから答えた。
「でしたら、ちょうどいい方がいました。」
カインは一度言葉をきり、ニヤリと笑い続けた。
「では、魔王さま、よろしくお願いいたしますね。」
「はっ?」
カインの言葉に魔王さまと、サツキは固まった。
暇な魔族っていってたのに、いきなり魔王さまってどうなの?てか、俺暇そうに、見えるのか?
「ですから、召還した責任で魔王さまが、サツキさんのお世話をするのは、当然ですよね?しかも、この城に一番詳しいのは魔王さまですし、魔王さまと一緒ならば、魔族も興味は示しますが、抹殺しようとかは考えないはずですよ。」
さらりと最後に怖いことを言ったが、確かに、理にかなっている。
「でも、魔王さまって忙しいんじゃないの?勇者がくるのに対策をたてるって言ってたけど。」
サツキは、カインに尋ねた。
「大丈夫です。勇者がそう簡単にこの城にくることは出来ません。ある程度レベル上げないと、位置がわからないように、なってますから。」
成る程、確かにレベル上げないと魔王倒せないし、武器や防具を揃えないとあっという間に倒されちゃうよね。サツキは自分がRPGゲームで体験したことを、思い出して、納得した。
「でもよ、四六時中付きっきりは無理だぞ?」
魔王さまの言葉に、カインはうなずいた。
「ですから、もう1人護衛をつけますよ。」
カインはそういうと、パチンッと、指をならした。すると、カインの前方の空間に歪みが発生した。その歪みの中から白い狼が現れた。
「彼はホワイトウルフのウルちゃんです。結構強いので、護衛にはちょうどいいと思いますよ。」
カインはウルちゃんをサツキに紹介した。
「可愛い。ふさふさの毛並み。」
サツキはウルちゃんに、メロメロになった。実はサツキはかなり動物が好きであり、実家には、犬が三匹、ネコが二匹、鶏一匹がいてその世話をサツキが、やっていた。都会に就職したことにより、実家から離れて暮らすことになり、世話をすることができずにいるため、少し荒んでいたのだった。
「おい、娘、俺のことをかわいいワンちゃん等と呼ぶなよ?」
「はい、ウルちゃん。よろしく。」
「聞けよ?」
サツキはウルちゃんに抱きつき、毛並みを撫でた。しかし、サツキの撫で方が気持ちよかったみたいで、ウルちゃんもまんざら嫌そうではなかった。
「では、魔王さま、ウルちゃん、しっかり護衛の任務、お願いしますね。」
カインに言われて二人は、
「仕方ないか。わかった。」
「了解した。」
うなずいた。
「では、サツキさんも疲れたことでしょうから、ウルちゃん、部屋に案内してあげてください。部屋は、西の客室を用意させましたから。」
カインは、ウルちゃんに伝えると部屋の扉を開けた。
「小娘、いくぞ。」
ウルちゃんは、サツキに言うと部屋を出ていった。
「あ、待って。あの、では、よろしくお願いいたします。」
サツキは、魔王さまと、カインに頭を下げると部屋をあとにした。
「で、何を考えているんだ?」
魔王さまは、二人が出たあとにカインに尋ねた。カインはそれには答えずに、ニッコリ笑った。
「では、魔王さま、明日からの仕事はサツキさんのお世話になります。こちらの執務は考えずに、頑張ってくださいね。」
はあ、と、魔王さまは、ため息をつきカインにわかったと、うなずいた。
「では、私もこれで失礼しますね。」
カインはそういうと、部屋を出ていった。勇者が現れてから、ろくなことがないな。さて、明日からどうするかな。とりあえず、明日考えるか。
何だかんだで、疲れた魔王さまは、自室に戻ることにした。
そして、これからおこるであろうゴタゴタに頭を悩ませるのであった。




