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第2章 魔王ってなんだっけ?(1)


ウルちゃんに、部屋まで案内してもらったサツキは、部屋を見て驚いた。

入ってすぐに、ソファーセット。

左右に続く扉が一つずつあり、その扉も大きい。

たぶん、寝室とお風呂にそれぞれ繋がっているはず。

さらに、高級ホテルを思わせる豪華な家具。

部屋の広さは、自分がすんでいるアパートが寂しく思えるほどの広さ。


「ねぇ、この部屋でしばらく暮らの?」


サツキはウルちゃんに尋ねた。


「無論だ。寝室には入らないから安心しろ。」


ウルちゃんは、サツキに言った。

一応プライバシーは守ってくれそうだ。

じゃなくて。


「そうじゃなくて。」


「では、部屋が気に入らないのか?」


首をかしげてウルちゃんが尋ねた。


「だからね、こんなに広い部屋、あたしが使ってもいいのかな?」


サツキはウルちゃんに言った。

ウルちゃんは、サツキを見上げた。


「こんな部屋、この城にはたくさんあるぞ?気にする必要はないと思うが。」


ウルちゃんの言葉にビックリした。


「そうなの?んー、やっぱり感覚が一般的に違うみたい。」


サツキは慣れるまでに時間がかかりそうだな、と思いつつ用意してくれた部屋を、眺めた。


「とりあえず、ちょっと疲れたから休むね。」


ウルちゃんにそういって、ソファーに座り膝を抱えた。

膝の上に顎をのせて、ふうっとため息をつく。

なんか、いろいろありすぎて頭が混乱してる。

ちょっと疲れたな、と思い目をとじたら後は記憶がなかった。


「ん・・・。」


フワフワの感触が気持ちいい。

ああ、お布団って最高。

サツキは布団を満喫していた。


「・・・・。」


しかし、なんだか目線を感じる。

なんでだ?

えっと、誰かいたっけ?

寝ぼけながらも、考えた。


・・・・・・・・・・・・・はっ。


そういえば、昨日魔王さまに召還されて・・・。

サツキはガバッと布団をはねのけた。


「やっと、おきたのか」


そこには、魔王さまとウルちゃんがいた。


「えっと・・・。」


なんでいるんだろう?

ってか、いつからいたんだろう?

サツキの頭の中で考えた。

とりあえず、言いたいことが決まった。


「おはようございます。」


「ああ、おはようってか、もう昼過ぎだけどな。」


魔王さまはサツキに言った。

それを聞いたサツキは、驚いた。


「え、マジ?」


ヤバイ、寝過ごしてる。

パニックになりつつ、サツキは謝った。


「ごめんなさい、寝すぎました。」


「まあ、別にいつおきて来いとか、決めてなかったし、多分疲れているだろうから寝かせておけって、カインがいってたからな。とりあえず、様子を見にきたんだ。」


「まだ寝たりないのか?」


魔王さまとウルちゃんに聞かれて、フルフルと頭を横にふった。


「もう、大丈夫です。起きますね。」


サツキはベッドから降りようとしたが、魔王さまたちがいることで、とまった。


「あの・・・。起きるんで、ちょっとはずしてもらっていいですか?」


服装は昨日着ていた、ブラウスとスカードのままであったが、そのまま寝ていたため、しわしわになっていた。

さすがにちょっと恥ずかしい。


「ああ、そうだったな。着替えたら、部屋の外にでてきてくれ。腹がへっているだろう?飯にするぞ。」


魔王さまはそういうと、ウルちゃんを一緒に部屋を出て行った。


「さてと。」


サツキはベッドからおりて、隣の部屋に行き、もう一つのトビラをあけた。

そこには洗面所と浴室があり、サツキはシャワ-を浴びることにした。

軽く体をあらい頭もスッキリした。


「はあ、さっぱりしたぁ。」


顔を洗ったことにより、頭の中もすっきりできた。

とりあえず、腹が減っては戦はできぬ、ということだよね?

ご飯食べてから、これからのことを考えたらいいかなあ。

もう一度寝室に戻り、さて着替えはどうしようかと考えた。

そこで、目に入ったのは備え付けのクローゼット。

その中をのぞいてみると、中世ヨーロッパで着ていたのではと想像できるゴテゴテしたドレスが何着も入っていた。

まさか、これを着なくちゃいけないのかなあ。

ゴテゴテしたドレスを着ている自分を想像して、顔をしかめた。

そのとき。


「小娘、ベッドの上に動きやすい服をおいておいたぞ。」


突然隣から聞こえたウルちゃんの言葉に、ベッドを見てみると、シンプルなワンピースがおいてあった。


「ありがとう。」


サツキはウルちゃんにお礼をいうと、ベッドの上においてあるワンピースを身にまとった。

いつのまにウルちゃん部屋に戻ってきたんだろう?

サツキが着替えたのを確認して、ウルちゃんは歩き出した。


「魔王が待っている。いくぞ。」


ウルちゃんの言葉にワンピースの裾をなおしていたサツキは、はーいと返事をしてウルちゃんの後についていった。

連れていかれたのは、庭に面した一階の部屋であった。

部屋から庭に出ることが、出来るために大きく窓があり、その窓の近くに魔王と、カインが座っていた。


「サツキさん、ゆっくり休めましたか?」


カインの一言にサツキは苦笑いした。


「カインさん、おはようございます。すいません、寝坊しました。」


「だから、おはようじゃないだろ。」


魔王さまは、お茶を飲みながら言った。


「今日初めての挨拶になりますから、いいんじゃないですか?」


カインは魔王さまに、呟いた。


「てか、カイン、仕事はいいのか。」


このままいい続けても勝てないと、思ったのか魔王さまは、話を変えた。


「魔王さま、私はきちんと仕事してますよ。魔王さまと、サツキさん、二人の体調管理も必要な仕事ですからね。」


カインは魔王さまに言った。

その言葉に魔王さまは、はぁっと、ため息をついた。


「要するに、ちょっと休憩したいんだな。」


「おい、いつになったら小娘を座らせるんだ。」


ウルちゃんの言葉に魔王さまは、眉をひそめた。


「ああ、すいません、サツキさん、こちらにどうぞ。軽くなにか食べますよね?」


今起きたばかりのサツキは、はい、と答え近くの椅子に座った。

カインは立ち上がり、優雅な手つきでお茶をいれ始めた。


「マフィンと、ベーグルサンド、どちらがお好きですか?」


「あ、ベーグルサンド、お願いします。」


とりあえず、お腹が空いていたので、ベーグルサンドを食べることにした。

目の前に置かれたベーグルサンドを、食べながらサツキは考えた。

確か、7日で帰れるのよね?

それまであたし、何したらいいのかしら。

モグモグと口を動かしながら、考え込んでいたサツキにカインはビックリすることを言った。


「サツキさん、実はあなたのことをもっと知りたいんです。」


ん?

へ?


サツキは言われたことを、頭の中で考えた。


そして、


「えぇ~。」


大声をあげた。

顔を赤くしながら、サツキはカインに聞いた。


「えっと、それはどういう意味です?」


なんとも意味深に言われたために、モジモジしながら。


「ですから、あなたのことが知りたいんです。」


それはもしかしてあたしに興味がある、つまり何?

まさか。


「おい、カイン、きちんと話さないと伝わらないぞ。」


魔王さまの言葉にカインは首をかたむけた。


「え、だから、サツキさんの世界のことがしりたいんです。ですから、ちょっと頭の中を見せていただけますか?」


私の世界。

ああ、そういう意味なのか。

サツキはちょっと残念な気持ちになりながらも、頷いた。


「あの、それはいいですけど、どうやって?」


カインの頭の中を見せろ宣言に、サツキは眉をひそめた。

まさか、頭をかち割って?

いや、ないよね?

てことは、魔法を使うのかな?

サツキの言葉に、うんうんとうなずきなから、カインは一つの水晶玉を取り出した。


「これは、悪の神官プリス君から借りてきた、その名も、見えるんですイロイロ。」


何ですか、その名前は。

よくわからないけど、スルーすべきよね。

サツキはとりあえずスルーした。


「これは、手をかざしている人物の思っていることなどを映してくれる優れものなんです。なので、サツキさんにはこれを使ってもらい、あなたの世界のことを見せていただきたいんです。」


「なるほど、話してもらうよりは簡単にイロイロなことがわかるってことか。」


カインの言葉を聞いて魔王さまは、感心した。

確かに、科学や世界観等は話すよりは見てもらったほうが、遥かに分かりやすいだろう。


「あ、それはかまいませんけど。」


サツキは少し難色を示した。

もしかしたら、見られてまずいモノも見られるかも知れない。


「ああ、一応見られてまずいものとかは、モザイクかけますから。」


と、カインは言ったが。

んと、モザイク?

いったいあたしは何を思うとおもわれているんだろう?

ちょっと、聞きたいけど・・・。

ここもスルーすべきよね。


「ああ、わかりました。えっと、手をかざせばいいんですよね?」


サツキは水晶玉に手をかざした。

えっと、とりあえず、地球でしょ。

その後日本で・・・。

と、宇宙から見た地球。日本。

世界観から魔王たちに見せることにした。

多分この世界とはぜんぜん違うんだろうなあ。

ちょっとはビックリするのかな。

サツキは、東京のビル郡を思いながら、魔王たちをちらりと見た。

魔王さまは、食い入るように水晶玉をのぞきこんでおり、ウルちゃんも鼻を近づけて、ジッと見ていた。


しかし。

カインだけは違った。

カインは少しだけ懐かしそうに見ていた。

え?

なんで?

その視線にカインは気づき、サツキを見た。


「不思議そうにしていますね?何かいいたいことがありそうですが。」


カインの言葉に、サツキは思い切って聞いてみた。


「あの、カインさんは私の世界をしっているんですか?なんだか、懐かしそうな感じでみていたように思ったんですが。」


その言葉にカインはにっこり笑った。


「ええ、実は今から30年ほどまえに行った事があるんです。」


その言葉にサツキだけではなく、魔王さまやウルちゃんまでもビックリしていた。


「おい、カイン。それは知らないぞ?いったいどうやって行ったんだ?」


魔王さまはカインの秘密に戸惑いながらも、ワクワクした面持ちで聞いた。


「そうでしたっけ?伝えてませんでした?

あれは、魔王さまより休暇をもらったときのことですよ。毎日忙しそうにしているから、ゆっくり休みをとれ、と言われて。」


カインの言葉にああ、そういえばと、魔王さまは思い出した。

たしか、忙しい毎日の繰り返しで、カインがほどんと休暇をとっておらず、魔王さまがカインにムリヤリ休暇をとらせたのだ。

この国にいたのでは、ゆっくり休めないだろうと思い、のんびりできるところはないか、とカインに尋ねたところ、それならば、行きたい場所があるという。

ならばと行き先はカインにまかせて10日ほど休暇をとらせたのだった。


「そこで、サツキさんが使った魔法陣を使って、あの世界に遊びにいったんですよ。」


カインはそのときのことを話してくれた。

とりあえず、戦いのない、何も考えなくてもいいのんびりした世界を創造して、魔法陣に、入った。

まぶしい光のあとに見たのは。


満開の桜だった。

一面を埋め尽くす桜吹雪。

いままでいた世界とはまったく違う花。


綺麗だと、カインは思った。

そして、そこである人物に出会う。


「ある人物が教えてくれたんです、全ては彼女が、教えてくれました。」


今まで見たことのない笑みを浮かべて、カインは話した。




一面の桜。

異世界移動のなごりで、少しフラフラしていた、カインは余韻を振り切るように頭をふった。


「あの・・・。」


そこで初めて誰かがいることに気がついた。

はっと、して声のするほうに顔を向けると。

そこには、小さな女の子がいた。

年齢でいうと、5才くらいだろうか。

ピンクのワンピースに、フリルのついた靴下。

レースのリボンで髪をくくっていた。

真っ黒な髪と、真っ黒な瞳で、カインをジッとみていた。

カインの視線をうけて、女の子は首をかしげた。


「ああ、すいません。驚かせてしまいましたね。」


カインはにっこり微笑んで、女の子の目線にあわせるようにかがんだ。

顔が近くなってことにおびえたのか、女の子は一歩後ろに下がった。


「怖がらないでください。決して怪しいものではありません。」


というか、かなり怪しいと思うが。

内心では、どういうべきか考えながら、女の子の様子を伺った。


「えっと、おにいちゃんも桜を見に来たの?」


女の子は、少しモジモジしながら、カインに尋ねた。


「ここの桜、綺麗でしょ?私も毎日見に来てるの。」


得意げに話す女の子に興味をしめしたカインは、尋ねた。


「ええ、そうなんです。でも、初めてここにきたので、いろいろをおしえてくれませんか?」


カインはニッコリ笑って、女の子に聞いた。


「そうなの?あのね、この桜はね・・・・。」


女の子は覚えているであろうことを、一生懸命に教えてくれた。

いつのまにか、陽は傾きはじめていた。


「さっちゃーん、そろそろ帰るわよぉ。」


遠くから聞こえる声に女の子は、顔をあげた。


「あ、お母さんだ。」


女の子は、立ち上がりカインを見た。


「お兄ちゃん、お母さんが来たからもう帰るね。」


カインも立ち上がり、女の子の頭を撫でた。


「気を付けて帰るんですよ。」


「うん、お兄ちゃん、明日もくる?」


首をかしげて、女の子はカインに尋ねた。


「そうですね、これたらいいんですが、行くところがあるんですよ。だから、10日あとにまたここに来ますよ。」


カインは休暇をとるために、来たためにのんびりする予定だった。

だから、帰る前にもう一度ここで彼女に会うことにした。

女の子はちょっと寂しそうな顔をしたが、


「うん、また会えるんだよね?じゃあ、また待ってるね。」


ニッコリ笑って、走っていった。

その後ろ姿をカインは見送った。

すっかり姿が消えたあと、カインは歩き出した。

今夜泊まる旅館に向かって。


「おい、なんで、そこで明日もきますって言わなかったんだよ。」


魔王さまは、カインの話を聞いて尋ねた。

確かに、あそこで明日もあさってもきますって言わなかったんだろ?

てか、そんなことがあったなんて。

サツキはカインを見つめた。


「魔王さま、話は最後まで聞いてください。」


そこでカインはニヤリ、と笑った。

あれ?

このビミョーに黒い笑顔。

怪しい。

サツキは、この時思った。

絶対なにか企んでいる。


「ああ、悪かった。続きを聞かせてくれ。」


魔王さまは、カインの休暇中にあった話に夢中になっていた。

幼い少女と、異世界から来た男。

果たして、二人は再び会えるのか。

宿につき、温泉に入り一息つくと、カインは昼間にあった少女を思い出していた。


「さて、どうしましょうか。」


カインは、あの少女が気になっていた。

初めてあった少女なのに、何故か懐かしく、心の奥が温かくなっている。


「これは、やはり。」


カインは、柔らかく笑うと、窓の外に明るく光る満月を見て、心に決めた。

次の日。

カインは昨日少女にあったあの場所に来ていた。


「少し早すぎたみたいですね。」


辺りを見回しても、女の子の姿はなかった。

カインは、桜を見ながら女の子が来るのを待った。

どれくらい時間が経ったのか。

辺りは薄暗くなったが、昨日の女の子は現れなかった。

暗くなるまでカインは女の子を待ち続けた。

次の日も、その次の日も。

しかし、女の子が来ることはなかった。

毎日来ていると言っていた。

しかし、カインは女の子と会えない。


何故か。

カインは考えた。

事故、病気、事件。

しかし、考えても答えがわかるはずもなく、ついに休暇の最終日を、迎えていた。


「おい、それでどうなったんだ。その少女に会えたのか?」


魔王さまは、尋ねた。


「いえ、結局会えませんでした。」


カインは魔王さまの顔を見て伝えた。


「正確には、生きている少女に会うことはできませんでした。」


えっ。

サツキはその言葉にハッとした。

それはつまり。


「カイン、それはどういう意味だ。」


魔王さまも、声を低くして聞いた。

カインは、寂しそうな顔で答えた。


「その少女は。」


トントントン。

ドアがノックされ、一人のメイドが姿をあらわした。


「カイン様、そろそろお時間ですが。」


と、カインを呼びにきた。


「おや、もうそんな時間ですか。それでは、魔王さま失礼します。」


そういうと、カインは立ち上がり、部屋を出て行った。


「えっと・・・。」


「ん。」


「で、どうなったんだ?」


それぞれが、カインの話の続きがきになっていた。

でも、あたしこの話知ってる気がする。

サツキは、カインの話した休暇中での出来事に、覚えがあった。

それがよくわからず、モヤモヤとした気持ちで、お茶を飲んだ。


「ってか、生きて会えなかったんだよな・・・。」


「そういっていたはずだけど。」


それって、やっぱり、殺人。

・・・。ん?

あっ。思い出した、これって。

サツキは、魔王さまの言葉にはっとした。


「ちょっと、行って来る。」


サツキは魔王さまにそう断った。


「ちょっと待て。」


魔王さまの言葉も聞かずに、部屋を出た。


「おい、小娘。勝手に出歩くな。」


部屋をでて、ウルちゃんに怒られた。

あ、そういえば、護衛でもあるんだっけ。

ウルちゃんの言葉にサツキは謝り、たずねた。


「ごめんなさい、それより、カインさんはどこにいるんだろう?」


サツキの言葉にウルちゃんは首をかしげ、答えた。


「それならば、執務室であろう。仕事があると言っていたではないか。」


「そうだっけ?ウルちゃん、連れて行ってくれる?」


サツキの言葉にシッポをふり、こっちだ、とウルちゃんは案内してくれた。

執務室につくと、ノックをした。


「はい、どうぞ。」


「すいません、サツキです。今いいですか?」


サツキはカインの声をきいて、扉をあけて声をかけた。


「おや、どうしたんですか?何か困ったことでも?」


カインは、ニッコリ笑ってサツキに聞いた。

サツキは部屋の中にはいり、執務室の奥にある、机で書類整理をしているカインのそばに行った。


「あの、先ほどの話なんですが。」


サツキは思い出していた。

あのカインの休暇中での出来事を。


「やっと、思い出したんですね。」


カインは、サツキを見て微笑んだ。

ウルちゃんは、そんなカインを見て驚いた。

黒い笑顔でない・・・・。

これは、ひょっとして・・・。

そんなウルちゃんの心の声をよそに、話はすすんでいく。


「あの話、私知ってます。」


サツキの一言でウルちゃんはさらに驚いた。

知っている?

それはどういうことだ?

確かカインんは、あの少女の生きている姿を見ていないと言っていなかったか。

ならば、どういうことだ?


「最初、桜の下であった少女が私なのかと思いました。」


実際、サツキの家の近くには桜公園という桜の名所があった。

そして、小さい頃サツキは桜の時期以外でも、その公園でよく遊んでいたのだ。


「でも、生きている少女に会えなかった。だから、この話は私ではないんだと。そして、魔王さまの一言で思い出したんです。ある殺人事件を。」


カインはサツキの話を黙って聞いていた。


「これは・・・・。」


サツキは、そこで一旦言葉をきった。

ウルちゃんはこの続きを聞くために黙った。

そして、カインはサツキの言葉をまった。


「これは・・・。」


サツキは、ゴクリと喉をならした。

これは・・・・。


「綾小路すみれ先生のサスペンス小説、<桜の誘惑>ですね。」


え・・・・。

なんだそれ?

ウルちゃんはサツキの言葉に目を見開いた。


「流石です、サツキさん。よく思い出しましたね。」


カインは満足そうに微笑んだ。


「やっぱり。綾小路すみれは、私の従兄弟のペンネームなんです。

小さい頃いろんな小説を読ませてもらっていたんですが、その中でもドラマ化するほど人気がでたのが、この桜の誘惑なんですよね。」


サツキは、従兄弟のことを思い出しながら話した。

歳の離れた従兄弟とは、昔から仲がよく書いた小説を感想が聞きたいからと、たくさん読んでいた。

その一つが、この桜の誘惑。


「実はすみれさんとは、休暇中の温泉街で偶然出会いまして、小説を書いているのだが、どうしたらいいのかわからないと、言われましてね。少しばかり、アドバイスしたんです。」


カインは、あの頃を思い出しながら語った。

カインは休暇を楽しみながら、異世界文化を学ぶことにした。

温泉に入り、日々の疲れを癒すのが目的だった。

そこで偶然出会ったのが、綾小路すみれというペンネームの小説家であった。

彼女はスランプ状態で、リフレッシュ休暇のため、同じ温泉を満喫していた。

夕飯後の温泉街探索の折りに、酒を飲んで酔っ払っていた彼女が、カインに、いちゃもんを付けたのが出会いであった。

なんでも、綺麗な顔で、楽しそうに歩いているのが、気にくわなかったらしい。

しかし、カインと話して面白い人物であることがわかると、自分が小説家で現在何もかけないことを愚痴りはじめた。

そこで、カインは自分の世界のことを少し話しながら、彼女にアドバイスをしていった。


そうして、誕生したのが、この小説。

桜の誘惑である。


「この世界のことを、面白おかしく話しただけなんですが、筆が進むとかで、あっという間に書いてしまったんですよ。」


面白おかしく?

あれ?

あの小説は、ドキドキとスリルが混ざっているんだけど。

サツキは小説を思い出しながら首をかしげた。


「では、何故魔王に嘘をついた?」


ウルちゃんはカインに尋ねた。

確かに、若手小説家に出会い小説を書くのを手伝いつつ、のんびりした、と言えばよかったのに。

サツキはカインを見た。

すると、カインはニヤリと笑いこたえた。


「そのほうが、面白そうだからですよ。」


その答えを聞いて、サツキは思った。

魔王さまって、けっこう大変なんだなぁと。

そして、カインさんは魔王で遊ぶのが好きなんだなって。



一方、サツキとウルちゃんにおいていかれた魔王さまは。


「生きている少女に会えなかったということは。」


「ゾンビになったのか。」


的はずれな答えを導き出した魔王さまであった。




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