第5章 魔王の秘密 その2(13)
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「そんなこんなでデイロは倒されたんだ。」
エンの言葉にサツキは戸惑った。
いきなり話しが終わった。
最後どうやって倒したのかな?
それにアガットさんは、立派な王様になったのかな?
サツキの頭は疑問で、いっぱいだった。
「エン、略しすぎてる。」
「もう少し上手く話せんのか?」
「えっと、とりあえずお茶をいれますね。」
ユキの言葉にサツキはいれてもらったお茶がさめていることに気づいた。
「あ、有難うございます。」
再びいれてもらったお茶を一口飲み、エンを見た。
「あの、アガットさんはどうやって倒したんですか?」
サツキの問いに答えたのはラインだった。
「あのね、先ずはグリフォンでデイロの城まで飛んでいって、シンが結界を破り、ラギがデイロにたどり着くまで魔族を倒し、アガットがデイロと戦ったの。」
「その戦いはあまり激しくなかったらしい。」
ガンテツの言い方にサツキは違和感を覚えた。
「なんで激しくなかったんでしょう?ラスボスだったら強いんじゃないんですか?」
サツキの言葉に魔王が答えた。
「魔力がなかったんだと。」
「へっ?」
魔王の放った一言にサツキは間抜けな声をあげた。
「ほら、城のまわりに結界を張っていたでしょ?それで魔力がスッカラカンになっていたって。」
ラインの一言はサツキを脱力させた。
デイロさんってバカだったのかな?
それとも他に結界を張れる人がいなかったとか?
だとしたら、人望もなかったってこと?
「それは、残念なお知らせでしたね。」
サツキは乾いた笑いをもって、ラインの言葉に答えた。
「ま、このことを知ったのはかなり後になってからだからな。実際どうなっていたのかが少し微妙なんだ。」
「え、そうなんですか?」
「そうなの、エンの言うとおりなの。」
「あの戦いは秘密裏に行われていたのだ。」
ガンテツの言葉にサツキは首をかしげた。
「あのですね、アガットたちは単独で倒しにいったんです。ですので、実際戦っていたところを見ていたのは、ラギ様とシン様だけなんです。」
「で、その話をラムザンが聞いてそれが広まった、ってわけだ。」
「ふうん、そうなんですか。で、アガットさんは立派な王様になったんですか?」
サツキの問いにみんなはニンマリと笑った。
「そう思うだろ?だが違うんだ。」
「そこが変なヤツである所以かもしれん。」
「まあ、すんなり王様になっててもねえ。」
「でも、意外といい王様になっていたかもしれませんよ?」
エン、ガンテツ、ライン、ユキの順に答えてくれた。
そして、締めに魔王が答えた。
「勇者は冒険者になったんだ。」
サツキは魔王の言葉に目を丸くした。
「え?冒険者?どういうことなんですか?」
「つまり、王様になって縛られるよりも、自由を選んだってことだ。」
「まあ、魔力をもった人も増えてきたみたいだったしな。」
魔王とエンの言葉にサツキはさらにわからなくなっていた。
「つまりね、アガットも魔力を持っていたでしょ?その後自分も魔力があるっていって、アガットに会いに来た人たちがたくさんいたらしいの。」
「そのためアガットは冒険者を名乗り、世界中を巡ったの。」
世界中をめぐる。
それは楽しそうではあるが、かなり辛いような気もする。
「えっと、ちなみにアガットさんに会いに来た人たちってどうしたんですか?アガットさんと一緒に世界中を旅したんですか?」
サツキの問に答えたのは魔王だった。
「アガットはシンに魔力をもつ人間がきたことを伝えた。で、シンに魔力の使い方を教えてもらえるように頼んだんだ。そうしてできたのが魔力育成学校。」
えっと、つまり、魔力を使えるようにできるための学校ができたってこと?
「それって、どこにできたんですか?」
「決まってんだろ?ラギたちの館がそのまま学校だ。」
「でね、その学校で一通り魔力の使い方を教えてもらったら、そのままアガットみたいに世界中を旅する人がたくさんいたんですって。」
「そこで生み出されたのが冒険者制度だ。」
「冒険者制度、ってなんですか?」
サツキの問いを待っていたかのようにエンが喋りだした。
「つまり、世界中を回ることで世界に何が起きているかわかるだろ?そこで、その冒険者に依頼という形でお願いして、いろいろ助けてもらうってことを始めたんだ。」
「魔族により侵略はラギたちが抑えているが、人が人を襲うことはそうかんたんにはなくならない。だからといって、常に軍隊がいるわけでもない。そこで考えられたのだ。」
つまり、あちこち旅している冒険者たちに悪いことをしているひとたちをやっつけてもらうってこと?
「魔力をもっているのでいろいろとできるんですよ。」
「ああ、そういうことか。つまりよろず屋みたいなことをしているってことね。」
サツキの答えにみんなは苦笑いした。
「ま、かんたんにいうとそういうことだ。で、それを支援したのが、ザクセン国や天空神殿ってわけだ。」
「ああ、そうか。依頼ってことは報酬もいるってことですもんね。」
「そういうこと。」
「んで、そういうことを始めるためにある組織を作ったんだ。それが現在ギルドと呼ばれている。」
「このギルドは魔物討伐、盗賊退治、はてはお宝発掘までさまざまな依頼がくるようになったんだ。」
「それで?」
エンの言葉に続けてラインが話した。
「依頼はだれでもできる。しかし、依頼を受けるためにはギルドに登録する必要があるのよ。ちなみに、魔力がなくても登録できるようになっていたんだけどね。」
えっと、つまり・・・。
デイロを倒してアガットは勇者から冒険者に転職。
その頃から魔力をもつ人が増えてきた。
その人達を指導したのがシンさん。
で、シンさんに指導されたあとはアガットさんのように世界中をめぐる人たちがいた。
その人達に困ったことがあったならば、依頼する人たちがいる。
ならばと、それを仕事として活動する組織を作った。
それが、ギルド。
ギルドの入るためには特に指定はない。
こんなとこかな?
ああ、そうだ。この組織を運営するために援助したのがザクセン国と天空神殿。
よし、こんな感じだよね?
サツキは頭の中で先程の会話を整理した。
「理解できたかしら?」
ラインの言葉にサツキは頷いた。
「はい、とりあえずですけど。」
「よし、んで、なんだっけ?」
エンは首をかしげた。
「何よ?何かあった?」
ラインはエンに尋ねた。
「いや、サツキちゃんって何しに来たんだっけ?」
「あ。そういえば、そうね。」
みんなに見られてサツキは目を瞬かせた。
「えっと、とりあえず皆さんに会いたかったってことなんですが。」
「いつの間にか魔王の話になっていたな。」
サツキの後ろからウルちゃんが歩いてきた。
「ああ、しかも結構時間経ってる。」
魔王の言葉にサツキはあたりを見渡した。
「来たときと変わってないけど?」
サツキの言葉に答えてくれたのはユキだった。
「ここは外とは違う空間になっています。外では夕方ごろでしょうか?」
ユキの言葉にサツキは驚いた。
「そんなに経っていたの?知らなかった。」
「んじゃ、そろそろ帰るか。」
魔王はそういい席を立った。
「ええっ、もう帰るの?」
サツキの言葉に魔王は顔をしかめた。
「また倒れたらどうするんだ?」
「うっ。」
魔王の言葉にしょんぼりして、サツキも席をたった。
「すいません。帰ります。」
「帰っちゃうのか。んじゃ城まで送るよ。」
エンはそういうと席をたった。
「有難うございます。」
サツキはニッコリ笑い、帰ろうと歩き始めた。
すると、
「ああ、サツキちゃん。歩きじゃなくて空から帰ろう。」
エンはそういうと指を鳴らした。
エンにボフッと音がするとエンの姿が消えていた。
あれ?エンさんは、どこに?
サツキが首を傾げた時、上から声が聞こえた。
「サツキちゃん、こっちだよ。」
声を聞いてサツキは上をみた。
そこには優美な姿の竜がいた。
その姿はキラキラと煌めいていてサツキはしばらく見惚れていた。
「竜を見るのははじめてなの?」
ラインはサツキに訊ねた。
サツキは目をそらさないまま、コクリとうなずいた。
「そう、だったら私たちも見せてあげるわ。」
ラインの言葉に他の二人も席から立ち上がり、目をとじた。
そして、今。
サツキの頭上高く、4種の竜が空を彩っていた。
「きれい。」
サツキはその光景にぽつりと言葉をもらした。
「まあ、なかなか本来の姿を見ることはないからな。」
いつのまにかサツキと一緒に空を仰いでいた魔王。
サツキはその横顔を見て楽しくなった。
「そうなんだ。見れて嬉しい。」
「あいつらなりに気を使ったんだろ。」
魔王の話しに夢中になって、竜たちとあまりはなしができなかったサツキ。
それでも今見ている光景が彼らなりの優しさならば。
サツキは種族など関係ないんだなぁと、心の中で思ったのだった。
「んじゃ、行こうか。」
エンの言葉でサツキたちはフワリと浮き、エンの背中にストンと落ちた。
ちなみに竜は蛇に手足がついたような細長い胴体をしている。
サツキは、東洋系の竜だと、内心思っていた。
「では、しゅっぱーつ。」
エンがそういうとゆっくり空を翔びはじめた。
空を移動しながらサツキは回りの景色を楽しんでいた。
初めは落ちるのではと恐れていたが、振動等もなく魔王もいるからと、安心し回りをみる余裕が出てきていたのだ。
「それにしても素敵です。空のお散歩、スッゴい楽しいです。」
「それはよかった。ちょっと遠回りするか?」
「え、いいんですか?」
「魔王次第だな。」
サツキは魔王をみた。
「ちょっとだけだぞ。」
サツキの期待に満ちた目を向けられ魔王は反対することができなかった。
「やった。有難う魔王。」
そこまで言ってサツキはちょっと考え込んだ。
「ねえ、魔王の名前、なんでないの?気になるんだけど。」
サツキは前に聞いた疑問をふたたび魔王に聞いてみた。
そんなサツキの問いに答えたのはエンだった。
「ん?知らないのか。俺様が教えてやるよ。」
エンは楽しそうな声で教えてくれた。
「名前を間違えられたくないんだとさ。」
そういうとエンは、首をサツキに向けてニヤリと笑った。
「名前?まさか第二の魔王の時に魔王ラギトシンを間違えられたから?」
恐る恐る聞くとエンは爆笑しながらうなずいた。
「ったく、ガキだよな。」
呆気に取られ魔王をチラリとみると、魔王も驚いた顔をしていた。
その顔を見てサツキはまさか、と思った。
「まさか、魔王しらなかったの?」
「ああ、カインが複雑な事情があるっていうから。それ以上聞けなかった。」
うん、ある意味複雑な事情だけど。
「じゃあ、名前があってもいいのよね?」
「ま、そうだな。何かいいのがあるのか、サツキちゃん。」
「うん、あのね。」
サツキは魔王の目を見て答えた。
「ロキってどうかな?」
「ロキ。」
魔王はサツキの言葉を繰り返した。
口にするとなんだか嬉しくなった。
俺の名前。
ロキ。
「ま、いいんじゃないか?」
「素直じゃねぇな。」
「五月蝿い、そろそろ城に迎え。」
サツキは魔王が自分の決めた名前を気に入ってくれたみたいで嬉かった。
「んじゃ、ロキ。もう少しよろしくね。」
サツキは魔王、いやロキに微笑んだ。
「ああ。」
ロキもサツキにつられて笑みを浮かべた。
こうして、現魔王に名前がついた。
魔王ロキ
しかし、この名前はこの先世界に広まることはなかった。
なぜか。
それはまだしばらく先のお話になる。
今はとりあえず、楽しそうな笑い声が空に響いていた。
城に帰るまでにエンはアガットがデイロを倒したあとにちょっとしたいざこざがあったのだと教えてくれた。
曰く
ニクスの息子であるアガット。
だか、世界的には魔王を倒した勇者。
ならば天空神殿の主にふさわしいと。
ニクスはそんな言葉を断り続けた。
そんな器ではないと。
頑なに断り続けるニクスに理由を教えろと問い詰めると、意外な答えがかえってきた。
「だって仕方ないでしょう?本人はそんな気全くないのです。いくら私が言っても聞かないんです。つまり、どうしようもないんです。」
そこで一度回りをじっくり見て続けた。
「何でしたら直接本人に言ってください。あ、でもちょっと前に何処かに消えましたがね。」
こんなやり取りがあったことを知るものは少ないだろう。




