第5章 魔王の秘密 その2(12)
さらにこの話には続きがあり
ガイエンを殺したのはデイロである、と。
この話を聞いた魔族たちはデイロに真相を聞きにいった。
デイロはこの話は嘘である、と言いはった。
しかし、シンは肯定も否定もしなかった。
「僕にはわかりません。しかし、彼はそんなことはなさらないでしょう。」
身内であるデイロを庇うそぶりさえ見せた。
そのことがまたシンたちの人望を高めたのは、誰の目から見ても明らかだった。
そんなある日、シルビアを拐ったという魔族が捕まった、という話がながれた。
これは衝撃的であった。
実はこの魔族はラムザンが捕らえ、シンが生かしておいたのだった。
この魔族はラムザンがガイエンを探す途中に見つけていたのである。
この魔族に皆は興味を示した。
シルビアを拐うように言ったのは誰か。
しかし、この魔族は舌を切られており喋ることはできなかった。
そのために筆談で全てを語った。
全てデイロの仕業であると。
このことにデイロは怒りをあらわにして、抗議した。
しかし、ほとんどの魔族はデイロの言い分を信じることはなかった。
こうして、デイロが悪であることが魔族全体に浸透した。
「上手くいったみたいですね。」
「はい、ようやくガイエン様の仇をとることができます。」
「あとはアガットとラギに任せるとしましょう。」
シンはそういうとフウッと息をはいた。
一方ラギとアガットは、連合軍とは別に行動していた。
連合軍が弱く、ラギたちが強いのが原因である。
つまり、足手まといだから勝手にやらせてもらう、ということだ。
「よし、ここも終わりだ。てか、魔族しかいなかったな。」
「次の場所ならいるんじゃないか?」
「そだな、次行くか?」
「ああ、また俺の手で敵を天国にイかせてやるよ。楽しみだな。」
そんな会話をしながら、世界中を旅していた。
そして、西にあるとある村。
小さな村は中心に広場を持ち、その回りに家が立ち並ぶ一般的なつくりだった。
その中心の広場に現在村人たちが集められていた。
回りの家は燃やされたり壊されたりしていて、無事な家は一つもなかった。
「頭、村人全員集めましたぜ。」
「よし、いつも通りに行くぞ。」
頭がそういうと手下たちは村の入り口に二人が行き、残り10人ほどは頭と共に広場に向かった。
村人たちの監視をしていた手下たちは頭が来ると、ニヤニヤと笑った。
いつも通りにいけばまた、儲けがでる。
酒を浴びるように飲めるはずだ。
「まったく魔王さまさまだな。」
しかし、この日は少し様子が違った。
「おい、俺たちは魔王ラギトシン様の命令でやって来た。歯向かえば殺す。」
頭が大声で叫べば村人たちからは恐怖の叫びが聞こえた。
そんな声は気にせず頭は続けた。
「先ずは金目のものを出してもらう。そのあとは若い女だ。前に出ろ。」
頭のまわりの手下たちは刃物をちらつかせながら、村人をニヤニヤと見た。
抵抗するにしても戦えるものが少ないため、どうすることもできなかった。
村人たちは言われた通りに従った。
出された金品を見て頭は顔をしかめた。
予想より少なかったのだ。
「おいおい、これだけなはずないだろ?言うこと聞かないとどうなると思ってるんだ?」
「どうなるんだ?」
突然聞こえた声に頭たちは辺りを見回した。
すると、頭の前になにかがとんできた。
それは村の入り口を守っていた二人の手下の首だった。
「なっ、なんだぁ。」
頭は飛んできた首を見て驚いた。
「何って首だよ。」
そんな頭の前に二人の男が現れた。
二人のうち一人の手には剣が握られており、もう一人は何も持っていなかった。
「なにもんだ?」
頭の声で回りにいた手下たちも警戒した。
「なんだ、わかんねぇのか?」
「アガット、まだまだみたいだな。」
ラギはまだアガットの顔と名前が知られていないことに、ちょっと顔をしかめた。
「アガットだと?」
そんなラギの言葉を聞いた頭は、噂に聞いた魔王討伐に選ばれた人物の名がアガットであったことを思い出した。
「まさか、勇者アガットか。」
驚きの声をあげて頭は一歩後ずさった。
「お、名前は知られてるな。」
ラギはニッコリ笑った。
そして、アガットの肩を叩いて呟いた。
「んじゃ、あとはよろしくな。」
そういうとラギは村人たちのもとに行き、怪我人がいないか聞き始めた。
そんなラギにアガットはため息をついて、頭と向き合った。
「さて、どうしてほしい?」
アガットの言葉に頭はまわりの状況を確認した。
相手は二人、しかも一人は村人たちのところにいって何かしてる。
一方、こちらは10人ほどいる。
数の上では勝っている。
多少強くても一斉に襲いかかれば勝てる。
ならば、と考え頭は口許をゆるめた。
「どうしてほしいかだと?決まってんだろ。野郎共、やっちまえ。」
頭の合図でアガットの回りにいた手下たちは一斉にアガットに襲いかかった。
その様子を見てアガットはため息をついた。
「なんだ?大胆だな。イイゼ、もっとこっちに来いよ。」
そして、ニヤリと笑い袖口に隠してあったナイフを両手でもった。
「うぉぉぉぉぉ。」
「はぁぁぁぁ。」
口々に叫びながら手下たちはアガットにせまった。
アガットと手下たちの距離が二メートルまで縮まったときのアガットは手にしたナイフを頭に投げた。
突然呼び動作なしに投げられたナイフに頭は驚いたが、ギリギリ避けた。
避けられたナイフは頭の後ろにいた一人の手下の肩をかすめて、暗闇のなかに消えた。
ナイフの軌道を見ていた頭は、苦々しげに顔をゆがめた。
「野郎、ふざけた真似しやがって。」
そして、正面に顔を戻した後目を見開いた。
目の前にアガットがいたからである。
「なっ。」
咄嗟に剣をぬき構え、アガットに切りかかった。
しかし、アガットにするりと避けられた。
切りかかった勢いのまま、横に剣を振るうとキンッと鉄のぶつかり合う音がした。
すかさず頭は後ろにとんだ。
「なかなかやるな。」
頭はそういいまわりの様子をみた。
すると回りには手下たちがあちこち押さえながら呻き声をあげていた。
ナイフを投げた後に手下たちをアガットが倒したからである。
あの短い間に手下たちを倒すとは。
なかなか強いじゃねぇか。
ツゥっと頬を流れた汗に頭は焦り始めていた。
そんな頭の後ろから含み笑いをこめた声が聞こえた。
「無防備なヤツだな。俺がその気になってここでヤっちまったら、どうするつもりだ?」
頭ははっとなり後ろを振り返った。
アガットはそんな頭にさらに追い討ちをかけるように言葉を続けた。
「まだ素人みたいなヤリかただな。俺がそのカラダにうまいヤり方を教え込んでやろうか?」
勝てない。
先程までの動きと体からジワリとにじみ出る殺気。
本人は自覚していないのだろうが、頭たちにとっては味わったことがない恐怖が辺りにただよっていた。
頭は握っていた剣をはなし、手をあげた。
「降参だ。好きにしやがれ。」
頭のその言葉でアガットはニヤリと笑った。
「自由を奪われ屈辱なまみれたその姿。いいねぇ、ゾクゾクするぜ。」
アガットはそういうと懐から出した縄で頭を縛り上げた。
そして、ラギのもとに頭をつれて歩いていった。
「あ、終わったのか。ごくろうさん。」
ラギはアガットを見て近寄り頭をポンポンと叩いた。
「いやらしい手つきだな。」
「なんでだよ?」
叩かれたアガットはラギにそう言った。
「頭を触るのは支配欲の表れだ。」
「違うし。てか、魔族じゃないな。」
ラギは頭をまじまじとみた。
「魔族では、ないのですか?」
恐る恐る聞いてきたのはこの村の村長だった。
「ああ、魔力を感じないからな。ただの人間だな。」
ラギは村長に向き直り話した。
「最近、魔族の名を語り人が村を襲うことがあると聞く。何か知らないか?」
「申し訳ありません、私はあまり村から出ませんので。」
「あたし、知ってるわ。友達からの手紙に書いてあったの。」
村長の隣に一人の少女があらわれた。
「ユリア、本当か?ああ、私の娘のユリアです。」
「3日位前に届いた手紙に書いてあったのよ。友達の住んでる隣の村が魔族に襲われたらしいんだけど、魔族にしては剣で脅すだけだったんですって。」
ユリアはラギにそう言った。
「しかし、魔力を使わなくてもいいのであれば、使わないんじゃないのか?」
ラギの言葉にユリアは首をふった。
「違うのよ。たまたま近くを巡回していた軍が来たらすぐに逃げ出したらしいの。魔族ならそんなに簡単に逃げないでしょう?」
「確かにな。普通なら戦うだろうな。」
「でしょ?それに去り際に言った言葉がすごいの。」
ユリアはニッコリ笑いラギたちを見た。
「何をいってたんだ?」
「覚えてろよ。魔王ラギノシン様が仕返しにくるぞって。」
そういったユリアは、クスクスと笑った。
「は?誰だそれ?」
ラギはユリアに呆れた顔を見せた。
「あたしも聞いていた名前と違ってたから、どうかと思ったんだけど。でも魔王の名前っていろいろあるみたいよ?」
そんなユリアの言葉に村人たちが口々にいい始めた。
「おらも聞いたが、魔王ラキトソンだって。」
「え?あたしが聞いたのは、魔王ラギダラケだよ?」
「あぁ?俺が聞いたのは魔王アキトノンだぜ?」
なんだかいろいろ魔王がいるらしい。
しかも意味わかんねぇ名前になってやがる。
ラギはガックリ肩を落とした。
「ま、そんなもんだろ?」
落ち込んでいるラギの肩にアガットは手をおいた。
「アガット、楽しんでないか?」
そんなラギを見てアガットはニヤリと笑った。
「ああ、楽しんでるぜ。」
ラギはため息をつき村長を見た。
「とりあえず、こいつらは俺たちがつれていくよ。」
「わかりました。お願いいたします。」
村長はそういうと村人たちと、これからどうするかを話し合うために、ラギたちから離れていった。
「とりあえず、一旦ニクスのところに戻るぞ。シンの方のはなしも聞かなきゃいけないからな。」
「わかった。」
こうして二人はニクスの元へ戻っていった。
この時、アガットがあることを考えはじめていたことに、ラギは気づいていなかった。
そして、ラギたちはイレーネへと戻り離宮に足を向けた。
離宮に入るといつもの部屋にニクスとシンがいた。
「お、いたのか。」
「ああ、お帰りなさい。どうでしたか?」
ひさしぶりにあうラギとシン。
お互いの報告をすませることにした。
「ぶっちゃけ、魔族の名を語るやつらはいたぞ。とりあえず、成敗したけどな。」
その言葉にシンはうなずいた。
「先程ニクスにそのはなしを詳しく聞きました。しかし、魔王の名前がいろいろありすぎてちょっとアレですね。」
シンは苦笑いをした。
「確かにな。で、そっちはどうなんだ?」
ラギの言葉にシンはニッコリ笑った。
「失敗するわけないですよ。現在デイロは結界をはり孤立してます。」
「よし、ならばあとは。」
そこまでいいラギはアガットをみた。
「ええ、勇者の出番です。」
「頼んだぜ。」
ラギたちに言われアガットはニヤリと笑った。
「わかった。だが、どうなっても知らないぜ?」
「失敗さえしなければどうしてもかまいませんよ。」
シンはアガットの挑戦的な笑みを浮かべて言った。
「誰にいっているんだ?俺が失敗するわけないだろ?それとも何か?俺にシテほしいことがあるのか?」
アガットもまた、負けじと怪しい笑みを浮かべていった。
その言葉にシンは黒い笑みを浮かべた。
「では、一つ条件を出しましょう。できるだけ簡潔に終わらせてください。むさ苦しい男の苦しむ様は見たくありませんから。」
シンはアガットに注文をつけた。
「フっ、イイねえ。俺も感じさせてくれるならいいが、それ以外のことはお断りだな。」
「ま、とりあえずアガットがデイロを倒せば終わりだな。」
「むさ苦しいは否定しないんだな。」
ラギの言葉にニクスはちょっとつかれた声を出した。
「で、アガット。試練が終われば晴れて立太子となる。これまで以上にいろいろ覚えてもらうからな。」
アガットはニクスをみた。
「わかった。」
ニクスは少し考えてから答えた。
「では、明日デイロのもとにいきましょうか。」
シンはアガットを見ていった。
「早すぎないか?」
「そんなことありませんよ。それにあちらにあまり時を与えると何をするかわかりませんから。」
シンの言葉にラギは納得した。
「確かにな。んじゃとりあえずどうするんだ?ラムザンのとこに帰るか?」
シンはニクスを見て次にアガットを見た。
「そうですね、ニクス、いいですか?」
ニクスはうなずいた。
「ああ、よろしく頼むよ。」
「では、いきましょう。」
「よし、やってやるぜ。」
「今の俺はビンビンだからな。邪魔はするなよ。」
こうして
アガット、ラギ、シンの三人は魔王討伐に向かった。




