第5章 魔王の秘密 その2(11)
ラギの言葉にシンは頷いた。
「そうですね。これでザクセンが中心になって魔王に戦いを挑めます。」
そんな会話をしていると、各国の代表たちがラギたちに近づいてきた。
シンはそれに気づき、向かい合った。
「お分かりになりましたか?アガット様なら魔王に勝てます。あなた方では無理です。」
シンの言葉に皆は額にシワをよせた。
「確かに我らよりは強い。しかし、本当に魔王に勝てるのか?」
疑いの眼差しでみられたがシンは堂々といい放った。
「一年以内に魔王を倒して見せます。」
「一年だと?長すぎるのではないか。」
「一応予定です。いろいろやるべきことがありますから。」
代表一団は顔を見合せうなずきあった。
「いいだろう。期限は一年。必ず魔王を倒すのだ。」
「承知しました。」
「その間我々は被害が広がらないように、他の魔族を倒していくことにする。」
こうして、魔王討伐にアガットが名乗りをあげたことが全世界に知れわたり、民は一刻も早く魔王が倒されることを願った。
そして、ラギたちは一度ニクスの元に行くことにした。
先程決まった一年以内の魔王の討伐。
それに、王になるための試練のこと。
これらのことをニクスに話しておく必要がある。
一応、アガットはザクセンの後継ぎ的な存在である。
危険な戦いにどこまで関わることにするのか、聞かなければならない。
一方、ザクセン王城では。
天空神殿での戦いにより、アガットが魔王討伐に行くことが世界的に知れ渡った。
このことについて、重臣たちが会議をひらいていた。
「陛下、これでよろしいのですか?アガット様は我が国の第一王子ですぞ。」
「わかっている。だが、天空神殿の命に逆らうことはできぬ。」
「それはわかっております。ですので、身代わりのものを戦いに赴かせるというのはいかがですか?」
「ならん。これは第一王子としての試練である。」
「試練といいますと?」
「王家に関わることだ。詳しく話すことはできん。これは決まったことだ。これ以上の口立ちは無用とする。」
ニクスはそういうと、席をたち部屋を出ていった。
部屋をでたニクスは離宮へとやってきた。
「ふう、やっぱりいろいろ言われたな。」
椅子に座り、ふうっと息を吐いた。
そして、目をとじて呟いた。
「俺に相談もなしにいろいろきめたな。」
「それはついては謝ります。」
その声にニクスは目をあけて、目の前にたつシンを見た。
「シン、お前いつの間に。」
ニクスは立ち上がりシンの頭をなでた。
「先ほどです。ラギとアガットも一緒です。」
「よう、ニクス。」
シンの後ろにはラギとニクスが立っていた。
「お前たち、とりあえず話を聞かせれくれ。何がどうなってこうなった?」
「え、ニクスが言ったのですよ?アガットの試練は魔王討伐にすると。」
「だから、アガットを鍛えて、世界的にもアガットが魔王を倒せるようにお膳立てしたんだぞ?」
ラギたちの言葉にニクスはため息をついた。
「それはわかってる。天空神殿の会議に出席するといってきたのはお前たちだ。つまり、魔王を倒しにく行くのはアガットに決まったのか?」
「ああ、とりあえず一年いないに倒す予定だ。」
ラギは自信満々に答えた。
「で、気になってるんだが。」
ニクスの微妙な声にシンは首をかしげた。
「なんですか?」
「魔王ラギトシン、どうやって倒すんだ?お前たち二人の名前を引っ付けただけだろ?魔王を誰にするんだ?」
ニクスの言葉にシンは、ニヤリと笑った。
「おや、わかりませんか?僕達にとっても重要な人物なんですが。」
「重要な人物?誰だ?倒すんだからってまさか。」
「気づきましたか?デイロを魔王に仕立てあげます。」
シンの言葉にニクスは驚いた。
「本気か?」
ニクスは真剣な表情になりラギたちに聞いた。
「元々人の町を襲い僕達を魔王にしようとしたんです。僕達も同じようなことをしたまでです。」
シンは一度ラギを見てニッコリ笑い言葉を続けた。
「それに人に倒されるのは魔族のなかでも強いとされているデイロにとって、ちょっとした嫌がらせになるかと思って。」
「確かにな、魔族が一番だと思っているみたいだから。」
黒い笑みを浮かべ、ラギもシンと同じ意見のようだ。
それを見てニクスは、二人にあまり逆らわないようにしようと、密やかに決めた。
「で、アガットは魔王に勝てるのか?」
一番心配なのはアガットが魔王を倒せるかどうかである。
ここまで決めておいて最後が決まらなければ意味がない。
「大丈夫ですよ。かなり強くなりましたから。今ではラギほどではないですが、それなりに強いですよ。」
その言葉にニクスはほっとした。
「それならいいんだが。」
そしてニクスはアガットを見た。
「アガット、よく頑張ったな。」
それに対してアガットはニヤリと笑いニクスに言った。
「俺を気にかけてくれたのか?感謝するぜ親父。」
「ん?なんか違うな?」
「ああ、それはですね。ちょっとしたことがありまして。」
「ちょっとしたこと?」
微妙な言葉使いにニクスはアガットに違和感を覚え、それに気づいたシンが何があったのか伝えた。
「実は、アガットの師範としてラムザンをあてていたのです。で、時々息抜きにということで町の酒場に行っていたらしく。」
「町の酒場?人のか?」
「ええ、そうです。で、そこである人物と意気投合したらしく。」
「ある人物。なにもんだ?」
ニクスはシンにせまった。
「はぁ、ラギ。あとは頼みます。僕はよく知らないんですよ。あの人。」
シンは追求の手を緩めないニクスを前に、ラギに助けを求めた。
「仕方ねえな。ま、はっきりいうと盗賊にちょっとしたことを教えてもらったんだ。」
「はあ、盗賊?おいおい、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ。で、そいつにラムザンとは違った戦い方を教えてもらってるうちに喋り方もうつったみたいなんだ。」
ラギの言葉にニクスはアガットをじっと見た。
「何か聞きたいことがあるなら素直に言いな、スッキリするぜ。」
ニクスはアガットの言い方にため息をついた。
「前よりひどくなってないか?」
「でも、あの盗賊腕は確かだぞ?不意を付けばおれでもやられるからな。」
その答えにニクスは驚いた。
「そんなに強いのか、そいつ。」
「ああ、だからアガットの強さは俺が保証する。」
「なら、いいんだが。」
そこでニクスは三人をみて、ふっと笑った。
「とりあえず、今日はゆっくり休んでくれ。俺は仕事に戻るよ。アガット、あとで部屋に来い。」
そういいニクスは城へと戻った。
「ってことで、ちょっと休むか。」
「そうですね、アガットもゆっくりしてください。」
「分かった」
そして、三人はそれぞれ休みをとることにした。
そして次の日。
ゆっくり休んで疲れもとれた三人はこれからのことを話すために、集まった。
「それで、アガットが魔王を倒すことは決まったんですが、今度は魔族側で調整することができたんです。」
「魔族側での調整?なんだそれ?」
ラギの疑問にシンは順をおって説明していった。
「つまり、いきなりデイロが魔王だ、といっても誰も理解できないでしょう?ならば、デイロが倒されるべき存在であるということを、魔族側に知ってもらう必要があるんです。」
「具体的にはどうするんだ?」
シンは少し悲しそうな顔でラギに言った。
「僕達の両親のことを話すんです。」
それを聞き、ニクスは顔を歪めた。
「あのことをみんなに話すのか?」
ニクスの苦い顔にシンは苦笑いした。
「ニクス、全部話すことでデイロが悪であることがわかるんです。それに、どちらかというと両親の記憶はないのであまり気にしていないんです。」
生まれたばかりの赤子の状態で両親とわかれたラギとシン。
そして、オオカミたちに育てられニクスに出会った。
その裏に潜んでいたのがデイロ。
「だが、証拠がないんじゃないのか?」
「それはもう集めてあります。だいぶ過去のことでしたのでちょっと手間取りましたが。」
「いつの間にそんなもんを?」
ラギはシンに尋ねた。
「あなたがあちこちで遊んでいるときにラムザンと集めました。」
暗に遊んでいたでしょう?と脅されてラギは黙った。
「もともとデイロは父であるガイエンの代理としているわけです。ちょっと前までは何も知らないからという理由で、デイロが実行権を握っていましたが。もう僕達も大人です。そろそろ舞台からの退場をお願いしたいですね。」
黒いオーラを少し出しながら、ニヤリと笑ったシン。
ニクスとラギはそれを見て、これから起こるであろう出来事を思い、ため息を付いた。
「なので、ラギとアガットは連合軍と一緒に魔族討伐をお願いします。ラムザンから少し気になる情報もありましたし。」
「連合軍?ああ、国別の部隊のことか。で、気になることって何だ?」
ニクスはシンに尋ねた。
「昨日の夜にちょっとラムザンのところに行ってきたんです。」
「お前、いつの間に・・。」
「そこでちょっと気になる噂があることをラムザンに言われました。」
「噂?どんなもんだ?」
シンはニクスをじっと見て話した。
「人の町を襲っている魔族の中に人が混じっていると。」
「なっ。」
「本当か?」
「・・・・・。」
「残念ながら本当のことみたいです。盗賊などではなく、きちんと訓練を受けている兵士ではないかと。」
シンの言葉を聞き、ニクスは顎に手をやり考えながら言った。
「その話は本当だ。だが、どこの国の者かがわからない。ラムザンはどうやってその情報を知ったんだ?」
「魔族の中にいる情報収集専門のかたが教えてくれたと。とりあえず、さらに情報を集めるように伝えてあります。」
人が人を襲っている。
確かに魔族たちでも同じ種族で争っていることはある。
しかし、魔族たちの場合は損得ではなく感情で動くことがほとんどである。
つまり、戦いによって得られる利益ではなく、ただ単に気に入らないといった理由で戦うことがほとんどなのである。
それはそれで、問題なことであることは確かなのだが。
「詳しい話はまたラムザンに聞いてみます。ですので、ラギとアガットは世界中をまわり事実確認もお願いしたいのです。」
「分かった。アガットの名前もさらに広まるしな。」
そこでラギの言葉にシンは、ニッコリ笑いアガットに言った。
「そのままではつまらないので、二つ名を考えました。勇気あるもの、ということで勇者アガットと、名乗ってくださいね。」
「俺をどうしたいんだ?」
アガットはシンに尋ねた。
「とりあえず名をうって有名になりデイロを倒してもらいます。そのあとはニクスに聞いてください。」
シンはニッコリ笑った。
「ふっ、他にヤることもないしな。イイゼ、ヤッてやるよ。」
アガットはそういうと、ニヤリと笑った。
「では、僕は一度ラムザンのところに戻って準備をしてきます。それまでラギたちは頑張ってくださいね。」
「おう、任せとけ。」
こうしてラギとシンはそれぞれのするべきことをするために、わかれた。
ラギは魔族の討伐
シンはデイロの噂を流すこと
そして、アガットはラギと共に戦いを始めた。
シンはラムザンと共にガイエンの話を広め始めた。
曰く
突然いなくなったのは何か訳があるのではないか?
幸せの絶頂にいたはずなのにいなくなるのはおかしい。
さらに
ガイエンがいなくなった後何故デイロが一族をまとめたのか?
そして、ガイエンの息子であるラギたち。
ガイエンに似た魔力の強さとシルビアに似た知性。
もう十分立派に育っている。
ガイエンたちが亡くなったのならばラギたちに長の権限を与えてもいいのではないか?
少しずつ噂話の1つとして魔族たちの間で広がっていった。




