第5章 魔王の秘密 その2(10)
第一の魔王がいた時代
世界は魔力を否定していた
そんな世界には魔族と人族がいた
その違いは魔力を持つかどうか
魔力を持つものは魔族
魔力を持たないものは人族
しかし魔力を持つものは姿が異形となっていった
それから月日が流れ世界に少しずつ魔力が、溢れだした
これは魔族たちが世界のために魔力を使ったことも原因であったが
世界が魔力を受け入れ始めたためでもある
そのため姿が異形化することは、少なくなった
それが現在の世界と魔族と人族の理
「つまり魔力をもつものが全て魔族ではないってことか?」
「はい、そうです。現時点でわかっているのは、闇の魔力をもつ魔族、光の魔力をもつ人族、そして、闇の魔力をもつ人族、ですね。」
シンの言葉にニクスは、首を傾げた。
「光の魔力?」
「ああ、俺たちとはちょっと違う属性みたいだな。」
「属性?サッパリわからん。つまりなんだ?魔力に種類があるのか?」
ニクスは額にシワをよせながら聞いた。
「とりあえず俺たちはそう分けてる。」
「闇の魔力を使うのが魔法使い、光の魔力を使うのが魔術士。少し呼び名をかえてますが、基本は同じみたいですね。分かりやすく説明するとこういうことになります。」
シンの言葉をじっくり考えて、ニクスは言った。
「つまり、アガットはちょっと特殊なんだな?」
「簡単にいうとそうなります。ですから、僕達が魔力の使い方を教えるのが一番いいんですよ。」
ニクスはアガットを見た。
寝ている。すやすやと。
こっちは頭が混乱していると言うのに。
そして、ニクスは開き直った。
「わかった。お前たちに任せる。んで、例のあれ、決めたぞ。」
ニクスはニンマリと人の悪そうな顔で笑った。
「アガットには、魔王を倒してもらう。」
ニクスの言葉にラギたちはビックリした。
「ニクス?本気か?」
「勿論だ。」
「例の魔族討伐の隊長に任命して、魔王ラギトシンを撃ってもらう。」
こうして、ニクスはアガットの試練を魔王討伐に決定した。
アガットはラギたちに魔力の使い方を教わることになった。
勿論教えたのはラムザンである。
様々なことを学び、アガットは次々に覚えた。
そして、月日は流れて。
世界中から集まった魔王討伐を目指す者たち。
部隊はそれぞれの国別で別れており、ザクセン国の指揮権はアガットにあった。
もちろんアガットの近くにはラギたちが控えていた。
魔族たちはニクスの想像通りに、世界中を破壊していた。
小さな村や町は滅ぼされ、少し大きめの街まで被害は広がっていった。
「魔王ラギトシンの名のもとに世界を滅ぼす」
魔長たちは口々に叫び、世界中で魔王の名を知らないものはいなかった。
人々は魔王ラギトシンこそが悪であると、信じていたのだった。
そんな中、天空神殿からの命により、討伐部隊が結成され少しではあるが、魔族に抵抗を始めた。
魔王ラギトシンの名が知られてからおよそ、数ヵ月がたっていた。
討伐部隊は、次々に魔族を討ち魔王の居場所を突き止めようとした。
しかし、魔族たちは誰も居場所を知らなかった。
それどころか姿さえも知るものがいなかった。
これは混乱をまねいた。
倒すべき存在はいる。
しかし、倒すべき相手がわからない。
すぐに天空神殿に連絡がいき、どうすべきか対策が練られることになった。
各国の王族たちは天空神殿に集まり、魔王について話し合った。
ここでニクスは、ラギたちをつれていき魔王について話してもらうことにした。
もちろん、ラギたちが魔族であることは伏せたままで。
「では、あなた方は魔王ラギトシンをみたことがあると?」
「はい、しっかりと顔を見ました。」
「魔族ですら誰も知らないのに何故?」
ここでシンは悲痛な顔で王族たちに語った。
真実を織りまぜた虚偽を。
僕達の村は山あいにある小さな村でした。
雪が降ればたちまち孤立してしまうそんな村。
しかし、皆優しくて楽しいことが大好きだったから、明るく元気に暮らしていました。
でも、それはあの日終わりを告げたんです。
闇夜にまぎれて魔族が襲ってきました。
家は焼かれ村人全員が集められました。
抵抗した人たちは殺されました。
そして、僕達は連れていかれました。
魔王のために城を作れと。
抵抗しても敵うはずもなく、僕達は言われるままに働きました。
何年もかけてつくられた城は大きく立派でした。
魔族たちは部屋に僕達を押し込み入り口を木でふさぎました。
僕達を人柱にするために。
このままでは死んでしまう。
そう思い必死に入り口を開けようとしました。
でも、体当たりしようとびくともしませんでした。
閉じ込められてからどのくらいの時間が過ぎたのか、わかりません。
少しずつ衰弱していた僕達の耳に小さな音が聞こえました。
カリカリカリ。
その音をたどってみると、ネズミが壁に小さな穴をあけていました。
その穴からは僕達が連れてこられた時に通った通路につながっていたんです。
皆はその穴を必死になって大きくしようと頑張りました。
皆で広げた穴は小さな子供ならばギリギリ通り抜けることができる大きさになりました。
だから皆は僕達にここから出るように言いました。
僕達は嫌だと、言いました。
そうしたら、ここから出て助けを呼んできてくれと言われました。
皆に言われて僕達は渋々部屋から抜け出しました。
必ず助けに来ると、約束して。
部屋を出てゆっくり静かに歩いて地上を目指しました。
運良く誰にも会わずに地上まで行けました。
その意味を考えずに。
実はその日は魔王に完成した城をお披露目する日だったんです。
だから、皆魔王を出迎えるために行っていたからいなかったんです。
ようやく外へ出るための窓を見つけた僕達は、ゆっくりと窓をあけて外に出ました。
そのとき、大きな音とともに僕達は吹き飛ばされました。
地面に投げ出された僕達は何が起きたのかわからずに、後ろを振り返りました。
すると目に写ったのは燃え盛る城でした。
真っ赤に燃える火がジリジリと僕達を襲わんと迫っていました。
熱さに負けて僕達は後ずさりました。
すると足音と話し声が聞こえてきました。
僕達は咄嗟に近くにあった茂みの中に入りました。
息を殺してじっとしていると少し苛立った声が近づいてきたんです。
趣味の悪い城だ。
こんな城はいらない。
だから燃えてしまえ。
すると少し焦った声が謝りながらこう言ったんです。
お許しください、魔王さま。
次こそは完璧に仕上げます。
そこで僕達は静かに顔を上げて茂みの中から声の持ち主を見たんです。
こいつのせいで僕達はひどい目にあったんだと。
その姿を目に焼き付けました。
炎の前に佇み少し不機嫌そうな顔の魔王の姿を。
「だから僕達は魔王を知っているんです。」
そう無表情な顔でシンは話を終わらせた。
「ならば教えてくれ。魔王はどんな姿をしているのか?そして、どこにいるんだ?」
「それは。」
「それは?」
シンは手を握りしめて大きな声で言った。
「それは今言えません。」
シンの言葉に皆はシンを見た。
「何故言えない?」
少し怒りを含んだ声にシンはため息をついた。
「あなたたちでは、勝てないから。」
一人一人の顔を見ながらシンは続けて話した。
「魔王は強いです。現在魔族たちを倒しているあなた方の実力は知っています。だから、無理なんだとわかってしまうんです。」
「ならば誰なら勝てるんだ?」
シンは少し微笑みながら、隣にいるアガットを見た。
「アガット様なら勝てます。」
シンの言葉に全員がアガットを見た。
少し気だるそうに椅子に座り頬杖をついているアガットを。
「あ?なんだ?」
先程の会話を聞いてなかったのか、皆にみられていることに気づき体勢を整えた。
「こんな若造が倒せるだと?こちらには一騎当千の騎士たちもいるのだぞ。」
強い口調で言われてシンはニッコリ笑った。
「でしたら、試合をしましょう。それで勝てれば、証明できるでしょう?」
「おい、ちょっと。」
「アガット様は黙っててください。」
シンに言われアガットは黙った。
「面白い。では、試合をしよう。昼過ぎに闘技場で試合だ。それまで解散。」
解散宣言をうけてラギたち以外は部屋を出ていった。
誰もいなくなったのを見てアガットはシンを見た。
「おい、どういうことだ?」
「頭でっかちの老人たちを黙らせるのは、これが一番いいんですよ。それに邪魔されたくありませんからね。」
「邪魔ねぇ。ま、勝てばイイんだろ?」
「その通りです。」
アガットの言葉にシンはニッコリ笑った。
そして、お昼が過ぎてラギたちは闘技場へと足を運んだ。
そこにはすでに、大勢の人が集まっていた。
「これは、楽しそうだな。」
「ラギ、あなたは見学ですよ。」
「わかってるよ、アガット、頑張れよ。」
ラギはアガットの肩をたたいた。
「ま、楽しめるといいがな。」
アガットはニヤリと笑い、ゆっくりと歩いていった。
そんなアガットにシンは小さな声で忠告した。
「魔術は使わないようにしてくださいね。」
「何故だ?」
「実力が違いすぎます。」
「チッ、わかった。」
そして、闘技場の中心にある戦いの場へ進んでいった。
大きさは直径200メートルの円形の舞台。
ここでアガットの実力をみるために戦いが行われる。
「逃げずに来たようだな。」
先程の男が声をかけてきた。
「逃げるはずがない。」
「ふん、どこまで虚勢が続くか見ものだな。相手は我が国きっての力自慢、マックスだ。」
「皆のヒーロー、マックスだぁ。」
呼ばれてマックスは両手を上げて大声をあげた。
それを見てアガットはわからないように小さく呟いた。
「アイツじゃイケそうにないな。」
マックスは、アガットを見て鼻で笑った。
「君が挑戦者か?俺様は強いぞ。惨めに破れる前に帰った方がいいんじゃないのかい?」
その言葉にアガットは無反応で答えた。
それを恐れていると思ってマックスはさらに話続けた。
「まあ、国を代表するのだからそう簡単には引き下がれないんだろう。よし、大丈夫だ、手加減してやるから、かかってこい。」
「ふっ、お前に俺を満足させられるか。お手並み拝見といこうか。」
そういいアガットはマックスの真正面に立った。
「面白い。では、戦いを始めようではないか。」
マックスの言葉を合図に戦いは始まった。
しかし、アガットは腕をくんで佇んだまま動かない。
「かかってこないのか?ならばこちらからいくとしよう。」
マックスはそういうと右手の剣を両手で持ち、アガットに向かって突進してきた。
それを見てようやくアガットは両手を下ろし腰にあるダガーを両手にもった。
「さて、どんな声で哭かせてみようか。」
アガットは猪突猛進してくるマックスにダガーを投げた。
迫りくるダガーをマックスは剣で弾き飛ばした。
「この程度の攻撃では俺様は倒せんぞ。」
マックスの速度は変わらずどんどんとアガットに迫った。
「随分大胆にクルんだな。」
アガットはそういうと、袖から何かを取り出しマックスに投げた。
「なんのこれしき。」
マックスはまたも飛んできた物体を剣で弾き返そうとした。
次の瞬間
剣にあたるとそれはバフっという音とともに煙幕が広がった。
「なんだこれは。」
マックスは剣を振り回して煙幕を消そうとした。
しかし、その直後に耳元で聞こえた声に驚き固まった。
そういい、アガットはマックスの首元に手刀をおとした。
マックスは為す術もなくそのまま気絶し、倒れた。
ゆっくりと煙幕が晴れていく中、人の影が見えてきた。
その影は一つ。
足元にも一つの影。
闘技場に集まっている人は、立っているのはマックスであることを疑っていなかった。
ラギとシンを覗いては。
「ああ、終わったみたいだね。」
「でも、全然戦ってねえよな?」
「実力に差がありすぎです。仕方ありません。」
完璧にはれたあとに、立っていたアガット。
人々は、驚きのあまり声を出せなかった。
「ま、こんなもんだな。」
アガットは一言つぶやきラギたちの元へと戻った。
ラギたちのもとに戻ったアガットにラギは声をかけた。
「アッサリ片付けたな。」
「俺を悦ばせれるモノはなかなか見つからないからな。」
「アガット、言葉に気を付けてください。」
「とりあえずこれで証明できたからいいんじゃないのか?」




