第6章 大空の散歩 その1
世界は広いんだなぁ
サツキたちはエンに送ってもらい城についた。
すると、ちょうどカインが現れてエンを見て少し驚き、ニッコリと笑った。
「おや、これは珍しいですね。どうされたんですか?」
「たまにはいいだろ?」
「では、ついでに仕事していってください。」
「断固断る。んじゃ、魔王またな。」
エンはそそくさと帰っていった。
「逃がしましたか。」
カインは少し悔しそうに言った。
「俺も疲れたから休むわ。」
魔王は軽くアクビをしながら、片手をふり歩き始めた。
「あ、魔王さま、天空神殿から封書が届いてます。執務室にありますから、きちんと読んでくださいね。」
そんな魔王の後ろ姿にカインは声をかけた。
「あ?何かあったのか?」
魔王は立ち止まりカインに振り返った。
「恐らく勇者の件ではないかと。」
その言葉に魔王は顔をしかめた。
「ああ、そうか。」
いかにも面倒と言わんばかりの顔で魔王は執務室に向かった。
「あの、大丈夫でしょうか?」
サツキはカインに訊ねた。
「大丈夫です。さあ、サツキさんは、部屋に戻ってください。後で食事をお持ちしますから。」
カインに促されサツキは部屋に戻った。
部屋に入るとサツキはソファに寝そべった。
「疲れたのか?」
ソファの横にウルちゃんが少し心配そうにサツキを見ていた。
「ちょっとね。」
サツキはウルちゃんに答えた。
「それよりもちょっと気になってるんだけど。」
サツキは起き上がりウルちゃんと向き合った。
「なんだ?」
「魔王ってかロキなんだけど、勇者対策なにもしてないよね?」
「ああ、そうだな。」
「大丈夫なのかな?」
ウルちゃんはニヤリと笑いサツキをみた。
「心配か?」
「うーん、大丈夫なんだろうけど、気になるっていうか。」
「大丈夫ですよ。魔王様はなかなか強いですよ?」
いつの間にか部屋に入ってきていたカインが、サツキの前に食事の準備をしながら言った。
「強いの?」
「はい、魔王ですから。」
ほんとかな?
強いんなら、助っ人とかいらないんじゃ。
そのとき大きな音をたててサツキの部屋の扉が開かれた。
「カイン、どうなってるんだ?」
手には少し、シワシワになった紙をもち、魔王は焦りながらカインに問い詰めた。
「なんのことですか?」
カインは魔王の様子に動じることなく、首を傾げた。
「だから、サツキを連れてこいって。」
「サツキさんをですか?」
「ああ、手紙にそう書いてある。いつの間に知らせたんだ?」
魔王の言葉にカインは納得したように答えた。
「昨日、伝えましたよ。一応伝えた方がいいかと思いまして。」
「だからと言ってアイツらにまで知らせたのか?」
「いえ、伝えたのは天空神殿の方までですよ?」
そこまで聞いてサツキは、自分のことをカインが天空神殿に伝えたことがわかった。
でも、アイツらって誰?
知られちゃまずいのかな?
「ねえ、ロキ、なんで焦ってるの?」
サツキの言葉にカインは目を瞬かせた。
「あのサツキさん、ロキというのは?」
カインに言われてサツキは口をおさえた。
「あのご免なさい。実は魔王の名前なの。」
「魔王の名前がないのは寂しいらしい。」
横からウルちゃんもサツキの言葉に付け足すように話した。
「そうだ、カイン。この件に関してはいろいろと聞きたいことが。」
「それで魔王様、天空神殿はなんと?」
カインは魔王の言葉を遮り聞いた。
「あのな、俺が言いたいのは。」
「ですから天空神殿は?」
諦めにもにた溜め息をつき魔王は答えた。
「俺に天空神殿に来いって。しかもサツキを連れてな。」
いつの間にかサツキの横にドッカリ座っていた魔王さま。
サツキはそんな魔王をみた。
「危険なの?」
不安そうなサツキの声に魔王は焦った。
「いや、危険はない。ただ。」
「いい機会です。勇者の件もありますから二人で行ってきてください。」
再び魔王の言葉をカインは遮った。
「俺、主だよな?」
「何を当たり前のことを言ってるんですか?当たり前でしょう?」
カインはニッコリ笑い、魔王に答えた。
ガックリうなだれた魔王と、にこやかに笑うカイン。
対照的な二人を見てサツキは、苦笑いした。
「あの、あたし行かない方がいいんでしょうか?」
「天空神殿の言葉ですから、逆らうことは許されません。大丈夫ですよ。なかなか面白いですから。」
面白いってどうなんだろ?
でも、天空神殿って気になるよね?
あの話しに出てきた場所でしょ?
チラッと見てみたいなぁ。
サツキの心境が顔に出ていたみたいで、カインは魔王に聞いた。
「ほら、サツキさんは、行きたいみたいですよ?いいじゃないですか。」
カインの言葉に魔王はサツキを見て頷いた。
「わかった。んじゃ明日な。」
ちょっと疲れたように魔王は答えた。
そして、サツキの前にある食事に目をやった。
「そういえば、夕飯食ってねぇな。」
「魔王さま、これはサツキさんの分ですから。食べてはいけませんよ。」
魔王はカインの答えに小さく舌打ちした。
「ちょっとくらい。」
「ダメです。」
そんな魔王たちの会話にサツキは入った。
「あの、たくさんあるから食べてもいいよ?」
サツキの声に魔王は喜び、早速食べ始めた。
「はぁ、サツキさん。あまり魔王さまを甘やかしてはいけませんよ?」
「あ、すいません。」
反射的に謝ったが、これは甘やかすっていうのかな?と、サツキは心で思い、魔王と一緒に食事をした。
そして、翌日。
今日も早めに起きることができたサツキは、身支度をすませた。
「今日はテラスにいくぞ。」
身支度をすませたサツキにウルちゃんは、声をかけた。
「テラス?何かあるの?」
サツキはウルちゃんに訊ねた。
「昨日言っていただろう?天空神殿に行くんだ。」
「あ、そうか。ん?何か用意いるかな?遠いんでしょ?」
サツキは、今更ながらに焦った。
「何も必要ない。気にするな。」
ウルちゃんは尻尾でサツキの脚を緩やかに撫でた。
「うーん、まあ、ウルちゃんが言うんなら大丈夫かな。」
微妙に納得していないが、とりあえずウルちゃんと一緒にテラスに向かった。
テラスにつくとそこには、魔王とカインがいた。
「すいません。遅くなりました。」
サツキは小走りで魔王たちに近寄った。
「大丈夫ですよ。では、魔王さまと楽しんで来てくださいね。」
カインはそういいサツキにニッコリと笑った。
「あの、何も用意してないんですが、遠いんですよね?」
サツキの言葉にカインはもう一度ニッコリ笑った。
「遠いですが、そんなに時間はかかりませんよ?ああ、これは道中食べてください。」
カインはそういい1つバスケットを渡した。
「ちょっとしたオヤツです。」
「あ、ありがとうございます。」
「おい、そろそろ行くぞ。」
魔王の言葉にサツキはバスケットを抱えて、魔王に近づいた。
「あの、どれくらい歩くのかな?」
少し不安そうに魔王を見たサツキに魔王はニヤリと笑った。
「歩くなんて面倒なことはしないぞ?これで行くからな。」
そういい魔王が指差した先には、鮮やかな色合いの絨毯があった。
「まさかこれは。」
サツキは恐る恐る魔王に聞いた。
「これぞ秘宝中の秘宝、魔法の絨毯だ。」
「やっぱり。本物なの?」
サツキは魔法の絨毯に近寄った。
絨毯にゆっくり触ると、柔らかい毛並みが指先をくすぐった。
「ニセモノなんかあるのか?」
そういい魔王は魔法の絨毯の上に乗った。
サツキは魔王と絨毯を交互に見た。
そんなサツキに業を煮やしたのか、魔王はサツキの腕をつかみ魔法の絨毯に無理矢理のせた。
「それではいってらっしゃい。」
笑顔で手を降るカインの横にウルちゃんを見てサツキは驚いた。
「あれ、ウルちゃんは?」
「ああ、今回は留守番だ。」
魔王はそういい絨毯の上に座った。
腕を掴まれているサツキもそのまま座り込み、それを確認した魔王は絨毯を2回叩いた。
すると、フワリと絨毯が浮かび上がったのだ。
「んじゃ行ってくる。」
魔王がそういうと、魔法の絨毯は少しずつ高さを上げていつの間にか魔王の城が眼下にあった。
「た、高いよ。」
あまりの高さにサツキは震えながら魔王の腕にしがみついた。
「そんなに怖いのか?」
サツキの怯え具合に魔王は首を傾げた。
「当たり前でしょ?こんな高いなんて。」
「まあ、落ちたりしないから大丈夫だ。」
魔王はあっさりいうと、魔法の絨毯を撫でてこう言った。
「天空神殿へ。」
その言葉が聞こえたのか、魔法の絨毯が動き出した。
最初はゆっくり。
しかし、次第にその速さを増しながら。
徐々に上がる早さにサツキはさらに怖がった。
「仕方ねぇな。」
魔王はしがみついていたサツキの腕を離した。
「え、なんで。」
サツキは少し泣きそうになった。
しかし、魔王はそんなサツキの後ろに回りサツキを後ろから抱き締めた。
「これなら怖くないか?」
耳元で言われてサツキは違う意味でドキドキした。
「あ、あの、ロキ?」
「なんだ?」
「ちょっと近いんだけど。」
「そうだな。」
「ちょっと離れて。」
「怖いんだろ?」
「そうだけど。」
「わがまま言うな。落ち着くまでだ。」
魔王はそういいサツキを抱き締める腕をさらにきつくした。
怖いよりも緊張するぅ。
そんなサツキの様子を魔王は後ろからニヤニヤと笑いながら見ていた。
「それより景色を楽しんだらどうだ?昨日はあまりゆっくり見れなかっただろ?」
魔王の言葉にサツキは、そういえばと、ゆっくり顔を上げて回りを見た。
しかし、回りは空。
そして、それなりの速度で進んでいる。
そこでサツキは気がついた。
「ねえ、風がないんだけど。」
「ああ、気がついたか。結界だ。でないと、息が出来ないし寒いだろ?」
言われてみればそうだ。
「いつの間に?」
「自動的にあるんだよ。」
「ふうん、そうなんだ。」
ん?
だから落ちないってこと?
「結界があるから落ちないって言ったの?」
サツキは顔を少し後ろに向けて魔王に訊ねた。
「ああ、そうだ。」
「それならそうと早く言ってくれたら良かったのに。」
「言っただろ?」
「え?いつ?」
「落ちないから大丈夫だって。」
「それじゃあ、わかんないよ。」
魔王との意思疎通は上手くいっていないらしい。
「今度からはきちんと教えてね。」
「いいけど、これは常識だろ?」
「いいから。常識でもなんでも教えて。」
ちょっときつめにサツキがいうと魔王はとりあえずといった感じで頷いた。
そこで、ようやくサツキはキョロキョロとあちこち見ることにした。
といっても四方八方が空である。
見るとなると・・・・。
「下だよね?」
恐る恐る絨毯の端によると、サツキはジワジワと見えてくる景色が目に入るのがわかった。
その景色はまさに圧巻であった。
色鮮やかな森。
そこを流れる川。
さらには空にのびるほと高い山。
そこに生きる生き物たち。
まだ、魔王の治める領土であるはずだから、魔物たちの住む世界。
その姿はサツキのしっているものとは明らかに違っていた。
しかし、想像していたよりも生き生きとしている植物や生物たちにサツキはいつの間にか微笑んでいた。
「すごいんだね。」
サツキの声に魔王は笑った。
「この程度で驚いていたらこれから先どうするんだ?」
「え?もっとすごいことになるの?」
「この辺はまだ穏やかな方だからな。もう少しいくと、巨大な滝が見えるぞ。」
魔王の言葉にサツキはワクワクした気持ちになった。




